表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/548

12-20. 西部

「数原くん、馬車旅2日目もお疲れ様だったのデス」


馬車から降りると、轟から声を掛けられた。


「おぅ。轟も長時間の運転、お疲れ様。ありがとな」

「はいッ! ……それでは、また明日なのデス。明日も絶対に遅れないで欲しいのデス」

「……僕を誰だと思ってんだ」

「『高校最悪の遅刻大魔王』なのデス」


なんだよ。

舐めやがって。


「皆そういうけど、僕はそこまで遅刻してなかったからな。到着が鐘ギリギリってだけで。あとそのタイトル(高校最悪の遅刻大魔王)の現保持者は盾本だから」

「…………分かったのデス」



まぁいいや。

遅刻の件は置いといて。


先生(せんせー)、そろそろ行こうよー!」

「俺も腹減ったぞ! 飯屋探しに行こうぜ、先生!」

「早く宿も押さえましょう!」

「わたしも宿でノンビリしたいな」


そんな僕の隣では、先に馬車を降りていたアークと学生達がワイワイガヤガヤやっている。



「……随分と賑やかデスね」

「おぅ」


僕からすれば、こんなモンは通常通りだけどね。

もう慣れちゃったよ。



……とはいえ、そろそろご飯と宿探しに行かないとな。

放っとくとコースがもっと騒がしくなる。


「そんじゃ、そろそろ行くよ。轟」

「はい、数原くん! また明日なのデス!」

「おぅ」



そう言い、シン達と一緒に馬車と轟を後にした。











「なんか……凄い町並みだな」


僕達5人は馬車の停めてある町の外れから、中心部へと歩いている。


「なんと言いますか……」

「心許ねえ建物が並んでるな」

「木造の建物ばかりなのね」

「……ボロいっ!」


コースをそう言わしめるこの町『コプリ』は、一言で表せば『西部劇の世界』だ。

サバンナのド真ん中に在り、強い風が吹くと地面からは砂埃が立ち上る。

町には木で組まれた平屋の建物が立ち並んでおり、木の柱が並ぶバルコニー付きの所も見られる。

店らしき建物の入口には、お腹辺りの高さでギッコンギッコンと開く()()()が付いている。


雰囲気は、西部劇の映画に出てくるようなウエスタンの町。

あとは通りに枯れ草がコロコロ流れてたり、ガンマンやカウボーイがウロウロしていれば完全なんだけどなー……。



「……まるで映画の世界に入っちゃったみたいだ」


とはいえ、それでも充分。

感動して思わずそう呟く。



「うおッ……!」

「どうしましたか、ダン……――――えぇっ、泣いてるんですか?!」

「んな訳無いだろ、シン。目に砂が入っちまって……ぃタタタッ」

「……成程。この砂煙は少し厄介ですね…………」


……そんな一人感動に浸っていた僕の隣では、ダン達が色々とドタバタしていた。



「なんかジャリジャリするし、早くどっかの建物に入ろうよー!」

「そうね。まだ夕食には早いし、まずは宿探しかな」

「そうしよそうしよ! 砂まみれの髪も洗いたいしー!」


いい感じの雰囲気をブチ壊してくる4人。

……でもまぁ、仕方ないか。『西部劇』の映画を知らない人からすれば、この町なんて所詮『砂埃が厄介極まりないだけの町』なんだろう。



さて。

アークも騒ぎ始めたし、とりあえず宿を探しますか。






という事で、僕達は一番最初に見つけた通り沿いの宿に入った。

屋根の上に『INN』って書かれた、大きな看板の店だ。

……っていうか、『Inn』は『宿』って意味だったんだね。宿といえば『Hotel』しか知らなかったよ。


ギッコンギッコンな扉を開いて宿に入り、3人部屋を2部屋借りる。

それぞれ男衆とアーク・コースの部屋だ。

今日はボッチじゃなくて済んだぞ!



