15-0-1. 『フーリエ包囲作戦・招集編』
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フーリエ包囲作戦、21日前。
一人部屋でそこそこ広く、窓からの眺めも良い病室。
ベッドの横の机には、骸骨を模した仮面と資料の山が置かれ。
魔力点滴は既に取り外されており、ポタポタという滴下音も響かない静かな病室。
そんな病室で、私は一人ベッドの上で横になり、魔王軍の各部隊から送られてきた資料に目を通していた。
「…………弓撃部隊、進捗良好っと……」
進捗状況が書かれた資料に目を通し、『指揮官』欄にペンでサイン。
その資料をベッド横の机、チェック済み資料の山に重ね。
そのまま、次の資料を手に取る。
「…………侵攻部隊、火器の調達が心許無しか……」
資料の備考欄に『魔撃部隊から【火系統魔法】使いを応援に送る』と記し、チェック済資料の山に重ね。
次の資料を手に取る。
「…………包囲部隊、ゴーレムの作成は順調……」
資料に目を通し、サイン。
チェック済み資料の山に重ね。
次の資料を…………あぁ、今のが最後の1枚だったか。
「……」
ペンをチェック済資料の山の上に置き、少し休憩。
静かな病室の窓から森を眺め、目と頭を休める。
……フゥ、少し疲れた…………。
指揮官の仕事も楽ではないな。
魔王様への『フーリエ包囲作戦』の具申から一週間。
策謀が認可されたその時から、魔王城内は毎日毎日作戦準備で慌ただしくなった。
窓からは、城の中庭でハンマーベア達の普段以上に気合が入った特訓が見える。
魔王城の門も、森へ資材調達に大量の魔物が出入りしている。
大広間では、非戦闘系の魔物が爆弾や武器を急ピッチで作っている。
時々見舞いに来てくれる軍団長も、『第三軍団の団室は普段の騒がしさに磨きが掛かっている』と言っていた。
そんな騒がしさは、たとえ静かな病室でも耳を澄ませば微かに聞こえてくる。
……ああ…………早く私も腹の傷を完治させて、準備に参加せねば!
『白衣の勇者』討伐作戦の準備は、総じて順調。
このまま行けば、あと2週間で準備が完了する予定だ。
完了次第、第三軍団全体で魔王城を出発。7日掛けてフーリエに行軍し、本格的に作戦を開始する。
魔王軍の第三軍団・全10万を相手にすれば、例え『謎の強化魔法』を使ったとしても抗う術は無い筈だ。
練りに練ったこの作戦、この3度目の作戦なら…………確実に奴を仕留められる。
それさえ済めば、魔王様の理想はグッと近づく!
色々と私に盾ついた『白衣の勇者』も、息の根を止めるその日まであと3週間。
……それまでせいぜい、今までの幸運に喜びながら暮らすが良い!
「フッフッフ…………待ってろよ、白衣の勇者ッ……!」
見開いた眼と鋭い歯を窓に映しつつ…………外に広がる森を見つめ、呟いた。
コンコンコンッ
『おいセット! 皆揃ったぞ!!』
……はッ。
扉から聞こえたノックに反応し、一瞬で笑顔が吹き飛ぶ。
時計を見れば、午後2時丁度。
……そうだ。今日の午後は『臨時役職級会議』だった。忘れていた。
聞き慣れた軍団長の声に急かされつつ、ベッド横の机に置かれた仮面を手に取り。
仮面を被りながら、扉に向かって言った。
「どうぞ――――
ガラガラガラッ!
