14-21. 物欲
港町・テイラー滞在6日目、特訓4日目。
15:57。
休憩ついでに開催した新魔法披露会も無事に終わり、リフレッシュした僕達は再び特訓を再開。
休憩後は2個のブローリザードの群れに遭遇し、壊滅。
休憩前の18体に6体を足し、現在の獲物総数は24体だ(【加法術Ⅲ】利用:18+2×3 = 24)。
シンが背負うリザードにくっついたブラケット・ラベルも、上質から粗悪までピンキリでバラバラだ。
という事で。
「それじゃあ、陽も傾いてきたし、次に出会ったリザードの群れで最後にしようか」
段々と大きくなってきた自分の影と一緒に砂漠を歩きつつ、そう呟く。
16時前の砂漠は暑さも引きはじめ、カンカン照りだった太陽も傾いてきたしな。
「はい」
「そうね」
「暗くなる前に帰らねえとな」
「それじゃあラストだねー!」
流石にコレだけ狩りを楽しんだからか、戦闘狂のコースとダンも異論は無いようだ。
……良かった良かった。『まだやりたい!』とか言われないか心配だったよ。
よし、そうと決まれば。
サッサと最後の獲物を見つけて、サクッと倒して帰るぞ!
って思ったんだけど。
「……全然居ないじゃんかッ!」
僕の声が、オレンジ色に輝く砂漠に響き渡る。
こういう時に限って獲物が見つからないんだよな。
あれから30分くらい経ったけど、『最後』って決めちゃったから諦めるにも諦め切れないし。
……アレか。物欲センサーって奴か。
「まあまあ先生、落ち着いてください」
「……おぅ」
シンに宥められ、少し頭を冷やす。
……でもさ、早く見つけて倒さないと夜になっちゃうし。
諦めて帰るのもキリが悪いし……。
「……それにしても、本当に全く居ないわね」
「リザードたちも、お家に帰っちゃったんじゃないー?」
「ハハハッ、そんな事は無えだろ」
「いえ、有り得ますよ。例えばダンの足元にリザードのお家があったりして」
「……まっ、まさか!」
ダンが足元をチラッと見るや否や、サイドステップで飛び退ける。
「……『例えば』の話ですよ。そんなに驚かないで下さい」
「なんだよシン。ビックリして損しちまったぞ…………」
2人して何やってんだよ。
……いや、だけど。
もしかしたら、リザードが見つからないのは奴らが僕達の見えない所に居るからかもしれない!
「よし、【判別Ⅰ】!」
僕達から見えない所も含めて、周辺の『魔物の数』を調査だ!
さてさて、果たして近くに魔物は居るかな……――――
『3』
おっ。
頭の中に浮かぶ、黒い3の文字。
「……先生、今の魔法は…………」
「【判別Ⅰ】、『探知魔法』だ」
「……あー、そういえば」
「そんな魔法も有りましたね」
……『テレパシー魔法』、【共有Ⅰ】に霞んでしまった【判別Ⅰ】の存在感。どうせ【二次曲線Ⅰ】も一緒に忘れられてんだろうな。
かわいそうに。
まぁ、そんな事は置いといて。
「で、僕達の周りには魔物が3頭居るらしいぞ」
「3頭ですか!」
「……って事は、俺らの近くにリザードの群れが1個居るって事だな!」
「おぅ」
そう答えると、途端に皆の眼光が鋭くなる。
……皆考えてる事は同じようだ。早く見つけて、パパッと倒して、家に帰るぞ!
「……それじゃあ、ラストの獲物探しだね!」
「ええ! 行きましょう!」
アークの掛け声を拍子に、一斉に散らばった。
額に手を当て、砂漠をキョロキョロする。
……んだけど、西陽が眩しくて目を開けられない。
「うぅっ……」
手で陽を遮っても、砂が陽を反射して結局眩しい。
……何も見えない。
そんな事を思っていると。
「(おーいッ)」
後ろから微かに聞こえる、ダンの声。
「ん、どうしたダン――――
ふと声のした方へ振り向くと。
「…………」
砂が小さな丘状に積もった所にうつ伏せる、ダン。
人差し指を口に当てて『シーっ』というジェスチャーと共に、手招きしている。
……なんだろう。
まぁとりあえず、彼の言う通り黙ってダンの所に行きますか。
砂の丘に5人揃って伏せ、ダンの所に匍匐前進で5人が集まるる。
「(どうした、ダン?)」
「(居ましたか?)」
『シーっ』のジェスチャーに従い、小声でダンに問うと。
「(その前に先生、【共有Ⅰ】を使ってくれねえか?)」
テレパシーをお願いされてしまった。
……ん、何かあるのかな?
