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12-31. 連立方程式Ⅱ

Point④

『”代入法”の機会を捉えて楽々解答を』



では、(連立方程式)倒す(解く)ためのもう一つの作戦に移る。


作戦名は『代入法(だいにゅうほう)』。

コイツは加減法に比べて出番が限られるものの、ハマれば速攻のトリッキーな奴だ。

この作戦が使えるのは、2つある式のうち、片方が『x=○○』やら『y=○○』と言ったように『(未知数)=○○』という形になっている場合だ。そうでなくとも、式変形でこの形に出来るのならば有効な場合も多い。


やる事は簡単。連立方程式のうち、『(未知数)=○○』の式をもう片方の式に丸ごと代入するのみ。これによって文字数が減り、xとyをそれぞれ倒し(解い)ていくのだ。



それでは、加減法と同様に『代入法』のデモを行う。



(i)(連立方程式)の確認

┏ x+y = 220

┗ 3x+2y = 540

2本の式を立てた所から、デモ開始だ。

まずは(連立方程式)をよく見て、加減法と代入法のどちらが楽かを見極める。今回は上式を『x=○○』の形に式変形させ、代入法を用いよう。



(ii)代入の準備

(連立方程式)のうち、上式を式変形させて代入しやすい形にした。

なお、この操作は式が元々『(未知数)=○○』の形であれば不要だ。

┏ x = 220-y

┗ 3x+2y = 540



(iii)代入の実行

下式の『x』に、上式を代入させた。

これによって下式はxが消去され、『yの一次方程式』と成り下がったのだ!

 3×(220-y)(←―――x―――→)+2y = 540



(iv)x, yを倒す(求める)

後は(iii)で手に入れた式を計算し、順番にyとxを求めるだけだ。

 3×(220-y)+2y = 540

   660-3y+2y = 540

       -y = -120

       y = 120


『y=120』と求めることが出来た!

最後に、上式か下式の好きな方に『y=120』を代入してxも求めれば、(連立方程式)倒せ(解け)るぞ!

今回は変形後の上式を使う。


x = 220-120(←―y―→)

 = 100


以上によって、『代入法』によっても『x=100, y=120』と(連立方程式)倒す(解く)ことが出来たぞ!

これにて『代入法』のデモは終了だ。






Point⑤

『検算も忘れずに』



……さて。

そんな感じで、対・連立方程式用の作戦である『加減法』『代入法』を使えば、連立方程式の『x, yの組』は簡単に解けるって事が分かった。

いやー、良かった良かった。




……とココで終わっても良いんだけど、まだ最後に一つやっておきたい事が有る。

『検算』、つまり()()()だ。

作戦によって求められた『x, yの組』は、上式と下式のどっちにも当てはまるようになっているハズ。なので、2式に『x, y』を代入して方程式が成り立つかを調べよう。



(i)上式に代入して検算

100(←―x―→) = 220-120(←―y―→)

100 = 100

左辺(=の左側)右辺(=の右側)がどちらも『100』で等しくなった。オッケーだ。

……『100 = 100』っていう式に違和感を感じる人は居ると思うけど、無視して欲しい。間違いじゃないからな。


(ii)下式に代入して検算

100(←―x―→)+2×120(←―y―→) = 540

   300+240 = 540

      540 = 540


これもオッケー。

つまり、『x=100, y=120』っていうペアは2式のどっちでも成り立つ。

コレで晴れて『連立方程式は解けた』のだ!




……ちなみに、『もうx, yの組は分かってるんだし、謎の"100 = 100"とか現れるし、検算って結局のところ意味無い操作だな』って思った人も居るだろう。


だけど、案外コレが重要なんだな。

複雑な連立方程式を解いて行くにつれ、xとyの組を求めた後に検算をしてみると、『上式はオッケーなのに下式で"120 = 130"になる! なんでだーッ!』という事態に陥る事が有る。

そんな時は大体、どこかで計算ミスをしているハズだ。



『検算』は、自分が起こした計算ミスを教えてくれる『最後のストッパー』だ。

『加減法』『代入法』だけで済ませず、最後の『検算』まで気を抜かないようにしよう。











「(クゥゥゥーッ……)」


説明を一通り読み終えたところで、丸まった背中を伸ばしてグッと伸びる。

ハァァ……、やっぱり勉強するならちゃんとした机と椅子が欲しいな。

机代わりのリュック、岩肌にアグラじゃ参考書を読むのもちょっとキツイしなー……。


……まぁ、勉強出来ないって訳じゃないんだし、それは置いといて。

さて、後はコラムを読んで練習問題20問だ。



……ちなみに、実は今回も本に添える手には『例の感覚』が伝わっている。

のだけど、今日は何か違う。

いつもとは比べ物にならないくらい、『魔力の引かれ具合』が強いのだ。

今までのは『指が本にピトッと吸い付く』ような感じなんだけど、今日は『強力な幅広の輪ゴムで本と手がくっつけられた』な感じだ。手を本から離すのに割と力が要る。

……なんか説明するのが難しいけど、そんな感じだ。


どうしたよ今回? どうしたよ『連立方程式』?

またまたヤバい新魔法でも手に入っちゃうのか?