「ガーッハッハッハ、失礼するぞ!」
……半ばフライング気味に扉を開き、部屋に入ってくる軍団長。
「軍団長、せめて私が言い切ってから扉を開いてくださいよ」
「それは済まんッ! ……それよりだセット、早く会議を始めるぞ!」
「……はい」
全くもう、軍団長は私の言った事が本当に頭に入っているのだろうか……。
……まあ、筋肉製の脳を持つ軍団長に何を言っても無駄か。
そんな雑談は置いておいて。
「よし! 入れお前ら!」
軍団長が扉から顔を出し、廊下に居る魔物達に声を掛けると。
「失礼致す」
「よォ!」
「お邪魔するわねぇ」
ゾロゾロと私の病室に入ってくる、第三軍団の部隊長達。
……静かだった私の病室も、結局は騒がしさから免れないようだ。
「指揮官殿。お身体の調子は如何に?」
入って来るなり私の心配をしてくれるのは、フォレストウルフ。
深緑色の体毛に全身を包んだ、従順な狼だ。第三軍団は此奴らが居なければ成立していない。
「おらおらセットさんよォ! さっさと起きて準備に参加しろや!」
続いて入って来たのは、大きなハンマーを担いだ茶毛の大熊、ハンマーベア。
目の周りにはサングラスのような黒い模様が有り、見た目にそぐわず第三軍団の暴れん坊。
……第三軍団で発生するトラブルは殆どが此奴らの仕業。手を焼く存在ではあるが、それを上回る功績を上げるのだからどうしようもない。
「ちょーっとクマちゃん! アナタ、病人になんて口を聞いてるのよ?」
その後ろからやって来るのは、マジック・キャット。
とんがり帽子をかぶった二足歩行の猫。……見た目は普通の猫なのに、どこか艶やかさを感じてしまうのは何故だろう。
「クマちゃん呼ぶなっツってんだろうがクソ猫! ペッシャンコに潰すぞ雑魚!」
「だーれーがーがクソ猫よ! その毛皮を焼き払ってあげようか?」
「やれるモンならやってみやがれクソ雑魚猫!」
「何よ!」
病室の入口で早速口論を始める3頭。
……今日も普段と変わらない様子だ。これだから第三軍団を纏めるのには苦労するのだよ……。
「アタナには『尊敬』っていう概念が無いのかしら、クマちゃん?」
「左様、彼女の言う通り。前から言っているが、口の利き方には気を付けろ。指揮官殿は我らの上司ではないか!」
「あァん?! 黙ってろ犬が! いっつも上司上司うるせェんだよ! 知るかそんなモン!」
そんな3頭に、軍団長が仲裁とばかりに割り込む。
「ガーッハッハッハッハ、お前ら今日も元気だな! だが、さっさと会議を始め――――
「フッ、熊共は『上司』も知らぬのか。……まあ、熊の脳は筋肉であるし、上司を知らぬのも致し方無い」
「…………うぅっ」
フォレストウルフの発言が、なぜか軍団長の心に被弾。
「『上司』ぐらい知っとるわクソ雑魚犬が!」
「……貴殿の悪口の語彙には『クソ』と『雑魚』しか無いのか?」
「なっ、な訳無ェだろぅがッ! ……ところでゴイってなんだよ?」
「「「「……フフッ」」」」
ハンマーベアの最後の一言に、病室に居る全員が笑ってしまった。
「笑うな手前ェらッ! ……それよりゴイって何だよ、教えやがれッ!」
「……フッ、それは貴殿に足りぬ物だよ」
「ウルフちゃーん、そんな説明じゃあ1つに搾れないわ。クマちゃんもどれの事だか分からないわよォ?」
「失敬、そうだったな」
「…………クソッ!」
「ガーッハッハッハッハ! お前ら、終わったのならさっさと病室に入れ! 後ろがつっかえているだろ!」
「「「はい」」」
フォレストウルフ、ハンマーベア、マジックキャットの口論が一段落つくと、3頭に続いてゾロゾロと部隊長が入ってくる。
両角が樹のように大きく成長した、ウッドディアー。
棒人間のような形をした蔦、アイビィ・アーチャー。
そのアイビィの肩に止まってきた、トランスホーク。
……3頭とは異なり、喋れない魔物達は黙って病室に入ってくる。
ウルフにベアにキャット、ディアーとアイビィ、それにホーク……、部隊長は全員揃った。
それに指揮官の私に、軍団長…………。
「軍団長、副団長は……?」
「……ああ、奴は今日も欠席だ!」
「……」
副団長は今日も欠席か。
……一体、どこで何をやっているんだか……。
まあ、欠席の彼は置いておいて。
病室に用意された椅子が私のベッドを囲むように並べられ、それらに軍団長と部隊長が並ぶ。
私の左から順に、軍団長。
フォレストウルフ。
マジックキャット。
空席。
ウッドディアー。
アイビィ・アーチャーとトランスホーク。
そして、ハンマーベア。
副団長を除き、役職級会議のメンバーは揃った。
「さあ、セットよ! さっさと臨時役職級会議を始めるぞ!」
「分かりました、軍団長」
軍団長にそう返すと、ベッド横の机に手を伸ばし、200ページ超えの分厚い『作戦概要』を手に取る。
「指揮官殿。今回の臨時役職級会議は、如何様な理由で?」
「まーさーか、何か不都合でも起こったのかしらァ?」
「いや、作戦は皆のお陰で順調だ」
そう答えると、心配な表情を浮かべていたウルフとキャットが安堵する。
「じゃあ、なんで俺らをこんな病棟まで来させたンだよ?」
それはだな……。
「作戦の詳細を、君達、部隊長に把握してもらうためだ」




