13-14. 端点
港町・フーリエ滞在3日目、特訓2日目。
16:07。
フーリエ砂漠を照らしていた太陽も傾き、空が少しずつオレンジがかった色に変わる。
砂漠の上に敷かれた石畳の東街道には、王都からの長い旅路を終えようとしている沢山の馬車や冒険者。
疲労と喜びが入り混じった表情で、フーリエの西門へと向かって歩いている。
「大収獲ですね!」
「おう! ブローリザードだって5頭も狩れたし、俺らもパワーアップ出来るし!」
「一石二鳥ね!」
そんな人の流れの中に混ざる、5人の冒険者。
それぞれの肩にブローリザードを担ぎ。横に5人並んでフーリエの西門へと向かっている。
「あぁ。特訓最高だな!」
……勿論、僕達だ。
アークの【強刺Ⅱ】がリザードに直撃、腹に風穴を開けた後。
ズブッ
『やった…………倒したわ!』
動かなくなったリザードから槍を引き抜き、そう叫ぶアーク。
『アークかっこよかったー!』
『鱗をカチ割って倒しちまうなんてな! 俺もあんな技やってみたいぞ!』
『ええ。ありがとうコース、ダン!』
すかさずコースとダンがアークの下へと駆け寄る。
『やれば出来るじゃんか、アーク!』
『え、ええ……あっありがとう、ケースケ』
ダン達に混ざり、僕もアークに声を掛けておいた。
すると。
『……えっ、倒したんですか!?』
僕達がワイワイやってるのが耳に入ったのだろうか。
リザードと戦っている最中のシンが、首だけこっちに向けてそう言った。
『あぁ! アークがブスッとな。 ――――ってか、シン! 油断するな!』
『……えっ?』
僕がそう叫んだけど、もう時既に遅しだった。
シンがリザードから目を離した一瞬のうちに、リザードが剣を避けて左に回り込み。
そのまま、シンの左腹に向けて――――
『……しまっ――――
ドンッ!
「……アレは完全に私が油断がしていました。『リザードを倒した』と聞こえて、つい意識が……」
「アレは駄目だぜ、シン」
「でもまぁ、怪我も無くて良かったよ」
……DEFを5倍してたから、怪我するハズが無いんだけどね。
まぁ、そんな感じで今朝の初戦は1頭を仕留めることに成功。
残りの2頭、砂に潜っていた奴とシンの横っ腹に頭突きをかました奴には逃げられちゃったけど、昨日の完敗に比べれば十分な成長だ。
で、砂漠で初の獲物をゲットした僕達は調子に乗っちゃったようで。
ブローリザードの血抜きをしながら少し休憩を挟んだ後、獲物を求めて砂漠を歩き回っていた。
「その後は2回、ブローリザードの群れに遭遇したのよね」
「はい。……そういえば、今日私達が戦った群れはどれも3頭構成でしたよね」
「何かリザート達の中にルールでも有るんだろうかな?」
「あぁ、ダン。群れが小さいと、行動しやすい代わりに戦いの効率が落ちる。かといって群れが大きすぎると、移動も大変になる。1頭当たりの分け前だって少なくなる。ブローリザードがどの群れも3頭で動いてんのは、そのバランスの結果らしいぞ」
……『図解・魔物の生態2』より引用。
「「「「へぇー……」」」」
「そうなんですね。勉強になります!」
「おぅ」
…………読んだ内容をそのまんま話しただけなんだけどね。満足してくれたのなら良かった。
お粗末様です。
「……そういえば」
「ん? どうしたのケースケ?」
まだ遠くに見えるフーリエの西門をボーっと眺めながら歩いていると、ふと頭の中に『気になった事』が蘇ってきた。
「今日戦ってる時に『謎の現象』が起こったんだよなー。……何と言うか、【演算魔法】がバグったというか……」
「「「「バグった……?」」」」
「そうそう。今日の初戦で、僕が立て続けに【定義域Ⅰ】を連発した時の事なんだけどさ……」
「ああ、有ったな。いつ先生がブッ飛ばされるか、見てる俺がドキドキしたぞ」
「板を張り続けて耐えるケースケの必死さ……あれにはケースケの執念を感じちゃったかな」
