12-5. 舞台
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ちょっと表現を修正
「……通称『草原の首領』、エメラルドウルフよ…………」
え、エメラルドウルフ……?
「カーキウルフの進化版、みたいな感じか?」
「……はい、そんな感じです。私も初めて見ました……」
「カーキウルフの中でも群を抜いた強さを持ち、草原に棲まう全ての魔物の頂点に立つ者よ……」
そうか。
……でもさ、狼の一番を獲った時点で『草原の首領』確定なんだよな。
残りは鼠と鶏しか居ないんだし。
そう考えると、あまり強そうにも思えないんだけど……
「そんなに強いのか、エメラルドウルフって?」
「強いです。小さな村ほどなら、エメラルドウルフ一頭で消せると聞いた事が有ります……」
「エメラルドウルフは200、300という単位のカーキウルフを率いるの。『過去にテイラーの近くにある町も、エメラルドウルフの所為で甚大な被害を受けた』ってお父様から聞いた事が有るわ」
うわ、マジかい。
『村を消す』って……。
少しウルフを舐めてた。
これはマズそうだぞ……。
そんな話をしている間にもエメラルドウルフ達はどんどん近づき、カーキウルフの一頭一頭も見分けられるくらいになってくる。
「ねーねーダン……。あのカーキウルフ、何頭くらい居るかなー……」
「……俺は数えたくねえ」
現実に目を背けるダン。
ダンの代わりに数えると、まぁパッと見で200は下らないくらいかな。
それ同時に、エメラルドウルフが如何に大きいのかも明らかになってきた。
カーキウルフの形をそのままに、幅も長さも高さも全部5倍くらいにした感じだ。
「ちょっとデカ過ぎないか、エメラルドウルフ?」
「いえ、アレで良いんです」
「……そうか」
カーキウルフ自体はよく居る大型犬ほどの大きさだ。
まぁ大きいと言っても、しゃがんで頭を撫でるくらい。
なのだが、エメラルドウルフは違う。
アレは見上げなきゃいけないレベルだ。
脚や身体で踏み潰されたら、ペシャンコ間違い無し。
爪で身体を裂かれたら、きっと全身丸ごと輪切りだ。数原計介ダルマ落としが完成するだろうな。
前脚で蹴られたら、一体何メートル飛ばされるだろうか。走り幅跳びの比にならない記録が出そうだ。
そんな恐ろしい想像が出来ちゃうレベルの巨大さを誇るエメラルドウルフが、こちらに向かって走ってきていた。
「うわわわゎ……、近づいて来たよー!」
ものの数分でエメラルドウルフの群勢は東門に到着。
閉じられた門の扉を囲むようにしてカーキウルフが並ぶ。
それを上から眺める僕達。
門番さん方も、何が起きるのかとウルフ達に目を留めている。
「何が起きるんだ……」
「まさか、門を突破されんじゃないよな……?」
「んな事ぁ無ぇだろ。あんな分厚くて重いんだぜ?」
僕達の横に並ぶ門番さん方がそう喋る中、悠々とカーキウルフ達の最後尾へと歩を進めるエメラルドウルフ。
その歩みが…………止まった。
東街道の上にガッシリと4本の脚を付け、仁王立ちの如く立つ。
グッと脚に力を入れ、踏ん張る。
そして、吠えた。
グゥゥゥオオオオオォォォォォォン!!!
「キャッ!」
「うぉぉっ!」
「ぅわっ!」
カーキウルフの何倍もの大きさを持つ身体から、発せられる咆哮。
無意識に両耳を塞ぐ。
一瞬で耳がキーンとなる。
全身が音で震える。
頭も少しグラグラしてくる。
カーキウルフの遠吠えとはまるで比べ物にならない。
そのまま轟音に耐える事、数秒。
全身に感じる振動が無くなり、咆哮が止まったのに気付く。
「ハァ、ハァ……、なんて大きさの声なの!?」
「鼓膜が破れるかと思ったぜ……」
「えー? アーク、ダン、なんて言ったのー? 全然聞こえないよー……」
「それはコース自身の耳鳴りのせいですよ」
「なーにー?! シンももっと大きい声で言ってー!」
……ダメだこりゃ。
まぁ、耳がキーンってなってるコースは置いといて。
「とりあえず、今どんな状況かは分かった。轟の馬車に戻って、現状を伝えに行くか」
「「「はい!」」」
「ええ」
よし、そんな訳で馬車に戻————
ドスン!
ドスン!
急に、足元が小さく揺れた。
「何だ!?」
「地鳴りか!?」
突然の地震に驚く。
外壁の端から音の鳴る方、東門を覗き込むと。
「……おいおい、ヤバいじゃんか!!」
大量のカーキウルフ達が、次々と東門に体当たりしていた。
全力疾走と共に身体をぶつけて行く。
……本当にマズくなってきた!
