3-1. 登録
目が覚めた。
朝7時だ。
図書館通いしていたからか、早起きの習慣が付いている。
結局、昨日は【状態操作Ⅰ】を習得し、そのまま寝てしまった。
やる事なかったし、暇だったからしょうがないよね。
あ、そういえは昨日の「計算結果の維持時間」、つまり魔法の効果時間は15分だった。
丁度15分経ったところで、急にDEFの数字にノイズが入り、20から14に戻ってしまった。
まぁ、スキルレベルが上がれば効果時間も伸びるだろう。
という訳で、今日は冒険者になると決めた日だ。
はっきり言って、残金はもう一泊しか出来ないくらいである。
という訳で、今日から早速冒険者始めるぞ!
麻の服と白いロングコートに着替え、リュックを背負い、部屋の鍵を掛けたら出発だ。
冒険者ギルドに行って、まずは冒険者の登録を済ませよう。
階段を降りると、宿の受付には今朝も変わらずオバちゃんが座っている。
「おはようございます、オバちゃん」
「あぁ、おはよう。今日も図書館かい?」
「いや、今日から冒険者になります!」
「お、それは良いねぇ!じゃあ、今からギルドに登録して来るのかい?」
「はい!」
「お、元気で宜しい!ギルドなら東門のすぐ近くにあるからね。所で、防具や武器は見えないんだけど、どうしたのかい?」
あ、そうだ。
ギルドに行く前に武器を買っておかないと。
DEFは基準の20まで行ったので、防具は無くても良い。
しかしATKはせいぜい14だった。何かしら装備で底上げしないとな。
「あ、後で買います」
「なんだ。それじゃあ、アタシのお古で良ければあげるよ。ちょっとそこで待ってな」
そう言ってオバちゃんは中へと入っていってしまった。
え、なんだかオバちゃんに申し訳ないけど、貰えるなら貰ってしまおう。僕は金欠なのだ。
そういえばオバちゃんって昔は冒険者だって言ってたよな。中々良さげな装備だったらいいな。
そして数分後。
「お待たせ、これがアタシの現役時代に使ってた予備のナイフだよ。新品とは行かないけど、まだまだ使えるだろうからこれを持って行きな。冒険者の門出祝いだ」
そう言ってオバちゃんが持ってきたのはベルト付きの革の鞘に入ったナイフだった。見た所普通のナイフであるが、所々に入ったキズが当時のオバちゃんの強さを思わせる。
貰えるなら貰うとは言ったものの、流石にちょっと気が引けるな…
「あ、ありがとうございます!しかしこれ、オバちゃんの思い出の品じゃ…」
「良いの良いの、もう引退した身だし、持ってても意味ないでしょ?あとそれ、予備だし」
オバちゃんがそこまで言ってくれた。じゃあ、有り難く頂くとしよう。ここまで来て断るのも失礼だしな。
「オバちゃん、ありがとうございます」
「いーえ、じゃあ、頑張ってきな!」
オバちゃんの見送りを受けて、僕は精霊の算盤亭を出た。
「そういえば、ATKはどうなったんだろう?」
東門通りを街の外壁の方へと歩きながら、そう呟く。
オバちゃんからナイフを貰ったおかげで、途中でわざわざ買う必要が無くなった。本当にオバちゃんにはお世話になってばかりだ。
そのナイフは今、鞘に取り付けられているベルトを腰に巻いて、腰に提げている。
という訳で、装備分がプラスされたステータスを見てみよう。オバちゃんのナイフがどれだけATKを上げてくれるかに期待だ。
「オープン・ステータス」
ピッ
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.3
職:数学者 状態:普通
HP 40/40
MP 39/40
ATK 19
DEF 14
INT 19
MND 18
===Skill========
【自動通訳】【MP回復強化Ⅰ】
【演算魔法】
===Equipment==========
冒険者のナイフ(ATK +15)
===========
うおぉぉぉ!
ATKが15も上がってるぞ!
これなら多分、【加法術Ⅰ】で20に届く!
オバちゃん、ありがとう!
助かった!
