2-5. 図書館
目が覚めた。
気持ちのいい朝だ。
フカフカベッドのおかげでぐっすり眠れたな。
本当に「精霊の算盤亭」を選んで良かった、と感じる。
時計を見ると7時過ぎを指している。
予想外の早起きだ。こんな事、日本では滅多に無かったのに。
まぁそれは良いとして、今日の予定はー、っと……
あ、そうだ。今日は王城図書館に行こうと思ってたんだった。
一応、これでも職は数学者なのだ。それっぽい事をしないとね。
で、何をするか考えた結果、王城図書館で色々本を読もう!って感じに行き着いた。
沢山本を読んで、物知りになる。これぞ学者!
という事で、顔を洗い、歯を磨き、部屋着から麻の服に着替えて、朝方はまだ寒いのでコートを羽織る。
リュックを背負い、鍵を掛けて出発だ。
さて、王城前の噴水広場に着いた。
広場には朝早くにも関わらず、多くの人や馬車が歩き回っている。
馬車はどれも荷物を満載にしている。朝イチで各地へと色々な品物が運ばれて行くのだろう。
ちなみに、朝食は昨日も行った焼き鳥屋の屋台で買い食いだ。
昨日と同じサービスみたいなのをやっていたので、今日も6本。一瞬でペロリだった。
朝からガッツリも意外と悪くない。
そして、王城の門へと近づく。
門の横には、衛兵が左右に1人ずつ立っている。
「止まれ。何用であるか」
流石の衛兵さんだ。良い働きをしておられる。
そう思いつつ、入城許可証を見せて用を伝えた。
「王城図書館へと参りました、数学者の数原計介です」
「拝見致す。ステータスプレートも御表示願おう」
僕としてはやっぱり衛兵相手だと少し緊張するが、最強の切り札・入城許可証|(国王のお墨付き)があるので恐いものは無い。
ちなみに、許可証の文面はこうだ。
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入城許可証
数学者・数原計介の王城図書館の閲覧を
目的とする入城を許可する。
また、王城図書館に於ける機密書庫を含む
全書庫の自由閲覧を許可する。
ティマクス王国
国王 マーガン・ティマクス
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そして、衛兵達は許可証とステータスプレートを何度か見比べ、お互いに頷いてこう言った。
「開門!」
「数原計介殿の国王による入城許可を確認した、入られよ。但し、図書館以外の所へは行かないようにな」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
そして門が開かれる。
しっかりした衛兵さん達だ。お疲れ様です、と頭の中で挨拶しつつ門を潜る。
門を潜ると、そこには感動の風景が……なんて事はない。昨日ここ通ったばっかりだし。
城の中で使用人さん達に道を尋ねつつ、図書館へと向かった。
結局、王城図書館は城の一階にあった。割と門から直ぐそこだ。
きっと、一般国民も使うから分かりやすい配置にしたんだろう。
そうそう、聞いた話だが、王城図書館は一般国民でも利用できるらしい。
門の所で多少の受付が必要となるが、誰でも使えるようだ。町の図書館みたいだな。
流石に僕みたいに門もほぼ素通り状態で、機密書庫まで見られるという事は無いが。
初王城図書館、少し緊張するな。
扉を開け、外から中を覗いてみる。
…とても静かな空間だ。聞こえるのは本のページをめくる音くらいだ。
そして、古い紙の匂いがする。
そして図書館に入ると、その広さに驚いた。
おぉー、広い。
うちの高校の図書室の比じゃないな。市立図書館の3倍くらいはあるんじゃないか?
奥へと本棚がズラーッと並んでいる。図書館の奥がかなり先に見えるが、これ行って帰ってするだけで何分掛かるんだ。奥の方に目当ての本があったら絶対に面倒だ。
入口側には閲覧席だろうか、長机と椅子が並んでいる。本を読むならここで、って事だろう。
「こんにちは。何か本をお探しでしょうか?」
そんな感じでキョロキョロしていると、後ろから声を掛けられた。
振り向くと、図書館の入口近くの机に座っている女性と目が合った。どうやら司書さんのようだ。
机の上には「司書 マース」と書かれた机上名札が置いてある。
色白の肌に銀のロングヘアー、細い銀縁の眼鏡を掛けており、物静かな印象を受ける。
「あ、いえ。大丈夫です。ありがとうございます」
「そうでしたか。失礼しました」
そういうと、マースさんは事務作業を始めた。
さて、とりあえず数学者らしく数学関連の本を探すか。
でもなー、数学ねー………、やっぱり気が乗らないな。
とはいえ、僕は数学者だ。僕は僕の出来ることをやるのだ。
さぁ頑張ろう。
壁に掛かっている案内を見ると、数学分野はーっと………あった。棚番号410~419のようだ。
入口から棚番号001、002、…と続いていくので、まぁ410なら近い方だろう。
900番台の文学分野とか、探しに行くだけで絶対にしんどい。
410番の棚に着いた。
割と遠かったな。
さて、本棚に置かれた本を見てみる。
四則、分数、確率、二次関数、累乗、平方根、三角比、ベクトル、指数・対数、複素数……
「んんー、懐かしい…」
本に書いてある単語自体は懐かしいって思うんだけどさ……。
こういう単語を見るだけで読む気が失せるんだよなー。
そんなんじゃ数学者お終い?
今更です。
とりあえず、「四則入門」という本を取り出して閲覧席へと戻る。
流石に「すうじってなあに?」というような本は要らないな。四則演算を選んだ高3生が言うのもなんだが。
閲覧席へ戻る途中、少し気になる棚を見つけた。
それは466番、魔物学。
日本には存在しない生き物であり、魔王の軍勢の本体。
好奇心からか、自然と興味が湧いてくる。
うん、これは敵情視察だ。
敵を知らずして敵を倒そうってのか?そんなの無理だ。
幾ら面倒くさがりでも、生死を分けるような事を行き当たりバッタリで済ませたりなんかしない。
という訳で、魔物について学ぶのは必要だ。
魔物学の本も一緒に持っていこう。
数学の本はその後に読めばいいよね。
そんな言い訳を頭の中で並べつつ、僕は本棚から「図解・魔物の生態1」を取った。




