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15-16. 包帯






「…………」


ドロドロに溶けてしまったフーリエ西門の扉を眺めつつ、考え事をしていると。



バサッバサッ

「おお、セットよ! トランスホークが帰ってきたぞ!」


私と軍団長の方へと1羽のトランスホークが帰ってきた。



「そのようですね、軍団長」

「彼奴が帰って来た、という事は………………えーと、確か……」


筋肉製の脳をフルに動かし、作戦を思い出す軍団長。

……さて、ちゃんと覚えているのだろうか。




「……『白衣の勇者を発見した』という報告であるか?」

「おぉ、正解です」


思わず感嘆の声が漏れてしまった。



「ガーッハッハッハッハッハ!! その反応、吾輩が作戦を忘れているとでも思ったな?!」

「…………はい」


正直に頷く。



「ガーッハッハッハ! 吾輩を甘く見過ぎだ、セットよ!」

「……申し訳ありません、軍団長。不出来な指揮官(ナンバー3)でして」

「なに、気にするでない! 正直で結構、重畳である!」


鬼の鋭くも暖かい視線が、私をギロッと見つめ。



「偽る事こそ、組織破滅への始まりだからな! ガーッハッハッハッハ!」


軍団長は腕を組みつつ、高笑いを上げた。




……流石、我らが軍団長だ。

先程の馬鹿力といい、軍団を纏める才能といい、ここぞと言う時は頭も使い…………この人なら、私はどこまでも着いていける。


改めて、軍団長の事を見直してしまった。






「ところでだ、セットよ! 『白衣の勇者』が見つかったのならば、次は何が起こるのだ?」


えっ……。

いやいや。



「作戦の通りですよ」

「作戦…………、作戦であるか………………」


そう言い、顎に手を当てて上を見る軍団長。




「……軍団長は作戦を憶えてたのではないのですか?」

「うむ、忘れた!!」

「……えぇ。軍団長、たった今『作戦は憶えてる』って――――

「此処から先は忘れたのだ!!」


……軍団長を見直してしまった私が馬鹿だった。




「……分かりました」


……ハァ、仕方ない。

軍団長にもう一度説明しよう。



「街を囲む『包囲』・街に攻め込む『侵攻』・白衣の勇者を誘き出す『誘出』までが今終わった所です。あとは白衣の勇者を『隔離』し、奴を『討伐』すれば作戦完了です」

「成程! では、吾々が白衣の勇者と対峙するのも直であるな!」

「はい。トランスホーク達の誘出部隊が、奴らを街の外に追い出す手筈になっています」

「そうか! 分かった!」


すると、軍団長はギュッと両拳を握り。



「さぁ……さあ! 早く来るのだ『白衣の勇者』! 吾輩は待ちきれんぞ!!!」




必死に『白衣の勇者』の登場を待つのだった。
















さて。

無事に熊と狼を倒した僕達は、すぐさま気を失って倒れている男達の下へと駆け寄り。

シンが備えていた包帯で、出血する頭に応急手当てを施していた。




「……はい、これで大丈夫です」

「わたしの方もオッケーよ、シン」


シンとアークが同時に応急手当てを終える。

……2人とも慣れた手つきだ。『怪我したら絆創膏を貼る』レベルの僕じゃ到底敵わないよ。



「シンもアークも凄いな。巻いてる姿がまるでプロだったよ」

「いえいえ。そんな事ありませんよ」

「フフッ。プロだなんて……大袈裟よケースケ」


包帯をリュックに仕舞いつつ、謙遜するシン。

アークはちょっと照れている。



「シンもアークも、どこかで応急処置とか習ったのか?」

「いえ、私は独学です。小さい頃、よく転ぶコースとダンの膝に巻いてあげてまして」

「あー、有った有った! あの頃はシンに良く助けられたぞ!」

「うんうん! 懐かしー!」


あー、成程な。

その頃からシンはダンとコースの御目付け役だったんだろうな。



「アークは?」

「わたしは……小さい頃に叩き込まれてね」

「「「「おぉぉ…………」」」」


……育ちの良さが垣間見えてしまった。

流石は領主の娘さ――――いや、()領主の娘さんだ、アーク。











「……痛たたたたたたたっ…………」

「…………ぅうっ……んんっ…………」


そんな事を話していると、2人の男が意識を取り戻したようだ。




「……頭痛ってぇ…………」

「…………ん、ここは………………」


目を開き、上体を起こして周りをキョロキョロする男達。



「あっ! 目が覚めたねー!」

「お2人とも、体調は如何でしょうか?」


そんな男達に声を掛ける、コースとシン。



「……あぁ、大丈夫だ。ちょっと頭が痛ぇんだけど…………」

「…………俺も、問題ない……」


そう言い、頭を掻く男達。



「……んっ、頭に包帯…………」

「これって…………君達が?」

「うん! シンとアークがパパッとねー!」


コースがすかさず答える。



「そうか……ありがとう、助かったぜ」

「いえいえ」

「どういたしまして」


感謝の言葉を言われ、シンとアークはちょっぴり照れていた。






すると。



「…………あの、血塗れの狼って……」

「それに……あの地に伏してる熊まで……」


小刻みに震える指で、狼と熊の死体を差す2人。




「アイツらを、倒したのって…………」

「……まさか…………」

「そーそー! 私たちだよー!」


『褒めて!』とばかりにコースが答える。



「…………マジ!?」

「そんな……まだまだ子どもなのに……?!」


オモムロに驚く男達。



「強いんだな、アンタ達」

「……フフーン!」


シンとアークに続き、褒められたコースもちょっぴり照れていた。






……っと!



