14-18. 試運転
港町・フーリエ滞在6日目、特訓4日目。
8:51。
フーリエの街を囲むようにして広がる、フーリエ砂漠。
東街道からもかなり距離を置き、周囲一面砂漠という所で戦いが繰り広げられていた。
「今ですッ! 【強斬Ⅴ】ッ!!」
ザシュッ!!
一瞬の怯みを見せた1頭目のブローリザードに、シンの長剣が炸裂。
リザードの背中に、深い斬り込みが刻まれ。
「オマケの【氷放射Ⅰ】!!」
ピシュゥゥゥゥゥッ!!
そのリザードに、追撃とばかりにコースの【水線Ⅵ】が炸裂。
……未だに氷は出ず、痛みでもがくリザードの鱗を潤す。
ボフッ!
「ぅおっと! ……けど、その手はもう効かねえ……よッ!」
カァァァンッ!!
足元の砂を崩されながらも、体当たりをかます2頭目のブローリザードにダンの捌きが炸裂。
大盾で予想外の方向に弾き飛ばされ、勢い余ってダンのすぐ横をリザードが通り過ぎる。
「【強刺Ⅱ】! ハァッ!」
捌かれて体勢を崩したリザードの脇腹に、待ち構えていたアークの炎の槍が炸裂。
そして、ダンへの罠が失敗して砂から出てきた3頭目のブローリザードに。
「絶対逃がすかよ! 【一次直線Ⅱ】・ 3 !!」
しゃがんで両掌を砂に突くと、リザードの直下から砂のレーザーが炸裂。
リザードの腹から背中を貫き、傾き3の砂のレーザーが空へと真っ直ぐ飛び出した。
アークの面会事件の翌日、僕達は2日ぶりの狩りに勤しんでいた。
朝早くから西門を抜け、砂漠に突入して早々ブローリザードの群れに遭遇。
全員に【乗法術Ⅳ】を掛けるや否や、3頭まとめてサックリ仕留めてしまった。
「今日は幸先が良いですね、コース!」
「うん! やっぱ狩りってサイコーッ!」
「助かったぜ、アーク! ナイスフォローだ!」
「いえいえ。ダンの捌きもかなり上達してるわね」
「おう! サンキュー!」
背中がザックリ斬られたリザード、脇腹に焼け焦げた跡を残したリザード、腹に貫通穴を通したリザードの3体を前にして、お互いに勝利を喜び合う僕達。
リザード狩りに慣れてきたからなのか、特訓の成果が出てるからなのかは分からないけど、僕達もリザード相手には難なく戦えるようになってきたな。
……よしよし。いい調子だ。この調子でLvも強さも金もバンバン稼ぐぞ!
「さて、準備オッケーなら動くぞ」
「はい、先生!」
「行こ行こー!」
「おう、もっと狩ろうぜ!」
「ええ!」
よし。みんな準備オッケーのようだな。
「じゃあ……【因数分解Ⅰ】!」
ボフボフッ
便利魔法を唱えれば、3体並んだリザードから白煙が立ち上り。
あっという間に左右の2体が消え、砂の上にはタグ付きの1体だけが残る。
そんなタグには……『(中質 + 普通×2)』の文字。
結構狩り慣れてきたからか、獲物の質も結構上がってきてるな。
という事で。
「……そんじゃあシン、獲物運搬係よろしく」
偶々目が合ったシンに、リザード運び係をお任せだ。
「えぇっ、どうして私なんですか!?」
「目が合ったから」
理由はそれだけ。
特に無い。
「えー……」
そう呟きつつも、1体に纏まったリザードの尻尾を渋々掴むシン。
なんだかんだ言って彼はちゃんとやってくれる子なのだ。
……そうだな、じゃあ…………。
「じゃあ、シン。そんな頑張ってくれる君のために、後で新たな【演算魔法】を披露しよう!」
「おおっ!」
そう告げた途端、勢い良くリザードを担ぎ上げるシン。
「全く、先生ときたら……。気付いたらチート級の強化魔法を覚えてたり、気付いたらレーザーを撃ってたり、そして気付いたら【収納】みたいな魔法まで覚えてたり……」
そう言うシンの顔は、呆れつつもどこか嬉しそうだった。
「次はどんな魔法を覚えられたんでしょうか、先生?」
