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15-14. 製氷

————————そう。

アレは、特訓期間中のある夜の事だった。




朝から夕方までの特訓を終えた僕達は、ギルドでリザードの買取を済ませて家に帰宅。



『ハァー……疲れたー』

『今日は特に疲れましたね……』


シン、コース、ダンの3人はソファにダラリともたれ掛かり。

僕とアークはダイニングテーブルに向かい合って座り、椅子の背もたれに寄っ掛かり。


5人揃ってリビングで一息つき、特訓の疲れを癒していた。







『……それにしてもケースケ。今日の砂漠は暑かったね』

『おぅ。全然風が無かったもんな』

『俺らが特訓を始めてから一番暑い日だったぞ』


その日の日中、フーリエ砂漠は無風だった。

いつもは海風が吹いてて意外と暑さはソコマデなんだけど、その日はとにかく暑さが厳しかったな。

陽が沈んで涼しくなるまでは、僕も白衣を脱いで戦ってたよ。



『本当ですよね。昼過ぎの陽射しは特にキツかったです』

『私も私もー!』

『俺なんか汗ダックダクだったぞ!』

『……とか言っときながら、ダンもコースも滅茶苦茶楽しそうに狩りをしてたじゃんか』

『『うっ……』』


僕は知ってるぞ。

戦闘狂(ダンとコース)なら、狩りの時間中はそういう事気にもならないんだろ?




……まぁ、別にいいけど。彼らの戦闘狂は今始まった話でもないし。

彼らについては置いといて、ダイニングから立ち上がりキッチンへと向かう。



『皆、喉渇いたか?』

『『『『はーい!』』』』


よしよし。

いっぱい汗をかいた日は、水分補給もしっかりしとかないとな。


冷蔵庫から麦茶(っぽいモノ)の入ったピッチャーを取り出し、カウンターにカラフルなマグカップを5個並べる。

黄色がシン、青がコース、緑がダン、赤がアーク、そして白が僕。

フーリエの朝市で買い揃えた、僕達お気に入りのマグカップだ。


そんなマグカップにお茶を順に注いでいく。



『お茶用意しといたからな。皆飲んどけよ』

『ヤッター!』

『サンキュー先生!』

『ありがとうございます!』

『ありがと、ケースケ』


そう告げるや否や、ゴロゴロしていた4人が飛び起きてお茶を取りに来る。

それを確認し、冷蔵庫に麦茶(っぽいモノ)を仕舞う————




『ねーねー先生(せんせー)、私のに氷入れてー!』

『おぅ』


はいはい、氷ね。


冷蔵庫の中段、製氷室から小さいスコップでガラガラッと氷を幾つか取り出す。

そのまま、青のマグカップに氷を1個滑り入れる————



ポチャポチャポチャンッ

『あっ』


やべっ。

スコップの氷が全部入っちゃった。

氷が7個も入ったせいで、青のマグカップだけお茶がナミナミだ。



『うわっギリギリ! 表面張力ヒョーメンチョーリョクだー!』

『済まん済まん』

『ううん、大丈夫(ダイジョーブ)!』


そう言い、コースは青のマグカップをダイニングテーブルへとゆっくりゆっくり持って行った。

……ナミナミにした僕が言うのもなんだけど、少し飲んでから持っていけば良かったのに。






その後、無事コースはお茶を零す事なくダイニングテーブルに到着。

美味しそうに麦茶(っぽいモノ)を飲んでいた……のだが。



『……んーーっ!!』


眼をギュッと瞑ったまま、眉間を押さえて悶絶するコース。



『キーンってなったのか?』

『んん……』


眉間を押さえたまま、頷く。

そんな彼女の頬をよーく見ると……口の中では四角い物が幾つかモゾモゾ動いている。


……氷じゃんか。

そりゃ氷を幾つも頬張っちゃ『キーンッ!』ともなるだろうよ。




だが。


それこそが、思わぬ功を奏したのだった。



『……ん、待って! コレ……この感じって…………————————
















そう。

今まで成功する兆しがカケラも見えなかった、コースの【氷放射Ⅱ】(アイス・マシンガン)

どう頑張っても水のレーザーしか出なかった、コースの【氷放射Ⅱ】(アイス・マシンガン)


あんな些細な出来事だったけど、それこそがコースの【水系統魔法】を大きく進歩させたのだ。




【氷放射Ⅱ】(アイス・マシンガン)!!」

タタタタタタタタタタタタッ!


