12-1. 輸客
アキとの2日間の休暇を楽しんだ、その翌日。
7:48。
僕達は『精霊の算盤亭』のオバちゃんに再び王都を発つ事を告げ、宿を再び後にした。
のだが。
「んんぅぅ……」
「おい起きろ、コース! 遅刻しちまうぞ!」
「お願いだから自分で歩いてください、コース!」
現在、中々目を覚まさないコースを連れて東門通りを歩いていた。
シンとダンに両肩を支えられ、半ば引きずられるようにして歩くコース。
「ねえケースケ」
「ん? どうしたアーク?」
「今日のコース、何かあったの?」
アークからも心配そうな表情でそう言われてしまう始末。
「いや、大丈夫。特に問題ないから」
前にも1回あったし。
「コースの寝起きはあまり良くありませんが、こんな酷い事は時々ですね」
「そうそう。たまーにこうやって異常に目を覚まさねえ日が有るんだよな」
「へえ、そうなのね…………寝起きの悪さがどうこうってレベルじゃないと思うけど」
苦笑しつつ、そう呟くアーク。
「んん……起きてるよぉー………………むにゃ」
「「「寝てるじゃんか!」」」
コースの寝言(?)に思わず叫んでしまった。
「ハァ……そろそろ起きてくれないと困るのですが……」
シンも困った顔でそう言っている。
……まぁ、シンの言う通りだ。
いつまでもこうやってコースを引っ張っていく訳にも行かないし、轟の乗合馬車が発車するまで時間もあまり無い。
という事で、そろそろコースには目覚めてもらうか。
強硬手段で。
「よし、ダン。僕と交代だ」
「おう、先生」
ダンと入れ替わり、僕がコースの右肩を支える。
これでコースの左肩にシン、右肩に僕って感じだ。
「さて、そろそろ起きようか、コース。おはよう」
「おはよう………………むにゃ」
起きない。
……という事は、残念ながらダンの大盾でハタキ起こしてもらうしか無いかな。
「そんじゃ、ダン。硬叩Ⅴでコースをスッキリと目覚めさせてやれ!」
「おぅ、任せろ!」
もう既に一度使った方法だけど、前回は効果覿面だったからな。
今回もソレでいってみよう。
「シャッキリと目覚める一撃を約束するぜ、コース!」
「んん…………」
ダンの右手が、背中に背負った大盾に掛かる。
コースはダンの声に反応して薄目を開ける。
「硬叩Ⅴ————
「……ッッ!!」
そこには、今にも盾を構えんとするダンの姿が目の前に。
ビクッ!
「うぉっ」
「うわっ」
驚いたコースが、身体をビクリと飛び跳ねる。
その衝撃が肩を通じて僕とシンにも伝わる。
……ちょっと首がグキッてなった。痛い。
「おっ、おはよーダン! 起きたよ! 起きたからやめてーっ!」
本気で慌てるコース。
眠気は吹っ飛んだようだな。
……良かった。僕の首を犠牲にしたけど、なんとかコースを起こす事が出来た。
「ハハッ、本当にやる訳無えだろ、味方に戦士スキルだなんて。だよな、シン?」
「痛ててっ……」
……シンも首をさすっていた。
目を覚まさせるだけで首が2つも必要になるとは、お高く付いたもんだ。
コース、恐るべし。
……まぁ、そんな感じでコースは目覚めてくれた。
5人並んで東門通りを歩く。
「あー、怖かったよダン! 今でもまだ心臓が少しドキドキしてるもーん!」
「そうか。でもコースが無事起きたから結果オーライだな。ハッハッハ」
「笑わないでよー! 本当に怖かったんだよ!」
「いや、俺もまさかあんな驚いてくれるとは思わなかったぞ。2回目だったしな」
「あー、確かにそうだね。次は驚かないかもー」
そう自信ありげに言うコース。
そうか。ダンの硬叩Ⅴ作戦もそろそろ慣れてきちゃったか。
また新しい作戦を考えないと。
何が良いかなー……
「あっ、着きましたね。東門広場!」
おっ、早速次回の起こし方を考えていると東門広場に辿り着いたようだ。
割と直ぐだったな。
「さて、僕達が乗る馬車はーっと……」
ざっと東門広場を見回すのだが、さすがは朝方。
駅前のバスターミナルの如く馬車が並んでいる。
……どれだろう?
