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15-17. フワフワ

「発見したぞ、『白衣の勇者』!!!」

「ヒャハー!!! 意外とすンなり見つかったモンだなァ!!!」

「魔王軍に屈して出て来たンじゃねェのか?」

「いずれにせよ、我々が貴殿を喰い殺してくれる!!!」

「ペッシャンコにしてやるゼ!!!」


僕達の目の前に集う、大量の緑狼とハンマーを担ぐ熊。

そんな魔物の軍勢が何層にも並ぶように、西門坂を塞いでいた。





「こっ、コレは…………」

「やっばー……」

「いつの間に…………」

「……全然気づかなかった…………」


……音も無く背後に集っていた魔物の軍勢に、僕達の表情も固まる。




先生(せんせー)……」

「……どうした、コース?」

「コレって……何頭ぐらい居んのー?」


……分からない。

10や20なんてレベルじゃない。パッと見だけでも……100頭以上は居るだろうな。


けど、そんな時は【演算魔法】だ。




「……【判別Ⅱ】(ディスクリミナント)


恐る恐る魔物の数を調べてみると…………頭の中に、浮かび上がったのは。




「……『521』頭…………だってさ」

「「「「えぇッ!?」」」」



さっきの狼と熊と戦ってた間に、こんな沢山の応援が駆けつけて来るのかよ…………。

……恐るべし、『魔王軍』の組織力。






だが、魔物の軍勢はコレだけじゃなかったようだ。



「……ケースケ、後ろ!」


アークの声に促され、後ろを振り返ると。




ゾロゾロゾロッ…………




「『白衣の勇者』、発見!!」

「ヒャハー!! 見ッけたゼ、目標(ターゲット)!」

「『白衣の勇者』、追い詰めたぞ!」


坂の下からも、続々と駆けつけて来る熊と狼。

瞬く間に、坂の下にも魔物のバリケードが完成する。




「「「「「…………」」」」」


坂の上と下を挟まれてしまった。逃げ場は無い。

……さっきの男達を辛うじて逃がせたのは良かったが、今度は僕達がピンチだ。



「……ヤバいな」


そんな状況に不意に声が漏れる。




そんな、黙り込む僕達に向かって。



「言っておくが『白衣の勇者』よ。我々の軍勢がこれだけだと思うな」

「フーリエ中の魔王軍が今ココに向かッてんだゼ!」

「手前ェを殺すためになァ!」


更に追い打ちを掛ける、熊と狼。




「……くッ、マジかよ…………」

「更に増えるって言うんですか…………」

「もー……コレでも十分だってー!」



この状況……、正に『前門の熊・後門の狼』ってヤツか。



……ん、何か違うような……?






