13-4. 月極
「月極、つまり月単位で家ごと借りちゃうんですよ」
「「「「おぉ!」」」」
目の前に建つ、『マンスリー・ハウス』という看板が掛かった白い壁の一軒家を眺める僕達。
外見はそこそこ良さそうな一軒家だ。まだ新しそう。
所々汚れが目立つけど、白い壁だから余計目立ってるだけかもしれない。
……それでも、今年で築19年目になる数原家の一軒家よりはキレイだ。
「えーっと……この家は2階建てで、間取りは5LDKだそうです」
建物に掛けられた看板には間取りの図があるようで、シンが眺めつつ言う。
「へぇ。僕達の人数と一緒か」
「俺ら1人1部屋使えるんだな! 豪華じゃねえか!」
「シン、ちなみにお風呂は付いてるの?」
「えーっと…………有りますね、アーク。浴室も結構大きいですよ」
「本当!?」
凄い笑顔で喜ぶアーク。
確かに、宿だと中々風呂に入る機会が無いからな。
シャワーで済ませちゃうことも多いし。
「それと……各部屋に東向きの窓があり、どの部屋からも毎朝港の賑わいが眺められるそうですよ」
「マジでー!? 最ッ高!」
凄い笑顔で喜ぶコース。
確かに、この家が建つのは外壁に近い、街の外縁部。街の中でも標高は高めだからな。
「建物は築12年。家具等は前の家の持ち主の方が置いて行った物が残っているので、必要な物は揃っているようです」
「成程」
築12年か。……見た感じもっと新しいかと思ったけど、数原家よりは新しいので文句は無い。
きっと、よく管理されているからそう見えたんだろう。
それに家具が揃ってるなんて……借りれば直ぐ住めちゃうじゃんか。サービスが充実してんな。
「もうココに決めちゃおうぜ」
「そうね。わたしもここで良いと思う」
「そうしよー!」
「…………いや、ちょっと待て」
乗り気のダン、アーク、コースには悪いけど、ちょっと止める。
『質』も良いし、『景色』も最高だし、『設備』まで揃ってる。僕もココが良いんじゃないかなって思う。
……思うんだけど、美味しい話ってのはそう簡単に転がってるモンじゃない。
こんなに設備が良過ぎるということは…………。
「……ちなみにシン、1ヶ月の料金は?」
設備が良過ぎるという事は、それに伴って金も掛かるハズだ。
……きっと相当高いんだろうな……。
そんな事を考えつつ、看板を眺めて『料金』の情報を探すシンを見る。
そして、数秒の後シンは僕達の方に振り向いて行った。
「……あ、有った有った。一月あたり金貨3枚ですね」
「「「「おぉ……」」」」
料金を聞き、声を零す僕達。
宿が一泊銀貨3枚だから……、100倍か。
やっぱり結構高いな。
「金貨3枚か……、コレもちょっと高過ぎる気がするけど。やっぱりさっきのキープに戻ろう」
「……いえ、逆じゃない? 私達からすれば格安だと思うわ」
「確かに。コレは良いんじゃねえか?」
……え、マジで?
ちょっと計算だ。
僕達が相場の宿に泊まった場合……、一泊は銀貨3枚。
それが僕、シン、コース、ダン、アークの5人分だ。
それが1ヶ月続くと……【乗法術Ⅳ】を使って 銀貨3枚 × 5人 × 30日 = 銀貨450枚。
銀貨450枚って事は……金貨4枚半!?
僕達が1ヶ月宿に連泊するだけで金貨4枚半も必要なのかよ!
