13-19. タグ
さぁ、お待ちかねの練習問題だ!
机の奥の方に置いといた紙とペンを手繰り寄せる。
……と共に、頭の中に雑念が入り込む
さて。今回も何か新しい【演算魔法】が手に入るかな。
最近は板とか透明化とか変身とか、結構チートな魔法が手に入ってるからな。
今回も強い魔法だと良いなー……————
いやいやいやッ。
そんな事より、まずは練習問題を解かなきゃ。
頭を横にブンブン振り、煩悩を追い払う。
……ダメだダメだ。問題に集中しろ、計介ッ!
【演算魔法】は気になるけど………………きっ、……き、気になるけど、勉強の後だ!
まずはA問題とB問題、合わせて20問に集中するんだよ!
集中集中、集中集中、…………。
………………よし、集中オッケー。勉強の準備完了だ。
練習問題に取り掛かろう。
えーと……A問題は全部『因数分解せよ』って問題か。
で、続くB問題が『展開せよ』の問題って流れだな。
はいはい、成程。
それじゃあ、早速因数分解の方からだ。
A問題の(1)に人差し指を当て————
ピトッ
人差し指が問題に吸い寄せられ、くっつく。
まるで指に磁石でも入ってるかのような感覚。
「おっ……!」
来た来たこの感じ! 例のアレだ!
……さて。
そうと分かれば、あとは指から魔力を流すだけだ。
今回はどんな【演算魔法】が手に入るんだろうかな。
……練習問題がまだだって? そんなん後回しだ後回し。後でやるから少し待ってろ!
という事で。
『新魔法』に期待を寄せつつ、ピッタリと問題にくっつく指に力を込めつつ。
「……魔力、注入ッ!」
いつぞやのセリフと共に、指先から魔力を流した。
ピッ
「……おぉっ」
参考書と顔の間に、青透明のメッセージウィンドウが現れる。
青透明の板の上に浮かぶ白い文字を、目で追っていく……。
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アクティブスキル【因数分解Ⅰ】を習得しました
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「ヨッシャ!」
自室で一人呟きつつ、小さくガッツポーズ。
新魔法ゲットだ!!
やっぱり、分かってても『新魔法がゲット出来る瞬間』って嬉しくなっちゃうよね。
……では。
新魔法を習得出来たって事は、ココからが本番。
魔法の能力確認タイムだ!
「【状態確認】!」
ピッ
えーと、ステータスプレートからの……【演算魔法】の中に……
ピッ
===【演算魔法】========
【加法術Ⅲ】 【減法術Ⅱ】
【乗法術Ⅳ】 【除法術Ⅱ】
【合同Ⅰ】 【代入Ⅰ】
【消去Ⅰ】 【一次直線Ⅱ】
【定義域Ⅰ】 【確率演算Ⅰ】
【因数分解Ⅰ】 【解析】
【求解】 【状態操作Ⅳ】
===========
「………………よし、入ってる入ってる」
だいぶ【演算魔法】の数も多くなってきたから、この中から【因数分解Ⅰ】を見つけ出すのも一苦労だ。
一瞬『追加されてない!?』って驚いたけど、ちゃんと最後の方に入ってた。良かった良かった。
……では。
【因数分解Ⅰ】がどんな強さを持っているのか、能力拝見と行きましょうか!
人差し指を『【因数分解Ⅰ】』の文字に、軽く触れる。
ピッ
===【因数分解Ⅰ】========
魔力を消費して、文字式の因数分解を高速且つ正確にこなせる。
演算能力はスキルレベルによる。
※【状態操作Ⅳ】との併用による効果
任意の同種複数の対象を、1つに纏めることが出来る。
付属する『ブラケット・ラベル』を取り外すまで効果は継続する。
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まぁ、最初の計算補助してくれる能力はいつも通りだから、良いとして。
大事なのはその後だ。
……『同種複数の対象を、1つに纏めることが出来る』ッ?!
え、なんか凄そう! 便利そうな魔法じゃんか!
『ブラケット・ラベル』って物が凄く気になるんだけど、とりあえずそんな時は『やってみる』に限るね!
早速【因数分解Ⅰ】の実践だ!
「えーと、実験台はーっと……」
そう呟きつつ、魔法の実験台を探してリュックを漁る。
ステータスプレート曰く『同種複数』だもんなー。
僕が今持ってるモノの中で、大量に有るモノといえば……
「……コレか」
取り出したのは、黄緑色の液体が入った試験管型のビン。
『HPポーション』だ。
DEFのステータス加算のお陰でHPが減ることなく、その結果使わずに余っちゃってる。
とりあえず、コレを実験台にしちゃおう。
万一なにか有っても、困る事はあんま無いし。
という事で、HPポーションを10本ほど机に持っていき、カランカランと置く。
何か有った時のために、参考書と紙、ペンはベッドの方に避難。コレでHPポーションが割れたりしても大丈夫だ。
そして、元通り椅子に着席。
実験準備完了。
僕の目の前に、コルクで栓がされたHPポーションが10本縦に並ぶ。
……果たして、【因数分解Ⅰ】を使ったらどうなるんだろう。『1つに纏まる』とは書いてあったけど、その様子を頭の中でイメージ出来ない。
そんなちょっとしたドキドキを感じつつ、魔法を唱えた。
「【因数分解Ⅰ】!」
その瞬間。
ポフッ!
