14-11. 家族Ⅰ
☆
「……では、アーク様。心の準備が宜しければ、保留解除致します。宜しいでしょうか?」
トラスホームさんが、わたしにそう告げる。
わたしに用のある人って……、一体誰なんだろう?
まっ……まさか、さっきのダン達が言ってたみたいな告白……!?
いやいやいや、そんな訳無い無いッ!
この頃のわたしにはそんな機会無かったし、第一わたしにはケースケが…………――――
……ま、まあ、『相手』が誰であろうと関係ない。
わたしをケースケから奪い取るみたいな人が居たら、特訓でマスターした【強刺Ⅱ】でモニター越しでも追い返してやるわ。
普段通り普段通り。リラーックス、リラーックス……
…………よし。
深呼吸で気持ちも整った。
「……ええ。大丈夫」
「承知致しました。他の皆様も準備は宜しいでしょうか?」
「「「「はい!」」」」
「承知致しました」
わたしに続いて、ケースケ達もそう返事を返した。
さあ、準備完了ね。
あの通信機は『わたしに会いたい人』へと繋がっている。
……一体、モニターには誰が映るのかしら……。
「それではアーク様、皆様」
そして、一呼吸置いたトラスホームさんがわたし達にそう告げ。
「どうぞ」
通信機の黄色いボタンを押し、保留を解除した。
ピッ
テイラーの実家でも良く見慣れた、通信機の起動シーン。
『ピッ』ていう音と一緒に青透明の板が映し出される。
そんなプロジェクターに映っていたのは。
額に沢山の皺を寄せて、十何年と見慣れたシャツにカーディガンを着た男。
たった最近までは、毎日のように見ていた男。
『…………あっ、アーク!』
モニターに映るなり、聞き慣れた声でわたしの名前を呼ぶ男。
……間違いない。
この男は、他でもなくわたしの『家出』の原因になった男だ。
「………………おっ、お父様!!?」
テイラー領主でわたしの父、アーンス・テイラーだった。
「わっ、わたしを探してたのって……」
『あ、ああ、俺だ。……見つかって良かった! 本当に良かった……ッ!』
モニターの中で、お父様がハンカチで目を拭う。
「アーク様。……アーンス様は『早馬』やこの私を使ってまで、貴女を捜しておられたのですよ」
「えっ……、そうだったの?!」
「左様です。ですから、アーンス様も相当ご心配なされていたのでしょうね」
トラスホームさんが、泣くお父様をやんわりフォロー。
『アっ、アーク…………。お前が、アークが突然行方不明になってッ…………心配していたんだぞ』
そんなお父様の涙は止まらない。
……えぇっ。
あのお父様が、泣くほどわたしの事を心配してたなんて。
「……てっ、てっきり、お父様なら『わたしが居なくなって清々した』とでも言ってるんじゃないかって思ってたけど」
『そんな訳が無かろう。何処か俺の知らない所で野垂れ死んでいないかと、この頃は心配で眠れなかったのだぞ』
「……そうだったのね」
『勿論だ。親の気持ちにもなれ、アーク』
「……ええ」
……いつもわたしの事を怒ってばかりだったお父様が、そんなにわたしの事を心配してくれてたなんて。
わたしを家族から仲間外れにしようとしていたお父様が、そんなにわたしの事を心配してくれてたなんて。
知らなかった。
……突然家出して、お父様に迷惑を掛けちゃってたのかもね。
モニターに映るお父様も落ち着き、ハンカチを仕舞うと。
『……いやいや、アークが無事見つかって本当に良かった。突然の願いにも関わらず、協力してくれて有難う。トラスホーム』
「いえいえ。アーンス様のお願いとあらば、何時でもお受け致しますよ」
『ハハァ……そう言ってくれると頼もしいな、領主の新星よ』
「有難う御座います」
お父様とトラスホームさんが話を始めた。
……領主同士だと、やっぱり内容が大人な話になるのね。
『……そうだな、トラスホーム。娘が世話になった御礼、今度王都の"領主会議"で会った時に返させて貰おう』
「いえいえ、そんな……結構ですよ、アーンス様」
『そんな事言わず――――
「いえ……折角のお誘いですが、結構です。こちらも色々と有りましたので」
ええ。色々有ったわね、確かに。
牢獄とか牢獄とか牢獄とか。
『……そうか。トラスホームがそこまで頑なに断るのなら仕方ない』
「…………はい。また今度、よろしくお願い致します」
そんなお父様は、トラスホームさんの気持ちを察して折れたみたい。
色々有ったトラスホームさんも、それを見て安堵してた。
「それじゃあ、お父様。心配掛けちゃってごめんなさい」
『お前が無事であったのなら構わん』
そう謝ると、お父様も安心した表情で返してくれた。
……さて。『面会相手』だったお父様とも久しぶりに言葉を交わしたし、無事も報告できた。
やっぱり、勝手に家出するのはダメだったかもね。
あと他に話す事も無いし、そろそろ通信を終わろうかな。
「たまに手紙でも送るわね。それじゃあ――――
通信機の赤い『通信切断』ボタンに手を掛けようとした、その時。
『いや、待てアーク』
「え?」
モニターからお父様の声が聞こえ、手を止める。
「どうしたの、お父様?」
『まだ通信の"本題"に入っていない』
「……えぇっ?」
……この通信って、『わたしの安否確認』のためじゃないの?
そんな事を考えつつモニターを眺めていると。
モニター越しのお父様の表情が急に一変、顔になり。
『アーク。帰ってこい』
そう、わたしに向かって『本題』を命じた。
「……えっ…………?」
あまりにも突然過ぎる『本題』の内容に、わたしは一瞬言葉を失ってしまった。




