11-18. 手洗
皆様、大変お待たせ致しました!
休暇2日目、11:39。
轟が勤める『スタンダー輸客会社』を立ち去り、3人で組合本部の通路を歩く。
「いやー……轟も元気そうで良かったよ。何よりだ」
「そうだな」
同級生達の元気な顔を見られると、やっぱり嬉しいよね。
……きっと、同窓会に行った時の気持ちってこんな感じなんだろうな。
「それに、あのパッとしねぇ乗り物オタクがちゃんと仕事してたとはなぁ。アイツが働いている所を見たのは初めてだぜ」
「……ま、まぁな。確かに」
高校に通っていた頃の轟は、パッとしない見た目に違わず何をやってもグダグダだ。
宿題も忘れてきたり、やったとしてもかなり適当。
掃除の時間中もホウキを持ったままボーっとしてるし。
係や委員会の仕事も、誰かから言われるまでやらない。というか、言われても結局やらないで終わる事もしばしば。
そんな轟が真面目に仕事をやっているなんて。
……明日の王都は雪が降るのだろうか。
「それか、アレだな。高校デビューならぬ『異世界デビュー』でも果たしちゃったのかな」
「ん? そんな事は無ぇだろ。アイツが輝いてんのは『輸客会社』に勤めてる時だけ。それ以外はいつも通りのボーっとした野郎だぞ、きっと」
「……確かに。ハハッ」
……アキが言った通りの轟が、僕の頭の中に浮かび上がっちゃった。
少し笑ってしまった。
「「ハハハッ————
「せんせーい!」
想像の中の轟に2人で笑っていると、遠くからそんな叫び声が聞こえた。
……この声は。
「……僕、呼ばれたかな?」
「おぅ。計介先生、お呼びのようだ」
「ええ」
ふと声のした方を向くと。
「せんせーい!!」
「おい、危ねえぞコース!」
「そうです! そんな走らないでください!」
水色ローブの女の子を先頭に、3人の子どもが走ってきた。
勝手に別行動をしていた学生達だ。
「おっ、帰って来たか」
「アイツらを探しに行く手間が省けたじゃねぇか」
「それにしても、わたし達がここに居るって良く分かったわね」
「ハァ、ハァ……。先生、ただいまー!」
「色々見て来たぜ!」
「楽しかったです!」
「おぅ、おかえり」
僕達のもとに帰って来るなり、少し息を切らして満足気にそう言う3人。
良かったね。それぞれ行きたいところに行って楽めたようだ。
「ですけど先生、コース、アキさん、探しましたよ! ドコに居たんですか!?」
「もう大変だったんだぞ、探し出すの。魔道具のブースにも居ねえし」
「そうだよー! 先生達が勝手にどっか行っちゃうからー!」
「「「えぇぇ……」」」
ウソだろ!?
勝手にどっか行ったのは誰だよ!
コース達の暴論に思わず言葉を失う。
「……ま、まぁ、でもさ。なんとか合流できたんだし結果オーライでしょ」
「それに、誰も迷子にならなくて良かったわ」
「そ、そうだな計介、アーク」
「…………あ、あれ?」
「ん? どうかしましたか、コース?」
「うん。アークの掛けてるネックレス、初めて見たなーって思ってー」
おっ、コースがアークのネックレスに気付いたようだ。
「あ、本当ですね!」
「赤い宝石のネックレスか。アークに似合ってるな!」
「アークかわいいー!」
「ありがとう、シン、コース、ダン。実はね、これ……ケースケに買ってもらっちゃったの」
「「「ええぇぇ!」」」
「先生からアークへのプレゼントなのー?!」
「まぁな」
「ええ」
少し微笑み、頷くアーク。
「えー、ズルいよー!」
「それでは、私達にも……」
「何か買ってくれよ!」
「えぇ……」
ヤバい。このままだと破産しちゃうぞ!
