15-21. ⌒
【合同Ⅱ】でフーリエの現状を把握した僕達は、5人揃って家を飛び出し。
西門坂に向かって、人気の無い住宅街を駆け抜けていた。
「ねーねー先生!」
「どうしたコース?」
「……これってデジャヴかなー? 私、今日この道通った気がするんだけどー」
そりゃそうだ。
通っては無いけど、見覚えは有るはずだ。
「デジャヴというか……一度見てるだろ。【共有Ⅱ】で」
「えー……でもなんかヘンな気持ち! 私さっきココ走った気がするー!」
「それはコースの合同体。合同体の感覚をコース自身が感じ取ってただけだ」
「えー……なんか訳わかんなくなってきた…………」
……どうしよう。
コースが現実と合同体を錯誤し始めてる。
よーく考えたら……【共有Ⅱ】ってVRみたいな感じだったし、日本でも『ゲームやり過ぎると現実と仮想世界がアヤフヤになる』とかいう話聞いた事あるしな。
【共有Ⅱ】、コースにはちょっと早かったかもしれない。気をつけなきゃ。
……いやいやいや、そんな事は置いといて————
ガッシャァァァァァン!!!
「うぉっ!?」
突然響いた何かが砕ける音に、思わずビックリする。
ズウゥゥゥゥゥン!!!
ガラガラガラガラ……
「何だっ!?」
別な方角からもガラスの割れる音が響き。
ドォォォォォォォン!!!
ガラガラガラガラッ!!!
あっという間に、フーリエ中を破壊音が覆い尽くた。
「この音って……ケースケ、また始まったの?」
「あぁ。だろうな」
そう。
間違いなく、熊と狼が街を再び破壊し始めた音だ。
……もしかして、アレか? 僕が『合同体』を送りつけたから、セットが腹いせに『街を壊滅させよ!』とか指示したんじゃないよな……?
もう、セットの野郎! 狙いが僕なんだったら僕だけ狙いに来れば良いのにさ!
なんでさっきから無関係なフーリエに手を出すんだよ!!
「……クソッ!」
『僕の所為でフーリエが壊滅させられた』とか、笑い事にならない。
勇者失格どころか、王国から恨まれ者扱いじゃんか!
「急ぐぞ!!」
「「「「はい!!」」」」
家を出てから、静かな住宅街を走る事数分。
空き家が左右に並ぶ、その先に……垂直に横切る大通りが見えてきた。
「西門坂だ!」
「あそこを曲がれば……例の西門広場ですね」
「……ああ。砂漠と化しちまった広場だよな」
「そーいえば、砂の上で倒れてた門番さんって……まだ死んでないよね?」
……コース、お前縁起でもない事言うなよッ!!
「……わたしは、彼なら心配要らないと思うかな」
そんなコースのとんでもない暴言にも関わらず、サラッと流して答えるアーク。
「えー、なんで分かんのアーク?」
「それは………………」
すると。
目元に影が入り、ニヤッと口角を上げてアークが言った。
「…………彼、わたし達を『領主の娘』とか『勇者』とか知っていながら投獄したのよ? そんな図太い門番がそう簡単に死ぬ訳無いじゃない?」
……おぉ、怖っ。まだ根に持ってたんかい……。
「うん!」
「「「…………」」」
そんなアークに笑顔で返す、コース。
だんまりを決め込む、僕達男衆。
……うん。改めて、アークを怒らせちゃダメだって思ったよ――――
……ァォオオオオォォォォン!!!
グゥォオオオオオオォォ!!!
「はッ!?」
遠吠えに反応して目を遣ると……いつの間にか、向かいから熊と狼のペアが迫る。
「……しまったッ!!」
西門まではまだ距離が有るのに、もう見つかった!
コースとアークの話に気を取られて気付かなかった!!
「おい先生! 俺ら早速バレちまったぞ!!」
「先生逃げるー?」
「どうしますか、先生!?」
ダン達から次々に尋ねられる。
……けど。
「どうするも何も…………」
合同体の時の事を思い出すと……一度見つかっただけで、次々やって来る応援の魔物に挟まれたんだった。
となれば、今回もこんな所でノンビリしてたら此処でタチオージョー確定だぞ!
「さっさと倒して行くしかないじゃんか!」
「はい先生!」
「コロッとやっちまおうぜ!」
「うん! やっちゃおやっちゃおー!」
「ええ! 速攻で片付けるわ!」
予想外に早く見つかっちゃったけど……全員、心の準備は既に出来ている。
長剣を、魔法の杖を、大盾を、槍を……そしてナイフを抜き。
「「「「「うぉおおォォォォォォォ!!!」」」」」
ガアアアァァァァァァ!!!
