12-3. 裾
2018年、最後の投稿となりました。
皆様、良いお年をお迎えください。
カンカンカーン!!
カンカンカーン!!
僕達を乗せた轟の馬車が東門へと近づいている時、そんな鐘の音が東門に響き渡る。
東門の辺りに居た人全員が、一瞬凍りつく。
「こっ、この音は……」
3連続で撞かれる鐘。
コレは……前にも聞いた事が有る。
間違いなく、『敵襲』の合図。
前の南門襲撃事件で聞いたヤツと同じ、街に何かが迫っているって事だ。
……今度は何が起こってんだ!?
まさか、再びセットが襲撃に……?
「急いで逃げろーッ!!」
誰かがそう叫ぶ。
それを聞いてか、東門に居た人はふと我に帰って回れ右。
そして、一目散にこちらへと駆け込んで来た。
「敵襲か!?」
「何が起きてんだー!?」
「ひとまず逃げろ!」
「死にたくねえー!」
街を出て街道に居た人や馬車はUターンし、一刻も早く東門へと駆ける。
東門広場に居た人々は、我先にと王都の内部へと散り散りに逃げて行く。
「……これはマズそうだな」
隣の老人越しに馬車の外を見て、呟く。
東門通りに出来ていたテイラーへ向かう人々の流れは、いまや駆け込んで来る人や馬車によって一瞬で逆走。
「逃げろー!」
「ヤバいぞー!」
「邪魔だ! 通れねぇぞ!」
「さっさと下がれ!」
「そ、そんな事言われても困るのデス……!」
「チッ、使えない御者だな!」
「そんな事言ってる場合かよ!」
「いいから早く、出来るだけ遠くへ!」
東門通りをなりふり構わず逃げる人々の様子は、正に『混乱』。
そんな慌てて逃げる人々の大逆流の中で、巨大な馬車がUターンする事など出来ず。
僕達の馬車は立ち往生していた。
馬車の座席に着いている人も動揺しているのが分かる。
「い、一体……何が起きているのデス!?」
そんな中、人々と同じく御者席で慌てる轟。
「落ち着け轟!」
「……ッ! わ、分かったのデス数原くん!」
そう言うと、手綱を掴み直す轟。
よしよし、その調子。
御者たる者、そのくらいで動じるな!
「閉門ーーーーッ!!!」
押し寄せる人の波も少し落ち着いて来ると、門の方からそんな叫び声が聞こえて来る。
それと同時に、ゆっくりと閉じていく大きな東門の扉。
どうやら、王都の外からは全員逃げ込んだようだ。
ギイィィィィィィィ…………
バタンッ!!!
そして、轟音と共に東門の扉が閉じられた。
普段見る事のない、閉じられた門が目の前に聳える。
呆然とそれを眺めつつ、轟が口を開く。
「……数原くん、一体何が起きているのデスか……?」
「……分かんない」
なんで僕に聞くんだ。
僕が知ってるとでも思ったのかよ?
……あぁ、でも。
もしかしたら分かるかもしれない。
さぁ、頼んだぞ。
「今、何が起きてるのか教えてくれ……【求解】!」
ピッ
その瞬間、僕の目の前に現れるメッセージウィンドウ。
突然現れたからか、隣のご老人を少し驚かせてしまったかもしれない。ごめんなさいね。
さてさて、【求解】さん。
今何が起こっているのか、僕に教えてくれたまえ……!
===【求解】結果========
王都への敵の襲来
解:
3点打鐘は、付近に何らかの勢力が接近している事を表す
===========
それは知ってるよ!
もっと現状の詳しい情報が欲しかったんだけどな……。
残念ながら、【求解】でも分からないって事は僕がまだ見聞きしてないって事だ。
よし。そんなら……
自分で見に行くまでだ!
「轟、じゃあ僕が見に行ってくるよ。何が起きてるのか」
「本当デスか!?」
「おぅ」
「分かったのデス! 馬車はココで待っているので、何か分かったら教えて欲しいのデス!」
「おぅ、待ってろ」
「よろしくお願いするのデス!」
何が起こっているのか分からない?