何か逃げる手は無いかな……
「え、えーと…………宿無しだった君達には『宿』に泊まらせてあげたじゃんか」
「……た、確かにそうでした」
「あの時は久し振りの布団、嬉しかったな」
「それと同じような感じだよ」
「……うん」
まぁとりあえず、渋々納得してくれたようだ。
なんとか僕の破産は免れたようだ。
コースに『金額が全然違ーう!』って言われなくて良かったよ。
休暇2日目、11:48。
無事皆が合流した。
さて、それじゃあ次はどうしようかな……。
「とりあえずアキ、どこ行く?」
「お前、毎度それしか言わねぇよな」
そう言ってアキは呆れた表情を浮かべる。
「んー……そうだな。計介、そろそろ腹減って来ねぇか?」
……と言いつつも、ちゃんと答えてくれるのがアキの優しさだ。
これだからアキはやめられないんだよね。
時計を見れば、もう直ぐお昼って所だ。
「言われてみれば」
「私もお腹が減ってきました」
「俺もだ」
「私もー!」
「わたしも」
……はいはい。
つまり皆腹が減ってるって事ね。
「そんじゃ、お昼にすっか」
「そんなら、俺がオススメの店に連れてってやるよ」
「おっ、良いな。頼んだアキ」
「おぅ! 任せろ!」
そう言い、アキが通路を歩き始める。
そんじゃあ、僕達もアキに付いて行こう。
どんな店なのかな――――
「……あ、ケースケ。ちょっと良い?」
「ん? どうしたアーク?」
歩き出そうとしたその時、アークに呼び止められる。
いきなりどうしたんだろう?
「ちょっとお手洗いに……」
「おぅ、行ってらっしゃい」
「うん、ありがとう」
そう言い残し、アークは走って行った。
なーんだ。
何事かと思ったよ。
「じゃあ、俺達は少し待つか」
「済まんなアキ、お昼に行くって時に待たせちゃって」
「いやいや、気にすんな」
とまぁ、そんな感じでアーク待ちだ。
『スタンダー輸客会社』の近くの交差点で、残された僕、シン、コース、ダン、それとアキの5人で談笑しつつアークが戻ってくるのを待つ。
……そんじゃあ、時間が有る今のうちに伝えるべき事を伝えとこうかな。
久し振りに僕も『先生』っぽい事をやっておこう。
「……ところでなんだけどさ、シン、コース、ダン。君達に伝えたい事がある」
「どうした、先生?」
「なんでしょうか?」
「ココに入った時、僕が『迷子にならないように』って言ったよね?」
「はい、覚えています」
「そういえば先生言ってたな」
よしよし、覚えているか。
それじゃあ……
「で。こんな広ーい組合本部の中、散らばって一人一人になったら絶対迷子になるよね?」
「「「あっ……」」」
「でだ。君達、ココに入って直ぐ、それぞれ散り散りになって行きたい所に行っちゃったよな」
「「「ハイ…………」」」
そろそろ3人とも僕の言いたい事を察したかな。
「……まぁ、ここまで言えば分かるよな。君達はまだ行動が軽率だ。特に興味のある物が目に入ると注意不足がハンパなくなる」
「「「ハイ」」」
落ち込む3人。
「って事で、これからは気を付けるようにな。いつもならそんな心配は要らないだろうけど、特にこういう時だな。油断しないように気をつけてな」
「「「……ハイ」」」
少し俯き、頷く3人。
「……で、でも先生、私たちなんとか合流できたよー……」
「『合流出来たからオッケー』じゃないんだ、コース!」
「ごっ、ごめんなさい!」
「『合流出来るでしょ、多分』じゃなくて『合流出来ないかも、多分』なんだよ。こういう時はまず『アレやりたい! コレやりたい!』って気持ちをグッと抑える。で、『皆で一緒に動く』とか、『何時にドコに集合』とかって決めればオッケーだ」
「成程!」
「……ってか、僕いつも言ってるよね? 旅館で別れる時に『明日は8時にロビー』とかって」
「確かに、言われてみればそうだな」
そうそう。
集合って大事だよ。
「(高校最悪の遅刻大魔王が言う事じゃねぇだろ)」
「(……黙っとけアキ)」
横からアキの茶々が入る。
いや、確かに高校時代は遅刻してたけどさ。
毎日って程じゃなかったし。1限に間に合った日もまぁまぁ有ったし。
それに『遅刻大魔王』の名は盾本に譲ったのだ。
「まぁ、そういう事だから――――
トントン
「失礼、少し良いかね?」
そんな中、後ろから肩が叩かれる。
それと共に掛けられた、ちょっとかすれた声。
聞き覚えは無い。
ん、誰だろう?
「……あ、はい……」
恐る恐る振り返ると。
「君が、『白衣の勇者』かね?」
そこには、黒の背広にシルクハットを被ったご老人が立っていた。




