12-4. 緑
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ちょっと表現を変更
という事で、人混みをヒョイヒョイとすり抜けて進むコースを追いかけ、無事門の辺りまで辿り着いた。
ハァ……、良かった。とりあえず誰も迷子にならなくて。
後でコースには『1人で勝手に行動しない』って事を教えとかなくちゃな。
「さて、門番さん達はどの辺に……」
東門の方を眺める。
門の前には沢山の人集りが出来ており、皆何かを叫んでいる。
「あっ、先生! 門の真下に門番さん達が居ます!」
「あっ、居た居た」
シンの言った通り、門番さんは閉じた門扉の前で横一列に並んで居た。
「…………けどよお……」
「何か、大変な事になってるわね……」
「門番さん達、クレーマーの嵐に巻き込まれてるー!」
だが、その門番さん達を囲むように商人や旅人の方々が凄い剣幕で食って掛かっていた。
「おい、開けてくれ! 早く行かねえと納品に間に合わねえんだよ!」
「俺の馬車なら早いから、敵からも逃げ切れる! だから行かせてくれ!」
「駄目です! 敵襲の合図があったので門は開けられません————
「頼むよ! 私だけでも通してくれないか!」
「約束に遅れてしまうんだ!」
「駄目です、開けません! 敵襲の打鐘があると、門を閉じなければいけない決まりで————
「なんだよ『決まり』って!」
「そうだ! 街から出て生き延びようが死のうが、門を出る事くらいなら良いだろ!」
「ですから、開けると魔物が入ってくる恐れがあるので————
「俺は冒険者だ! それなら良いだろ!?」
「いえ、冒険者でも許可が無いと駄目です!」
「クソッ、なんでこんな急いでいる今日という日に限って……」
「あぁ、最悪だ……」
……なんだよこの状況。
酷い。
敵襲を甘く見過ぎだろ。
「……ちょっとコレでは、何が起きているのか聞けなさそうですね」
「そうね。門の外に出るのも特別な許可が必要そうだし……」
「俺ら、そんなの貰った記憶無えよな」
「そうだな」
「うーん、どうしましょうか……」
とりあえず、轟に伝えるためにも今何が起きているのかを知りたいのだが。
門番さん達は揉みくちゃにされてるし。
門の外には出られなさそうだし。
誰も何が起きてるか知らなさそうだし。
ダメだ。
方法が無い。
クソッ、何か方法は……ッ!
為す術も無く全員が黙り込む中、コースが口を開く。
「そんじゃーさー、あそこから外壁に登ろーよ! それなら外が見られるよ!」
コースが指を差す先には、外壁への階段。
……ぁあッ!
「「「「ソレだ!!」」」」
「コース、ナイスアイデアだ! よく思いついたな!」
「よし、そんじゃ登ろうぜ! 何が起きてるのか分かるかも知れねえ!」
「そうですね! 行きましょう!」
という事で、門のすぐそばに有る階段を駆け上がる。
先を行くシン達の背中を追いかける形だ。
目指すは外壁の上。そこから閉ざされた東門の奥を確かめるのだ。
「フゥ……、フゥ……、フゥ……」
階段を一段飛ばしで駆け上がりつつ、考える。
3連続の鐘は未だ『カンカンカーン!!』と鳴り続けており、敵が迫っている事を伝えている。
……敵はどのくらいの勢力なのだろうか。
小競り合いで済むくらいなら助かるんだけど。
……敵は一体どんなヤツなんだろうか。
もし魔王軍だとしたら、再びセットが来ているかもしれない。
新しい軍勢も引き連れているかもしれない。
……敵との距離はどのくらいなんだろうか。
まだポツポツと見えるくらいなのか、それとも結構近づいているのか。
というか、もしかしたら既に到着してるかもしれない。
攻撃なんかされてたら大変だ。
でもまぁ、どの疑問も実際に見なきゃ分からない。
とりあえず、まずは一刻も早く現状の確認だ!
そう思うと、不思議と脚が進む。
一段飛ばしでグングン上っているのにも関わらず、脚には殆ど疲れを感じない。息も切れない。
シン達にも置いてかれる事も無く、なんとか付いて行けている。
……コレが『アドレナリン』ってヤツの効果なのかな。
アドレナリン、あなどれないん。
…………ダメだ。全力で階段を駆け上がり続けてるからか、ちょっと頭がおかしくなって来ちゃったようだ。
僕自身でも訳が分からない一言だよ。
ま、まぁ、アドレナリンの件は置いといて。
とりあえず、まずは外壁の上だ!
「ハァ、ハァ……、着いた!」
シン達に遅れること十数秒。
階段を上りきり、外壁の上の空間に到着。
アドレナリンの効果は凄かったけど、やっぱりダメだった。
結局疲れが出てきて、途中から置いていかれてしまった。
さて、えーと……アイツらはどこに居るかな。
外壁を見まわすと、右に左にと慌ただしく外壁上を駆け回る門番さんらしき人。
門の辺りで鐘を鳴らし続ける門番さん。
僕達と同じく、何が起きてるかを見に来ていた先客。
そして、その人々に混じって外壁の端から遠くを眺めるシン達が居た。
おっ、発見。
「居た居た。おーい! シン、コース、ダン、アーク!」
彼らの方へと駆け寄りつつ、そう呼ぶ。
……のだが、返事がない。
無視か? それとも何かあったのかな?
「おい皆、どうしたんだ————
「……あ、アレは…………」
「で、デッカーい……」
「ウソだろ……」
そう呟くシン達の横に並び、王都東の草原を眺める。
「先生、あそこです……」
そう言い、北東の方を指差すシン。
シンに促され、指が差す先を眺めると。
王都北東の草原。
そこにポツポツと見える、深緑色の集団。
大量の深緑色の何かが王都へと走ってくる。
のだが、アレって……
「なんだ、只のカーキウルフの群れじゃんか」
「その通りなんです」
なんだ、敵襲ってカーキウルフだったのか。
そんなビビる程じゃなかったじゃんか————
「ですが、先生……」
「カーキウルフ達の後ろに居るヤツがにヤバいんだよー……」
カーキウルフ達の後ろ?
コース達にそう言われ、目を凝らす。
「……ん?」
「見づれえけど、カーキウルフの群れの後ろに居るヤツだ」
草原の緑に同化していて気付かなかったけど、よく見るとカーキウルフの後ろで大きな何かが動いているっぽい。
「あれって、一体……」
群勢が近づいてくるにつれ、段々とその姿がハッキリと見えてきた。
カーキウルフの群れの一番後ろに居る、鮮やかな緑色の巨大な影。
体毛はまるでエメラルドの宝石のように鮮やかな緑。
カーキウルフの何倍もの大きさで、ガッチリとした身体。
そんな巨体がドスドスと草原を駆ける姿には、遠くからでも自然と恐怖感を覚える。
その姿は、『巨大な狼』。
一目見て、その個体がカーキウルフを統べる者である事が分かる。
「なぁ、アイツは何なんだ……?」
「あ、あの魔物は…………」
そして、アークが怯えた顔で魔物の名前を呟いた。
「……草原に棲まう、全てのカーキウルフの頂点に立つ者。通称『草原の首領』、エメラルドウルフよ…………」
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
新年早々しょーもない『一言』から始まってしまいました。失礼致しました。
2019年もこんな感じで『数学者』は続いていくと思いますが、計介の冒険譚、どうぞお付き合い頂けると幸いです。




