13-12. 特訓Ⅳ
「「「「「うぉォォォッ!!」」」」」
武器を構え、5人揃って砂漠を駆ける。
その先には2頭のブローリザード。
2頭とも動く気配は無い。僕達を待ち受けるつもりか。
……そして、残る1頭は砂漠に潜ったっきりだ。何処に居るのか全く分からない。
まぁ何はともあれ、まずは僕の仕事からだ。
リザードたちと衝突する前に、全員のステータス強化を済ませなきゃな!
「【乗法術Ⅳ】・ATK5、DEF5! 同様に・ATK5、INT5、DEF5! 同様に・ATK5、DEF5! 同様に・INT5、DEF5!」
シン、アーク、ダン、コースの順でバフが完了。
っと、ココで僕のMPが底を尽きかける。
白衣の胸ポケットに忍ばせておいたMPポーションの細長い瓶を取り出し、コルクを抜いて淡い赤の液体に口をつける。
ポンッ
「んくっ、んくっ…………プハァッ!」
……やべっ。走りながら飲んだからか少し零しちゃった。
けどまぁ良い。多少零したところで僕のMPは全快してるハズだ。
「【乗法術Ⅳ】・ATK5、INT5、DEF5!」
最後に、僕自身のステータスも加算。
よし、これで準備完了!
「皆、ステータス加算終わったぞ!」
「はい!」
「ハーイ!」
「おう!」
「分かったわ!」
足元が砂漠だからか、いつもより走るスピードが遅い。
けど、それでもジッと僕達を待ち受けるリザード2頭との距離は縮まってきた。
そして、最初の半分くらいまで来た時。
ザッザッザッ!
ザッザッザッザッ!
「あっ、動き出したよー!」
今まで微動だにしなかったリザード2頭が突如動き出した。
こちらに真っ直ぐ、四つ脚で走り始める。
「足元に気を付けろ! どこで誰にトラップが来るか分からない!」
リザードが動き出したって事は、ブローリザードの『トラップ作戦』の準備が出来たって事だろう。
……となれば、この間合いのどこかで3頭目のリザードが砂を搔き上げる瞬間を待っているハズだ————
ボフッ!
「がァッ!?」
僕の前を走るダンの左足が穴に嵌り、大盾の重さもあってかバランスを失う。
……クソッ、トラップの事考えてた矢先に来やがった!
「「「「ダン!?」」」」
「うぉぉぁッ!!」
バタンッ!
そのまま、大の字になって砂漠に転倒。
ダンの周りの砂がバフッと舞う。
「大丈夫ですか、ダン!?」
「……あぁ、俺は大丈————ってシン! それより前見ろ!」
「えッ————
ダンの心配をしていたシンが、正面を振り向くと。
ザッザッ!
「ぅわっ!?」
リザードの1頭がシンに迫っていた。
いつの間にか距離を詰められ、気付けばシンとの間合いは20mも無くなっている。
ザッザッザッ!
「いっ、いつの間にッ……!」
リザードは体当たりの射程圏内にシンを収めんとばかりに、間合いを着々と縮める。
……のだが、そんなシンは驚きと恐怖で動けない。
剣を真っ直ぐ前に構えたまま手も脚も動かず、ピタッと止まっている。
「おいシン! 動け!」
「……わ、分かってますよ、ダンッ!」
ダンから声が掛かり、ふと我に返るシン。
……だが、辛うじて身体が動いても一歩後ずさるだけ。
ザッザッザッザッ!
それに対し、今にもシンに跳びかかる勢いのリザード。
そのまま、シンとリザードの距離は詰まっていき……
シンが射程圏内に収められた。
と同時に、リザードの脚に力が掛けられるのが見える。
……もう、いつ跳んでもおかしくない!
と、その時。
「……くッ…………」
それを見たシンが、腕を縮こめて剣を引いた。
長剣の先が、リザードから外れた。
――――それだァッ!
「シン! 『目標』思い出せッ!!」
シンの目標、それは『剣先を相手から逸らさない』事。
攻撃が出来なくても良い。体当たりをどれだけ喰らっても良い。
けど、その『目標』だけは絶対に忘れるな!