「これって……ピンチじゃないですか!」
「東門が壊されちまうぞ!」
「……このままじゃ、王都が……!」
もし東門が壊されようものなら、あの数のカーキウルフやエメラルドウルフが王都に入って来てしまう。
……ヤバいヤバいヤバいヤバい!
なんとかしないと!
「とっ、とりあえず……シン、コース、ダン、アーク! なんとか止めに行くぞ! 東門が破られないように守るんだ!」
「……で、でも先生! どうやって止めるんですか!」
「そうだ。門を出る許可も無えし、俺らにはどうにも出来ねえぞ!」
……忘れてた。
現状の確認は出来たけど、コレを止める方法は無い。
「……そっ、それは————
「その必要は無えよ、狂科学者先生」
後ろから肩をポンと叩かれ、そう声を掛けられた。
「……えっ?」
ゆっくり後ろを振り向くと。
「まっ、マッチョ兄さん……?!」
「何だよその呼び方……。まぁ、久し振りだな」
そこには、タンクトップを着た厳つい顔のムキムキマッチョマン、マッチョ兄さんが立っていた。
「マッチョ兄さん、なんでこんな所に?」
「いやー、三点打鐘が聞こえたからギルドを飛び出してきたんだけどな。……気付いたら外壁に居たわ」
どういう事だよ。
……マッチョ兄さん、急にワープでもしたのかな。
「で、今何が起きてんの?」
「あぁ、実はエメラルドウルフが突如現れて」
「マジで!?」
マッチョ兄さんも外壁の端から東門を覗き込む。
「……あー、本当だ。こりゃ面倒だな」
「職員さん、そんな落ち着いてる場合ですか?!」
「早くしないと門が壊されちまうぞ!」
「あぁ、門なら大丈夫だ。こんくらいなら破られないから」
冷静に、そういうマッチョ兄さん。
ドスドス足元が響いているくらいなのに、なんで自信満々に『門なら大丈夫だ』って言えるんだ?
……何か特別な魔法が使われてるとかかな?
「ほ、本当に門は大丈夫なんですか?」
「あぁ、心配ねえな」
……ハァ、良かった。
それならひとまず安心だな。
「今のうちは」
……えぇ?
「……と言いますと?」
「カーキウルフ達の体当たりなら、幾ら受けようと門は抜かれねえ。けど、エメラルドウルフの風系統魔法を使われたら分かんねえな」
「「「「「マジ!?」」」」」
エメラルドウルフ、魔法使うの!?
「って事で、狂科学者先生方には門を抜かれる前にアイツの相手して貰うから」
……いやいやいやいや。
なんで突然そうなるんだよ!
話の脈絡が全く見えない。
「いや、無茶振りにも程が有りますって!」
「私たち、まだ15歳だよー!?」
「どうして突然そうなっちゃうんだ!?」
そうだそうだ! 学生達の言う通りだ!
僕だってまだ17歳、荷が重過ぎる。
あんなデカい奴、しかも魔法を使える奴となんて戦えるかよ!
「なんでお前らを選んだかっていうと…………お前らが外壁に居たからだな。さっき東門広場を通った時には、パッとした冒険者居なかったし。王都騎士団の奴らはいつも準備に時間掛け過ぎだから来ないし」
「「「「「えぇ……」」」」」
僕達がやるっていう選択肢しか無いのか?
……他の人じゃダメかな。
「え、何? 嫌なの? 王都滅んじゃうよ?」
「「「「い、いや……」」」」
「そういう訳では無いんですけど」
「あー……、アレね。『出撃許可』が無いって話ね。それなら俺が東門番長を説得して、余る程くれてやるから」
……『東門、通れなさそう』の件が解決してしまった。
「お前らの強さもクラーサさんから聞いたし。なにやら狂科学者先生が使うステータス強化は色々とエゲツないとか」
……そこまで知られてんのかい。
「それに、出血大サービスで俺が監督やったげるよ。俺考案の作戦も教えてあげるし」
知らず知らずのうちに舞台は整ってしまったようだ。
もう逃げられなさそう。
「って事で、宜しく!」
そしてマッチョ兄さんが放つ、トドメの一撃。
えー……、僕達がやるしか無いのかよ。
でもまぁ、こうなっちゃったら仕方ないか。
4人の顔を見るが、全員既に覚悟は決まって居るようだ。
……そんじゃ、僕も覚悟を決めない訳にはいかないよな。
「……よし、やるか。シン、コース、ダン、アーク!」
「はい!」
「はーい!」
「おう!」
「ええ!」




