14-7. 説教
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終盤を少し書き足しました。
港町・フーリエ滞在5日目。
14:36。
僕達が釈放されてから30分が経った。
……のだが、トラスホームさんのお説教は未だに終わらない。
「第一、アーク様方を投獄するにしても、投獄の方法に於いて色々とずさんな点が多過ぎます」
「「うぅっ」」
ってか、いつの間にか説教の内容が『領主の娘を間違って投獄した事』から『投獄の仕方』に変わっていた。
「まず、どうして1人用の牢に5人も入れたのですか? 幾ら犯罪者とはいえ、それは扱いが酷過ぎます」
「「ハイ……」」
そんなお説教を長々と受けている門番さん方は、明らかにもうヘロヘロ。
話を聞くのが精一杯なご様子だ。
「もしも1人部屋に5人も閉じ込めて、万が一囚人が死ぬような事が有ったらどうするんですか?」
「そっ、その時は……」
……流石にそれは考え過ぎじゃない?
「まあ、それは良いとして次です。牢獄にはアーク様方の荷物が一緒に牢獄に放り込まれていました。投獄の際には荷物を取り上げて牢に入れる規則ですが、なぜそんな事になっていたのでしょうか?」
「「あっ…………」」
「もし荷物に魔力鋸でも入っていれば、鉄格子なんてあっという間に突破されますけど」
「…………てっ、手錠を掛けておいたので大丈夫だろうと思いまして」
「手錠を掛ければ魔力鋸が使えないと?」
「うぅっ……」
その場しのぎの言い訳も一瞬で砕かれ、黙り込む門番さん方。
「ハァ……、もしも投獄したのが指名手配犯であれば、今頃鉄格子を破って逃げられていた所でしょう。投獄していたのがアーク様方で良かったですね」
「「ハイ」」
……いやいやそういう問題じゃ無くない?
「……ところで。釈放する時には、アーク様方の手錠が既に外れていました。これはどういう意味なのでしょうか?」
「えっ……!? そっ、それは俺たちも知らないですよ!」
「ちゃんと手首に掛けておいたのに————
目を見開いて驚く門番さん方。
……ごめんなさい。それは僕の仕業です。
ちゃんと手錠掛かってたから、この件に関しては怒らないであげて。トラスホームさん……。
「そもそも、牢獄に見張りが居れば手錠を外した事に気付く筈ですよね? 投獄しておいて、見張りさえも立てていなかったという事ですか?」
「「…………」」
たっ、確かに……。
もし見張られてたら、僕も流石に『手錠すり抜けマジック』は出来なかっただろうな。
「……ハァ、呆れました。適当に狭い牢獄に閉じ込め、荷物も取り上げず見張りも立てず、手錠もロクに使えず。おまけに『領主のご息女』『勇者様』と知っていながら不躾な真似を平気でするとは」
……僕達の誤認逮捕はオマケ扱いですか。
「…………こんな事が世間に知れたら、港町・フーリエの評判は一瞬で地に堕ちます。貴方がたの所為で」
「「ヒッ、ヒィィィィ!!」」
「それが嫌であれば、良く反省して以降十分に気を付けてください」
「「…………すみませんでした」」
完全に憔悴しきった顔で、2人の門番さんは土下座。
トラスホームさんも気が済んだのか、やっと落ち着いたようだ。
こうして、トラスホームさんのお説教は若干パワハラ気味に終わりを迎えた。
という訳で。
トラスホームさんと僕達の6人は詰所の机に腰掛け、お茶を出して貰い。
投獄されてからトラスホームさんの到着を待つこと実に6時間、やっとこの瞬間に辿り着いた。
「アーク様、お仲間の皆様、大変お待たせ致しました。初めてお会いした傍からお見苦しい所をお見せしてしまい……」
「……本当です。わたし達を差し置いて説教を始めるだなんて」
「ホントだよー!」
「……大変申し訳ありません」
そう言ってアークとコースに頭を下げるのは、紺色のスーツに身を包み、えんじ色のネクタイをキュッと結び、薄茶色の髪をツーブロックでしっかりキメてきた若い男。
まるで見た目は就活生そのものだ。
「では、皆様。遅くなりましたが…………フーリエの現領主を務めさせて頂いている、トラスホーム・フーリエと申します」
……この人がアークを探していた領主様か。
「それじゃあ、僕達からも自己紹介を。…………僕は数原計介。職は『数学者』で、冒険者やってます」
「私はシン・セイグェン、『剣術戦士』です。冒険者をやりつつ、ケースケ先生の下で生きる術を学んでいます」
「コース・ヨーグェンです! 『水系統魔術師』で、シンと同じく先生に色々教えてもらってますー!」
「ダン・セーセッツ、『盾術戦士』だ。後はシンとコースと同じだな」
……なんか、後になるにつれて自己紹介適当になってない?
