11-15. 用役
……フゥ。
さっきは冷や汗モノだったな……。
あの後結局、アキが『計介は昔っからこういう所あるからさ。許してくれねぇか、アーク』とフォローを入れてくれたお陰で、なんとかアークの殺気は収まった。
『分かってるわ。こういう所はあるけど、ケースケは優しい人だって』とアークもネックレスを見ながら言ってくれた。
良かった。
なんとかアークも落ち着いてくれて。
いやー……。
17年間生きてきたけど、あんなビリビリとした殺気を感じたのは初めてだ。
怖かったよ、本当に……。
ま、まぁ、僕の心臓はしばらくバクバク言ったまんまだったけど、アークも落ち着いた所で僕達3人の魔道具屋巡りは再開した。
休暇2日目、10:46。
「よし、じゃあ次の店行くか」
商品を粗方見終わり、次の店に移る。
テーブルには魔道ロウソクとか魔道ランプとかが並んでいる。
「この店は……『照明関係』か」
…………って、これ見覚えがあるな。
「ケースケ、ここってわたし達が最初に来た店よね」
「うん。僕も思った」
「魔道具ブースを見終わっちまったようだな」
気付いたら僕達は『魔道具』の幕が掛かる柱を一周し、魔道具屋を一通り見て回っちゃったようだ。
「もう一周したのか。なんか短く感じたな」
「けれど、もう2時間経ってるわ」
「え、そんなに!?」
近くにあった時計を見ると、10:47を示している。
僕達が組合本部に入ったのが8時半頃だから、移動時間を入れればピッタリ2時間くらいだ。
……こんな猛スピードで過ぎ去って行くなんて。
『楽しい時間』、恐ろしや。
「もう2時間か。早いな」
「俺もそう思うぜ。やっぱり魔道具って、並んだ商品を見てるだけでも楽しめるしな」
「確かに。特に掘り出し物の店とか、訳分からな過ぎて逆に面白いよね。ついつい僕達の足も止まっちゃうし」
「あー、アレだな。『親指』の魔道具とかだな」
「そうそう」
「フフッ、あれは面白かったわね」
今話しているのは、掘り出し物を扱う店で売ってた『親指』の魔道具。
見た目はゴム製で普通の指サックだ。親指に差して使うらしい。
そんな『親指』だが、只の指サックじゃない。実はコイントス専用の魔道具なのだ。
親指に嵌めると、魔力を吸収して親指のATKを強化させる。コレを嵌めてコイントスをすれば、コインを超高く弾くことが出来るようになるという、そんな魔道具なんだって。
「アレなー。店員さんに実演してもらった時は笑っちゃったよな」
「わたしも。すごい勢いでコインが飛んだもんね」
「俺もだ。こんな高ぇ天井のギリギリまでコインを飛ばすなんて、考えられねぇよ」
「中々な無駄機能だな」
「そんな事言ってあげんな、計介。あの魔道具だっていつか陽の目を見る時が来るさ」
そうだな。
失礼なことを言ってしまった。
済まんな、親指。心の中で謝っておくよ。
「結局、計介は魔道ロウソクにしたんだな」
「おぅ」
ってな訳で、魔道具屋を一通り見た結果、結局最初の店で魔道ロウソクを何本か買っておいた。まぁ手頃な値段だったし、割と便利そうだからな。
「どうせなら魔道ランプにすりゃ良かったんじゃねぇのか?」
「んー、まぁランプだと普段から魔力を溜めておかなきゃいけないし。面倒だなーって思って」
「出たな、計介の面倒臭がり」
「その点、魔道ロウソクは火を点けるだけでオッケーだしね」
「……まぁ、好みは人それぞれだし、計介がそう言うんなら」
そんな感じで魔道具のブースともお別れしたを僕達は今、アテもなくブラブラしている。
「……ところで計介。俺達、今どこに向かってんだ?」
「分かんない」
「分かんないって……行先は決まってねぇのか?」
「おぅ」
「自信満々に言うんじゃねぇよ」
「じゃあ……アキ、どこかアキのオススメは無いの?」