まぁ、そんな事はどうでも良いんだ。




「とりあえず、僕達がアイツらを倒さなきゃ……どうしようもないじゃんか」


そう。

この包囲を抜けるのも、フーリエを守るのも……つまり、何をするにも()()()()()()()()()()()始まらないのだ。



「おう!」

「その通りです、先生!」

「じゃー……私たちでヤっちゃおーよ!」

「やるしか無いわね、ケースケ!」


シンとコースは、坂の上を。

ダンと僕、アークは坂の下を。

それぞれ武器に手を掛け、魔物の壁を見据える。




「……ほぅ。この数の我々を前にしても屈せぬか」

「そンなら…………俺らで殺ッちまおうゼ!」


魔物達も僕達を睨みつけてくる。

無数の鋭い視線が、僕達の全身を貫く。




……けど、そんなプレッシャーに負ける僕達じゃないのだ。


「じゃあ、皆…………ココを突破するぞ!!」

「「「「はい(ええ)!!」」」」



そう叫び、僕達は魔物の壁へと向かった。











∠∠∠∠∠∠∠∠∠∠






「……ところでだ、セットよ!」

「なんでしょうか、軍団長?」


西門を眺めつつ、全身をプルプル震わす軍団長が尋ねて来る。



「……もう作戦は『隔離』段階まで進んだのであろう? 何時になったら『白衣の勇者』は吾輩の前に現れるのだ?!」

「もう直ぐです」


街の中の団員が順調に作戦を遂行すれば、『白衣の勇者』が私達の目の前に現れるのも時期だ。



「……と言うか軍団長、もう6回目ですよ。この問答」

「ああ、そうであるか! …………うう、『白衣の勇者』よ! 早く来るのだ!」


……私の言った事は軽く流されてしまった。




「で、セットよ! あと何分で『白衣の勇者』は現れるのだ?!」

「もう直ぐです」


再び同じ答えを返す。



「そうであるか! ああ待ち遠しいぞ! 早くこの手で奴を……ッ!!」

「…………ハァ」


そして溜め息をつく私。



……まさか、たった5分間で7回も同じ問答を繰り返されるとは。

いくら軍団長といえど、呆れを隠せなかった。






「ところでだ、セットよ!」

「……何でしょうか、軍団長?」


……ハァ、8回目が来た。




「『隔離』段階の作戦であるが…………どうやって『白衣の勇者』を()()()()のだ?」


…………と思いきや、まさかの違う質問が来た。



「…………ええと、『隔離』の方法……でしたっけ?」

「ああそうだ! 『白衣の勇者』は4人で行動しているのだろう?!」

「はい。その筈です」


王都に潜入しているバリーからの機密通信によれば、『白衣の勇者』は剣術戦士をはじめとした仲間と常に行動している。

だが、我らが『白衣の戦士』を討伐するならば、『仲間』の存在は邪魔だ。

より確実に『白衣の勇者』を討伐するためには、『白衣の勇者』と『仲間』を引き剥がして()()する事が重要となる。



「ならば、奴と奴の味方共をどう引き剥がすのだ?! 教えるのだ、セットよ!」

「分かりました。…………一応、それも作戦概要に書いておいた筈ですが」

「忘れた! というか吾輩はそんな細かい所まで目を通していないのだ!!」


……軍団長、ボロが出てますよ。



「いいから早く教えるのだセットよ!」


若干のパワハラまで発動してしまった。

……ハァ、こうなったら軍団長には逆らわない方が良いな。



「分かりました、軍団長。では説明します。………………




まず、『白衣の勇者』を発見した魔物は、交戦の合図として()()()を上げる。

その遠吠えを聞いた街中の侵攻部隊・ハンマーベアとフォレストウルフは現場に急行。そのまま『白衣の勇者』との戦いに加勢。

一方、フーリエ上空を飛ぶ誘出部隊・トランスホークも現場に急行し、交戦を確認し次第『白衣の勇者発見』の報を私に知らせに来る。


現時点では、ここまで作戦が進んでいる。



そこからは……侵攻部隊が『白衣の勇者』と交戦し、時間を稼ぐ。

その間に、誘出部隊が()()を用意し、奴らを――――











∀∀∀∀∀∀∀∀∀∀






「「「「「ハァ、ハァ、ハァ…………」」」」」



坂の上と下、両方に未だ聳え続ける魔物の壁を前に呼吸を整える僕達。




「フゥ…………、斬っても斬っても、全く減りませんね……」


顔に付いた返り血を拭い、再び長剣を構えるダン。




「んくッ、んくッ、んくッ…………、イイねイイねー! こんなに暴れ回るのヒサシブリだよー!!」


MPポーションを飲み干し、若干危険な笑顔でそう叫ぶコース。




「ああ俺もだコース! やっと面白くなってきたじゃねえか!」


大盾を構え直し、ニヤリと笑って魔物の壁を睨むダン。




「はぁ、はぁ、はぁ…………キリが無いわね、全く」


槍の火力を弱め、そう呟くアーク。




そして。


「ハァ、ハァ、【判別Ⅱ】(ディスクリミナント)ッ! ………………クソッ! 全然減らないじゃんか!」


頭の中に浮かび上がる『943』の数字に、多少の苛立ちを覚え始める僕。




……魔物の壁と交戦を始めてから、20分が経過した。


坂の上チームのシン・コース、坂の下チームのダン・アーク・僕は20分間、ずっと魔物を倒し続けていた。

熊のハンマーでブッ飛ばされても、狼に噛みつかれても、高いDEFのお陰で誰も怪我は負っていない。


……のだが、体力はそろそろ限界が見えてきた。戦闘狂(コースとダン)は別として、シンもアークも僕もだいぶ息が上がってきている。