後は、登録前に【加法術Ⅰ】で適当に上げておけば基準はクリアできる。
いや、基準に届かないから登録出来ないってことは無いんだけど、一応基準クリアはしておきたいよね。
あと、興奮してて気づかなかったが、プレートにEquipment、つまり装備という欄が追加された。武器や防具を装備すれば現れるのだろうか。
よし、もうこれで怖いものは無い。冒険者ギルドに行きますか。
冒険者ギルドの場所はすぐに分かった。
東門からすぐの所、でっかい建物がそれだ。
ババーン、というイメージの出で立ちだ。
冒険者になる!って勢いで来たのだが、やっぱり目の前にすると緊張するな…。
絡まれたりとかしないよね…
そういう、派手に目立ったりするのは後々面倒になるから本当に勘弁願いたい。
…よし。
意を決して中に入る。
建物の中には朝から人が沢山いるな。賑やかだ。
防具を着け剣を提げた男。
ローブを着て杖を持った女。
身軽な格好で全身に色々と武器を備える男。
弓を背中に掛け、矢筒を腰に着けた女。
皆、恐らく戦闘系のジョブなのだろう。
いいなー…、戦闘職。
僕の中では切り捨てたはずだが、やっぱり諦め切れていないようだ。
まぁ、なってしまったものは仕方ない。
僕は数学者としてやれる事をやるだけだ。
さて、登録しよう。
受付は五か所、そのうち「登録」と書いてあるのは一番左側だ。
他の受付はそこそこ並んでいるんだが、ここだけは誰も並んでないな。
そしてそこに座っている受付係は…
まさかのタンクトップのゴリゴリめちゃマッチョなお兄さんだった。
顔は厳つい。
…ちょっと怖いな。
とは言いつつ、行かなければ何も始まらない。
とりあえず本日二度目の意を決して受付へと進んだ。
「はいこんにちは。ギルドの登録?」
「そ、そうです」
なんだこの人。この国の対応ってこんなに荒いの?
喋り方とか見た目通りじゃんか。僕の中で怖さが増した。
「じゃあこの青い結晶にステータスプレートかざして」
「はい」
言われたとおりにステータスプレートを開き、結晶にかざす。
ピピッ
「おぉ」
すると、どこかで聞いたことのある軽い電子音と共に結晶が淡く光った。
僕としては軽く感動して声が出てしまったが、この音と言い、「かざす」という行動と言い、デジャヴを感じる。
ステータスプレートがICカードに見えてきた。
「ほぉー、見た目の割にはそこそこステータスあるのな。防具着けてないってことは、DEFは素でこれか」
ちなみに、今の僕のステータスはこれだ。たぶん、お兄さんもこれを見ているはずだ。
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.3
職:数学者 状態:普通
HP 40/40
MP 19/40
ATK 29
DEF 24
INT 19
MND 18
===Skill========
【自動通訳】【MP回復強化Ⅰ】
【演算魔法】
===Equipment==========
冒険者のナイフ(ATK +15)
===========
前も話したが、ATKとDEFは一般人なら良くて15程なので、武器や防具を着けてステータスの底上げを行うのが普通だ。僕は【加法術Ⅰ】を使ってステータスを底上げ出来るので、防具とかは要らないが。
「職は数学者、こりゃまた珍しいな。学者様がこんなところに来るとは、あんた何かやらかしちまったか?」
「い、いえ。特に何も」
「ふーん。まあ、MPが半分位使われてたり年齢の割にLvが低めだったり王国ではあまり聞かない名前だったり色々と気になる所はあるんだが、人に話せない物の一つや二つ冒険者なら持ってるからな。そこは気にしねぇ」
「…はい」
うわ、僕自身でも気づかなかった穴をズケズケと突かれた。
気にしねぇ、とは言われつつも冷汗が止まらない。
なんだか変に目立ちかねないな。
先程も言ったが、目立つのは嫌なのだ。面倒ごとは勘弁だ。
「はいじゃあステータスプレートはそのままで。冒険者登録するから触らないように。で、登録する間にギルドについて簡単に説明してやる」
「…はい」
そういうと、お兄さんは紙を取り出した。
「えーと………冒険者ギルドは国をまたいだ組織です。ギルド内でのランクみたいな物はありませんが、Lvを基に強さを判断します。怪我や死亡についてはギルドは一切責任を負いません。…以上!」
「ぇぇ…」
取り出した紙、カンペだったのかい!
酷い棒読みだなって思ってたんだけどね。
それと、ちらっとカンペが見えたけど、もっと書いてる内容多かったよね?10行以上はあったはずなんだけど。
説明はかなり端折られてしまったようだ。
事前に図書館で冒険者についての予備知識入れておいて良かったよ。
「はい、じゃあこの後街を出て狩りに行くんだろ?お前さんはそこそこステータスがあるようだけど、死にたくなけりゃあポーションを持っていきな。大体新人は装備を買って満足して飛び出してっから」
「成程」
確かに回復手段は大事だ。HP回復の魔法とかが有ればいいが、無い人は生死に関わるもんな。
…じゃあ僕は回復薬とMPの回復薬みたいなものも必要だな。
ピピピッ
その時、水晶から再び電子音が鳴った。
ICカードのチャージ完了、ってか?
「はい、じゃあプレート引っ込めていいよ。外から獲物をとってきたら隣の四つのカウンターから買い取ってもらう事。以上、説明終わり!」
「…はい」
唐突に説明が終わってしまった。
……まぁ、終わったってことはちゃんと登録もされたんだろう。
よし、じゃあ街に出て魔物退治してみますか!
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一箇所、文が途切れている場所があったので修正。




