14-2. 門番
アークと一緒に家を出て、空き家の並ぶ住宅街を抜ける。
「西門から徒歩5分……、わたしたちの家って、冒険者からすれば最高の立地よね」
「おぅ」
「それなのに、こんな沢山の空き家が並んで……もったいないわ」
でもまぁ、仕方ないよな。
フーリエの中心街は坂を下った港の辺りだから、用事が有る度に坂を上り下りしなきゃいけない。
こんな所の家が売れ残るのも道理だ。
そんな会話を交わしつつ、西門坂を右折。
坂を少し上ればそこは西門広場だ。
「ふぅー、到着っ!」
「さて、シン達はどこに居るかなー……」
「この辺で待ってるはずなのよね」
広場の端に立ち、額に手を当ててシン達を探す。
……のだが。
「んー…………、ダメかな。全然見当たらない」
「……僕もダメだ。人が多くて探せない」
広場をワラワラと埋め尽くす、沢山の人や馬。丁度フーリエの朝ラッシュを直撃しちゃったようだ。
王都行きの輸客馬車が何台も並び、人の行列が出来ており。
また広場の端には、僕達と同じく待ち合わせをしているらしき人々が居り。
それらを縫うように門へと流れる、冒険者のグループや商人を乗せた馬車。
……最近は毎朝この時間に門を出てるけど、なんだか今日はいつもより人が多いな。
「……なぁアーク。いっつもこんなに混んでたっけ?」
「いえ、昨日とは全く比べ物にならないくらい。……何か有るのかしら?」
「んー、『何か』と言いますと?」
「例えば、『イベント』とか『催し物』とか、『お祭り』とかかな」
あー、はいはい。成程ね。
それは有り得るな。
「……お祭りといえば、テイラーでも年に一度街を挙げて『テイラー薫風祭』っていうお祭りをやるの。その時期になると、王国中からたくさんの人や商人が集まるのよ」
へー、そんなのが有るんだ。
地元の祭りとか学園祭とか、そういうの割と嫌いじゃないぞ。
行くのは面倒なんだけど……、いざ行っちゃえば結構楽しいんだよね。
「面白そう。行ってみたいな」
そんな事を頭で考えつつ、呟くと。
ギュッ
「……んッ!?」
不意に僕の両手が握られる感覚。
身体がアークの方にグィッと引っ張られ。
「ええ、是非行きましょう! わたしが色々案内してあげるッ!」
アークが僕の目をジッと見つめて話す。
……どっ、どうしたよ。そんな急に。
「……お、おぅ。よろしく」
いきなり勢いづいたアークにビックリしつつ、とりあえず僕もそう返してみると。
「……フフッ、約束ね」
アークは若干頬を赤くして微笑み、ちょっと上目遣いに言った。
「おぅ」
僕もアークに少し微笑みつつ、小さく頷いて返した。
『テイラー薫風祭』か。ちょっと楽しみになってきたな。
……でも、何よりまずは『魔王』を倒さないと。
王国にも攻め込まれたら祭りどころじゃないし、ましてやテイラーが壊滅させられたら……。
そのためにももっと強くならないとな。
「あーっ! 先生見っけたー!」
「もう……、遅いですよ先生! アーク!」
「本当に俺ら行っちまう所だったぞ!」
……っと。
そんな事をしているうちに、シン達が僕達の方へとやって来た。
……あっ、そういえばシン達を探してる最中なんだった。
いつの間にか忘れてたよ。
「ゴメンゴメンっ、遅くなっちゃって」
「済まんな。シン、コース、ダン」
「もうっ! もっと急いで来てよねー!」
コースがご立腹のようだ。
……ちょっと待たせ過ぎちゃったかな。
「いやいや、この人混みの中でコース達が見つからなくてな」
「ゴメンね、コース」
本当ともウソとも言えない理由でコースを宥めてみる。
「えーっ……――――
「仕方ないですよ、コース。さっきダンも言ってた通り、今日は何故か人が多いですから」
「そうだ。先生達が俺らを見つけらんないのも仕方ねえって」
「んー……、まっ、それもそーだね!」
おっ。コースの機嫌が一瞬で回復。
シンとダンのナイスフォローに救われたよ。
さて。
なんとか無事合流できた事だし。
「そんじゃ、今日も特訓に行きますか!」
「「「「おーッ!」」」」
という訳で、僕達も人の流れに乗って西門へと歩き始めた。
「……ちなみに、シン達はどこで待ってたんだ? 僕もアークも全然見つけられなかったんだけど」
「えーと……丁度あの馬車の裏ですね。先生達が居た所からだと死角です」
「「見つけられる訳無いじゃんかッ!!」」
さて。
西門広場は『混んでる』って言っても人の流れが止まってる訳じゃない。
多少ゆっくりめで歩いてるけど、着実に門へと向かっている。
「昨日俺らの狩ったリザードが……15頭だったか、シン?」
「はい。その通りです」
「それじゃあ、今日の目標は16頭だねー!」
おっ、ちゃんと『目標』を立ててるんだな。偉い偉い。
講義でもやった内容が活きてるようで、僕もうれしいよ。
「おう! もっと金を稼ぎまくるぞ!」
「「勿論です!」」
……そんな事は無かった。
やっぱりコイツら、完全に昨日の買取金額で味を占めてたようだ。
そんな学生達の会話を聞いている間にも、西門は近づき。
人の流れに乗りつつ、門の目の前までやって来た。
西門は相変わらずトンネルのように長くて真っ暗。先には四角く光る出口が見える。
……さて、この門を超えれば砂漠。
今日も特訓、頑張りますか――――
「……そこの君達」
「ちょっといいかな?」
門に入ろうとした、直前。
何者かに急に呼び止められる。
「…………えっ?」
ふと声のした方へ振り向くと。
僕のすぐ隣に、槍を持って全身鎧に身を包んだ若い門番さんが2人立っていた。
……えっ、何だろう。
僕達に何か用でも有るのかな。
「……なっ、何でしょうか、門番さん?」
ちょっと訝しがりつつ、尋ねてみる。
「あ、あぁ。そんなに心配しなくてもいいよ」
「ちょっと聞きたい事が有ってね」
心配しなくていいって言われると逆に心配しちゃうじゃんか。
……にしても、『聞きたい事』って何だろう? 心当たり無いけど。
「私たち、早く特訓に行かなきゃいけないんだけどー……」
「すぐに終わるから大丈夫だよ」
再び機嫌を少し悪くするコースに、そう言って宥める門番さん。
「えー…………、じゃー、すぐに終わるなら……」
「ごめんね、お嬢ちゃん」
「……うん」
若干気に食わなさそうにコースも頷いた。
……まぁ、仕方ないっか。僕としても早く特訓に行きたいんだけど。
ここで断るのもなんだし、門番さんの言う事に従おう。
「で、門番さん。『聞きたい事』って何ですか?」
そう、門番さんに尋ねると。
「あぁ、聞きたいのは君じゃなくてね」
「こっちの赤髪の子なんだよ」
門番さん達はアークの方を見て、そう言った。
「……えっ、わたし?」




