12-13. 群衆
課題とインフルにより急遽お休みを頂いておりました。
失礼しました。
さて。
東門を攻めてきたエメラルドウルフの群勢もなんとか退けた僕達は、戦いを終えて東門へと向かっている。
「ごめんね、ケースケ。ケースケも傷だらけなのにオンブしてもらっちゃって」
「おぅ、気にすんな」
……ちなみに、僕の背中には腰が抜けて動けないアークをオンブしている。
『全身切り傷だらけで血塗れの者』が『腰の抜けた者』をおんぶして歩くっていう、中々なハードモードだ。
「……痛てっ」
アークの腕が脇腹の切り傷に触れる。
「あっ、ごめん。傷口開いちゃった?」
「……まぁ、多分大丈夫」
……というか全身切り傷だらけなので、今更傷口の1つや2つ開いた所でどうって事無いけどね。
「先生、やっぱり俺が代わろうか?」
「……いや、頑張る」
「もう……先生、無理しないで下さいよ」
そうは言われてもねー。
ココでダンに代わってもらっちゃ、男が廃るじゃんか。
例え全身の傷が開こうと、僕は最後までやってみせる!
……それにしても、アークがあんなに甘える所、初めて見たな。
アークが手を僕に伸ばして『お願いっ』って言う瞬間が頭に蘇る。
もっと、こう……アークは『お嬢様』って感じの、しっかりした性格だと思ってたんだけど。
あんな一面もあるんだね。
知らなかったよ。
ピッ
「ん?」
東門に近づいて来た所で、ふと頭に響く軽い電子音。
と同時に、目の前に現れるメッセージウィンドウ。
何だろう?
===========
Lvがアップしました
【減法術Ⅰ】が【減法術Ⅱ】にスキルレベルアップしました
【乗法術Ⅲ】が【乗法術Ⅳ】にスキルレベルアップしました
【除法術Ⅰ】が【除法術Ⅱ】にスキルレベルアップしました
【状態操作Ⅲ】が【状態操作Ⅳ】にスキルレベルアップしました
===========
「おぉ!」
何かと思いきや、レベルアップの嵐だった。
一気にLvと演算魔法4個が上がっちゃった。圧巻だ。
「ダン、レベルアップしましたよ!」
「おう、俺もだ! シン!」
「それと、カミヤさん直伝の【強突Ⅰ】がⅡに上がりました!」
「ハッハ、そんなお前を盾で受け止めたお陰で、【硬壁Ⅵ】はもうⅦだぞ!」
「な……Ⅶですか!?」
シンとダンもメッセージウィンドウを見せ合って騒いでいる。
「わたしも3つ上がったわ!」
背中の上からアークの声が聞こえた。
「おぅ、おめでとう!」
「うん、ありがとうケースケ!」
アークも3つか。
みんな凄い成長具合だ。
……さすがはエメラルドウルフ。強い魔物だった分、僕達が軒並みLvなりスキルレベルなり上がっちゃうくらい経験値もデッカいようだな。
そんな感じで浮かれつつも、東門に向かって歩いていると。
ギイィィィィィィィ…………
僕達の目の前で、東門が開き始めた。
「「「「おぉっ……」」」」
まるで僕達を迎え入れるような絶妙なタイミングの開門に、4人揃って声が漏れる。
ギイィィィィィィィ…………
軋む音を出しつつ、徐々に開いていく東門。
それと共に、門の奥で待ち構える2つの人影が見えてきた。
水色のとんがり帽子とローブを着た女の子、それと白いタンクトップを来たゴリゴリの男性。
「おーーーい!!」
「お前ら、お疲れさん!」
今回のMVP・コース、それと監督・マッチョ兄さんだ。
「みんなお帰りーーーっ!」
コースがそう叫び、両手を大きく振る。
「おぅ!」
「ただいま帰りました!」
「無事戻ったぜ!」
「フフッ、ただいま!」
僕達もコースと監督にそう叫び返し、門の奥へと走った。
という訳で、僕達はコースとも合流。
再び5人組に戻った。
「アーク! さっきはどーしたの?!」
合流して早速、コースが心配そうな顔で背中の上のアークに尋ねる。
「急にアークが動かなくなっちゃうから、ビックリして……」
「ああ、……ちょっと腰が抜けちゃってね。身体が思うように動かなくて」
「そうだったんだー。じゃあ、特にケガとかじゃないんだね!」
「ええ、怪我なら大丈夫。今こうやってケースケにオンブして貰ってるのも、腰が抜けて歩けないだけだからね」
