13-10. 特訓Ⅱ
ブローリザードの強烈な体当たりが、シンの下腹部に直撃。
ブッ飛ばされたシンは、そのまま仰向けに倒れた。
それを見てか、殺気を溢れさせるコース、ダン、アーク。
あーあ。
……この3人を怒らせちゃ、2頭ももうダメだな。
ザッザッザッ!
ザッザッザッ!
だが、ブローリザードはそんな事も露知らず。
追撃とばかりに砂上で仰向けになるシンへ向かう。
「許さないッ!!」
サッサッサッサッ!
そんなリザード達の横から、槍を構えたアークが砂の上を駆ける。
じんわり赤く光る瞳、吊り上がった眉。
……もう激怒モードに突入してた。
ボゥッ!
槍から火を噴き出させると共に、槍を右に大きく振りかぶる。
リザード達はまだアークに気付いていない。
サッサッサッサッ!
そのままアークが2頭のリザードのうち、1頭にロックオン。
リザードに気付かれないまま距離を詰めていき……
槍の射程に入った。
「ハアァァァァッ!!」
と同時に、燃え盛る槍を袈裟斬りにスイング。
斜めに振り下ろされた槍がリザードの背中を襲い、槍からあふれ出る炎がリザードを包んだ。
が。
カァァンッ!!
「痛っ…………!?」
アークの槍がリザードの背中に弾かれる。
反動で左手が槍から外れる。
ボッ……
「えっ、火も効かないの……!?」
全身を包んでいた炎が晴れると、そこには無傷のリザードが居た。
リザードの全身を覆う鱗には傷も焦げ跡も無い。
衝撃で動きは止めているものの、特に変化は見られない。
「なんで!?」
アークの表情が怒りから驚きに変わり、口がポカンと開く。
気持ちの変化を示すかのように槍の炎の火力も弱まる。
ジロッ
「なッ!?」
すると、攻撃を受けて動きを止めていたリザードが急に首を曲げ、立ち止まるアークに視線を向ける。
爬虫類特有の縦長な瞳孔に睨まれ、一瞬怯むアーク。
ザッザッザッ!!
……そのまま方向転換し、アークに向かって走り始めた。
4本脚で砂の上を駆け、一気に距離を詰めるリザード。
「ぃ、嫌ァァァッ来ないでェェェェェッ!」
……そんなリザードに追いかけられたアークは一瞬で回れ右。
リザードに背を向け、うっすら涙目で逃げ出した。
ザッザッザッ!!
「キャァァァッ!!」
鮮やかな赤の長髪を乱しつつ、悲鳴を上げて逃げるアーク。
……けど、慣れない砂地の上だからかいつもより走るのが遅い。
アークとリザードとの距離がどんどん詰められていく。
ボフッ!
「ぅ、うわァァァアアッ!!」
そんな中、突然アークの足元の砂が陥没、と同時に砂が噴き上がる。
……こんな所でまたトラップかよッ!
ザァァァァァッ!!
「うぅっ……」
走ってた勢いのまま、アークは穴に躓いて砂にヘッドスライディング。
……ヤバい。
ダメだ、このままだとアークがッ!
「【定義域Ⅰ】・x ≦ -1ッ!」
咄嗟に【演算魔法】を唱え、ブローリザードの体当たりに有効区間を設定。
アークの手前までに抑える。
シュンッ
唱えるのと同時、うつ伏せに倒れるアークの足の先に現れる青透明の板。
アークをリザードから守るかのように聳え立つ。
……よし、これでアークに体当たりは届かない。
大丈夫だ。
だが、リザードは突然現れた板に行く手を遮られたにも関わらず、勢いを止めない。
それどころか板の直ぐ手前で4本の足を強く蹴り、板越しのアークめがけて跳んだ。
凄い勢いで真っ直ぐ跳ぶブローリザード。
その頭が、板に……
接触した。
パリィィィィン!!
アークを守るハズの青透明の板が、まるでガラスのように粉々に割れる。
と同時に、割れた破片がキラキラと消えていく。
「…………えっ……」
無意識に肺から息が漏れる。
えっ、なんで…………。
バリアが破られた……………?
シンの斬撃だって、アークの【強刺Ⅱ】だって破れなかったのに……。
そんな板を粉砕したリザードは多少勢いを落としつつも、そのまま倒れたアークに向かって低空飛行し……。
ドンッ!
「ゥぐッ!!?」
鈍い音と共に、アークの背中に頭から着地。強烈な頭突きをブチかました。
アークの身体がV字に反り、衝撃で漏れた声が聞こえた。
……お、おい!
シンに続いてアークまで!
あれって普通だったら絶対背骨イッちゃってるよな!?
DEFを上げてるから問題ないとは思うけど、アーク大丈夫かよ!