グラアアアァァァァァァ!!!
向かいから迫る魔物へと、駆けた。
☆
私が新たな『指示』を出してから、約10分。
『白衣の勇者』が突然消えた事で混乱していた指揮系統も恙無く復活し、軍は再び動き出した。
トランスホークによる情報伝達・現状報告も順調で、戦場全体から続々と報告が届く。
「……街中の魔物は散開、『侵攻』を開始した、か。了解、行け」
そう告げると、私の左肩に止まっていたトランスホークが飛び立つ。
……と、間髪入れず右肩に新たなトランスホークが肩に止まる。
「…………南門、北門の包囲強化も完了、と」
戦場の体勢の立て直しは良好だ。作戦も順調に戻り始めた。
……だが、『白衣の勇者』の発見の報は未だ来ない。
「良し、行け」
……右肩からホークが飛び立つ。
と同時に、左肩に新たなホークが到着。
「セットよ、その様相……まるで止まり木だな! ガーッハッハッハ!!」
「……否定はしません」
軍団長の言葉は適当に流しつつ、肩のトランスホークからのテレパシーに気を向けると――――
「…………何!? 見つかった!?」
『奴らの発見』が、トランスホークからのテレパシーで告げられる。
……やはり、必中を誇る軍団長の勘が仰った通りだ!
奴は逃げてはいなかったようだ!
「フン! 吾輩が言った通りだろう、セットよ!!」
「はい。軍団長の『勘』の的中率、流石です」
「ガーッハッハッハッハッハッハ!! 吾輩をもっと褒めるのだ!!!」
ああ……、待ちきれない!
我らが再び体勢を整えているとも知らず……奴らがノコノコと此処へ現れる時がッ!
……想像するだけで拳が震え、発狂しそうになる。
独り駆け出しそうになる。
……だが、我慢だ。
奴が来るまでは。
「……フフフフフフッ」
「どっ、どうしたのだセットよ! 突然笑い始めて……怖いぞ!?」
……さあ、早く……私の怒りが収まる前に、早く来るのだ!
ノコノコと現れて…………そして死ねェェェ!!
「ハァァッハッハッハッハッハ……!!!」
☆
なんとか熊や狼の襲撃も切り抜けた僕達は、再び囲まれることもなく無事西門広場に到達。
「……あれー? さっきの門番さん居なくなっちゃってるよー?」
「きっと、自力でどこか歩いて行ったのね」
「彼の怪我には私達が応急手当しましたし、心配要りませんよ。コース」
「うん! そうだね!」
砂がタンマリ積もった広場内をキョロキョロ眺めつつ、小さな砂漠を西門めがけて真っ直ぐ駆け抜け。
門番も魔物も誰も立っていない、手薄な西門に入る。
タッタッタッタッタッ……
「このトンネルを抜ければ…………」
「敵の本軍が居んだよな、先生?」
「……あぁ。その通りだ、ダン」
やけに足音と声が響くトンネル状の西門も、出口の光を見つめて真っ直ぐ駆け抜け。
「…………」
魔王軍への怒りと緊張を再燃させつつ、西門の出口を抜けると。
そこに、広がっていたのは……――――
☆
その後も奴に関する報告が逐一入り、猛スピードで我らの陣営へと迫る様子が伝えられた。
「討伐部隊、陣形を円から円弧状に変更!」
「「「「「ハッ!!!」」」」」
此方も陣形を『 ⌒ 』の字型に変え、奴への迎撃体勢を整える。
……そして。
陽の出と同時、遂にその時は来た。
「……うっ」
仮面越しの眼に強い光を受け、手を眼にかざしながら振り向くと。
「おお、セットよ! 陽が上ってきたぞ!!」
「……はい。軍団長」
縦にも横にも巨大な、フーリエの外壁。
その外壁の中、ぽっかりと穴の開いた西門。
そこから、昇ったばかりの陽が射し込んでいた。
そして……――――
「あれは……ッ!!!」
――――その陽の光が、5本の影を砂漠に映し出し。
☆
「セットォォォォォォォォォッ!!!」
「『白衣の勇者』ァァァァァッ!!!」
本物の僕と、セット。
ひと月半振りに再会した2人の雄叫びが、フーリエ西門にこだました。
…………さあ、報復本番だ。