「どの乗合馬車ですか、先生?」
「確か『スタンダー輸客会社』とか言ってたな。僕の友達が御者をやるらしくて」
「分かりました!」
「先生の知り合いって事は、その御者さんも勇者なのか?」
「あぁ。輸客商人をやってるよ」
「「「へぇ!」」」
「やっぱり戦わねえ勇者も居るんだな!」
……その言い方やめて、ダン。
ちょっと悲しくなるから。
「あっ、ケースケ。あそこで手を振ってる人……」
アークがある馬車を指差してそう言う。
その先に居るのは……大きくこちらに手を振る轟。
「トドロキさんよね、あの人?」
「あぁ、居た居た。そうだな」
僕がそう言うと、アークが轟に手を振り返す。
……轟の手の振りが一層激しくなった。
どうせ『ぼくに手を振り返してくれるなんて……アーク様は天使なのデス!』とか言うんだろ。
そう言う轟の姿が頭の中で想像出来ちゃうし。
「ドコですか?」
「アークが手を振ってる先の人だ」
「えーと…………あっ、居ました!」
「凄え勢いで手ぇ振ってるな」
「なんか……ちょっとヤバい人じゃないー?」
「そうですね。少しヤバそうな雰囲気が……」
そうか。君達の目にもそう映ってしまったか。
……轟はそこまでヤバい奴じゃないハズなんだけどね。
「……ま、まぁ、とりあえず馬車に行こうか」
「「「はい!」」」
「ええ!」
『スタンダー輸客会社』と書かれた馬車は、シーカントさんの使っていた馬車より一回りも二回りも大きめだ。
荷台の部分がかなり広くとってあり、そこに座席が取り付けられているのが見える。
荷台には柱も立てられており、天井のように幌が掛けられている。
これなら雨でも大丈夫そうだな。
「おはよう、数原くん! 待っていたのデス!」
そんな馬車に着くと、乗り口には轟が立っていた。
「おぅ、おはよう轟。済まんな、ちょっと遅くなっちゃって」
「ヒヤヒヤしたのデス! 『高校最悪の遅刻大魔王』と呼ばれた数原くんの事だから、まさか今日もヤラカシちゃったのではないかと」
「舐めんな」
流石にこんな大事な日に寝坊はしません。
「ところで、数原くんの後ろの方々は……お仲間さんデスか?」
「あぁ。コレで全員だ。アークは昨日会ったよな」
「ええ。おはよう、トドロキさん」
「……お、おはようなのデス! アーク様!」
「……」
天使を見つけたからって露骨にテンション上げんな。
あと様付けするな。
「……で、こっちからシン、コース、ダンだ」
「「「おはようございます!」」」
「あぁ、皆さんおはようなのデス! ぼくは轟翔、数原くんのお友達なのデス!」
そして学生と轟がお互いに礼。
うんうん、礼儀って大事だからな。
「コレでお仲間さんが揃ったのデスね」
「おぅ。今はこの5人組だな」
「いやー、しかし数原くんがこんなにも仲間を作ったとは……圧巻なのデス!」
「おぅ」
まぁ、確かに冒険者グループで5人組ってのは少数だからな。
メジャーは3人組、4人組もたまにしか見ないって感じだし。
そんな感じで少し轟とお喋りをしていたが、発車時刻もだいぶ迫ってきたようで。
「それでは数原くん、準備が宜しければ馬車にお乗り頂きたいのデス! 間も無く発車なのデス」
「おぅ、分かった」
さて、そんじゃ轟の馬車に乗せてもらいますか!




