15-18. 高笑い
∋∋∋∋∋∋∋∋∋∋
「痛っててて…………」
突然、俺の頭に走った衝撃。
無意識に目を瞑り、頭を摩る。
クソっ、空襲か! 頭上からの攻撃は全然意識してなかったぞ……。
……ッつーか、空中からの攻撃は俺の大盾の防御範囲外だ!
先生とアークが危ねえ!
「おい先生、アーク、空から何か降っ————
瞑っていた眼を開き、先生とアークに危機を知らせようとした。
……んだが。
「………………え…………?」
俺の眼の前からは……先生も、アークも居なくなっちまっていた。
その2人の奥に並んでたハズの、大量の魔物も居ねえ。
背後にいたハズのシンもコースも、魔物の壁も無い。
足下に散らばっていたハズの、瓦礫も……ガラスまで無くなっちまった。
……というか、そもそも西門坂ですらない。
「……ココは…………」
俺の眼の前に、広がっているのは。
夜明け間近の、瑞々しい空気。
見渡す限り、一面緑色の絨毯。
その表面をサラサラと波打って吹く、気持ちの良いそよ風。
……そう。
「…………草原んんんん!!!?」
気付いたら俺は、草原のド真ん中に独り立っていた。
「(キューキュー)」
……ん?
⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥
「んな事が…………痛っ!? ————って、あ……あれ?」
え……えぇっ!?
なっ……え、ちょ、いっ今何が起きたのー!?
今私、アークと話してたハズなのに…………なんかが頭にぶつかって、ふと気付いたら————
「ココは……」
右も左も、見えるのはずぅーっと広がる砂漠だけ。
誰も……いない。
「うっ…………ウソでしょ?」
……いきなり、砂漠のド真ん中でヒトリボッチにさせられちゃったの…………!?
「え……あ、アーク!? どこにいんのー!?」
必死にアークを呼んでみるけど……どんだけ待っても、返事は返ってこない。
「えっ…………ねーねーシン! 今どうなってんのー!?」
隣で一緒に戦ってたハズのシンも、居なくなっちゃった……。
「ダンー! 先生! 早く出てきてよー!」
…………周りをキョロキョロしても、誰も出てこない。
アークも、シンも、ダンも、先生も…………今戦ってたクマとオオカミさえ見っかんない。
……ヤバいよー……。
私、ホントに砂漠で独りぼっちになっちゃったみたい…………。
「シンー……、ダンー……」
俯きながら2人の名前を呟いてみる。
…………けど、もちろん返事は無い。
「……ハァ…………」
……どーしよう。
シンともダンとも……先生やアークとも離れ離れになっちゃった……。
「……また、会えるかな…………?」
足下の砂漠を見つめながら、そう呟くと。
「(キューキュー)」
「…………えぇっ?」
えっ、なんか聞こえた……!?
小さい音だったけど、私の後ろから絶対何か聞こえた!
「だれー!?」
そう呼びかけながら、私の背後に振り向くと。
そこに居たのは————
∫∫∫∫∫∫∫∫∫∫
ダン……! コース……!!
2人とも、一体何が————
バッシャァァァァンッ!!!
「…………ゴボッ!?」
ダンに続き、コースまで一瞬でその姿を眩ましてしまい……パニックに陥っていた私は。
……ふと気が付くと、そこは青一色。
そんな世界の中でヒラヒラと動いているのは……魚の群れでしょうか。
上を見れば……夜明け間近の空が、波打って見えます。
そして口に入ってくる水は……しょっぱい。
…………しょっぱい……水……!?
……きっ、聞いた事が有ります。
トリグ村の村長さんが仰っていた、あのナゾナゾ……。
『この世界で一番大きい水溜り、塩水でできた水溜りってなーんだ?』の、答え…………。
「…………ゴボゴボ……ゴポッ!?」
……そうです。
今まで、フーリエに居たハズの私は……気付いたら、海の中にいました。
……しかし、今の今まで西門坂で戦闘を繰り広げていた私が、突然海に放り出されるなんて。
一体何が起こったんでしょうか?
「…………ゴボボッ……」
冷静になって考えてみましょう。
…………状況は、先生とアークが『ダンが消された』と言っていた場面。
その直後、私の隣に立っていたコースも消された。
そして、呆然と立ち尽くしていた私は……気づいたら、海の中に。
フーリエに居たのに、気付いたら海の中……。
……もしかして、テレポート?
