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12-8. 嵐I

迫り来るカーキウルフの群れ。

対し、私もダン、アークと共に駆け出します。


陣形は先頭にアーク、その左後ろにダン、そして右後ろに私。

上から見ると『(逆V字)形』です。

その陣形を崩さず、こちらも負けじとカーキウルフの群勢へと立ち向かいます。


徐々にカーキウルフとの距離が近づいて行きます。



「アーク!」

「分かってるわ!」


ダンがそう声を掛けると、先頭に立つアークはギュッと槍を握り直します。



ボゥッ!


すると、アークの手から溢れ出す炎。

たちまち炎は槍を覆い、アークの手には炎の槍が現れました。



グルルゥッ…………


それを見たカーキウルフ達は多少怯むものの、僕達を襲わんと迫って来ました。



敵との距離が詰まってきた所で、アークが炎の槍を振りかぶります。

同時にカーキウルフ達も口をガッと開き、飛びかかって来ます。


アークとウルフ達、お互いに勢いが衰える事なく接近。



そのまま交錯する————その直前。



「ハァァッ!」

ヴォッ!


アークが右足を踏み込み、力いっぱい槍を振りました。

纏った炎が勢い良く燃え盛り、ウルフを薙ぎ払います。

それと同時に槍の先からは炎が溢れ出し、槍が届かない距離のウルフを炙っていきます。



キャィン!

ギャン!


そんな炎の槍に薙ぎ払われたウルフ達は、火傷を負いながら群勢の下へと吹っ飛んでいきました。

槍先から溢れ出した炎に炙られたウルフは、恐怖で脚が竦んでいるのか微動だにしません。



……たったの一振りでカーキウルフ2頭を追い返し、4頭の戦意を削いでしまいました。


「す、凄えなアーク!」

「さすが魔法戦士! カッコいいです!」

「フフッ、ありがとう」


私達がそう言うと、アークが振り返ってニコッと笑ってくれました。






……ですが。


こちらに振り向いているアークの前方から、別のカーキウルフが迫っていました。

アークは気付いていません。



グルアァァァァァ!


後脚で跳び、アークへと襲いかからんとするウルフ。

まっ、マズい————



「おっ! 危ねぇッ!」


そこで動いたのはダンでした。

身体を屈めて足を踏み出し、一瞬でアークの前に躍り出ます。

そのまま体勢を崩しながらも大盾を構え、アークを庇いました。



バシンッ!!

キューン…………


アークに飛び掛からんとしたカーキウルフは、突如現れた大盾に正面衝突。

大きな音と共に頭からぶつかり、弱々しい鳴き声を上げて地に伏しました。

どうやらウルフはそのまま気絶してしまったようです。



「おっとっと……」


対するダンは、そう言って一歩よろめくだけ。

崩れた体勢からカーキウルフの全力飛び掛かりを受けたのにも関わらず、その程度の反動で済んでしまうとは。

普通なら押し倒されるのは不可避なハズですが。


……やはりDEF150の力は違いますね。



「助かったわ、ダン」

「気にすんな。守るのが俺の仕事だからな」


そう言い、親指を立ててニッと笑うダン。

アークもそれを見て微笑んでいます。




……ん?


そんな光景を眺めていると、視界の右隅から何かが迫ってくるのに気付きました。


剣に両手を掛け、刃先を右に向けます。



「……って、おいシン!」

「横からウルフが————

「気付いています!」



そのまま身体をひねり、腕をピンと伸ばして剣を水平に振り切ります。


ギャンッ!?