「良いわね。わたしもアキさんのお薦め、気になるわ」
「えっ、俺のオススメ!?」
今度は行先をアキに決めてもらう作戦だ。
僕とアークが期待の眼差しをアキに向ける。
それを見て、困った表情を浮かべるアキ。
「お、俺のオススメって……じゃあ、計介とアークは何か『コレ欲しい!』ってモンは無ぇのか?」
「「無い!」」
僕とアークが同時に答える。
『欲しい物は無い』と言ったら勿論ウソだけど、それもアキのお薦めを聞き出すためだ。
アークと一緒にパチこいちゃった。
「まさか2人揃って『無ぇ』とは…………お前ら、口裏合わせたな?」
「「いや」」
これはホントだ。
「ハァ、そうかよ…………で、本当に欲しいモンは無ぇのか? 計介、アーク」
「「無いッ!」」
これはウソだ。
「……なんだよ、その息の合い方は……」
そして、僕達の返答で更に頭を悩ませるアキ。
完全にアドリブだったけど、まさかあんなにアークと答えがピッタリ合うとは。
僕もビックリだ。
「ハァ……、組合本部ってのは欲しいモンを買うための場所なんだけどな」
アキに呆れられてしまった。
……確かにそれはゴモットモだけどさ、今更こちらも後には退けないのだ。
ウソは貫かせて貰おう。
「……計介、アーク、本当に欲しいモンは無ぇんだな?」
「「おぅ」」
「……分かった。そんじゃ、とりあえず計介の行くべき所に案内してやるよ」
「「おぉ!」」
「但しッ! 絶対文句言うんじゃねぇぞ」
「「おぅ」」
「そんじゃ、行くか」
ヨシッ!
やっとアキが折れてくれた。
アキのオススメ、どんな所なんだろうか。
……それにしても、『僕が行くべき所』か。
まぁ、アキとは小学校からの付き合いだ。彼なら僕の好みは結構把握してるハズだし、これは期待だな!
休暇2日目、10:58。
なんとかアキのオススメを聞き出す事に成功した僕達は、アークと共にアキの背中を追いかけていた。
魔道具店のエリアを抜け、『木工・石工』や『宝飾』の幕が掛かった柱も通り過ぎる。
そしてその先、僕達の前に立つ柱は『用役』だ。
……ヨウヤク?
見た事無い単語だ。なんて読むんだろ。
「アキ、あの柱に掛かってる……『ヨウヤク』ってどんなブースなんだ?」
「計介、あれは『用役』だ。用役ってのは……言い換えれば『サービス』だな」
「サービス……成程な。じゃあ、あのブースは『サービス業』って事か」
「そうそう」
『サービス業』なら聞いた事がある。
確か……現代社会の講義だっけな。
寝てたから良く覚えてないけど。
そんな事を考えつつ、僕達3人は用役のブースに入る。
にしても、サービス業の店か……。
「アキお薦めのお店って、何を売ってるんだ?」
「それは勿論、決まってんじゃねぇか。『着いてからのお楽しみ』ってヤツだろ」
前を歩くアキが振り向き、笑ってそう言う。
さっきのお返しと言わんばかりの、勝ち誇ったような笑顔だ。
クソッ、焦らしやがって……。
「……って思ったんだけど、もう着いちまったようだな」
「着いたんかい」
「どのお店がアキさんのお薦めなの?」
「それはだな……アレだ!」
アークの問いに、アキが指差しながらそう言って答える。
「どれどれ……?」
アキの指差す先には。
「『スタンダー輸客会社』?」
「おぅ、そうだ」
コレがアキお薦めの店か……。
……うーん。
特に心が惹かれる訳でもないんだけど。
「なぁ、アキ。この店のドコが僕にオススメなんだよ?」
「……まぁ、オススメと言うよりは計介が来るべき所だな」
来るべき所……?
「見てみろ、あの店員」
「ん?」
アキに促され、『スタンダー輸客会社』のカウンターに立つ店員を見ると。
「数原くん、久し振りなのデスッ!」
そこには、見慣れた顔の男の子が僕に向かって手を振っていた。
「おぉ、轟じゃんか!」