「それは後でのお楽しみだな。……それじゃ行くぞ!」
「「「「はい!」」」」
という事で。
「大猟大猟!」
次なる魔物を探しつつ、砂漠を歩き回る。
次々と遭遇するブローリザードをサクサクッと仕留めていくうちに、気付いたらもう18体。
まだ昼過ぎだというのに、既に6個のリザードの群れを壊滅させてしまった。
シンが担ぐリザードに取り付けられたブラケット・ラベルにも文字がズラズラ並ぶようになり、『(上質 + 中質×6 + 普通 ×8 + 低質×2 + 粗悪)』と質はピンキリになってきた。
「俺今日、物凄く調子良いんだよな」
「私もです、ダン。こう……前より身体が軽く感じるんですよね」
「私もー! 今日なら【氷放射Ⅰ】撃てるようになるかも!」
学生達も、昨日の休息日が効いてるようで動きが良い。
【氷放射Ⅰ】をまだマスター出来てないコースも、この調子で覚えられると良いね。
さて、それじゃあ。
シンもリザード運びを頑張ってくれている事だし……
「よし、そろそろ新しい【演算魔法】のお披露目と行こうか!」
「「おぉー!!」」
「待ってました!」
昨日新しく手に入れた、3つの【演算魔法】を試してみるぞ!
「先生、その新しい魔法って、使ってみてどうでした?」
「ああー……実は昨晩手に入れたっきり、まだ試してないんだよね」
キラキラな眼差しでそう聞いてくれるシンには申し訳ないんだけど、この場が『試運転』みたいなモンだ。
「説明は読んだんだけど、まだ使ってなくて。……って訳だから、僕も内心ドキドキしてるんだよね」
「成程! 『使ってみてのお楽しみ』ってヤツですね!」
「おぅ」
という事で、早速行ってみよう。
1個目は……そうだな、【判別Ⅰ】からにしよう。
「ちなみに、どんな魔法なんですか?」
「コレは……説明を見た限り、【探知魔法】みたいなモンだったな」
「「「「おぉーッ!」」」」
「僕の周囲に居る『魔物の数』とかを勝手に数えてくれるんだって」
「……今回もまた凄い魔法ですね……」
そう呆れたように言うシンの表情は、やっぱりどこか嬉しそうだ。
「それじゃあ…………行くぞ」
そう言うと、皆が黙り込む。
……と同時、僕の身体に『期待の眼差し』がブスブス突き刺さる感覚。
うーん……、ジロジロ見られてると逆にやりづらいんだけどな……。
けどまぁ、そんなの無視無視。気にしたら負けだ。
気まずさを押し殺しつつ、1個目の『レーダー魔法』、【判別Ⅰ】を頭の中に浮かべる。
個数を調べるのは『僕の周りにいる魔物の数』にして……っと。
「【判別Ⅰ】ッ!」
そう念じ、魔法を唱えた。
その直後。
「……あっ」
頭の中に、あるイメージが浮かぶ。
一面真っ白な画面、その中心に映る黒い『0』の文字。
「どうでした、先生?」
「……0、だって」
ワクワクしつつ尋ねるシンに、【判別Ⅰ】の結果を告げた。
「「「「…………おぉ……」」」」
イマイチな結果に、どう反応すればいいか困る4人。
……うん、皆の気持ちは分かるよ。
『周囲の魔物の数を調べられる』ってのは凄いんだろうけど、イマイチ見栄えに欠けるんだよな……。
「……先生、それだけ?」
「おぅ」
「「「「「…………」」」」」
全然盛り上がらない。
……済まんな、コース。本当にコレだけなんだよ。
『だから何だ』って言われたら何も言い返せない。
「…………つッ……つまり、『俺らの周囲に敵は居ねえ』って事だな!」
「……ええ、そうね! それが分かるだけでも十分凄い魔法よ!」
「本来なら『探知魔術師』しか出来ないハズの魔法ですもんね!」
「思ったよりショボいけど、スゴーい!」
…………ごめんな、皆。
無理にフォローさせちゃって。




