表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/548

14-19. アーチ

「さて。気を取り直して」


微妙な感じになってしまった雰囲気の中、手をポンと叩く。



「ちょっと【判別Ⅰ】(ディスクリミナント)は見栄えが悪かったから、2個目の魔法に行こう」


【判別Ⅰ】(ディスクリミナント)はイマイチなデビューを果たしてしまったけど、まだ新しい魔法なら2つも残っている。



「次の魔法なら、きっと皆もビックリするぞ!」

「「「「おぉっ!!」」」」


死んだ魚のような4人の目に、再び生気が漲る。



「というか、先生。2つも新たに手に入れていたんですか?」

「……あれ、言ってなかったっけ?」

「聞いてないです」


……そっか。

言い忘れてた。



「ちなみに、昨晩は3つ手に入れちゃったから」

「……えっ、1日に3個も!?」

「おぅ」

「……考えられません…………」


……シンの表情が、本当に『呆れ』に移ってしまった。




まぁ、そんなシンは置いといて。

試運転の続きだ!


「それじゃあ2個目…………の前に。僕が『光』や『水』、『砂』を直線状にして、レーザーを撃てるってのは知ってるよな?」

「ええ、勿論」

「うん! 私と一緒に【水線Ⅵ】(ウォーター・レーザー)を撃ったりするもんねー!」

「そうそう。……で、今回覚えた魔法はその上位版だ」

「「「「上位版?」」」」

「おぅ」


()()()というか、()()()って言ったら良いのか。

……まぁ、どっちでもいいや。よく分かんないし。




「まぁ、見せた方が早いだろうな。……それじゃあ」

「「「「……」」」」


再び4人が静寂モードに切り替わる中、しゃがんで両掌を砂につく。

砂削切断(グラインド・カッター)スタイルだ。


……熱っ。

火傷するほどじゃないけど、砂が熱い。




「……行くぞ」


けれど、なんとか掌の熱さを堪え。

頭の中のイメージに『放物線』を描きながら、魔法を唱えた。



【二次曲線Ⅰ】パラボリック・ファンクションッ!」






ザアアァァァァァッ!!!



魔法を唱えた直後。

両手をついた先の地面から、青空に向かって砂が勢い良く飛び出す。



ザアアァァァァァッ……!!!

「「「「おぉぉ…………」」」」


額に手を当てて空を見上げ、レーザーの先端を目で追う4人。

そのまま砂のレーザーは、真っ直ぐ上っていくと————




「……あぁっ!」

「れっ、レーザーが……」

「曲がったー!」


次第に傾きを緩めると、高校の校舎くらいの高さで放物線の頂点を描く。



そして、頂上を過ぎた砂のレーザーは先端を地面に向けると急降下し————




ザガガガガガッ!!