私に飛び掛かろうとしたカーキウルフの首元には、横一文字に切り傷が入りました。

結構深く入ったようで、ブシュッと勢いの良い返り血を浴びます。

……この鉄臭い血の匂い、嫌いじゃないです。



「おぉ……気付いてたのかよ」

「はい。勿論、油断なんてしていませんよ」

「そうか、やっぱりシンも抜かりねえな!」

「はい!」






さて、そんな事は置いておきましょう。


改めて周囲を見回すと、右から左までグルっとカーキウルフ達に囲まれてしまっています。

今でこそウルフ達は瞬殺された仲間を見てか怖気づいているようですが、それでもざっと200頭以上。

数頭のカーキウルフを倒したところで、全く減ったように見えません。


更にその先にはエメラルドウルフが待ち構えています。



「……コレは骨が折れそうですね」

「それでもまあ、どんどん倒して行くしか無えな!」

「ええ!」



私達がそう言い、剣や盾、槍を両手で構えます。

それに反応してか、ビビっていたカーキウルフ達もふと我に返りました。

そのまま思い出したかのようにこちらへと駆けてきます。


それでは、数の力で押し負けないよう、私達も頑張りましょう。



「ダン、アーク、どんどん行きますよ!」

「勿論だ!」

「分かったわ!」






∀∀∀∀∀∀∀∀∀∀






「おぉ、やってるやってる」

「シンもダンもアークも、みんなカッコいいー!」


役目が終わり、外壁で一息ついていた僕達はそのまま戦況を眺めていた。



やっぱりアークの魔法戦士スタイルって良いよね。


炎の槍をスイングしたと同時に、赤く光る扇型の残像。

その直後、アークの周りにいたカーキウルフが吹っ飛ぶ。

近距離なら槍で薙ぎ払えるし、そこそこ距離があって届かない相手でも炎でボワッと炙りだ。

多少の残念ステータスは、その器用さで丸々カバー出来てるようだな。


ダンも良い反応を見せてた。

ウルフの体当たりを盾で受けてた割には、反動が少なすぎる。

流石のマッチョ兄さんも僕の隣で『どうなってんの、アレ?』って驚いてたな。


シンの剣捌きも、なんかスマートになったなって思った。

ちゃんと首元を狙っていたようで一撃KOだったしな。

きっと神谷に聞けば、シンの動きについて色々詳しく教えてくれるんだろうけど。






さて。

そんな彼らは今、凄い勢いでカーキウルフの群勢を蹴散らしている。


アークの燃え盛る槍は一気にウルフ数頭を薙ぎ払い、瞬く間に扇型の空白地帯を作り出す。

シンの長剣は大振りや突きを上手く組み合わせ、舞うようにウルフを次々と仕留める。

2人がカバーしきれない所は、ダンの大盾がガードだ。カーキウルフの体当たりなんかじゃ動じる事もない。更には【硬叩Ⅴ】(ハード・バッシュ)で攻撃すら始めてしまう始末。


……あの3人の動き、まるで日本に居た頃テレビでよく見た殺陣(タテ)みたいだなって思った。






3人がひたすら暴れ散らしてくれているお陰か、カーキウルフの数は着々と減っていっている。


エメラルドウルフの表情にも、少し驚きというか焦りが見えてきた……気がする。

ただ、口がパックリと開いているのだけは事実だ。



「ところで狂科学者マッドサイエンティスト先生。あの赤髪の嬢ちゃんは誰だ? お前の知り合い?」


シン達の暴れっぷりを見ていると、マッチョ兄さんからそう聞かれた。

あぁ、そういえばアークはまだマッチョ兄さんとは会ってないもんな。



「テイラーから王都に来る途中で偶々出会って、仲間になったんです」

「ほぉー。……それにしても狂科学者マッドサイエンティスト先生を仲間に選ぶとは、とんだ物好きだな」


……どういう事だよ。



「……いや、実は良い目を持ってんのかもしれねえ。表向きはタダの数学者、蓋を開けてみればアホみてえな強化魔法の使い手だもんな」


アホみたいって言うなよ。結構便利なんだからさ。

……まぁ、否定はしないけど。



さて、マッチョ兄さんの件は置いといて。

彼らの戦いっぷりを見てると、なんだか楽しそうだなって思ってきた。


いいなー。

こんな外壁で眺めてるだけの魔法組からすれば、やっぱり『戦場で仲間と共に戦う』っていうのは憧れだよなー……。






¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬






【硬壁Ⅵ】(ハード・シールド)!」

「ハァッ!」

【強突Ⅰ】(ストロング・スラスト)ッ!」

「ゥオラァッ! 【硬叩Ⅴ】(ハード・バッシュ)!」

【強斬Ⅴ】(ストロング・ブレード)!」


さて。

調子の波に乗った私達は、少しずつ周囲のカーキウルフを倒していきます。


取り巻きのカーキウルフが徐々に減っていき、少しずつ少しずつ群れの最奥に立つエメラルドウルフへと近づいていきます。



時々チラッとエメラルドウルフの様子を見ますが、奴は目を見開き、口をアングリと開いています。


「ウラァッ! ……おい、シン! アイツ滅茶苦茶ビックリしてねえか?!」

「はい! まるで呆然、といった感じですね!」

「ハハッ、呆然か! 確かに言えてるな!」

「ハァッ! ……『まさか、わたしのカーキウルフ達がこんなにも』って感じかしらね!」


お互いに剣と盾、槍を振りつつそんな会話を交わします。



この調子なら、私達でも本当に倒せるかもしれませんね。











そして、ものの数分で粗方カーキウルフは片付きました。

未だに残っているカーキウルフは15頭程。


そんな数では、今ノリに乗っている私達を止める事など出来ません。



しかし、ここでついに『草原の首領(ボス)』が動き出しました。


1歩、2歩、3歩と足を進める首領(ボス)

カーキウルフ達は一斉に動きを止め、その場に立ち止まります。



私達と真っ直ぐ正対し、ゆっくりこちらへと歩み寄るエメラルドウルフ。

……やはり、プレッシャーが半端ではありません。

ブワッと鳥肌が立つ感覚が全身を走ります。



「……来たぞ」

「ええ。どんな攻撃が来ても動けるようにね」

「はい」

「おう」


エメラルドウルフをジッと睨み、身構える私達。



それを気にも掛けないかのようにエメラルドウルフは悠々と歩み寄り…………止まりました。


私達とはまだ距離がかなり有ります。



「ん?」

「一体、何を————


その時。






ガアァァァァァァァァァァァッ!!!



爆音の咆哮と、嵐のような暴風が私達を襲いました。

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
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そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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