「良かったー!」
そう言って、お互いに笑顔を交わすアークとコース。
……あぁ、そうそう。
コースには言っとかなきゃいけない事が有ったな。
「そういえば、コース」
「なにー、先生?」
「アークが倒れた時の【水線Ⅳ】、ナイスプレーだったぞ」
「でしょー! 狙い通りの目ン玉に直撃だったしー!」
うんうん、本当にあの一撃には助けられたよ。
アレが無ければ、僕達のトドメの一撃は間に合ってなかったからな。
「あ、あと私の【水線Ⅳ】も【水線Ⅴ】になったよー!」
「お、おめでとう!」
そうか。
コースもちゃんとレベルアップしてたようだな。
良かった良かった。
「狂科学者先生、お疲れさんだったな」
「あっ、マッチョ兄さん」
コースとの話が切れると、今度は隣から監督が話しかけて来た。
そうだそうだ、作戦を伝授してくれたお礼を言っておかないとな。
「まさかお前達だけでサクッと倒しちまうなんてな」
「それもマッチョ兄さんの作戦のお陰です。先程はありがとうございました」
「あんな作戦とも言えない作戦で喜んでくれるんなら……お粗末さまです」
……やっぱりマッチョ兄さんもあの作戦、『もはや作戦じゃない』って分かってたんかい。
「……で、でもまぁ、お陰様で大怪我も無く討伐できましたし」
「全身に風の刃を浴びて血塗れのお前さんが言える事かよ」
うぅっ……。
痛い所を突かれたけど、コレはコレで大丈夫です。
合宿終わりのセット戦で腹に矢が刺さったのを思い出せば、そこまで痛くないし。
「……けどなあ、狂科学者先生。本当にお前らが居てくれて助かった。こちらこそありがとな。準備が遅くて未だ辿り着きもしない王都騎士団に比べりゃ、お前らの方がよっぽど優秀だ」
「……は、はいっ」
……マッチョ兄さんにベタ褒めされた。
ちょっと照れた。
全身の切り傷の痛みが、一瞬吹っ飛んでしまった。
まぁ、そんな感じでマッチョ兄さんにもお礼を済ませたし。
良い頃合いなので、この辺でマッチョ兄さんとはお暇しよう。
飽くまで港町・フーリエへの道中なのだ。
……それに、そろそろオンブにも限界が見えてきた。
早くアークを馬車までお運びしたい。
「おーい、シン、コース、ダン! そろそろ行くぞ!」
「「「はい!」」」
そう呼ぶと、すぐ3人が集まって来る。
うんうん。本当に出来の良い子たちだ。
という事で、本当にちょっとだけの再会だったけど、マッチョ兄さんとはまたお別れだ。
「そんじゃ、そろそろ乗合馬車に戻りますので」
「乗合馬車って……お前、また出掛けんのか!?」
「そうですけど」
「マジかー……。てっきり王都東ギルドに帰って来たのかと思ってたのになぁ……」
マッチョ兄さん、そんな露骨に落ち込まないで。
そのうち帰ってきますから。
「で、今度は何処だ? 東門の馬車と言えば……『フーリエ』か?」
おっ、正解。
「はい。ちょっとフーリエで修行を、と思いまして」
「ふーん、修行か。頑張れよ!」
「ありがとうございます!」
「フーリエ土産期待してるぞ!」
……忘れないようにします。
「……まぁ、また王都に寄った時には会いに行きますので」
「おう。俺こそ待ってるからな!」
「はい。それでは」
という事で、僕達はマッチョ兄さんと別れ、轟の待つ乗合馬車へと戻る事にした。
…………のだが。
大活躍をしてしまった人間は、どうしても注目されてしまうものだ。
そして群衆は、そんな人間に会った時には一声二声掛けたくなるものだ。
東門広場の奥の方に見える、『スタンダー輸客会社』と書かれた馬車。
その手前には、広場を覆いつくさんばかりの群衆がこちらを見ていた。
誰もが僕達に向かって熱い視線を注いでいる。
……これは酷い質問攻めとかに遭いそうだなー……。
「先生……どうやって馬車に戻りますか?」
「……突っ切るしかないじゃんか」
ハァ……
どうやら、もうしばらく馬車には戻れそうにないか。
だから有名になるのは面倒で嫌なんだけどな。
まぁ、しゃーない。
背中のアークを抱え直して、群衆に突っ切る覚悟を決めた。