…………いやいや、それは置いといてだ。
「金貨4枚半のところが、『マンスリー・ハウス』だと金貨3枚で泊まれちゃうのか!?」
「そういう事になりますね」
「……おいおい、凄えなソレ!」
「良いわね」
「ココにしよーよー!」
うん、満場一致のようだ。
「それじゃあ、マンスリー・ハウスを借りる事にすっか」
「「「はい!」」」
「ええ!」
という事で、マンスリーハウスに泊まることに決まった。
結局最初に決めた宿探しの条件、『質も良く、景色も良く、そこそこ安い』のどれも妥協せずに済んだな。
唯一条件に合わなかったのは、『宿じゃなかった』事くらいか。
「先生、マンスリー・ハウスの申込みは……『西門通り沿いの不動産屋』で受け付けているらしいですよ」
「あぁ、さっきの候補にキープしてた宿の隣の所か」
なんだよ。
結局さっきの所まで戻らなきゃいかんのかい。
「おぅ。そんじゃ、とりあえず申し込みに行こう」
港町・フーリエ滞在1日目。
17:40。
陽も暮れ、通りには左右の家の窓から漏れる光が所々を照らしている。
……空き家が多いからか、道はちょっと暗めだ。
「……フゥー、やっと着いた……」
不動産屋に行き、マンスリー・ハウスの申込みをしてきたんだけど。
坂道になっている大通りを何度も上り下りすると、結構疲れてくるな。
……やっぱり、長い馬車旅で体力が落ちちゃってるのかも。
「私達のお家に戻って来たー!」
「コレが俺らの家なんだな!」
先程の『マンスリー・ハウス』の看板が掛かった白い壁の一軒家を前にして、早速はしゃぎ出す学生達3人。
「トリグにある私達の実家よりもスッゴくキレイだよねー!」
「ああ! まさか、15歳にして家が出来ちまうなんて!」
「……と言っても、2ヶ月だけの借り家ですけど」
そうそう。
どのくらい特訓するか分からないし、とりあえず2ヶ月分で契約しておいた。
金貨6枚なら僕達の手持ちで間に合ったしね。
「それでも良いんだよ! 2ヶ月でも、こんな家に住めるなんて嬉しいじゃねえか!」
「まあ……そうですね」
「それにしても、料金の安さの秘密が『港への人口密集』だったなんてな」
「坂の下、港の近くに人口が移っていたからだったんですね……」
「でも、買い物とかには港の近くが便利だし、坂の上り下りもお年寄りには厳しいし。しょうがないよね」
……そうそう。
さっき契約をする前に、一応不動産屋さんで『安さの理由』を聞いた。
事故物件とかじゃなければ良いなー……とか思いつつ尋ねてみると、店員さんが教えてくれたのがこの話だ。
街の上の方に住んでると、沢山の店がある街の下の港まで距離がある。キツイって程の坂じゃないけど、それなりに大通りを上り下りする必要もある。
そんな方々が年を取ると、さらに買い物がキツくなってくる。
すると、坂の上のお年寄りは港の方に引っ越す。
新しくフーリエへと引っ越してくる人達も、街の上よりも便利な港近くに引っ越す。
……という事で、街の上の方・外壁近くでは空き家が増えてるのが問題なんだって。
で、僕達はそんな空き家の有効活用法『マンスリー・ハウス』に申し込んだって訳だ。
……ところで。
「……シン、コース、ダン、お前ら元気だな。あんな坂を上り下りしても」
「このくらいヨユーヨユー! だよねー、アーク?」
「ええ、勿論」
「ってか先生、まさかこのくらいで弱音吐いてんのか?」
「まだまだ先生も甘いですね!」
「くっ……」
何も言い返せなかった。
……クソッ! 体力が有って良いよな、戦闘職の皆様は。
こちとら一緒に戦っているとはいえ、一応数学者だ。れっきとした非戦闘職なんだよ!
体力が無くたってしょうがないじゃんか。
「それにしても…………、ケースケ」
「……ん?」
再び騒ぎ出す3人を眺めつつそんな事を考えていると、横からアークに声を掛けられる。
「どうしたアーク?」
「……たった2ヶ月間だけど、これがわたし達の家…………」
「おぅ。と言っても、飽くまでも宿の代わりみたいな感じなんだけど」
「そうね。…………まさか、家出をして新しい家が出来ちゃうなんて。フフッ」
「…………おぅ」
そう言って小さく笑うアーク。
……なんとも笑えないけど、とりあえず頷いといた。
「それじゃあ、そろそろ家に入ろうか。シン、鍵を」
「はい!」
学生達がはしゃぎ続けて中々家に入らないので、声を掛けてみた。
シンが家の扉に向かい、不動産屋から貰った鍵をリュックから取り出す。
コースとダンもシンの後を追う。
「お家の中、どんな感じなんだろー?」
「……ドキドキだな」
シンが手にした鍵をゆっくり鍵穴に差し込む。
その後ろから、コースとダンが覗き込む。
その後ろに、僕とアークも立つ。
……カチャッ
「「「開いた!」」」
鍵を抜き、L字型のドアノブに手を掛ける。
そして。
「「「オォォォォップン!!!」」」
テンション高めな3人の掛け声と同時に、シンがドアノブをひねった。
ガチャッ
ギィィィィ……
「「「「「おぉぉぉぉッ…………!!」」」」」




