14-13. 姓
「けっ…………」
「「『「「「結婚んんンンンンンッ!!?」」」』」」
いやいやいやいやいやなんて事言ってるんだ!?
どどどっどうして突然そんな話になるんだよ!!
「ちょっと待て待て待てアーク!!」
モニターををジッと見つめるアークに叫ぶけど、……まるで聞いてくれない。
……それと、なんだかアークの顔が赤い気がするんだけど……――――
『ハッハッハ……! 結婚して姓を変えるとはな』
そんなモニターに映った領主様はメチャクチャ笑っている。
「ええ!」
『良く考えた。面白い冗談だ、アーク』
……そうだよね。冗談だよね、アーク?
まさかそんな、本気じゃ――――
「冗談なんかじゃないじゃない、本気よ!」
モニターにそう叫ぶアークの眼は、どう見ても本気だった。
…………どっ、どうしよう。
『冗談じゃないとしても問題ない。こう言っちゃなんだが……アークが居なくなるのは俺も多少寂しけれど、それ以上に面倒が減って助かる』
「……じゃあ、そうさせて貰うわね」
いやいやいや、勝手に決めないでくれ!
僕の心の整理がまだ――――
『……しかし、相手がその"お荷物"だけは許さない。もっと強い奴を選べ』
だよねー。
僕が『お荷物』呼ばわりされるのは気に障るけど、アークのお相手が僕とかオコガマしいよなー。
「なんでよッ! いいじゃない、わたしが誰を選んだって!」
『……アークがそんな非戦闘職の冒険者と結婚した所で、先は見えている』
「…………どういう事?」
『下手に死なれて"テイラー家の娘が徒死した"との事実が王国に出回っても困る。死んでも俺に迷惑を掛けるな』
「なッ……!」
この領主様……僕はともかく、アークにまでそんな事言うのかよ!
死んでもないのに『死んだ』とか、縁起でもない事を……ッ!
「なんでそんな事を言うんだ! ……本当にアークの父かよ!」
……しまった。
耐えきれず、ついついアーク父に向かって言っちゃった。
すると。
アーク父は、モニター越しに僕と目を合わせ。
『黙れ非戦闘職! 戦いに使えもしない"無能の勇者"が!』
「……っ!」
『どうせステータスも雑魚なんだろ? 数学者は黙って計算でもしていれば良いのだ!』
「なッ…………!!?」
気圧される僕とアークに、口の端を吊り上げ馬鹿にするような眼で言い放った。
『アークもお前も、俺を超える程強くなってから出直せェェッ!!』
「………………言ったな」
あぁ分かったよ。
良く分かんないけど、とりあえずアーク父より強けりゃいいんだろ?
『ああ。出来るものなら見せてみろ』
「……おぅ」
アーク父の言葉に対して、モニターに映るアーク父に向かってニヤリと笑い。
魔法を唱えた。
「数学者舐めんな!! 【乗法術Ⅳ】・ATK、DEF、INT、MND5!!」
使った魔法は、ステータス加算。
対象は僕自身。
「同様に・ATK、DEF、INT、MND5!!」
もう一丁使った魔法は、勿論ステータス加算。
「…………っ! け、ケースケ……!」
対象はアーク。
……コレで準備完了だ。
『……何だ今のは。魔法か?』
何も知らずにそう尋ねる、アーク父。
そんな父に対し、アークもニヤリと笑って言い放った。
「ええ。それも、ケースケの持つ飛びっきりの魔法よ」
『何の魔法だ?』
「それはわたしを【鑑定】してみれば分かるわ。通信機経由なら、わたしのステータスも見れるわよね?」
『フン……、【鑑定】という事はステータス強化か。そこまで言うのなら確認してやろう』
僕の魔法を鼻で笑いつつ、そう呟くアーク父。
『数学者がステータス強化を覚えられるのは驚きだが、そんなもので俺を言い包められると? ……【鑑定】』
そして、アーク父がモニター越しに僕達を【鑑定】した。
ピッ
通信機経由で聞き慣れた電子音が聞こえ、アーク父の目の前にステータスプレートが浮かぶ。
『どれどれ…………』
笑いながらアークのステータスプレートを見る、父。
その表情が。
『……っ!?』
みるみるうちに、驚きに染まっていき。
『ま、まさか……有り得ない。ATKもDEFも、INTもMNDまで…………全ステータスが100越え!?』
そんな表情を浮かべるアーク父が、間の抜けた声で呆然としていた。
目をグワッと開き、ステータスプレートを喰い付くように眺める。
『なっ……、ステータス強化で何倍掛けているんだ……!?』
……アーク父の驚きっぷりが凄い。
そんなに言われると、僕もアークのステータスが気になっちゃうな。
「……【解析】」
って事で、僕もアークのステータスを確認してみると。
===Status========
アーク・テイラー 17歳 女 Lv.7
職:火系統魔術師 状態:普通
HP 43/43
MP 64/64
ATK 115
DEF 105
INT 120
MND 110
===Skill========
【火系統魔法】【長槍術】
===========
……うわぁぁぁ。
あの『残念ステータス』だったはずのアークが、全ステータス100超えだ。
……やっぱり【演算魔法】、怖い。
そんな事を考えていると。
「……ところで、お父様」
『…………何だ?』
「このステータスなら、わたしの方が強いでしょ?」
今度はアークの反撃が始まった。
『……んっ……――――
「ねえ、どうなの?」
『……う、うむ……素晴らしいステータス強化だ』
「このステータス強化が有れば、死ぬどころか怪我する事も滅多に無い。でしょ?」
『…………ああ』
今度はアーク父が気圧され始める。
のだが。
『……ま、まあ、このステータスは素晴らしい。だが、俺のステータスに比べればまだまだ――――
「嘘」
『……っ!?』
強気な発言を飛ばしたと思いきや、一瞬で如何にも図星な表情へと移るアーク父。
「わたしが小さかった頃、お父様は『俺のINTは一族の中でも高く、82も有るんだぞ!』って自慢してたよね?」
『むッ……、まだそんな事を覚えてッ……』
「お父様は冒険者をやってる訳でもないし、厳しいトレーニングをしている訳でもない。それなのに、今のわたしのステータスよりも強いって言うの?」
『…………っっ』
言い返せず、うなだれるアーク父。
モニターからは顔が隠れ、白髪が映る。
……おいおい。この父、娘に張り合って嘘ついたのかよ。
しかも一瞬でバレたし。
ダメだ、この父親。
今までの発言と言い、嘘までついちゃ……、ねぇ。
もしこの人が僕の父親だったら、もう幻滅。……っていうか、領主としても幻滅モンだ。
そして。
「という事で、お父様」
『……んん?』
項垂れつつ返すアーク父に、アークは。
「ケースケと一緒なら、わたしはもっと強くなれる」
『…………』
「だから、色々と好きにさせて貰うわね」
トドメの一撃を喰らわせた。
『もう良い。…………結婚なり冒険なり、好きにしろ』
そんな呟き声が、通信機から聞こえた。




