13-21. 特訓Ⅵ
港町・フーリエ滞在4日目、特訓3日目。
8:47。
「今日も特訓だ!」
「おう、先生! 今日も狩りまくるぞ!」
「沢山狩って、もっと強くなりましょう!」
「ええ! わたしだって!」
「ついでにいっぱいお金も稼ごーッ!」
5人の声が広い砂漠に響く。
【因数分解Ⅰ】と【展開Ⅰ】を習得した、翌日。
僕達は朝から早速、砂漠へと繰り出していた。
朝が
「『剣の先を決して外さない』……、今日も実践してみます、先生!」
「おぅ。その意気だ」
「わたしも……【強刺Ⅱ】、今日でマスターするわ。見ててね、ケースケ!」
「おぅ。楽しみにしてるよ」
昨日ブローリザードを倒した経験が自信になったようで、シンもアークもやる気に満ちた表情だ。
顔から恐怖は完全に抜けてる。
「1頭狩るだけで、銀貨30枚なんだよねー……?」
「ああ」
「この砂漠に、銀貨30枚がウジョウジョしてるのかー……」
「……」
コースに至っちゃ、もはやブローリザードを銀貨扱いしちゃっている。
……それで良いのか。油断してると痛い目に遭うぞ。
「けどよお、コース。倒し過ぎは困るぜ」
「えー……、なんでよー?」
「昨日、ギルドに5頭持っていく大変さを忘れたのですか……?」
「ああぁ……、そーだったそーだった」
頬を掻いて笑うコース。
シンとダンも、昨日の苦労を思い出して苦笑い。
「とはいえ、まずはブローリザードを狩らないと皮算用ね」
「……確かに、アークの言う通りでした」
「そんじゃあ、……大猟でもなく、不猟でもなく、ホドホドに狩ってやろうぜ!」
「「おーッ!」」
謎のホドホド宣言に、腕を上げて叫ぶシンとコース。
……ハッハッハッハ。ホドホドで意見が一致したところ申し訳ないんだけど、その心配は全く必要ないのだ!
今の僕には【因数分解Ⅰ】が有る。
どれだけ狩ろうがドントコイだ!
あー、【因数分解Ⅰ】を披露したらシン達は何て言うかな。……ちょっと楽しみだ。
後でビックリさせてやろっと!
……まぁ、そんな事は置いといて。
僕ももっと活躍して、たくさん経験値をゲットしなきゃ。
目指せ、【合同Ⅰ】!
目指せ、分身!
「よし、シン、コース、ダン、アーク! 今日も狩りまくるぞ!!」
「「「「はい!!」」」」
そんな掛け声と共に、僕達は魔物を探して砂漠を駆け出した。
「ぅオラァッ!」
ブローリザードの体当たりを、盾を斜めに構えたダンが捌く。
カァンッ!
大盾とリザードの鱗が接触し、硬い音が響く。
盾に弾かれたリザードは、勢い余ってダンの横をすり抜けていく。
ザザァァッ!
「ヘッ、『捌き』にも結構慣れて来たぞ!」
そのまま地面にヘッドスライディングするリザードを眺めつつ、満足げに笑うダン。
しかし、リザードも負けてはいられないようで、すぐさま起き上がろうとする。
……のだが。
ボゥッ!
「今よッ!」
そんなリザードに、すかさず迫るアーク。
燃え盛る槍を両手で構え……。
ボォゥッ!
「ハァァッ! 【強刺Ⅱ】ッ!!」
大きな炎を噴き出すと同時に、槍をリザードの背中に突き出し。
バリッ!
ジュゥゥゥゥゥ…………
槍でリザードの鱗をカチ割り、炎でリザードの肉を焼きながら身体を刺し貫いた。
ズブッ
「……ふぅ。普段より近い、【強刺Ⅱ】の距離間にも結構慣れて来たかな」
槍を抜きつつ、そう呟いていた。
「さぁ、好きにはさせませんよ……!」
視界を右に向ければ、剣を真っ直ぐ構えたシンと2頭目のリザードが対峙中。
リザードが動けば、シンの剣先もそれを追う。
シンもリザードの隙を窺うが、リザードもそう甘くはない。
ピンと糸が張られたような、緊張した雰囲気の中。
お互いに一歩も譲らない。
……のだが。
「【氷放射Ⅰ】ー!」
そんな拮抗をブチ破る、魔法の呪文。
それと共にリザードを襲ったのは。
ビシャァァァァァァッ!
毎度お馴染み、水のレーザーだった。
勿論、水は鱗に弾かれて霧散。リザードはノーダメージ。
……それどころか、リザードの渇きを潤す始末。
「あーん、またダメだったー……」
『氷』の魔法が発動せず、肩を落とすコース。
しかし。
「いえ、ナイスです! コース!」
そう叫び、駆け出したのはシンだった。
リザードが水のレーザーに気を向けた瞬間を狙い、一気に間合いを詰める。
そして。
「隙有りッ! 【強突Ⅰ】ッ!」
リザードに向け続けた剣の先を、そのまま両手で突き出した。
シンの攻撃に気付いたリザードも『ハッ!?』と目を見開くが、時既に遅し。
隙を狙ったシンの【強突Ⅰ】は、避けることも守ることも出来ず。
バリッ!
ズブズブズブッ……
そのまま、リザードの背中に命中。
剣が鱗をカチ割り、そのまま身体の奥へ奥へと斬り進んでいった。
「フゥー……」
「ハァ、ハァ……」
「…………ふぅ」
「……ハァー…………」
息を切らす4人の前には、腹に風穴を開けたブローリザードが2体。
腹から血をダラダラと流し、砂漠に染み込ませていた。
「……ふぅ、なんとか倒せるようになったわね」
「はい。……ブローリザードの動きにも慣れてきました」
「砂漠の上を歩くのもカンタンになってきたしー」
「俺らの新技だって、良い線行ってるしな」
確かに。皆の戦う動きも良くなってきてる。
新技のマスターにも近づいて来てるようだし、何と言っても……不安定な砂地の足元にも慣れたからか、動きが2日前よりまるで違う。
かなり機敏に動けているんじゃないかな。
特訓の成果が現れ始めてるんだと思うよ。
けど、まだ終わりじゃない。
リザードの群れは、決まって3頭。
そして、ココに居るのは2頭分の獲物。
という事は……。
ザザッ……
僕達の直ぐ近くで、砂が急に動いたかと思うと。
そこから、ヒョイとブローリザードの頭が出て来た。
「あっ、そういえば……!」
「忘れてました……トラップ役のリザードがまだ!」
突然、砂の中から出て来たリザードに驚くシン達。
だが、リザードはそんな彼らの事なんか気にも掛けず。
上半身を砂から出してキョロキョロ周囲を見回して――――
ザザザザザッ!
仲間の2頭がやられたのを見た途端、物凄い速さで逃げ出した。
リザードも引き際はしっかり弁えているようだ。
「あぁっ!」
「逃げたーッ!」
それを見て叫ぶシン、コース。
「……けど、わたし達じゃ追いつけない……ッ!」
「チッ、また3頭目を逃がしたか……」
ダンとアークも、リザードの後ろ姿を険しい表情で見つめる。
……けど、誰も動かない。
疲労もあってか足が動かず、皆諦めちゃったようだ。
……さて。
という事は、そろそろ僕の番が回って来たって事だな。
『先生』としてのプライドも有るし、ココは僕もカッコいい所見せてやろうじゃんか!
「……いや、まだだ! まだ『逃がした』訳じゃない!」