その仮定が正しければ……話は通ります。
ダンもコースも『消された』のではなく……『テレポートさせられた』。
だから、私の眼には『消えた』ように見えた。
そして、私も今……海中に『テレポートさせられた』。
成程……。そういう事でしたか……。
私達は魔王軍の手によって、テレポートで散り散りにさせられた。
……きっと、この仮説で間違いないでしょう。
……それと、もう1つ、分かったことが有ります。
言うまでも有りませんが、ココは海中。
人間は呼吸できません。
なので。
「…………ゴボッ……ゴポッ!?」
暢気に考え事をしている場合じゃありませんでした……ッ!!
装備をしているからか、身体が重く……身体が沈むばかりです!
「…………ゴボボッ……!」
掻いても掻いても、水面は遠くなるばかり。
……ヤバい! このままでは……溺れ……————
「…………ゴポッ!」
最後の力と呼気を振り絞り、縋る勢いで眼の前に浮かぶ『何か』を掴みます。
……が、『何か』を掴んだところで身体が浮かぶことは無く。
「(キューキュー)」
そんな『何か』の声と共に……私の身体と意識は、奥底へと沈んで……————
∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
「ケ…………————
……突然、後ろに居たはずのダンが居なくなっちゃって。
そうしたら、コースもシンも眼の前で居なくなっちゃって。
そんなパニック状態の中で微かに響いた、ケースケの声。
ふと、そっちに振り向くと。
————……えぇ…………?」
そこは。
丈の低くて、黄色い草がポツポツと生えてて。
草の無い所には、乾いた土が顔を出してて。
周りをグルッと見回しても、樹木はポツポツとしか立ってなくて。
……間違い無いわ。
わたし達が王都からフーリエに来る途中で通った、サバンナだった。
「えぇ…………これ、何が起きてるの?」
ダンとコース、シンに続いて……わたしもてっきり消されるんだと思ってた。
なのに……消されるはずだったわたしは、気付いたらサバンナの真ん中に独り。
一体、何が起きてるの————
「(キューキュー)」
「……っ!?」
何かの声が、わたしの背後から聞こえた。
「……何か居るの!?」
槍を構えながら、勢い良く振り返ると。
わたしの足下に、ちょこんと座っていたのは。
「キュー」
「……あっ、あなたは…………ウサギ?」
∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂
「ォォォォォォォッ!!!」
目を瞑り、地面にうつ伏せて叫ぶ。
……あぁクソッ! アークも……アークも間に合わなかった!!
ダンにコース、シンに続いて……僕の隣に居た、アークまで…………。
「皆……皆消された…………」
空から落とされた、あの白いフワフワの…………アレの所為で……。
「クソッ!!!」
右手をグッと握り、痛みを承知で石畳を思いっきり叩く――――
ジャリッ
「…………えぇっ?」
石畳を叩いたハズの右手には、その硬さを全く感じず。
その代わりに感じたのは…………衝撃が吸収される感覚、それと最近すっかり聞き慣れた音。
「ココは…………」
ゆっくり、目を開くと。
僕の眼に映るのは……砂。
「どうして……なんで、砂漠に…………」
いつの間にか、僕は……砂漠の上に居た。
……いや……でもなんで、いきなり砂漠に…………――――
「キューキュー」
「……えっ?」
突然聞こえた、何かの鳴き声。
ふと、右を見ると。
「キュー!」
「…………しっ……白いフワフワ……」
ソコに居たのは、白いフワフワ。
白くてフワフワした……ウサギ…………。
……あぁッ、コイツ!!
思い出した……コイツは…………ジャンプラビット!! ワープする兎の魔物だ!!
さっき、空から降ってきた白いフワフワは……ジャンプラビットだったのか!
成程…………って事は、僕達はワープさせられてたって事か!
「成程……!」
……良かった。
シンもコースもダンもアークも、『消された』訳じゃなかった。生きてるんだな……。
砂の上にちょこんと座る兎を見て、独り安堵していると。
「ガーッハッハッハッハッハ!!」
「……えっ?」
突然、僕の耳に…………爆音の高笑いが響いた。