だったら自分で調べれば良いのだ。
「先生、行くのですか?」
「おぅ、ちょっと様子見にな。シンも付いて来るか?」
「はい! ご一緒します!」
「私も行く行くー!」
「そんじゃ、俺も!」
「わたしも一緒に行くわ!」
オッケーオッケー。
「よし、皆で行くか」
「「「はい!」」」
「ええ!」
勢いの良い返事が帰ってきた。
さぁ、皆で行きますか!
そんじゃ、とりあえず馬車を降りないとな。
「そんじゃ轟、降りるから踏み台と柵をお願いしても————
「コース、行っきまーす!」
轟にお願いをしている最中、後ろからそんな掛け声が飛ぶ。
後ろを振り返ると。
「コース、気を付けろよ」
「こんな所で怪我しないで下さいよ」
「モッチロン!」
座っていたハズのコースが、立ち上がって馬車の柵に両手を掛けていた。
そんなコースにダンとシンが声を掛けている。
座席からそのまま飛び降りるようだ。
……え、そこから降りちゃうの!?
ちゃんと降り口使わないと危ないぞ!
「お、おいやめろコ————
「ぃっしょ!」
……僕の呼び止めも虚しく、コースは軽快なジャンプでそのまま飛び降りてしまった。
そしてパタッと綺麗に着地するコース。
「おっ、良いな! 俺も飛び降りるぞ!」
「それでは、ダンの次は私が」
「コース、ちょっとそこ開けて。わたしも降りるわ」
そしてダン、シン、アークも次々に馬車から飛び降りて行ってしまった。
……え、マジかい。
「……数原くん、踏み台の準備は————
「良いです。僕も飛び降りる」
なんか僕だけの為にわざわざ準備して貰うのも、ねぇ。
4人とも飛び降りちゃったし、コレは僕も飛び降りなきゃいけない感じかな……?
柵から身体を乗り出し、地面を見てみる。
……結構高い。踏み台が無いと怖い。
こういうの、昔から苦手なんだよねー……。
でも行くしかないか。
「数原くん、気を付けて欲しいのデス!」
「おぅ」
そんな轟の言葉を聞きつつ、両手で柵を握る。
……よし。
膝を曲げ、思いっきりジャンプ。
身体を浮かせ、脚を柵の上から通す。
フワッと落下する感覚。
そして、両脚でしゃがみ、着地。
「よしッ」
「ナイス着地なのデス!」
フゥー、なんとか降りれた。
ドキドキだったな。
膝をつき、その場で立ち上が————
グィッ
「うゎうゎッ!」
その瞬間、背中を引っ張られる感覚。
視界の隅には、靴の下に白い布。
……しまった! 白衣の裾踏んでるッ————
「…………」
「先生、ダっサーい」
「無理はしない方が良いですよ、先生」
「先生はカッコつけなくても十分だぞ。非戦闘職なんだし」
「だけど、怪我が無くて良かったわ。ケースケ」
「……うん、ありがとう」
皆に声を掛けられつつ、東門を目指して人混みの中を歩く。
結局、馬車を飛び降りれたのは良かったんだけど。
最後の最後で仰向けにゴロリしてしまった。
馬車に乗っていた子どもから『ハハッ、白衣のお兄さんザコーッ』という罵りを受け。
轟から『……無理はしないで、お気を付けてなのデス』という送り出しを受けて現在に至る。
……馬車に乗ってた皆さん、それと轟。
大変お恥ずかしい姿をお見せしました。
あぁ、普通に踏み台を用意して貰えば良かったな……。
……でもまぁ、いつまでも落ち込んでる訳にもいかない。
それに今は非常事態。ふと耳に意識を向ければ、3連続の鐘が鳴り続けている。
「えーと……とりあえず、門番さんに聞けば良いかな?」
「そうね」
「じゃあー、レッツゴー!」
「お、おい! 待てコース!」
そう言い、人混みの中を駆け抜けて行くコース。
……ハァ。昨日、あれだけ『迷子にならないようにしろよ』って言ったのにな。
まぁ、そんなコースの背中を僕達は追いかけて行った。