うんうん。アレはかなり本気でガードしてたよ。『怪我しない』ってのは分かってても、やっぱり攻撃受けるのって嫌じゃんか。
……って、まぁその話は置いといてだ。
「僕があの時【定義域Ⅰ】を使ったのは3回。1回目、2回目はいつも通り青透明の板が出て、僕を守ってくれたんだよ」
「ええ。わたしにも見えたわ、板」
「結局ブチ破られてたけどな」
「良いんだよそれはッ! ……で、3回目。その時だけは、板が出なかったんだよ。それなのに、リザードは壁にぶつかったかのようにブッ倒れた。……なんで?」
それだけは本当に謎なんだよな。分からない。
「い、いや……、『なんで』って……」
「私達に問われましても……」
……まぁ、それもそうか。
【演算魔法】の使い手が分からないんじゃ、他の人が知る訳も無いっか。
それじゃあ、アレは『バグだった』という結論で――――
ピッ
「……ん?」
諦めようとした、その時。
青透明のメッセージウィンドウが、僕の目の前に現れた。
ふとウィンドウに目をやると、そこには『【求解】』の文字がっ!!
おぉ、【求解】様!
思わぬ所から救いの手が差し伸べられた。
コイツなら、僕の悩みを解決してくれるかもしれない!
そう思いながら、ウィンドウの文章に目を通した。
===【求解】結果========
『<・>』と『≦・≧』における端点の図示方法の違いのため
解)
領域を数直線・グラフ等に図示する際、≦・≧では端点を色付きの丸、すなわち『●』で表す。
<・>では、端点を色無しの丸、すなわち『○』で表す。
【状態演算】と【定義域Ⅰ】の併用によるバリアにおいてもこの規則が適用され、≦・≧による定義域は有色のバリア、<・>による定義域は無色のバリアが展開すると考えられる。
===========
あー、そんなルールも有ったな。
確か『変域』の単元でやったヤツだ。
……にしても、こらまた随分と丁寧な説明を……。
どうもありがとうございます、【求解】様。
「……先生、原因分かりました?」
「……本当にバグだったりしてな!」
「いや、大丈夫だった。そういう仕様だった」
纏めると、僕が【定義域Ⅰ】で張れる板には2種類、『色付き』と『色無し』があった。
その使い分けは『領域の端っこを含むか、含まないか』だ。
3度目の【定義域Ⅰ】の時は、一見バリアが張られて無いように見えた。……のだけど、正しくは『<』を使ったせいで透明な板が張られてたって事だったんだな!
「…………へぇ、そういう事だったのね」
「青透明の板だけじゃなく、透明で見えない板まで張れるとは」
「……流石先生の【演算魔法】です。最早なんでもアリなのでしょうか」
……【演算魔法】の更なるハイスペックさが垣間見えた気がした。
と同時に、また一段とシンに呆れられてしまった。
「……にしても、コイツ重くて持ちづらいな」
フーリエの西門までもう少しって所で、ダンがそう呟く。
「そうですね。リュックにも入らない大きさですし、血抜きしてもそれなりに体重が有りますし……」
「狩れたのは良いけど、フーリエのギルドまで持っていくのが大変よね」
僕もだ。しばらく担ぎ続けてたせいで、凄く肩が痛い。
「これってさ……もし1日に10頭とか狩っちゃったらどうなるんだ?」
「そりゃあ、1人2頭担いでいくしか無えだろ、先生」
えー……。
1人1頭でも結構厳しいってのに。
「または、砂漠に放棄するしかないかも」
「それも勿体無いですよね」
「……まぁ、それは10頭狩った時に考えようぜ」
「そうだな」
そうしよそうしよ。
今考えたって皮算用だしな。
さて。
フーリエの西門もだいぶ近付いてきた。
……朝から夕方までずっと砂漠だったから、今日は疲れたな。
さっさとブローリザード達をギルドに買い取ってもらって、家に帰ろう。




