14-19. アーチ
「さて。気を取り直して」
微妙な感じになってしまった雰囲気の中、手をポンと叩く。
「ちょっと【判別Ⅰ】は見栄えが悪かったから、2個目の魔法に行こう」
【判別Ⅰ】はイマイチなデビューを果たしてしまったけど、まだ新しい魔法なら2つも残っている。
「次の魔法なら、きっと皆もビックリするぞ!」
「「「「おぉっ!!」」」」
死んだ魚のような4人の目に、再び生気が漲る。
「というか、先生。2つも新たに手に入れていたんですか?」
「……あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてないです」
……そっか。
言い忘れてた。
「ちなみに、昨晩は3つ手に入れちゃったから」
「……えっ、1日に3個も!?」
「おぅ」
「……考えられません…………」
……シンの表情が、本当に『呆れ』に移ってしまった。
まぁ、そんなシンは置いといて。
試運転の続きだ!
「それじゃあ2個目…………の前に。僕が『光』や『水』、『砂』を直線状にして、レーザーを撃てるってのは知ってるよな?」
「ええ、勿論」
「うん! 私と一緒に【水線Ⅵ】を撃ったりするもんねー!」
「そうそう。……で、今回覚えた魔法はその上位版だ」
「「「「上位版?」」」」
「おぅ」
上位版というか、高次元って言ったら良いのか。
……まぁ、どっちでもいいや。よく分かんないし。
「まぁ、見せた方が早いだろうな。……それじゃあ」
「「「「……」」」」
再び4人が静寂モードに切り替わる中、しゃがんで両掌を砂につく。
砂削切断スタイルだ。
……熱っ。
火傷するほどじゃないけど、砂が熱い。
「……行くぞ」
けれど、なんとか掌の熱さを堪え。
頭の中のイメージに『放物線』を描きながら、魔法を唱えた。
「【二次曲線Ⅰ】ッ!」
ザアアァァァァァッ!!!
魔法を唱えた直後。
両手をついた先の地面から、青空に向かって砂が勢い良く飛び出す。
ザアアァァァァァッ……!!!
「「「「おぉぉ…………」」」」
額に手を当てて空を見上げ、レーザーの先端を目で追う4人。
そのまま砂のレーザーは、真っ直ぐ上っていくと————
「……あぁっ!」
「れっ、レーザーが……」
「曲がったー!」
次第に傾きを緩めると、高校の校舎くらいの高さで放物線の頂点を描く。
そして、頂上を過ぎた砂のレーザーは先端を地面に向けると急降下し————
ザガガガガガッ!!
砂のレーザーが砂漠に突き刺さり、砂が砂を削る音が響く。
あっという間に、僕達の目の前には砂のアーチが出来上がった。
「コレが2つ目の魔法、【二次曲線Ⅰ】。言ってみれば『曲がるレーザー』だな」
「……凄いです!」
「デッけーな!」
「スゴーい! 『レーザー』が曲がっちゃった!」
しゃがむ僕の周りをウロウロ歩き回りつつ、砂のアーチを見上げる4人。
「ねえ、ケースケ。アーチの中を潜っても大丈夫?」
「おぅ。……けど、レーザーには触れるなよ」
砂のレーザーは斬れ味が凄く良いからな。
「ええ、勿論」
「……それじゃあ、私も」
「俺も俺も!」
「あっ、私もくぐるー!」
砂のアーチを潜ろうとするアークに、学生達もゾロゾロと付いていく。
……なんかアレだよな。目の前にアーチとかが有ると、ついつい潜りたくなっちゃうのって有るよね。
神社の鳥居とか、トンネルとか、橋の下とか、大きな公園にある『花のアーチ』とかを目にすると、ついつい引き寄せられちゃて。
そして、潜るときには何故か分からないけど少しワクワクしてたりして。
……なんでだろうな。
っと。
そんな事を考えている間にも、4人がアーチの左側に横一列に並んでいた。
「シン、ダン、アーク、『せーの』で一緒に跳ぶよー!」
「分かりました!」
「おう!」
「分かったわ!」
コースが指揮を執って潜るようだな。
「じゃ行くよー!」
「「「「……せーのッ!」」」」
すると。
掛け声と共に、4人は揃って右足を振り出し。
4人揃って砂のアーチを潜り。
「よっと」
「ぃっしょ!」
「ほッ」
「えぃっ」
4人揃ってアーチの右側に両足で着地し。
「「「「ハハハハハハッ……」」」」
4人揃ってお互いに笑い合っていた。
……なんか楽しそうで良いな。何よりだ。
きっと傍から見ればどーでも良い事なんだろうけど、楽しそうな4人を見て不思議と心が癒されちゃった。
……という事で。
「さて、それじゃあ3つ目の新魔法だな」
砂から手を離すと、砂のアーチは一気に勢いを失って一瞬で砂漠へと還る。
パンパンと両手に付いた砂を払いつつ、立ち上がる。
『レーダー魔法』の【判別Ⅰ】と『曲がるレーザー魔法』の【二次曲線Ⅰ】が終わったという事は……。
「3つ目は【共有Ⅰ】っていう魔法だ。……きっと、コレ見て皆絶対ビックリするだろうな」
「『コモン』ですか。…………どれだけ凄い能力なのでしょう」
「コレは本当に凄いぞ、シン。『チート級』だ」
【演算魔法】は割とチート級の魔法揃いなんだけど、昨晩に説明を読んだ限りでは【演算魔法】の中でも結構な能力だと思うよ。
「チート級って……」
「そうそう。僕も昨晩から『早く試したい』って思ってたんだよねー」
頭の中で4人が驚くシーンを想像し、少しニヤける。
「……何よ、その不敵な笑みは」
「先生、なにか悪いコト考えてる?」
「いやいや。コレを披露して、皆がどれだけビックリするかなと想像しちゃうと、つい」
「……そんなに凄えのかよ」
「おぅ」
ダンから訝しげな目で見られてしまった。
……いや、フリじゃなくて本当に凄いんだからな!
