12-7. 突風
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タイトルを『突風』に変更
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突然、東門に響いていたドスドスという音が消え去ります。
「ん?」
「消えた……」
その直後、外壁の上の方から、あのムキムキな職員さんの叫び声が聞こえました。
「開門ーッ!!!」
先程の作戦で申し合わせた通りの掛け声。
「こっ、コレは……」
「コースと先生、やったんだな!」
この掛け声が届いたという事は、先生とコースがエメラルドウルフの気を逸らさせる事に成功した、という事を示しています。
カーキウルフ達による門の体当たりの音が止まったのが何よりその証拠でしょう。
「アンタ達、門を開けるぞ! 急いで通ってくれよ!」
「はい!」
そして、この掛け声は『気を引く作戦の成功』と同時に『私達の出撃』の意味も込められています。
掛け声を聞いた門番さんが、左側の門を押していきます。
「さあ……ケースケ達が頑張ったんだから、わたし達も頑張らなきゃね!」
「はい!」
「勿論だ!」
アークから鼓舞を受ける間にも、少しずつ動いていく門。
やがて、1人がやっと通れる分の隙間が開きました。
門の扉と扉の間からは朝陽が差し込み、一本の輝く直線を形作っています。
「さぁ、頼んだぞアンタ達!」
「アイツの推薦だ。アンタらの戦い、期待してるぜ!」
「駄目だったら帰って来い! ムリすんなよ!」
門番さん達からも鼓舞を受けます。
「さぁ……行きましょう!」
「おう!」
「ええ!」
私達は、光が差し込む門の隙間に向かって駆け込みました。
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「……開門ーッ!!!」
隣に立つマッチョ兄さんが、東門に向かってそう叫んだ。
その声に反応してか、エメラルドウルフも耳をピクッと動かす。
「よし、コッチに意識を向けてるぞ!」
「ジュンチョーだね!」
「おぅ!」
なんとか、エメラルドウルフの意識を完全に東門から逸らせたようだな。
そうなったら、後は出来るだけシン達が門から出るための時間稼ぎだ!
「僕達ももっと時間を稼ぐぞ。コース、水!」
「はーい! 【水源Ⅵ】!」
コースが唱えると同時に、僕の目の前に浮かぶ水の球。
手を突っ込む。
「【水線Ⅳ】!」
「【直線比例Ⅰ】・{-1/5}!」
さっきと同じように、2本の水のレーザーがエメラルドウルフに向かって真っ直ぐ飛んでいく。
それを正面からジッと睨むエメラルドウルフ。
「行っけー!!」
「行けー!」
コースと僕も叫ぶ。
そのまま水のレーザーはエメラルドウルフの眉間にむかって一直線に進み、直撃————
ガアァァァァァァァァァ!!!
……しなかった。
直撃する直前、エメラルドウルフが大きく口を開いて咆哮。
それと同時、レーザーがエメラルドウルフの眉間スレスレでフッと掻き消された。
「えっ……」
「何が起きたんだ……?」
突然消えた、僕達のレーザー。
なんでだ? 一体どうやったんだよ?
脚は動いていなかったので、前脚で掻き消した訳じゃない。
エメラルドウルフは避けてもいないし、カーキウルフ達がどうかした訳でもない。
だが、その答えは直ぐに分かった。
「えー、先生! 私の【水線Ⅳ】が消えちゃ――――
ビュウウウウゥゥゥゥゥゥ!!
突如、僕達を襲う突風。
一歩後ずさるほどの風が僕達の真正面から吹き付けた。
「キャァァッ!!」
「うぉッ!!」
「くッ……」
僕とコース、監督が突風に巻き込まれる。
風は異常に湿っており、顔や羽織っている白衣に水滴が付く。
この水分、それにこの突風って……
まさか。
「……もしかして、レーザーを掻き消したのって――――
「……あぁ。多分、狂科学者先生の想像通りだ。エメラルドウルフが風系統魔法を使って、【水線Ⅳ】を俺達に押し返したんだろうな」
濡れたタンクトップをさすりつつ、そう言う監督。
はぁ……、コレが『草原の首領』の使う魔法か。
強い。
これを近距離でモロに受けたらヤバいぞ、きっと。
……こんな魔物を相手取るシン達は大丈夫かな。
あぁ、そうだ。
シン達と言えば。
視線をエメラルドウルフから東門へと移すと。
「おっ、シンとダンが出て来てるぞ!」
「あー、本当だ!」
シンとダンが門の前に立っていた。
そして丁度今、アークが門を抜けて出てきた所だ。
よしッ、作戦成功!
