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11-17. 乗合馬車

轟の暴走は、アキのお陰でなんとか止まった。



……と思ったのだが。


「けど、最後に! 最後にコレだけは言わせて欲しいのデスッ!」


轟の必死の懇願。

……まだ言いたい事があんのかよ。



「チッ、まだ火種が残ってやがったか」

「けれどトドロキさんも『最後』って言ってるし、聞いてあげない?」

「そうだな。アークの言う通り、聞いてあげようか。アキ」

「……まぁ、お前らがそう言うなら仕方ねぇな」


アークの優しさによって救われた轟。



「ありがとう、アーク様! 天使なのデス!」

「え、えぇ…………」


そう言ってアークを拝むな!

アークが微妙な顔してドン引きしてるじゃんか!



「なんだ、轟が言い残したのはそれだったのか」

「い、いや、ちょっと待って欲しいのデス、秋内くん!」


アキが笑いながらカラカう。

慌てる轟。



「今のじゃないのデス! 今のは無しなのデス————

「えぇ……、じゃあわたしは『天使じゃない』って言うの?」

「い、いや、そういう訳じゃないのデス……」


更にそこを煽るアーク。

そして轟はパニックに陥った。



「冗談だ轟、落ち着け。お前の言いたい事は分かってるよ」

「……え、本当なのデスか?」

「あぁ、勿論だぜ」

「秋内くん……」

「わたしも、つい面白くなっちゃって。ごめんなさいね」

「アーク様も……あぁ、アリガタヤアリガタヤ」


様付けで呼ぶな!

そして拝むな!



