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2-7. 決意

目が覚めた。


数学者としての生活を始めて8日目の朝。

一週間経ったわけだが、僕は数学者でなく魔物学者になりつつあった。


この間毎日、朝から晩まで図書館に通っては宿で寝るという生活をしていたんだけど、やっぱり数学の勉強には手が付かず、魔物の本ばっかり読んでしまった。

いつまで経っても漫画ばかり読んじゃって、試験勉強に手が付かない学生と同じ現象が起きていた。

しかしそのお陰で、王都周辺で現れる魔物の情報なら頭に入っている。どこぞの百獣の王を目指すタンクトップの男じゃあるまいが、遭遇したときのシミュレーションもやってある。

まぁ、戦闘職でもないのでこの知識が活かされることは無いかもしれないが。


そして、金欠になってしまった。

気付いたら、残金が銀貨10枚程になってしまっていた。


やばい。金がない。

困った。


何とかして金を稼がないと、まさかの異世界で飢え死にという結末を迎えてしまう。

あぁ、こんな時に先輩が居ればなぁ…

配属先も先輩も居ないと時間を自由に使えて楽しいんだが、こういう時に不便だ。


…まぁ仕方ない、いずれにせよ、宿の中に居ても金は稼げない。

とりあえず支度して、街に出るか。

顔を洗い歯磨きして、いつも通りの麻の服とロングコートに着替え、参考書・筆記具・硬貨が入ったリュックを背負って出発だ。


鍵を掛け、宿のロビーへと階段を下りる。


「あら、今朝も早いね。気を付けて行ってらっしゃい」

「はい。行ってきます」


最早毎朝の恒例となってしまった、宿の受付でオバちゃんとの挨拶を済ませて宿を出る。

にしても、そういうオバちゃんも毎朝早いよな。朝がどんなに早くても、夜がどんなに遅くても、オバちゃんの居ない受付を見たことは無い。

一体オバちゃんはどうなっているんだろうか。





さて、東門通りへ出たわけだがどうしよう。

金を稼ぐ手段、と言われてもそうすぐに思いつかない。


「…とりあえず図書館に行くか」


本を読んでる間に何か思いつくかもしれないし。

そう思い、王城に向かって歩き出そうとした時。


「お、計介!」


後ろから声を掛けられた。

振り向くと、荷物を持ったアキがこちらに向かって走って来ていた。

服装は日本から持ってきた私服だろう。見覚えがある。


「あ、アキ!」

「おぅ、久し振りだな。俺は朝の配達中なんだが、まさかこんな所で会うなんてな」

「この辺に僕の宿があるからね」

「お、そうか。所で、調子はどうだ?金は稼げてんのか?」


イタイ所を突いてくるな。


「うん、まぁ…なんとか」

「オメェ、その調子じゃまた何かあったな…」


もうバレた。誤魔化しきれなかったか…。


「いや、実は金欠でな…。残り銀貨10枚になってしまった」

「え…!? 嘘だろ!?」


アキが目を見開いて驚く。

ここまで驚くアキを見たのは久しぶりだな。


「……盗人にでも遭ったか?」

「そんな事はないんだけど。そろそろ金を稼がないとなー、っと思って」

「いやいやいや、収入が無ぇにしても、一週間で金貨1枚をほぼ使い切るなんて無理だ。色々道具とかを買った俺でも、まだ半分位しか使ってねぇぞ」


えぇ…出費の相場はそんなもんなのか?

宿に泊まっているとはいえ、何で僕の出費はこんなに多いんだろう。

大盛にしてるからだろうか?


「まぁ、とりあえず働き口は見つけてんのか?」

「いや、全く」

「…だろうとは思ってたけどよぉ。とりあえずさ、計介。何とかして数学者の(ジョブ)を活かすべきなんじゃねぇのか? どうせ暇潰しばっかりで数学者としては何も動いてねぇんだろ」

「…おう。アキには全部お見通しだな」

「小学校から全く変わってねぇよ、計介の性格。とりあえず、俺があげた参考書でも使って、数学者らしく勉強すれば? 暗算すらままならねぇんだから。」


…そうだな。数学者の(ジョブ)を活かせば何か仕事が貰えるかもしれない。

店の会計係とかならあり得るだろうか。


まぁ、いずれにせよ働くには数学の勉強をしなければいけないのか…。


「あと、この世界では(ジョブ)と相性がいい仕事なら割とすんなり雇ってくれたりするって聞いたからな。少しは数学嫌いも克服してみろよ。じゃねぇと一文無しになっちまうんだろ」


…実際もうすぐ金が底をつく。

数学が苦手だの嫌いだの言っていられる状況じゃないんだよな。

…ハァ、気は進まないけどアキ様の言うとおりだ。やってみるか。


「うん。その通りだな。ちょっと頑張ってみるか」

「おぅ、頑張れ計介。しかし、お前の服装だけは数学者っぽいな。その白いコートがどことなく白衣に見えるんだが」


やっぱりそう見えちゃうか。僕も感じてたけど。


「あぁ、これは服屋のオススメだ」

「そうか。ま、まぁ、良いんじゃねぇのか? じゃあ、俺はそろそろ配達の仕事に戻らねぇとな」

「仕事中に時間とっちゃって、ごめんな」

「いや、話しかけたのは俺だ。気にすんな。じゃあな、頑張れよ!」

「おう!」


そういってアキは荷物を持って走っていった。


はぁ、やっぱり数学者になってしまったあたり、数学を勉強する事は避けて通れないのか。

……まぁ、アキにも「頑張ってみる」と宣言してしまった。今改めて考えると面倒、というか嫌だが、これも金を稼ぐためだ。数学者の(ジョブ)を上手く使うにはこれしかない。


…よし、覚悟を決めよう。


「数学、やってみますか」


そう呟き、僕も王城へと向かって歩き出した。


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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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