13-22. 特訓Ⅶ
※後半にグロ表現が有ります。
そういった物が苦手な方や夢に出てきやすい方、食事中などの方はご注意ください。
「……いや、まだだ! まだ逃がした訳じゃない!」
「「「「……えっ?」」」」
完全に諦めムードになっていた4人が、目をハッと見開く。
「……先生、何か策が有るんですか?」
「リザードあんな遠くまで行っちゃったけどー……?」
「おぅ!」
既に30mほど先のリザードを視界に捉えつつ、答える。
確かにコースの言う通り、リザードとは結構距離はあるけど……思い付きのアイデアなら幾つか有る!
「残さず仕留めるッ……!」
さて。
まずは逃げるリザードに対して、なんとか足止めをしなきゃいけない。
そこで思い付きアイデア、その1。
【定義域Ⅰ】は、『相手の攻撃』に定義域を設定して板を張り、防御する魔法。板はそれなりに強度もあるし、何と言っても使い勝手が良い。
……そこでだ。
コレを応用すれば、『攻撃行為』のみならず色々な物にも『定義域』を設定して板を張れるんじゃないのかな?
例えば『リザードが逃げられる範囲』を『僕から50mまで』に定義し、板を張って退路を断ったりとか……出来るかもしれないじゃんか!
という事で、そんなイメージを頭の中で浮かべつつリザードを視界に収める。
リザードは今もなお僕達に尻尾を向けて逃げ続け、僕達とは40m程まで離されている。
これ以上逃げられたら……きっと僕達じゃ追えない。
だからその前に、アイツの逃走を止めるッ!
そう心の中で叫びつつ、魔法を唱えた。
「【定義域Ⅰ】・ x≦50 」
リザードの逃げる範囲を『僕より50m先まで』に定義。
あとは板が張られる事を祈るだけ。
さぁ……来いっ、板!
シュンッ
砂漠に巨大な青透明のバリアが現れ、リザードの行く手を阻んだ。
「来たァァァ!」
作戦大成功!
思わずガッツポーズをかまして叫ぶ。
逃げ道を遮られたリザードは、突然現れたバリアに対応できず。
逃走の勢いそのままに、バリアに向かって――――
カァァンッ!
頭から直撃。
硬い鱗とバリアがぶつかる音が響く。
……と同時に、脳震盪を起こしたのかその場で気絶するリザード。
「ヨッシャ!」
「先生スゴーい!」
「……バリアにそんな使い方が有ったとは……」
本当そうだよね。
僕も【定義域Ⅰ】は飽くまで『防御用』の魔法だと思ってたんだけど、考え方一つで便利魔法に大変身だ。
何とでもなっちゃうモンなんだな。
……成程な。『考え方一つで何とでもなっちゃうモン』、か。
我ながら良いコト言った。頭の中にメモメモ、っと。
……いやいや、それどころじゃない!
また目覚めれらたら面倒だ。足止めが成功しているうちに倒すぞ!
「……さぁチャンスだ! アイツが目覚めるまでに仕留めるぞ!」
「「「「おぅ!」」」」
「ハァ、ハァ………よし、まだ大丈夫そうだな」
50mを全力ダッシュし、息を切らしてリザードへと駆け寄る。
……直ぐ傍まで近づいてみたけど、まだリザードはピクリとも動かない。
意識は戻ってなさそうだな。
「間に合ってよかったー!」
「それじゃあ……さっさとトドメを刺しちまおうぜ!」
「それなら、わたしの【強刺Ⅱ】で――――
「いえ、ここは私にお任せください! カミヤさんから教えてもらった【強突Ⅰ】で――――
「いや、僕がやる」
シンとアークの言葉を遮り、そう宣言。
2人ともやる気満々で得物を握ってるけど、ココは僕にやらせて貰おう――――
「「「「えっ……?」」」」
「何言ってんの先生?」
「……ケースケ、出来るの?」
「私の剣でも弾かれる程の硬い鱗ですよ……?」
「どうやってあの鱗を割る気なんだ、先生?」
……皆から物凄く心配されてしまった。
コースの『何言ってんの』には少し傷ついた。
…………何?
数学者ってそんなに信用無いの?
「まぁまぁ……ちょっと試したい事が有るんだ。任せてくれ、シン、アーク」
「…………先生がそこまで言うのでしたら」
「そんなに自信があるのなら……」
「俺らには分からねえけど、何か策でも有んだろうな」
「勿論だ、ダン」
僕がそう頷くと、シンとアークは若干残念そうに得物から手を放す。
「……そんな自信たっぷりに言われたら、ケースケがどんな魔法を見せるのか気になっちゃうじゃない」
「先生の秘策、拝見させて頂きます!」
「おぅ。任せとけ!」
さて。
期待されちゃ僕としても失敗できないな。
……そんじゃあ、思い付きのアイデア第2弾、リザードにブチかましてやらあ!
「……けど、失敗した時には宜しくな」
「「「「…………」」」」
念のためそう言っといたら、4人から苦笑されてしまった。
未だ意識を失ったままのリザードの直ぐ横に立ち、足元のリザードを見つめる。
さて、コイツにトドメを刺してやりたい。
……のだが、全身を覆うのは硬い鱗。
シンの剣で弾かれるんだから、僕のナイフじゃ尚更歯が立たないだろうな。
徒手じゃ言うまでもない。
……じゃあ、どうやって倒そうか?