「まぁ、揶揄(からか)っちまって済まなかったな」

「いや、大丈夫なのデス」

「そんじゃ、好きなだけ喋れ。最後の1つ、聞いてやるよ」

「あ、秋内くん! ありがとうなのデス!」


……まるで轟を我が物のように操るアキ。

さっきまで暴走車両だった轟は、アキに付き従う犬になってしまった。






「それじゃあ、最後に1つだけ……」

「おぅ。なんだ?」


なんだろう。

どうせコイツの自慢話なんだって事は分かってるけど、それで少し気になる。



「……なんとッ! ついに明日から、ぼくの乗合馬車の運行が始まるのデス!」

「ほぅ、初仕事か」

「頑張って、轟!」

「ありがとう! 頑張るのデス!」


少し緊張したような表情を見せ、轟は僕達にそう言った。



ふーん、初めてのお仕事か。

そういえば僕にも『初めての狩り』ってあったんだよなー……。



ふと、僕の『初めての狩り』を思い出す。


あの時の僕は、まだ独りの頃だ。

草原のド真ん中でディグラット相手にグルグル回って撹乱作戦をやっていた。

……生きる糧を得るために必死で獲物を狩っていたんだけどさ。今思えば恥ずかしい事この上ない戦法だよね、全く。



「ところでよぉ、轟が運転するバスはどこ行きなんだ? 場合によっちゃ、俺も商会の仕事で世話になるかもしれねぇからな」

「バスじゃなくて乗合馬車なのデス! そこは間違えないで欲しいのデスッ!」


そこは輸客商人のプライドが許さないようだ。


「あぁ、ゴメンゴメン。それで、轟の馬車はドコ行きなんだ?」

「フフフッ、それはですね……ぼくが担当するのは『東系統』、王都とフーリエを往復する乗合馬車なのデス!」



へぇ、『東系統』か。

王都とフーリエを行き来するのか。






って……



「マジ!? フーリエ行くの!?」


思わず叫んでしまった。



「はい、行くのデスよ!」

「ど、どうしたよ計介!? いきなり叫んでビックリするじゃねぇか」

「あぁ、済まんアキ。実は、僕達の次の行先もフーリエでね」

「本当デスか!?」

「「おぅ(ええ)」」

「偶然の一致なのデス!」


なぜか轟とのハイタッチが始まる。



「それなら、是非ぼくが運転する乗合馬車にご乗車下さい! 初仕事に知り合いが乗ってくれたら心強いのデス! きっとぼくの緊張も解けるのデス!」


ナイスタイミング、轟。正に『渡りに船』って感じだ。

それに、どうせフーリエまで行くんなら赤の他人の馬車より轟の方が断然良いしな。



「どうですか、数原くん?」

「そんじゃあ乗せてもらおうかな。アークはどうだ?」

「わたしはケースケに付いて行くわ」


おぅ、そうか。



「まぁ、シン達も大丈夫だろ」

「そうね。彼らなら嫌とは言わないわ、きっと」

「よし。そんじゃ……お願いしようかな、轟」

「ありがとうなのデス、数原くん!」

「わたしからもよろしくね、トドロキさん」

「……っ! こ、こちらこそよろしくなのデス! アーク様!」

「……う、うん」


だからアークを様付けで呼ぶな!






……まぁ、色々とあったけどとりあえずフーリエまでの足が見つかった。


「それでは、数原くん」

「ん?」

「ぼくの馬車は明日8時丁度、東門前の広場を発車するのデス。遅れないように来て欲しいのデス!」

「おぅ、分かった」

「分かったわ」

「フーリエまでの安全で快適な旅をお約束するのデス!」

「おぅ。頼んだぞ」

「ハイッ!」


いやー、運が良かった。

馬車や護衛依頼を探す手間が省けたよ。

まぁそれなりの金額の馬車賃を払う事にはなるだろうけど、それも轟へのご祝儀だと思えば問題無いしな。



「けど、計介も忙しいな。昨日戻ってきたと思いきや、明日また出発かよ」

「まぁ、元から僕達の目的地はフーリエだからな」


王都には帰ってきたけど、今の僕達からすれば経由地でしかないのだ。



「そうか。まぁ俺には分からねぇけど、きっと冒険者ってのは忙しいんだな」

「まぁね」


……まぁ、フーリエに行く目的は至って個人的。ただ『強い魔物を求めて』ってだけだ。

特に仕事とかではないし、全く以って忙しくはない。



「成程! さすが血に塗れし狂科学者ブラッディ・マッドサイエンティストの異名を持つ冒険者、仕事もドンドン入ってくるのデスね!」

「…………お、おぅ」


もう面倒くさいから適当に答えちゃった。

勿論、仕事が入ってきた事なんて無い。

『えぇっ!?』といった顔でアークがこちらを見てくるんだけど、もうそれも無視だ無視。



「数学者にして人気冒険者、これはもう————

「ちょっと良いかな、店員さん」


おっと、後ろからお客さんがやって来た。



「あ、ハイ! こちらでお受けするのデス!」

「あぁ、お客様か」


するとお客さんを前にした轟のスイッチが切り替わり、仕事モードに入る。

今までのパッとしない男の子とは異なり、今では見た目シッカリとした店員だ。


……あんな乗り物オタクの轟も、今や一人前の輸客商人。

邪魔しちゃいけないな。



「そんじゃ、轟の邪魔にならねぇように俺達はそろそろ退散するか」

「そうだな」

「一声掛けてから他の所行くか」

「おぅ」



という事で、とりあえず轟とお客さんの話が切れるのを見計らう。


机の上の紙を指差し、何か喋る轟。

頷くお客さん。

再び喋る轟。


……そして、お客さんが一礼して立ち去る。



よし、今だな。


「じゃあ轟。俺達は行くぜ。またな」

「じゃあまた明日。馬車頼んだぞ」

「トドロキさん、お仕事頑張ってね!」

「ハイッ! ありがとうなのデス! また明日!」



そう一声掛けて、僕達は『スタンダー輸客会社』の店を立ち去った。






……にしても、途中で切られた轟の一言、なんだったんだろう?

いつもお読み頂き、ありがとうございます。


今週の土日ですが、僕の都合により臨時で投稿をお休みさせて頂きます。

お楽しみにされている方々には大変申し訳ありませんが、どうかご容赦ください。




皆様、良い三連休をお過ごし下さい。

それと少し早めですが、メリークリスマス!

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更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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