「良くやったぞ狂科学者先生、嬢ちゃん!」
「はい!」
「うん!」
これで僕達の役目は完了だ。
さて、こっから先は作戦と言えない作戦。
シン、ダン、アークがひたすら暴れてウルフ達を一掃するってだけだ。
3人には既にステータス加算を掛けてあるので、今じゃATK・DEFがそれぞれバカみたいに上がってるハズだ。
ステータスプレートは見てないけど、多分100前後まで上昇している事だろう。
カーキウルフ程度ならイチコロだろう。
……問題はエメラルドウルフとどう戦うかだけど、アイツらならきっとなんとかしてくれるでしょ。
さぁ、頼んだぞ!
∠∠∠∠∠∠∠∠∠∠
私に続いてダンが、そして最後にアークが門を出てきました。
これで作戦は成功。先生とコースが気を引いていてくれたお陰で、気付かれずに門から出ることが出来ました。
後は私達がエメラルドウルフを仕留めれば、任務は完了。
先生とコースの頑張りを無駄にしないためにも、頑張りましょう!
さて、目の前には大量のカーキウルフが門を包囲するように並んでいます。
数は……ざっと見ても200は下りませんね。
そしてその包囲の最奥に立つエメラルドウルフ。
……やはり、エメラルドウルフの巨体を目の前にすると恐怖心が湧いてきます。
背の高さは約5メートルと言った所でしょうか。
カーキウルフは決して小柄では無いのですが、エメラルドウルフを見てからカーキウルフを見るとカーキウルフが小型犬のように可愛く見えてしまいます。
……一体、どうやったらあんな小さなカーキウルフが巨体のエメラルドウルフに進化出来るのでしょうか?
謎です。
とりあえず、その謎は置いておきましょう。
私達が今すべきことは、カーキウルフの群勢とエメラルドウルフを倒す事。
グルッ…………グルアァァァァァ!
先生とコースの方に視線を向けていたウルフ達も、私達が門から出て来た事に気付いたようです。
驚いたかのように少し唸ると、私達を威嚇せんと吠え始めました。
「さて、それじゃあ本格的に俺らの番が回って来たな」
「ケースケに掛けて貰ったステータス加算も有るし、わたし達なら余裕ね!」
「そうですね!」
アークの言う通りです。
私達は先生と別れる直前に、ステータス加算を掛けて貰いました。
内容は『ATKとDEFをそれぞれ4倍』。私達の今のステータスはこんな感じになっています。
===Status========
シン・セイグェン 15歳 男 Lv.8
職:剣術戦士 状態:普通
HP 63/63
MP 37/38
ATK 112
DEF 108
INT 12
MND 13
===SKILL========
【長剣術】【胆力Ⅱ】
===========
===Status========
ダン・セーセッツ 15歳 男 Lv.8
職:盾術戦士 状態:普通
HP 86/86
MP 27/28
ATK 76
DEF 148
INT 8
MND 14
===SKILL========
【大盾術】【守護Ⅲ】
===========
===Status========
アーク・テイラー 17歳 女 Lv.7
職:火系統魔術師 状態:普通
HP 43/43
MP 63/64
ATK 92
DEF 84
INT 24
MND 22
===SKILL========
【火系統魔法】【長槍術】
===========
先程作戦の開始前にステータスプレートを見せ合ったのですが、ハッキリ言って言葉を失いました。
気付いたら、私のATKもDEFも100を超えていたなんて……。
毎度毎度思う事なのですが、3桁のステータスなんてベテランの戦士がベテランの強化魔術師に強化魔法を掛けてやっと届くレベルの存在です。
まだ齢15の子ども剣士が到底得られる物ではありません。
魔法戦士スタイルであるが故に器用貧乏に陥ってるアークだって、ステータスが100には届かずともオーバー80。
あれだけのステータスがあれば十分です。
……ですが、ダンのDEFに至っては『100を超えた』というレベルでは有りません。
100がどうのこうのと言うより、もはや150と言った方が早いです。
ココまで来てしまっては、もうステータスプレートが故障してしまったと考えた方が近いでしょう。
ガアァァァ!!
グルァァァァァァ!!
おっと。
つい考え事をしている間にも、カーキウルフがこちらに駆けて来ました。
私達の出番も始まったようですね。
「来たぜー、シン!」
「はい! ダン、アーク、私達も行きましょう!」
「ええ!」
そして私達もそれぞれ得物を構え、カーキウルフの群れに向かって走って行きました。
投稿が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
また、昨日に活動報告も更新しました。
遅れながら新年のご挨拶です。もしお時間がございましたら、そちらもご覧ください。