では。
「それじゃあ、皆。行くぞ」
僕の前に少し距離を置いて並ぶ4人に、そう告げる。
「はーい!」
「……先生が俺らにあんだけ言う魔法だもんな」
「……相当凄いのね、きっと」
「…………お願いします」
4人の表情からも、どこか少し緊張と期待でドキドキしているのが伝わる。
……さぁ、皆。【共有Ⅰ】の能力に驚くがよい!
皆の期待の上の上を行く【共有Ⅰ】を見て、ビックリするがよい!
自分でもちょっと引くほどニヤけてるのを自覚しつつ、魔法を唱えた。
「【共有Ⅰ】ッ!!」
「「「「「…………」」」」」
「「「「「………………」」」」」
「…………ん、何も起こらねえぞ……?」
「どうかしましたか、先生?」
「ケースケ、何かあったの……?」
「……まさか先生、立ちながら寝ちゃっ――――
「……えっ…………」
「「「「えええェェェェェェッ!?」」」」
「……今の聞こえたかよ、アーク?」
「……え、ええ。他でもない、ケースケの声が……」
「なんでなんでなんでーッ!? 先生の口、全然動いてなかったけどー!?」
「いやいやいや、それはきっと私達の見間違いですよ、見間違――――
「……嘘…………でしょ!?」
「でも聞こえたよな、今の! 先生の口も全然動いてなかったし!」
「はい。……これは一体……」
「どうなってんのーッ!?」
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
「「「「「…………」」」」」
先生が『【共有Ⅰ】ッ!!』と唱えてから、10秒が経ちました。
……が、何も起きません。
私達以外誰も居らず、私達も誰一人喋らない砂漠には、静寂がただ流れるだけです。
「「「「「………………」」」」」
……20秒が経ちましたが、まだ何も起こりません。
『どうしたんだろう』といった目で先生を見つめるコースとダンが、私の横目に映ります。
しかし、そんな先生は笑みを浮かべたまま、口を閉じて直立するだけ。
「…………ん、何も起こらねえぞ……?」
すると、ついに耐え切れなくなったダンが口を開きました。
「どうしたんですか、先生?」
「ケースケ、どうしたの……?」
それにつられ、私とアークも先生に問います。
「……まさか先生、立ちながら寝ちゃっ――――
アークに続いて、コースも先生にそう尋ねた時。
『そんな訳無いじゃんか』
……ふと、声が聞こえました。
この聞き慣れた声に、この言葉遣い……先生のモノです。間違いありません。
……しかし、当の先生はというと。
口どころか、全身のどこも微動だにしていません。
「……えっ…………」
『おっ、オッケーオッケー。こんな感じか』
私が驚いて零した声に反応するかのように、先生の声が再び聞こえました。
「「「「えええェェェェェェッ!?」」」」
……いや、いやいやいや!
まッまさか、先生は口を閉じたまま喋ったんですか!?
「……今の聞こえたかよ、アーク?」
自分の耳を疑うダン。
「……え、ええ。他でもない、ケースケの声が……」
「なんでなんでなんでーッ!? 先生の口、全然動いてなかったけどー!?」
アークとコースも信じられないといった様子です。
……ですが、そんな事は有り得ないハズです。
いや、有り得ません。
今のは見間違い。きっと、先生が口を開く所を見逃してただけです。
「いやいやいや、それはきっと私達の見間違いですよ、見間違――――
コースとダンとアークと私自身に、そう言い聞かせていた時。
『いや。見間違いじゃないって』
……再び、先生の声がしました。
今回こそは見逃すまいと先生を見つめ続けてましたが、やっぱり口は動きません。
ガッツリ閉じたままでした。
「……嘘…………でしょ!?」
「でも聞こえたよな、今の! 先生の口も全然動いてなかったし!」
「はい。……これは一体……」
「どうなってんのーッ!?」
有り得ない現象に、焦る私達。
目を丸くしたコースが、先生にそう尋ねると。
やはり先生は、口を閉じたまま答えてくれました。
『コレは……【共有Ⅰ】は、”テレパシー魔法”だ』
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