「……そうだった!」


今は男達とノンビリ話してる場合なんかじゃないんだ!

この2人を逃がさないと!!



「お2人とも、ひとまずココから逃げて下さい!」


彼らの背中から声を掛けると。



「あぁ、そうだった!!」

「魔物達からに襲われちまう!!」


ハッと思い出したように、立ち上がる2人。



「済まねえ、助かった!」

「ありがとう!」


シン、アーク、ダンにコースと1人1人にそう述べていき。



「アンタもありがと――――

「助かったぜ――――



最後に僕の方へと、振り向いた途端。






「「…………はっ!?」」



2人は、目を見開き。




「……はっ…………」

「「白衣ッ!?」」


僕に向かって叫んだ。




「……アンタ、『白衣の勇者』か!?」

「はい。そうです」

「……本当に『白衣の勇者』なのか!?」

「そうですよ」

「…………本当の本当に『白衣』なのか?」


ビックリの表情で固まっちゃったままの男達に、何度も聞き返される。



「そうで――――

「なら早く俺らと一緒に逃げよう!!」

「お前魔物に狙われてんぞ!!」


3度目の質問に答えるや否や、物凄い剣幕でそう言われる。

……いや、狙われてるのは知ってるけど、逃げるなんて無い無い。




「いや、僕なら大丈夫で――――

「大丈夫なんかじゃない!!」

「早く遠くへ……出来る限り遠くへ逃げるんだ! アンタも殺されちまうぞ!!」


白衣の袖を掴まれ、一緒に連れて行かれそうになる。

……いや、駄目だ駄目! そんなフーリエを見捨てる事なんか出来ないって!




「僕達がフーリエを守らないと――――

「若いのに無理すんなって!」

「こんな魔物くらい、()()達がなんとかしてくれるぜ!」

「そうだ! だから門番さん方に任せて俺らは逃げるぞ!」


一向に僕の話を聞いてくれない、男達。




……いや。

狙われている僕達を逃がそうとしてくれるのは、嬉しいんだよ。


嬉しいんだけどさ…………。






「ダメなんです」

「「……っ?」」



僕の言葉に疑問を浮かべる、2人。




「…………ダメって……」

「なんでだよ……?」



ああ。

なぜなら……。






「…………()()()()()()んです」

「「……えぇッ?!」」




それに……。




「さっき、倒れた門番さんを見つけて…………約束したんです。『フーリエを守る』って」

「「…………ッ!!」」



この坂の上に広がる『西門広場(小さな砂漠)』で出会った、あの門番さんと。

『彼の代わりにフーリエを守る』って、そう約束しちゃったのだ。



「それに……魔王を倒すために召喚された『勇者』が戦わなくてどうすんだ、って話ですし」

「……ハハッ、そうだったな」

「勇者様が『この世界』に来てくれた意味が無くなっちまうもんな」






そして。



「……分かったぜ。勇者様」

「…………無理すんなよ!」


男達も僕達の事を分かってくれたようだ。

僕の白衣の袖を放し、西門坂の下に身体を向け。



「「……フーリエを頼んだ!」」


そう言い、西門坂を下って行く男達。

そんな彼らを、5人で見送った。




……さて。



「……それじゃあ、皆」


狼を1頭に熊を2頭、なんとか倒した。

けど……玄関の覗き穴から見えただけでも、魔物の数は100や200ってレベルじゃなかった。


きっと、今のフーリエには……何千、何万ってレベルの魔物が蔓延ってるかもしれないのだ。



フーリエを守るため、どんどん魔王軍を倒さなきゃ!




「……じゃあ行くぞ、皆!!」

「はい!」

「うん!」

「おう!」

「ええ!」



そう言い、西門坂の上へと振り返ると――――











「えぇ…………ッ!?」



僕達の、目の前には。






「発見したぞ、『白衣の勇者』!!!」

「ヒャハー!!! 意外とすンなり見つかったモンだなァ!!!」

「魔王軍に屈して出て来たンじゃねェのか?」

「いずれにせよ、我々が貴殿を喰い殺してくれる!!!」

「ペッシャンコにしてやるゼ!!!」



西門坂を塞がんとばかりに、大量の緑狼とハンマーを担ぐ熊が集まっていた。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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