砂のレーザーが砂漠に突き刺さり、砂が砂を削る音が響く。



あっという間に、僕達の目の前には砂の()()()が出来上がった。




「コレが2つ目の魔法、【二次曲線Ⅰ】パラボリック・ファンクション。言ってみれば『曲がるレーザー』だな」

「……凄いです!」

「デッけーな!」

「スゴーい! 『レーザー』が曲がっちゃった!」


しゃがむ僕の周りをウロウロ歩き回りつつ、砂のアーチを見上げる4人。




「ねえ、ケースケ。アーチの中を潜っても大丈夫?」

「おぅ。……けど、レーザーには触れるなよ」


砂のレーザーは斬れ味が凄く良いからな。



「ええ、勿論」

「……それじゃあ、私も」

「俺も俺も!」

「あっ、私もくぐるー!」


砂のアーチを潜ろうとするアークに、学生達もゾロゾロと付いていく。


……なんかアレだよな。目の前にアーチとかが有ると、ついつい潜りたくなっちゃうのって有るよね。

神社の鳥居とか、トンネルとか、橋の下とか、大きな公園にある『花のアーチ』とかを目にすると、ついつい引き寄せられちゃて。

そして、潜るときには何故か分からないけど少しワクワクしてたりして。


……なんでだろうな。




っと。

そんな事を考えている間にも、4人がアーチの左側に横一列に並んでいた。



「シン、ダン、アーク、『せーの』で一緒に跳ぶよー!」

「分かりました!」

「おう!」

「分かったわ!」


コースが指揮を執って潜るようだな。



「じゃ行くよー!」

「「「「……せーのッ!」」」」


すると。

掛け声と共に、4人は揃って右足を振り出し。



4人揃って砂のアーチを潜り。



「よっと」

「ぃっしょ!」

「ほッ」

「えぃっ」


4人揃ってアーチの右側に両足で着地し。



「「「「ハハハハハハッ……」」」」


4人揃ってお互いに笑い合っていた。



……なんか楽しそうで良いな。何よりだ。

きっと傍から見ればどーでも良い事なんだろうけど、楽しそうな4人を見て不思議と心が癒されちゃった。












……という事で。


「さて、それじゃあ3つ目の新魔法だな」


砂から手を離すと、砂のアーチは一気に勢いを失って一瞬で砂漠へと還る。

パンパンと両手に付いた砂を払いつつ、立ち上がる。


『レーダー魔法』の【判別Ⅰ】(ディスクリミナント)と『曲がるレーザー魔法』の【二次曲線Ⅰ】パラボリック・ファンクションが終わったという事は……。



「3つ目は【共有Ⅰ】(コモン)っていう魔法だ。……きっと、コレ見て皆絶対ビックリするだろうな」

「『コモン』ですか。…………どれだけ凄い能力なのでしょう」

「コレは本当に凄いぞ、シン。『チート級』だ」


【演算魔法】は割とチート級の魔法揃いなんだけど、昨晩に説明を読んだ限りでは【演算魔法】の中でも結構な能力だと思うよ。



「チート級って……」

「そうそう。僕も昨晩から『早く試したい』って思ってたんだよねー」


頭の中で4人が驚くシーンを想像し、少しニヤける。



「……何よ、その不敵な笑みは」

先生(せんせー)、なにか悪いコト考えてる?」

「いやいや。コレを披露して、皆がどれだけビックリするかなと想像しちゃうと、つい」

「……そんなに凄えのかよ」

「おぅ」


ダンから訝しげな目で見られてしまった。

……いや、フリじゃなくて本当に凄いんだからな!






では。



「それじゃあ、皆。行くぞ」


僕の前に少し距離を置いて並ぶ4人に、そう告げる。



「はーい!」

「……先生が俺らにあんだけ言う魔法だもんな」

「……相当凄いのね、きっと」

「…………お願いします」


4人の表情からも、どこか少し緊張と期待でドキドキしているのが伝わる。



……さぁ、皆。【共有Ⅰ】(コモン)の能力に驚くがよい!

皆の期待の上の上を行く【共有Ⅰ】(コモン)を見て、ビックリするがよい!


自分でもちょっと引くほどニヤけてるのを自覚しつつ、魔法を唱えた。




【共有Ⅰ】(コモン)ッ!!」











「「「「「…………」」」」」






「「「「「………………」」」」」






「…………ん、何も起こらねえぞ……?」

「どうかしましたか、先生?」

「ケースケ、何かあったの……?」

「……まさか先生(せんせー)、立ちながら寝ちゃっ――――




「……えっ…………」


「「「「えええェェェェェェッ!?」」」」

「……今の()()()()かよ、アーク?」

「……え、ええ。他でもない、()()()()()()が……」

「なんでなんでなんでーッ!? 先生(せんせー)の口、()()()()()()()()()けどー!?」

「いやいやいや、それはきっと私達の見間違いですよ、見間違――――




「……嘘…………でしょ!?」

「でも聞こえたよな、今の! 先生の口も全然動いてなかったし!」

「はい。……これは一体……」

「どうなってんのーッ!?」











∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵






「「「「「…………」」」」」


先生が『【共有Ⅰ】(コモン)ッ!!』と唱えてから、10秒が経ちました。

……が、何も起きません。

私達以外誰も居らず、私達も誰一人喋らない砂漠には、静寂がただ流れるだけです。




「「「「「………………」」」」」


……20秒が経ちましたが、まだ何も起こりません。

『どうしたんだろう』といった目で先生を見つめるコースとダンが、私の横目に映ります。

しかし、そんな先生は笑みを浮かべたまま、口を閉じて直立するだけ。




「…………ん、何も起こらねえぞ……?」


すると、ついに耐え切れなくなったダンが口を開きました。



「どうしたんですか、先生?」

「ケースケ、どうしたの……?」


それにつられ、私とアークも先生に問います。



「……まさか先生(せんせー)、立ちながら寝ちゃっ――――


アークに続いて、コースも先生にそう尋ねた時。






『そんな訳無いじゃんか』



……ふと、声が聞こえました。

この聞き慣れた声に、この言葉遣い……先生のモノです。間違いありません。


……しかし、当の先生はというと。

口どころか、全身のどこも微動だにしていません。






「……えっ…………」

『おっ、オッケーオッケー。こんな感じか』


私が驚いて零した声に反応するかのように、先生の声が再び聞こえました。



「「「「えええェェェェェェッ!?」」」」


……いや、いやいやいや!

まッまさか、先生は口を閉じたまま喋ったんですか!?



「……今の()()()()かよ、アーク?」


自分の耳を疑うダン。



「……え、ええ。他でもない、ケースケの()が……」

「なんでなんでなんでーッ!? 先生(せんせー)の口、()()()()()()()()()けどー!?」


アークとコースも信じられないといった様子です。


……ですが、そんな事は有り得ないハズです。

いや、有り得ません。

今のは見間違い。きっと、先生が口を開く所を見逃してただけです。



「いやいやいや、それはきっと私達の見間違いですよ、見間違――――


コースとダンとアークと私自身に、そう言い聞かせていた時。






『いや。見間違いじゃないって』



……再び、先生の声がしました。

今回こそは見逃すまいと先生を見つめ続けてましたが、やっぱり口は動きません。

ガッツリ閉じたままでした。



「……嘘…………でしょ!?」

「でも聞こえたよな、今の! 先生の口も全然動いてなかったし!」

「はい。……これは一体……」

「どうなってんのーッ!?」


有り得ない現象に、焦る私達。

目を丸くしたコースが、先生にそう尋ねると。


やはり先生は、口を閉じたまま答えてくれました。




『コレは……【共有Ⅰ】(コモン)は、”テレパシー魔法”だ』






∝∝∝∝∝∝∝∝∝∝

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 
 
Twitterやってます。
更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