15-5. 氷壁
「フーリエの人間共よ! 魔王軍第三軍団・軍団長、ガメオーガが来てやったぞ!」
大声で名乗りを上げる、魔王軍の親玉・ガメオーガ。
そんな巨大赤鬼を、外壁の上に並んで睨む私達。
「……チッ、やはり魔王軍だったか」
舌打ちと共に、門番長が苦い顔をして呟く。
「門番長、大砲の準備は完了だぜ!」
「いつでも撃てるよ、門番長!」
そんな門番長に、移動砲台の隣に立つパパさん門番・ラルと若門番・ナッチが告げる。
「分かった、ナッチ、ラル。……砲撃用意、私の合図を待て」
「「ハッ」」
すると、マッチを取り出して大砲の直ぐ傍に構える2人。
「……よし」
それを見届けると、門番長は。
「……何をしに来た、魔王軍! 返答に依ってはお前らをフーリエより締め出し、侵略者と見做して攻撃を開始する!」
ニヤリと笑う赤鬼に向かって、思いっきり叫んだ。
「ガーッハッハッハッハ! たかが数人の門番で、この人数を相手に攻撃をすると言うか! 面白いな!」
「「「……くッ…………」」」
すぐさま返ってくる、腹が震えるほどの大声。
……押し殺していた恐怖心が引き摺り出されるような感覚に、私とナッチ、ラルの足が半歩下がる。
……だが。
「それはお前の返答次第だ赤鬼ッ! 目的は何だ!! 此処フーリエに何をしに来たッ!!!」
それにも怯まず、単刀直入に尋ねる門番長。
その問いに、返ってきた答えは。
「ガーッハッハッハッハッハ、良かろう!! …………吾々が来た目的。それは――――魔王軍によるフーリエへの侵攻であるッ!!!」
牙を剥きだして笑いながら、そう言い切った赤鬼。
……それは、正式な『王国への宣戦布告』だった。
「撃てェェェェェェェェェェェッ!!!」
それを聞いた瞬間、門番長の号令が響く。
ドォンッ!!
ドォンッ!!
と同時、爆音と黒煙を上げる大砲。
ヒューッという風切り音と共に、外壁から一直線に飛ぶ2つの砲丸。
その先には……腕を組んでニヤリと笑う赤鬼。
寸分の狂いも無く、赤鬼の顔面直撃コースを物凄い勢いで辿る。
「「行けェェェッ!!!」」
ナッチとラルの声が砲丸を後押しする。
勢いを落とす事無く、真っ直ぐに飛ぶ砲丸。
2つの砲丸は、赤鬼に向かって飛び――――
「「「「「【氷結壁Ⅲ】!!!」」」」」
カチコチコチコチッ!!!
――――猫の魔物が呪文を唱えたと同時、赤鬼の眼前に現れる分厚い氷壁。
氷の礫を撒き散らしながら、2つの砲弾は氷の中へと飲み込まれていった。
「ガーッハッハッハ! 吾輩に突然攻撃を仕掛けるとは、中々人間も酷ではないか!!」
「「「「……なッ!!?」」」」
氷の裏からこちらへと響いてくる、笑い声。
氷壁に、高笑いを上げる赤鬼が透けて映る。
「……しかし、今ので貴殿らの覚悟は十分に伝わったぞ! 先程の台詞が虚言でなかったこと、敵ながら天晴である!!」
氷壁が消えると、組んだ腕を解いて独り拍手する赤鬼。
……1回1回の拍手の音だけで鼓膜が破けそうだ。
すると。
赤鬼は拍手を止め、再び腕を組んで口を開いた。
「その勇敢さに免じ……門番共、貴殿らを生かすチャンスをやろう!」
「「「「えっ――――
赤鬼の発言に、期待の表情を浮かべる私達。
しかし。
そんな期待は、一瞬で裏切られた。
「……黙って門を開き、吾々をフーリエに入れるのだ。さすれば吾輩は今の攻撃を忘れ、貴殿らの命を保証するッ!!」
赤鬼の言う、『チャンス』。それは……私達への、命乞いの勧めだった。
フーリエを売って、命を乞えと……屈辱を受け入れろと、赤鬼はそう言っていた。
……勿論、私達だって死にたくない。
こんな数の軍勢を相手にするのは嫌だ。
非常に恐怖心を覚える。
「さあ門番共、門を開け――――
……しかし。
私達にも…………門番のプライドが有るッ!
「「「「開けるかァァァッ!!!」」」」
門番一同、赤鬼の勧めを一蹴した。
「っ……」
門番長の勢いに一瞬気圧され、驚きの表情を見せる赤鬼。
すると。
「ガーッハッハ! それはそうだよな! 吾輩が門番でも門は開けぬわ!」
驚きの表情は一瞬で掻き消え、再び元の笑顔に戻る赤鬼。
そして。
「ならば吾々がこじ開けるまでよ! 魔撃部隊構えッ!!」
その号令と同時、猫の魔物が再びザッと動き出す。
後ろ脚の二足で直立し。
前脚を前に突き出し。
その爪を一斉に、鋼鉄の門へと向け。
「【炎放射】一斉放射ッ!」
「「「「「【炎放射Ⅶ】!!!」」」」」
太く赤熱したレーザーの弾幕が、鋼鉄の門へと迫った。
ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………
レーザーを一点に浴び、瞬く間に赤熱する鋼鉄の門。
大量の白煙が、私達の足元から立ち上ってくる。
「この火力……このままじゃ…………」
「門が融かされちまうッ!!」
「コレはまずいよッ!!」
私達の予想を優に上回る、圧倒的な火力。
それなり攻撃でもビクともしない筈の、鋼鉄の門……それが融かされる瞬間を想像するのは容易だった。
「ガーッハッハッハッハ! 門番共、貴殿らは指を咥えてこの光景を見ているのだな!」
「させるか!! 撃てェェェェェェ!!!」
ドォン!!
ドォン!!
再び、2個の砲丸が飛ぶ――――
「「「【氷結壁Ⅲ】!!!」」」
カチコチコチコチッ!!!
が、先程も見た氷壁が再び出現。
砲丸の行く末は言うまでもなかった。
「……クソゥ! 何とか攻撃を止められないのかッ……!!!」
「ガーッハッハッハッハ! そんなパチンコ玉の如き小球では、吾々は止められんぞ!!!」
門番長の呟きに、煽る赤鬼。
「いや未だ分からんッ! 大砲撃てェェェェッ!」
ドォン!!
ドォン!!
「「「【氷結壁Ⅲ】!!!」」」
カチコチコチコチッ!!!
再び大砲が発射されるが、先程と結果は同じだった。
何も変わらなかった。
……のだが、この一撃で事態は急に悪化した。