チート魔法なら大歓迎ですけど。



……まぁ、とりあえずコラムから読み進めていこう。






Column

『多元一次連立方程式』



主に中学校の『連立方程式』の分野で取り扱うのは、2本の式から2()()()の文字の組を求める『二元一次連立方程式』ばっかりだ。

そこで、『じゃあ、三元一次連立方程式は有るの?』『四元はどうなの? 解けるの?』と考える人は居ないだろうか?



そんな質問の答えは、『存在するし、解ける』だ。


『三元一次連立方程式』というのは、『三種類の文字を使った』『三本の式の組の』連立方程式。

x, y, zやs, t, uという3文字を組み込んだ式を三本使って出来た方程式だ。

四元以上も同じ。a, b, c, dやw, x, y, zみたいな4文字を組み込んだ式を使う。


ちなみに、全部の式で3文字全部を使わなきゃいけないって訳じゃない。

『x,y,z』が揃ってる2式と、『x,zだけでyが無い』っていう1式の組もよくある。

中には『x, yだけの式』『y, zだけの式』『z, xだけの式』っていう3式で成り立つ連立方程式だって有るぞ。



そんな『多元一次連立方程式』の解き方は、『"加減法"や"代入法"を使って1文字を集中狙いで消去し、"一文字減った多元一次連立方程式"を作る』っていうやり方だ。コレを繰り返して行けばいずれ『二元一次連立方程式』になり、解けるようになる。


例えば、『x,y,z』を使った上式、中式、下式の三元一次連立方程式が有ったとしよう。

上式と中式からzを消去し、新たなる『第4の式』を作る。

上式と下式からzを消去し、新たなる『第5の式』を作る。

すると、xとyだけで出来た『第4の式』『第5の式』の二元一次連立方程式が完成するのだ!

後はx,y,zと順番に解いていくだけだ。



同じようにしていけば、『何元一次連立方程式』でも『二元一次連立方程式』まで持ってくることが出来るのだ!


地道な計算は必要になるけど、その分計算が終わった後のスッキリ感は大きいだろうな。

……逆に、検算でミスが見つかった時にはメンタル崩壊するかもしれないけど。











「(よしッ)」


フゥ、なんとかコラムも読み終えた。

何元一次連立方程式でも加減法と代入法で解けちゃうのか……。『加減法』も『代入法』も、思ったより結構やるじゃんか。


……そんな事を考えつつ、ふと参考書から視線を上げ、周りの様子を伺うと。




焚火の周りを囲む人は、全員寝静まっている。

シン達の4人は勿論、隣で仰向けになっていた轟も夜空を見上げたまま寝落ちしちゃったようだ。

馬車からも、誰かが起きているような気配は感じられない。



スゥゥゥ……スゥゥゥゥ…………

パチッパチパチッ……

フゥォォォォォォ…………

キィッ…………キィッ……


耳を澄ませば、今聞こえるのは乗客達の寝息。

それと、焚火が燃える音。

それと、荒野に吹く風の音。

それと、風に揺れる馬車のランプの音だけ。



どうやら、起きてるのは僕だけみたいだな。


……参考書を読んでる間に、割と時間が経っちゃったのかもしれない。

結構集中してたから、どのくらい時間が経ったかはよく分かんないし。




さて。

そんじゃあ、練習問題に行きますか。


今回は凄い新魔法が待ってるかもしれないしな!











と言うことで、地面に置いといた紙を手に取り、砂を軽く払ってからリュックの上に置く。

ペンも砂を払ってから右手で握る。

参考書のページは練習問題だ。今回も毎回恒例、A問題とB問題の計20問だ。


さあ、やりますか。



左手の人差し指をA問題の(1)に当て、問題文を書き写――――



ピトッ!

「うぉっ!」


問題文に左手の人差し指を近づけた瞬間、左手ごと指が問題文に吸い寄せられる。

驚いて思わず声も出ちゃった。

……誰か起こしちゃったかな。大丈夫だろうか。



「……」


周りを見回してみるけど、特に誰も動かなかい。

大丈夫みたいだ。


……そんなことはともかく、僕の左手人差し指がヤバい。

指をツネられてるんじゃないか、ってくらいの力で指に流れる魔力を吸われている。



よしよし、そんなに僕の魔力が欲しいのか。

参考書が欲しいって言ってるのなら、僕はケチらないぞ。

僕の魔力、好きなだけ取ってけ!



そんな事を考えつつ、左手人差し指から魔力を思いっきり流し込んだ。












その瞬間。

全身にドッと倦怠感が流れ、一瞬頭がクラッとする。


「(うぅぅっ…………)」


突然の苦しさに目を閉じ、呻き声を漏らす。



ピッ

ピッ



しかし、その苦しみも一瞬だった。

聞き慣れた軽い電子音を耳にし、ゆっくり目を開くと。


「……んッ?」



目の前には。




===========

アクティブスキル【消去Ⅰ】(エリミネーション)を習得しました

===========


===========

アクティブスキル【代入Ⅰ】サブスティテューションを習得しました

===========



青透明のメッセージウィンドウが二枚、浮かんでいた。



「おぉぉ!」



周りで乗客達が寝ているのも忘れて、ついつい歓声を上げてしまった。

全身の倦怠感や頭のクラクラなんて、一瞬で吹き飛んじゃっていた。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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