ポフッ!
ポフポフッ!
ポフッ!
「あっ――――
机の上にあったHPポーションが、小さな白煙を残して次々と消えていくのが見えた。
一瞬『マズい!』と感じ、思わず声が出る。
しかし、そんな声を出している間にも一瞬でHPポーション達は消え、白煙と化す。
ただ1本を残して。
残った1本に視線を集中させると――――
ピッ
「……ッ!?」
聞き慣れた電子音と共に、HPポーションに『青透明のタグ』がくっつけられるのが見えた。
……何だアレは!? もしかして、アレが『ブラケット・ラベル』かな?
そんな事を考えつつ、恐る恐るHPポーションを手に取る。
中身を瓶越しに覗いてみたり、振ってみたり、上下逆さまにしてみる。
……けど、変化無しだ。
タグが付いているのを除けば、さっきのHPポーションと全く同じ。
と、ここで気になるタグを見てみると。
「ん?」
タグには、文字が書いてあった。
===【因数分解Ⅰ】========
(中質×2 + 普通×3 + 低質×4 + 粗悪)
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何だコレ? 暗号?
中質が2個、普通が3個で…………全部合わせると10個か。
……ん、10個!? HPポーションの数と一緒……ッ!
それって、つまり…………
「10本が、1本になっちゃった!?」
マジで!? 今の今まで机の上には10本用意してあったのに!
……本当に、10本がこれ1本に纏まっちゃったのかよ!?
凄い! 凄いじゃんか!
まるでゲームによくある『アイテムボックス』とか『インベントリ』みたいだ!
「……って事は、コレが『ブラケット・ラベル』だな」
1本になっちゃったHPポーションを手に取り、くっついた青透明のタグを見ながら呟く。
ステータスプレートの小さい版が試験管型の瓶にペタッとくっ付いている感じだ。遠くから見たら付箋みたいに見えるかもね。
……そういえば、『ブラケット・ラベルを取り外すまで効果は継続』とか書いてたよな。これって取れるのかな。
そう考えつつ、ラベルに指を掛けてみる――――
ペリッ
「……あっ」
全然力を入れていないのに、指が触れただけで簡単に剥がれ落ちるブラケット・ラベル。
『やべっ、やっちゃったかも』と思いつつ、落ち行くラベルを見つめていると————
ピッ
……電子音と一緒に消えた。
それと同時。
ポンッ!
ポンッ!
ポンポンッ!
ポンッ!
手に持つ瓶の周りに、弾けるような音と一緒に瓶が現れ。
カランッ!
カランコロンッ!
カランッ!
瓶同士がぶつかり合って凄い音を響かせながら、机に着地していき。
そして今。
机の上には再び10本のHPポーションが置かれている。
「……戻った」
……驚きと感動で、こう一言呟くので精一杯だった。
手に入れた新魔法は、複数のアイテムを1つに纏める、いわば『インベントリ』みたいな魔法だった。
【因数分解Ⅰ】、またヤバい魔法を手に入れちゃったようだ。
…………あぁ、忘れてた。
練習問題、やらなくちゃ。
そういえば……
『(中質×2 + 普通×3 + 低質×4 + 粗悪)』
ブラケット・ラベルにはこんな風に書かれてたな。
『HPポーション』に、『(中質×2+普通×3+低質×4+粗悪)』のラベルがくっついてた。
『HPポーション』に、『(中質×2+普通×3+低質×4+粗悪)』。
『HPポーション』、『(中質×2+普通×3+低質×4+粗悪)』。
『ポーション』『(中質×2+普通×3+低質×4+粗悪)』。
ポーション(中質×2+普通×3+低質×4+粗悪) 。
……ん、これって『数と()』の因数分解の形と一緒じゃんか。
試しにコレを展開してみると……
HPポーション(中質×2+普通×3+低質×4+粗悪)
=中質HPポーション×2
+普通HPポーション×3
+低質HPポーション×4
+粗悪HPポーション
……なんかいい感じに展開出来ちゃった。
成程な。
【因数分解Ⅰ】は、『質の違う』『同じモノ』を、『同じモノで括って1つに纏める』って魔法なのか。
なんか難しいけど、つまり『インベントリ』って感じだな。