コースの声と共にマシンガンの如く飛び出す、大量の氷の塊。



氷の塊がシンへと迫る狼へと襲い掛かり――――




「くぅッ…………!」


狼の身体を横に吹き飛ばした。

身体をゴロゴロと回転させながら坂を下っていく。






「……助かりました、コース!」

「うん!」


その隙に立ち上がり、体勢を整えるシン。




「……それよりシン! 次こそはちゃんとキメてよー!」

「勿論です!」


両手で長剣をギュッと握り、坂の下に視線を向ける。

その視線の先には、坂を転げ落ちていた狼。



「……子供の癖に、あれ程の威力の系統魔法をっ…………」


苦い表情を浮かべながらも身体を持ち上げる。




「……(アイツ)なんか、さっさとヤッちゃおうよ…………」

「……はい。次こそ決めてやりますよ、コース…………」


坂の上から、狼を見下げるシンとコース。



「…………グルルゥッ……」


坂の下から、唸りをあげつつ2人を見上げる狼。






そんな、睨み合う両者が。






ピィィィィィィィィィィィッ!

「グルァァァァァ!!」

「好きにはさせません!」

「行っくよー!」


鷹の鳴き声と共に、地を蹴った。











「ガアアァァァ!!!」


狼が口をガバッと開いて跳躍。


鋭い鉤爪と牙が跳びかかる。

その先には、長剣を真っ直ぐ構えるシン。




「……うッ…………」


だが、狼のプレッシャーに気圧されて剣を引く――――



「シンだめッ!! 剣を相手に向けるのー!!!」

「……はッ」


コースの叫び声が飛び、再び長剣を構え直すシン。




だが。



「遅いッ!」

カァァンッ!


構え直された長剣は、狼の鉤爪で弾き飛ばされ。



「フゥンッ!!」

「ぐぅぉ!!!」


狼の頭突きがシンの腹に直撃。

今度はシンがブッ飛ばされ、瓦礫の散乱する西門坂を転がる。




「……ぐぅっ…………」


7倍のDEFのお陰で外傷は無いとはいえ、吹っ飛ばされたダメージを負うシン。

腕を地について立ち上がる。



「次こそ貴殿を喰い殺すッ!!」


そこに迫る、狼の追撃――――




【水線Ⅴ】(ウォーター・レーザー)!」

ビシュゥゥゥゥゥゥッ!


狼の脚下に水のレーザーが飛ぶ。




「……くッ!」


ブレーキを掛けるも間に合わず、右前脚にも切り傷を負う狼。




「鬱陶しい! 貴殿から先に殺すッ!!」


脚の切り傷には眼もくれず。

殺気を帯びた縦長な瞳がコースに向く。




「……うぅッ!?」


ギロッと睨まれ、驚くコース。




「魔法使いなど首元の一噛みで十分!」


そんなコースに身体を向け、急加速しつつ牙を剥く狼。




「もっかい……【氷放射Ⅱ】(アイス・マシンガン)!!」


気を取り直し、迫る狼に向かって杖を構えるコース。

先程の魔法を再び唱える。




ピシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!

「……なんでー!!?」


だが、杖の先から飛び出すのは水のレーザー。




「ちょっ、こんな所で失敗しないでよー!!!」

「フッ!!」


コースがそんな事を言う間にも、水のレーザーを軽々と避ける狼。

そのまま狼はコースに急接近し。




「死ね! ガアアァァァァァァ!!!」


鋭い牙をコースの首元一直線に目掛け、跳びかかった。




「キャアアアァァァァァァァァァッ!!!」


両掌を狼に向け、怯むコース。

甲高い悲鳴を上げ、ギュッと眼を瞑った。
















「…………コースこそ、相手から眼を外したらダメですよ」



キイィィィィィィンッ!!!




目を瞑ったコースの耳に入る、声と金属音。



「……えぇっ…………?」


それを聞き、恐る恐るコースが眼を開くと。






「……シン!!」


コースの目の前には、首元めがけて跳びかかっていたハズの狼。

その狼の牙が噛んでいたのは――――長剣だった。



「さっきのお返しですよ、コース!」

「うん!」


シンがコースと狼の間に割って入り、狼の攻撃を長剣で受け止めていた。




「ガっ……クゥゥゥ!」


再び邪魔をされ、怒りを露わにする狼。

噛んだ長剣を砕かんとばかりに両顎に力を込める。




その瞬間。



ピキッ……

「何っ!?」


長剣から聞こえた、嫌な音。

シンも一瞬驚きの声を上げる。




「ハァッ!!」


が、シンはそれに動じる事無く。

長剣ごと狼を押し飛ばした。




噛んでいた顎から長剣が離れ、吹き飛ばされる狼。



「がハッ!?」


背中から地面に墜落し、苦しげな声が漏れる。











――――その瞬間を、シンは見逃さなかった。




「今ですっ!」


攻撃を受けていた体勢から、普段の構えにサッと戻すシン。




そのまま、狼に向かって大きく一歩踏み出し。




「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


コースの声を背中に受けながら。






【強突Ⅴ】(ストロング・スラスト)ォォォォォォッ!!!」


狼の眉間に、会心の突きを放った。

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
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どうか、この物語が
 
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そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
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