「(おぅ、分かった)」
まぁ、とりあえずダンの言う通り【共有Ⅰ】を開く。
『あああーっああーっ……よし、大丈夫だな』
『サンキュー、先生』
『おぅ。……ところで、急になんで【共有Ⅰ】を?』
『ああ、それはだな……』
すると、ダンが黙って丘の先を指差す。
それにつられ、砂の丘からヒョコッと顔を出す僕達。
そこには……。
『リザードが3頭ね』
『予想通り、群れ1個でしたか』
ブローリザードが3頭、並んで歩いていた。
『しかも、僕達に尻尾向けてるぞ』
『もしかして、私たちに気付いてないのかなー?』
『恐らくな』
成程。だからダンは【共有Ⅰ】をお願いしたんだな。
……まぁ、ともかく。
『気付かれてないのならチャンスじゃんか!』
『今日最後の狩りにして、絶好の機会ですね!』
さぁ。
待ちに待ったこの時、今日最後の狩りだ!
『奇襲攻撃だ。準備は良いか皆!』
『『『『はい!』』』』
テレパシー越しに、皆の返事が返ってくる。
『それじゃあ……行くぞ!』
『『『『おう!』』』』
掛け声と同時に、5人揃って立ち上がり。
シンは長剣を抜き、両手で構えながら駆け。
コースは杖をとり、リザードに向けつつ駆け。
ダンは背中から盾を取り、構えつつ駆け。
アークは槍を両手で握り、振りかぶりながら駆け。
そして、僕は両掌を砂に突き。
『【強斬Ⅴ】ッ!』
『【氷放射Ⅰ】ッ!』
『ぅオラぁッ!』
『【強突Ⅲ】ッ!』
『【二次曲線Ⅰ】ッ!』
大きく振られた、長剣の袈裟斬りが。
太く鋭い、水のレーザーが。
体重をフルに乗せた、大盾の体当たりが。
真っ赤に燃え盛る、炎の槍の突きが。
僕の手元から飛び出し、天空で大きく放物線を描く砂のレーザーが。
無防備のリザードめがけ、炸裂した。
という事で。
「フゥー、奇襲大成功ですね!」
「わたし達のリザード狩りも、もうお手の物ね」
リザード達が後ろから迫るシン達に気付いた頃には、もう時既に遅し。
ロクに攻撃を避ける事も出来なかったリザード達は、あっという間に3頭まとめて獲物にされてしまいました。
「『テレパシー』を使って静かに近寄り、抵抗も出来ぬままに仕留める……まるで暗殺者みてえだな!」
「暗殺者……カッコいーッ!」
ダンとコースもご満悦の表情だ。
良かった良かった。戦闘狂さん方も満足してくれたようだな。
よし、そんじゃあ……。
「【因数分解Ⅰ】!」
ボフボフボフッ!
3体のブローリザードが白煙と共に消え、シンの背負うリザードにくっ付いたブラケットラベルが書き換えられる。
===========
(上質×2 + 中質×9 + 普通×10 + 低質×4 + 粗悪×2)
===========
新たに3体が加わり、()の中身の合計が27頭になる。
……うぉっ、改めてみると凄いな。
質が『普通』のリザードとか10体超えてるし。
この量のリザードをギルドで買取に出したら、一体どれだけのお金が貰えるんだろうか……。
あー、街に戻ってからが楽しみだな!
……さて。
「それじゃあ、帰るか」
「はい!」
最後の狩りも存分に楽しんだことだし、今日はこれにて終了。
あとは完全に陽が暮れちゃう前にフーリエへ戻るだけだ。
「急がねえと、本当に暗くなっちまうからな」
「真っ暗になったらどうしようー……」
「その時は、わたしの炎でみんなを照らしてあげるわ」
「頼りにしてるぞ、アーク」
「ええ。任せて、ケースケ」
そんな話をしつつ、地平線に触れかけている陽を眺めながら。
遠くに見えるフーリエを目指して砂漠を歩き始めた。