フロントで宿泊費を払い、鍵を貰って部屋に向かう。


「先生、夕食はどうしますか?」

「あぁ。今がまだ午後4時前だから……コース、風呂入りたいんだよな?」

「うん! もう全身ジャリジャリだもん!」

「わたしも時間があるなら入りたいな」

「分かった。そんじゃあ……夕食は6時にロビー集合でいいか?」


2時間もあれば風呂とか着替えとかは余裕だよな。

一眠りだって出来ちゃう。


「ジューブンジューブン!」

「ええ。それだけ有れば時間が余るくらいね」

「よし、じゃあ集合はそれで。6時までは各自自由行動にしよう」

「分かりました!」

「はーい!」

「おう!」



という事で、待ち合わせも決めた僕達はそれぞれ部屋へと入っていった。


……さて、どんな部屋なんだろうかなー。






ガチャッ

ギイィ……


「「「ぉぉ…………」」」


部屋の鍵を開けて扉の中を覗いた僕達の第一声はコレだった。



「随分とシンプルですね……」

「机に椅子に……あとベッドか。必要なモンは揃ってんだな」

「おっ、辛うじてシャワーもあるようだぞ」

「しかし、風呂は無いんですね。ちょっと残念です……」


ドアから部屋に入り、グルリと部屋中を見渡す。

板張りの壁に天井。

そんな部屋には、必要な物だけが揃っていた。



「先生、ベッドが……」

「ん?」


シンに促され、部屋の奥にあるベッドに目をやると。



「……まっ、マットレスと毛布だけ!?」

「……そのようですね」


そこに有ったのはフカフカのベッドでもなく、フカフカの布団でもなく、薄っぺらいマットレスと毛布が敷かれたベッドだった。



「マジかよ! ベッドダイブ出来ないじゃんか!」

「あー……絶対(ぜってえ)腰が痛くなる奴だな」


えー……。

今までの宿から急にグレードダウンしてる。


……まさか、もしかしてアレか?

草原地帯を抜けたからプレーリーチキンの羽毛が獲れず、ベッドも羽毛じゃなくなってる、みたいな感じか!?

だとしたら最悪だ。

草原地帯から抜けたのは良いけど、あのフカフカなベッドともお別れしなきゃいけないなんて……。


聞いてないぞ!



「……おいシン」

「何ですか、ダン?」

「明日の朝起きて、俺の腰が死んでたらヨロシク」

「無理です。何時も言ってますが自力で歩いて下さい」

「……だったら、テントで毛布に包まっといた方が良かったかもしれねえな」

「「それは無い(それは無いです)」」


流石に野宿よりはココで寝た方が良いけどさ。

足も伸ばせるし。一応マットレスが有るから背中痛くないし。



……まぁ、良く言えばシンプル。

悪く言えば牢獄。

そんな感じの部屋だった。











そんな感じで部屋の確認も済んだ所で、僕達3人は荷物を部屋の端に置く。



そのまま僕はベッドに向かい、薄っぺらいマットレスに向かってうつ伏せにベッドダイブ。


「ハァー……」

ドスッ


……鼻が痛い。

案の定、こんなマットレスじゃ僕の体重は受け止めてくれなかったようだ。


「って、結局ベッドダイブするんですね……」

「まぁね。馬車に座ってるだけでも疲れるし」



あー……。

まぁ、こんな残念ベッドとは言っても寝っ転がれば気持ち良い。

疲れがスーッと抜けていく気がするよ。



「……先生」


うつ伏せのままボーッとしていると、後ろから声が掛けられる。

ダンの声だな。



「どうした、ダン?」


残念ベッドに寝っ転がったまま答える。



「今って自由行動なんだよな?」

「おぅ」

「そんじゃ、俺は少し飯屋回ってくる。6時前には戻ってくるぞ」

「おぅ」

「行ってらっしゃい、ダン」


出たな。

ダンって、暇さえ有ればいつも食べ物屋巡りしてるよな。

……まぁ、年齢的にも食べ盛りだし。

もう既に良い体つきしてるけど、その調子で更に成長してくれ、ダン。



『行ってくる』と言ってダンが部屋を出て行くと、今度はシンの声が聞こえる。


「先生はシャワー浴びますか?」

「ん? いや。後で浴びる」

「では、お先にシャワー浴びさせて頂きますね」

「おぅ。どうぞごゆっくり」

「はい!」


そう言い、シンもシャワールームに入っていった。






……さて。

静かになった部屋には、ベッドにうつ伏せになる僕1人になってしまった。

薄っすらと聞こえる外の往来の音やシンのシャワーを浴びる音がを耳にしつつ、ベッドにうつ伏せのままボーッとする。



あー……、疲れた。


約束のの6時までは、あと丸々2時間ある。

やる事も無いし暇だ。



このまま一眠りしちゃおうかな…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 
 
Twitterやってます。
更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