「……はッ!!」
すると。
僕の気持ちが届いたのか、シンの身体が急に何か思い出したかのように動き始めた。
恐怖で縮こまっていた腕が自然に伸び、いつも通りの構えに戻る。
後ずさっていた脚が自信を取り戻したかのように、真っ直ぐ前に向く。
腰が抜けていた姿勢が段々と伸び、背筋がピンと伸びる。
そして、青空を向いていた長剣の剣先は、真っ直ぐリザードを捉える。
……今の今まで怖がっていたハズのシンの姿は、スッとした剣士の構えに変わっていた。
「……掛かって来なさいッ!」
両手で握った剣を正面のリザードに向けて叫んだ。
すると。
ダッダッダッ……ダッ…………
「……っ!?」
今にもシンへと跳びかかる勢いだったリザードが、突如減速。
そのまま立ち止まった。
「リザードの動きが……」
「……凄いわ!」
シンが剣を振った訳でも、突き出した訳でもないのにリザードの動きを止めてしまった。
……やるじゃんか、『剣先戦術』!
そのまま、シンとリザードは互いに動かず膠着。
時々、リザードが右に動く。
しかしシンも合わせて右に動き、剣先を外さない。
リザードが左に動けば、シンも左に動く。
……シンは本当にただ真っ直ぐ構えてるだけのハズなのに、完全にリザードの体当たりを阻止していた。
よし、シンは大丈夫そうだ。
あのリザードはシンに任せてっと。
次は2頭目のリザードだ。
「そんじゃあ、俺もシンに負けねえように頑張らねえとな!」
穴から左足を引き上げたダンが、そう意気込む。
そんなダンの視線の先には、もう1頭のリザード。
シンが戦ってるヤツよりは足が遅いようで、ようやくダンと20mくらいの所までやって来た。
「……来いッ!」
足幅を開き、大盾を正面に構えてダンが叫ぶ。
そんなダンに向かって少しずつ2頭目のリザードがダンへと近づく。
2頭目のリザードには『スピード』が無いが、『パワー』が有るのは見て分かる。
ダンに迫るリザードを見ていると、頭の中で勝手に『ドスドスドス』という効果音が付け加えられるくらいだ。
もしそんなパワフルな体当たりをダンが真っ直ぐ受ければ……きっと押し倒される。間違いない。
それを避けるには、リザードの体当たりを盾で捌いて受け流すしか無い!
右でも良い。左でも良い。とにかく、正面でモロに受けさえしなければ良い。
この砂漠で、敵の攻撃をサバクんだ!
……あぁいやいや、今のナシで。今はそんなこと考えてる場合じゃなくて――――
ザァァッ!
……あぁッ!
しょーもない事を考えてた間に、2頭目のリザードがダンに向かって思いっきり跳んだ。
4つの脚で砂を大量に蹴り出し、リザードが元居た所には砂が舞う。
「……」
頭突きの如く跳んでくるリザードを真っ直ぐ視界に捉えつつ、右手の大盾をギュッと握るダン。
まだ大盾は真っ直ぐ向けられている。
……おい、いつも通りの構えと同じじゃんか!
このままだと押し倒されちゃうぞ、ダン!
「……」
しかし、ダンは黙ったまま動かない。
そのまま、リザードの頭とダンの大盾との距離は縮まり……。
ガンッ!!
振れた。
と、同時。
「フンっ!!」
ダンが右足を一歩退いた。
半身になる、ダンの身体。
大盾も斜め右を向く。
ギギギギギギッ……
それに合わせ、リザードの身体が盾の表面を擦りながら徐々に右へと滑っていく。
黒板を引っ掻いたような、大盾と鱗が擦れる音が砂漠に響く。
「……ぉらァッ!」
ギギギギッ!!
そのまま、体当たりを盾で受け流されたリザードはダンの身体の横を通り過ぎ。
「「おぉっ!!」」
ズサァァッ!
僕とコースの方に飛んできて、目の前で砂漠に不時着した。
リザードは、そのまま意識を失ってしまった。
……おぉ、見事にリザードの攻撃を捌き切っちゃったよ!
「ダンやるぅー!」
「凄いじゃんか、ダン!」
「ヘッ、やってやったぜ!」
ドヤ顔で僕達の方に振り向くダン。
「……それよりコース、次はお前の番だ! そいつを【氷放射Ⅰ】で仕留めるんだ!」
「うん!」
すると、満足気な表情のまま倒れるリザードを指差して叫んだ。
僕達の目の前で砂漠に突っ伏しているリザード。起き上がる気配が無い。
……なんだろう。体当たりのせいで脳震盪でも起こしてんのかな。
……まぁ、そんな事はどうでもいい。
いずれにせよ、再び目覚めるまでに仕留めるのが最善だ。
「私もシンとかダンみたいに……行っくよー!」
そう言いつつ、コースは魔法の杖をビシッとリザードに向けた。
さぁ行け、コース!




