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2-6. 魔物

気付いたらもう夕暮れだった。


空腹すら忘れて読み耽ってしまった。

そして、今僕の前には読み終わった「図解・魔物の生態3」と手をつけていない「四則入門」が置いてある。


そうです。やってしまいました。

魔物の本が色々と面白かったので、数学の本を放り出してそっちばっかり読んでしまった。

気分は教科書を目の前において漫画を読んでいる感じだった。

いや、やらなきゃいけないってのは分かってるんだよ、数学。でもさー、やっぱり嫌いなことを克服するのって簡単じゃないよね。


そして時計を見ると午後7時。図書館の閉館時間だ。


「閉館時間です。本を戻して、ご退館ください」

「はい」


マースさんが見回りにやって来た。

しかも急かされてしまった。気持ち早歩きで本棚へと向かい、本を戻す。


よし、じゃあ後は退館アンド退城するだけだ。

図書館が閉まった後、僕が城内に居られる理由は無い。つまり、不法滞在となってしまうのだ。

今思うと、国王お墨付きの入城許可証も万能では無かったんだな。

敵無しだと思ってたのに、こんな抜け道があったとは。


そう考えつつ歩いていると、図書館の入口に着いた。

扉のそばには、ドアノブを持ち開いたままでマースさんが待っていた。


待たせてしまっていたのか、それは申し訳ない。

会釈して出ようとした時、マースさんが声を掛けてきた。


「朝からずっと此処にいらっしゃいましたよね。勤勉ですね」


あぁ、いや、そういう訳じゃないんだけどね…。


「い、いえ。そんな事はないですよ。それでは失礼します」

「お気をつけて」


そう言ってマースさんが扉の横から見送ってくれた。





今日は結局一日中「図解・魔物の生態」を読んでいたのだが、これは魔物の図鑑という感じの本だった。図解というだけあって魔物の絵が載っており、絵本みたいな感じで読んでいて面白かった。

更に、使えそうな情報は紙に写しておいた。今朝王城へ行く途中に雑貨屋でペンと紙を買っておいたのだが、まさかこんな所で役に立つとは。

尚、これは一応計算用紙として買っておいたものだ。本来の目的に使えなくてごめんな。


そうだな、今日得られた情報の中で特に印象に残っているのは王都周辺の魔物の生息状況だ。

王都の西や東側、草原地帯では「ディグラット」や「プレーリーチキン」、「カーキドッグ」が魔物として現れるようだ。ディグラットは地上にいれば動物のネズミと変わらないが、穴を掘り小さな落とし穴を作る習性がある。プレーリーチキンは何もしなければ攻撃をしてこないが、一度敵対すれば鋭い嘴で突いてくる。そしてカーキドッグは緑がかった茶色の毛色をしており、草原に紛れて隠れやすい。そして、そこで敵を待ち伏せして奇襲をかけるようだ。

草原地帯で気を付けるべき点としては、まず初心者のディグラットとの戦闘である。動物のネズミと同じだと思って戦うと、穴を掘って地下に逃げられる。攪乱された所で更に死角から飛び出てきて強靭な爪で一突きのようだ。

もう一つはカーキドッグやプレーリーチキンとの戦闘中にディグラットの掘った落とし穴にハマる事だ。小さな落とし穴といえども足を取られるので、動きが止まった隙に形勢を逆転されることも無くはない。


それと、王都で羽毛布団が良く出回っていたり、焼き鳥などの鶏料理が多いのはプレーリーチキンの収獲量が多いからのようだ。とはいえ、日本の羽毛布団は水鳥の羽から出来ていると聞いたことがあるが、チキンの羽でもいいのか?





さて、城門から出たのだが、もう日もほとんど暮れた。

そしてかなり腹が減った。昼食抜いてるしな。


さて、それじゃあ宿に戻る前に夕食にしよう。

夕食は……そうだな、面倒だから昨日と同じ蕎麦屋でいいか。

あそこの大盛は結構量があったしな。





「いらっしゃいませ――あ、計介さん。こんばんは!」

「どうも。また来ちゃいました」

「いいわねー。ウチを気に入ってくれて嬉しいわー!」


アリスさんが出迎えてくれた。

適当な席に通され、机に座る。


「今日はお昼食べてなくてかなりお腹が空いてるんですよね。昨日のザル蕎麦の大盛ありますか?」

「あ、そうなの、お疲れ様。それじゃあ…大盛とは言わず、特盛はどうかしら?」

「え…特盛?どんなものですか?」

「ザル蕎麦は銅貨35枚だけど、銀貨1と銅貨50で特盛にできるわよ!」

「じゃあそれで」

「はーい♪」


壁に掛けられたお品書きを眺めるのも面倒だったし、何より腹が減っているので即決してしまった。

空腹の所に特盛という言葉が響くと、ついつい弱くなってしまうな。


そして数分後、コシ弱めの蕎麦が運ばれて来た。

麺が文字通りの山盛りになっている。





結局はそれも軽く平らげてしまった。量としては三人前分くらいだっただろう。

しかし、お昼を抜いたとはいえかなり腹は満たされたな。

フーッ、満足した。


そういえば、今日はなんだか楽しかったな。

殆どの時間を図書館で費やしていたとはいえ、僕としてはやりたいことに時間を費やせた。

数学者とはほぼ無縁な活動ではあったが、達成感はある。

うん、今日は魔物の本で一日費やしちゃったけど、明日やればいっか。

ということで明日も朝から図書館だ。


さて、じゃあそろそろ宿に戻るとしますか。

アリスさんに銀貨1枚、銅貨50枚を渡して店を出る。


さあ、今日も風呂に入ってのんびりしよう。

明日もまた図書館だし、早めに寝ようかな。


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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
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そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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