その上、倒しても倒しても魔物は増えるばかり。壁の厚さも増加の一途。

僕達がどれだけ魔物を倒しても、それ以上の魔物がフーリエ中から駆け付けて来るのだ。



……けど、コイツらを倒す以外に道は無い。

やるしかないのだ。





「おい先生、アーク! 無理なら俺の後ろに入れ! ちょっと息整えろ!」


息が切れ切れの僕達に、後ろから声を掛けるダン。



「……い、いえ。わたしなら大丈夫! まだ行けるわ!」

「…………僕もだダン!」

「おう、分かった! それでこそ俺らの先生だぜ!」


……フッ。

ダン、舐めた事言いやがって。




「シン、コース、そっちは大丈夫か?!」


振り返らず、魔物を見据えたままシンとコースの安否を確認する。




「はい、大丈夫です! 先生!」

「ヨユーヨユー! むしろこっからだよー!!」


間も無く返ってくる、シンとコースの返答。

……うん、そっちも大丈夫そうだな。




「…………フゥ」


少し休んだからか、僕の呼吸も整ってきた。



よし、休憩終わりだ。

ダンが大盾を、アークが槍を、そして僕がナイフを構える。


それじゃ……。



()()()()()! 行くぞ!」

「ええ!」
















…………ん?


ダンの返事が無い。




「おい、ダン!?」


そう叫び、後ろを振り返ると。






今まで僕とアークのすぐ後ろに居たハズのダンが、居ない。


「……おい、ダン!!」



左右をキョロキョロするけど……ダンは見当たらない。



「あれっ!? ダンどこ行っちゃったの!?」


アークも振り返り、驚く。




「えぇッ…………何か有ったんですか!?」

「ダンがどーしたの!?」


視界の奥で、坂の上に居るシンとコースもこっちへ振り返る。




「ダンが……いきなり消えたんだよ!!」

「えぇっ!? きっ、消えた!?」

「ちょっ、どーゆー事!!?」


『有り得ない!』と言わんばかりの表情のシンとコース。



「だから、わたし達のすぐ後ろに居たダンが突然消えちゃったの!!」

「えー!? なんでそ











「「「コースッ!!?」」」


喋ってたコースが、言葉の途中にして突然()()()




「えぇっ………………」


目の前のコースが突然消え、思考が停止するシン。



「えっ!? えっ!? 何が起こってるの!?」


仲間が突然2人も消え、パニックに陥るアーク。

……背後の魔物の壁からはなんだか笑い声が聞こえるけど、そんなのは頭にも入らない。



「ちょちょシンもアークも落ち着け――――






その時。


「……ん?」




僕の目に入ったのは、空を飛ぶ1羽の鷹。

何か()()()()()()を両脚で掴んだ、鷹。


そんな鷹が、シンの頭上で()()を手放し。



()()()()()()が、シンの頭頂にぶつかった――――






と同時、シンの姿が消えた。











…………ん!? そ、そういう事か!?

あの()()()()()()にぶつかると、僕達が消されるって事か!!

色々と良く分かんないけど、とりあえずそういう事だろう!!






「……えぇっ、シンんんんんんんん!!」


取り乱し、シン()()()()に向かって叫ぶアーク。



「大丈夫だアーク! 大丈夫だ!」


そんなアークに声を掛ける――――






のだが。




「あぁっ…………」



目に映ったのは、アークの頭上から一直線に落ちる()()()()()()



――――ヤバい!

――――アレに当たったら……アークも()()()()!!






「避けろアーク!!」


叫ぶ。




「……へっ…………」


だが、放心状態のアークは僕の言葉を受け付けず動かない。




「クソッ!!」


アークへと必死に駆け出す。




重力に従って落ちる()()()()()()

その先には……アークの頭。


対するは……アークに向かって駆ける、僕。






――――間に合え!!

――――間に合ってくれ!!!






「アークゥゥゥゥゥゥ!!」



駆けた勢いのまま地を蹴り。

両腕を伸ばし、アークへと跳んだ。






――――届く!

――――行ける! コレなら!




そう、感じた。


伸ばした腕が、アークに届く。




その直前。






「け……ケース











目の前のアークが、()()()











ズザァァァァッ!!



アークが立って()()()()石畳に、顔面からスライディングする僕。











――――あ、アーク……ッ!!


――――……間に合わなかったッ!!!




「……くっ…………クッソォォォォォォォ






地に伏せながら雄叫びを上げる、僕。

そんな僕の頭にも、()()()()()()が落とされた。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
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そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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