まぁ良いけどさ。
「じゃあ、最後に……アーク・テイラーよ。『火系統魔術師』で、ケースケ達と一緒に冒険者をやっているわ」
「成程。ケースケ様にシン様、コース様、ダン様、……そしてアーク様ですね。以降、どうぞよろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願いします」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
全員そろってお互いに礼。
礼儀は大事だからな。
皆が頭を上げると、さっそくトラスホームさんが眉を八の字にしながら口を開いた。
「……しかし、先程は大変申し訳御座いませんでした。詰所から連絡を頂いたのに、顔を出すのがこんなに遅くなってしまい……」
急な会議が入っちゃったんなら、仕方ないよね。
「それに、まさかアーク様方が牢に閉じ込められていたとは……。もし分かっていれば、会議を抜け出して此方に参上していたのですが」
まぁ、トラスホームさんが悪い訳じゃないし。檻の中も結構楽しかったし。良い体験になったかもな。
今じゃそう悪くなかったとは思ってるよ、僕は。
「街と街との騒動ともなりかねない一連の無礼、何とお詫びすれば良いか……。アーク様、ケースケ様、そして皆様。大変申し訳御座いませんでした」
そう言い、何度も何度も頭を下げるトラスホームさん。
……会って早々謝ってばかりだな、この人。
本当に領主さんなのかなって少し疑ってしまった。
「わたしなら大丈夫だけど……」
「アークがそう言うんなら、俺らも大丈夫だ。だよな、シン?」
「はい。勿論です」
「私もー!」
「僕も」
「……みたいだから、わたし達の事なら大丈夫。あまり気にしないでくださいね」
「そう言って頂けると…………。ですが、後程改めてお詫びをさせて頂きます」
アークの言葉を聞き、頭を上げたトラスホームさんは真面目な顔でそう言った。
……なんだか領主のプライド0なんじゃないかってくらい謝りに謝って謝り倒してたけど、行動には凄く誠実な感じがしたよ。
良い人そうだな、トラスホームさん。
「ズゥゥーッ…………」
さて。
お互いに自己紹介も終われば、お待ちかねの本題だ。
僕達が投獄されてしまった理由の一つでもある、『アークの手配』。その真相を聞かなければ。
「それでは皆様、本題に移らせて頂きます」
「「「「「……」」」」」
お茶を一口啜ったトラスホームさんがそう言うと、僕達の眼つきが変わる。
真っ直ぐトラスホームさんの眼をジッと見つめ、雰囲気がピンと張る。
「どうしてアーク様を『手配』させて頂いたのか、それは……」
「「「「「それは……」」」」」
真相を聞き漏らさんと机に乗り出す僕達。
そんな僕達に向かって、トラスホームさんは口を開いた。
「アーク様。貴女に会いたいという方が居るからです」
「「「「アークに?」」」」
「わっ、わたしに……会いたい…………?」
『手配』の理由を聞き、首を傾げるアーク。
「左様です。『アーク様にお会いしたい』と仰る方が居りまして」
「わたしに会いたい人かぁ………………全然思い当たらないけど、誰なのかしら?」
「それは……お会いされてからのお楽しみとしましょう」
「えぇ…………」
焦らされ、眉をひそめる。
「つきましては、『その人』とお会い頂くためにフーリエ家の屋敷までお越し頂きたく思うのですが……アーク様、皆様、如何でしょうか?」
「えーと…………」
そう問われると、アークが悩み顔で僕達の方をチラッと確認する。
……ん? 何かあったのかな。
そんな悩むような事じゃないと思うんだけど。
「どうしたんだ、アーク。悩んでるのか?」
「い、いやケースケ……でもわたし達、これから狩りに行くって約束で……」
なーんだ、そんな事考えてたのか。
「気にすんなアーク。『会いたい人』が居るってんなら行けばいいじゃんか。なぁシン、コース、ダン?」
「はい。先生の仰る通りです」
「本当は狩りに行きたいけど……私はアークに付いてくよー!」
「俺らなら大丈夫だぞ」
コースの無駄な一言がちょっと気になるけど、学生達も快諾だ。
「そっ、それじゃあ……みんな、もう少し付き合って貰ってもいい?」
「勿論です!」
「うん!」
「今更気にすんなって」
「そうそう。なんたって僕達、牢獄に5時間半入れられたんだ。それに比べりゃ……な、アーク?」
「…………フフッ、そうね」
「ご協力頂き、有難う御座います。アーク様、皆様」
……って事で、アークの手配の元になった『その人』に会いに行くために僕達はもう少しアークに付き合う事にした。