そこで思い付きアイデア、その2。
この作戦で使うのは、他でもない僕の武器、【演算魔法】。
それと————
スタッ……
「コレだ」
地面に片膝をついてしゃがみ、両掌を地面の砂に触れる。
……くッ、掌が熱い…………けど、リザードを倒すまではガマンだ。
「……先生、一体何を…………?」
「まぁ見てろって、シン」
シンにそう返しつつ、集中する。
中学の技術の時間でやった内容を、必死に思い出す。
分厚くて硬い金属の板を、ハサミで切る事は出来ない。
手で引き裂くことも、割る事も出来ない。
けど、ヤスリで削る事なら出来る。
……だったら。
この鱗も、硬くて刃が通らず、割れないんだったら……。
砂で削れば良いじゃんか!
「【一次直線Ⅰ】・10!」
そう、魔法を唱えた瞬間。
リザードが横たわる、そのすぐ右から。
ザアアアアアアアアア!
滝のような音と共に、地面から細い砂のレーザーが勢い良く噴き上がった。
「「「「「おぉ!」」」」」
【一次直線Ⅰ】を使い、砂を直線の形に飛ばしたのだ。
傾きが10の砂のレーザーはほぼ垂直に飛び、青い空に向かって伸びる。
「か……カッコいー!!」
「先生……まるで土系統魔術師みたいです!」
僕自身も含め、予想だにしなかった展開に驚く5人。
……『傾き10』って凄いな。よく使う『傾き1』と比べたらほとんど垂直にしか見えない。
僕自身も、魔法を使っときながらちょっと感動してしまった。
「……これは一体…………、何なんだよ先生?」
「んー、コレはだな……」
砂に手をつき、真っ直ぐ立ち上る砂のレーザーを見ながら、ダンの問いに答える。
これは【一次直線Ⅰ】《リニア・ファンクション》を応用した、斬撃とも打撃ともちょっと違う技。
リザードの硬い鱗を攻略するために考え出した、『削る』技だ。
光のレーザー、光線指示に続き。
水のレーザー、水鉄砲に続き。
砂のレーザー、その名も……
「『砂削切断』だ!!」
「……で、これをどうするのケースケ?」
「…………あっ、そうだったそうだった」
……っと、砂レーザーに見とれてる場合じゃなかった。
直線の数式『y=ax+b』は、bの値を変える事でグラフの形を維持したままドコへでも移動させられる。
そういうイメージで行けば……、この直線だってッ…………。
「んんンッ…………」
砂に両手をついたまま左手にに力を込めると、砂レーザーの噴出し口も左へと動く。
……徐々に徐々に、砂レーザーが横たわるリザードの脇腹へと迫る。
「よし……!」
砂漠からほぼ真っ直ぐ立ちあがる砂レーザーは、リザードの身体を輪切りにせんと左へ動き。
そして、そのままリザードの脇腹に————
ギイイイィィィィィィィィィィィィィィッ!!!
触れた。
砂レーザーがリザードの鱗を削り、火花を散らす。
と同時に、チェーンソーのような甲高い轟音が辺り一帯を覆う。
……うぅっ、耳が痛い!
無意識に耳を塞ぎたくなるけど、砂から手は離せない。
我慢だ!
「 」
「 」
「 」
「 」
一度4人の方を確認すると、彼らは耳を抑えつつ何か叫んでた。
……轟音のせいで全然聞こえない。
なんて言ってるか分からないけど、まぁ大丈夫だろ。
そんな中も、砂レーザーはリザードの硬い鱗を削り進んでいき。
ギイイィィィィィィィィッ!!!
「……おぉ! 削れてる削れてる!」
ものの数秒で砂レーザーがリザードの鱗を削りきってしまった。
鱗には砂レーザーが通った跡そのまんまに切り込みが入り、真っ二つになってるのが見える。
……良いぞ良いぞ! 硬い鱗、突破だ!
最高じゃんか!
尚も順調に、砂レーザーはブローリザードの身体へと削り進んでいき。
……ん? なんか、火花に混じって血が飛び散り始めた……?
それに気づいた直後。
ガバッ!
「……おぉッ!?」
突然リザードが前脚を突っ張り、上半身を持ち上げた。
……轟音で目を覚ましちゃったのかな。
すると。
グエエェェェェェェッ!!
意識が戻るや否や、口をガッと開いて悲鳴を上げながら身をよじり始める。
……どうやら、自分の身体がレーザーで削られてる痛みに気付いたようだ。
肉体を砂レーザーに削られる痛みに苦しみ、ガムシャラに動き回るブローリザード。
4本の脚をバタバタと動かし、必死にレーザーから逃げんとしている。
……しかし、ブローリザードが動けば動くほど、その肉体も砂レーザーに削られていく。
火花と共に散る血の量も増える。
かといって黙ってても、砂レーザーはブローリザードを輪切りにしていくだけ。
いずれにせよ、ブローリザードの身体は砂レーザーに削られていくだけだった。
火花と鮮血を盛大に噴き出させながら、砂レーザーはブローリザードの身体を削り進んでいった。
……そして。
ブローリザードの右脇腹から左脇腹へと、レーザーが削りきった時。
そこに有ったのは、上半身と下半身がスパッと輪切りにされたブローリザードの死体。
それと、その下に円く広がる赤い砂地だった。
ついでに、僕の白衣も鮮血を浴びて赤いドット柄になっていた。
「……い、いや……『トドメを刺す事』には違いありませんけど……」
「まさか、リザードを生きたまま真っ二つにするとはね……」
「……先生やる事がエグいよぉー…………」
「これなら……アークやシンが一発ブスッとやった方がマシだったんじゃねえか?」
本当だよ。
皆の言う通りだ。
「……なんでこんな事になった」
……輪切りになって切り口をさらすブローリザードの死体を眺めつつ、我ながら『エラく狂な事をやっちゃったな』と、そう感じてしまった。
僕自身の力だけでリザードを仕留める事には成功したけど、なんだか物凄く罪悪感が湧いた。