「アーク!!」
「……ぅ、ぅぁ………………」
……そう叫ぶと、呻き声が帰って来た。
良かった、安心した。
とりあえずアークは大丈夫そうだ――――
「な、なんでーッ!!?」
……っと、安心したのも束の間。
今度はコースの声が砂漠に響く。
「どうしたコース!?」
そう叫び、コースの方を見ると。
「コースの【水系統魔法】が……!」
「ハァ、ハァッ…………、なんで効かないのーッ!?」
砂上に仰向けに倒れたままのシン。
その前に立って盾を構えるダン、それと杖を構えて息を整えるコース。
そんな2人のもとにゆっくり迫る、もう1頭のブローリザード。
リザードの周囲の砂は、所々円形に濡れている。
鱗にも水滴が浮かんでいるけど、傷跡は全く見えない。
……どうやらアイツらも苦戦してるようだ。
「【水線Ⅳ】ッ!」
ビシュゥゥゥゥゥッ!
そんなコースが杖を前に突き出し、そう唱える。
と同時に杖の先から飛び出す、細くて鋭い水のレーザー。
レーザーは真っ直ぐリザードに向かって飛び……
ビシャァァァァ!
顔面に直撃した。
避けも守りもせず、ただ動きを止めるだけでコースの攻撃を受けるリザード。
……だが、レーザーは鱗を貫けない。
顔面で水のレーザーは散り散りになり、リザードの周囲に雨を降らせる。
雨はリザードに降り注いで鱗を濡らし、また周りの砂に染み込んで円い濡れ跡をつくる。
「もうずっとコレだよー! なんでなのダンー!?」
「俺に聞かれても知らねえよ!」
「えー、もう分かんなーいッ! とりあえず【水線Ⅳ】ッ! ……【水線Ⅳ】ッ! ……【水線Ⅳ】ッ!」
水のレーザーを乱射するコース。
……だが、何発当たってもリザードの鱗には一向に変化がみられない。
「あーっ見てみて! 虹ができてるー!」
……ついにはブローリザードに飽きたのか、虹に興味を持ち始めてしまった。
「そんな場合じゃねえだろコース! リザードが迫って来てるぞ!」
「……あっ、そーだったそーだった」
【水線Ⅳ】を受けたリザードはコースの攻撃が止まると再び動き出し、徐々に2人へと近づく。
……ん? なんか、リザードの動きがさっきと違う……?
「なぁコース、ダン! リザードの動き……少し機敏になってないか?」
「んんー……、言われてみればそーかも」
「……確かに、先生の言う通りかもしれねえ!」
なんか、リザードの脚の動きが軽やかになったというか、脚の動きが良くなったような気がする……。
……ま、まさかッ!!
「コース! 水系統魔法は逆効果かもしれない!」
「え?! なんで先生!」
「砂漠の魔物に水分を与えたら、逆に元気になっちゃうんじゃないか?!」
雨が降らず、キツい陽射しに晒され続けて乾燥した『砂漠』。
そんな所に住む魔物に、水系統の攻撃が降り注いだのなら……。
そんなの、攻撃どころか天の恵み扱いじゃんか!
「……一理ある」
「って事は、今までの私の攻撃はー…………」
「…………花に水をやってたのと同じかも」
「「嘘でしょォォォォォォォッ!?」」
コースとダンの絶叫。
ザザザザザザザザザ!!
絶叫に反応するかのように、急に動き始めるブローリザード。
さっきよりも異常に脚の回転数が上がり、一瞬で2人との距離が詰まっていき……。
「ムリムリムリム――――
ドンッ!
そのままリザードがコースを轢過。
「イャアアアアァァァァッ!」
「「コース!!」」
下腹部に頭突きを受け、ブッ飛ばされるコース。
4、5mくらい飛び、そのまま背中から砂に着地。
仰向けに倒れて目を回してしまった。
しかし、コースの体重が軽かったからかリザードの勢いはほとんど落ちず。
そのまま盾を構えるダンに向かう。
「チッ、コイツ……! 【硬壁Ⅶ】!」
ダンが戦士スキルを唱え、腰を下ろしてガッシリ構える。
対するは、勢いそのままに体当たりの姿勢のリザード。
「クソッ! 掛かって来い!」
その言葉に応えるかのように、リザードは4つ脚で砂を蹴った。
真正面から盾を構えるダン。
空を跳ぶブローリザード。
そして…………
ボフッ!
「ぅおッ、何ッ!?」
頭と盾がぶつかる直前。
ダンの右足の足元が陥没。と同時に、すぐ横で砂が噴き上がる。
……またトラップかよ!
右足が陥没した穴に吸い込まれ、ダンの身体が斜める。
ガンッ!
そしてそのまま、リザードの頭とダンの盾がぶつかった。
硬い鱗と金属の盾がぶつかり、硬質な音が砂漠に響く。
……けど、不安定な体勢では体当たりを防ぎきることは出来る事も無く。
「……ぐぉっ!」
ブローリザードの体当たりに、盾ごと押し倒された。
「……ぅぅ………………」
「がっ……ガハッ…………」
「ムリだよぉー…………」
「クソッ…………」
「…………」
その後、4人をK.O.させてしまったブローリザード達3頭は満足したようで、どこかへ行ってしまった。
…………僕には目もくれずに。
砂漠のド真ん中には、砂の上で倒れるシン、アーク、コース、ダンと途方に暮れる僕が1人つっ立っているだけだった。




