11-14. ライター
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謎の一文を修正。
「(ケースケからのプレゼント……)」
ネックレスをプレゼントした後、僕とアキ、アークの3人は再び歩き始めているんだが。
アークの機嫌が物凄く良いようだ。
歩きながら首に掛けたネックレスを揺らしてみたり。
赤い魔力結晶を眺めて何か呟いていたりしている。
「アークが喜んでくれて何よりだな」
あんなに気に入ってくれると、僕も嬉しいな。
「やるじゃねぇか計介。あんなにカッコ良い計介を見たの、いつ以来だっけな」
「舐めんな。アキの居ない所でも案外頑張ってんだぞ」
「済まねぇ済まねぇ、分かってるよ。じゃなきゃ血に塗れし狂科学者なんて渾名、貰えないもんな」
「まーた僕の事バカにして……」
まぁ良いけどさ。
「……まぁとりあえず、色んな店を見ていこうか」
「そうだな。計介のお目に敵う商品もまだ見つかってねぇし」
「おぅ」
って事で、魔道具探し再開だ!
「ココの店は……何の専門店なんだろ?」
テーブルに並ぶ商品を眺めていくと。
蛇口に、団扇に、ライターに……。
なんだか纏まりが無い。
魔道具の雑貨屋なのだろうか?
「多分、面白ぇモンを寄せ集めた掘り出し物の店だな」
「成程な。アキがさっき言ってたやつか」
「そうだ。他の店じゃ扱わねぇような『変わったモン』がこういう店に集まってんだ」
「ほぅ。そんじゃちょっと見てみるか」
「そうね。ケースケの気に入る物もあるかもしれないし」
テーブルに近寄り、商品を見てみる。
「コレは……至って蛇口だな」
まず最初は、テーブルの一番左端に置かれた蛇口。
見た目は普通の蛇口だ。
水道の壁から蛇口の所だけ引っこ抜かれたような感じの商品。
……てか、コレに魔道具の要素を見出せない。
「なぁアキ。そもそもコレって魔道具なの?」
「だろ。もしコレが普通の蛇口だったら、多分ココはホームセンターだ」
確かに。
「わたし、使った事あるわ。根元を握ってハンドルをひねると水が出るの」
「「へぇ」」
アークが説明しているのを見てか、店のオバさんが僕達に蛇口の使い方を実演してくれた。
蛇口の根元、壁にくっ付いてる側をガッシリ掴んだ。
蛇口の口を床のバケツに向け、ハンドルを捻った。
水が出た。
「「「おぉぉ!」」」
水が出た瞬間、少し感動して僕達の声が漏れる。
まるで『手から水を出すマジック』みたいな感じだな。
すると、調子に乗ったのかオバさんは更にハンドルを回し始めた。
チョロチョロとしか出ていなかった水が、次第にドボドボと音を立ててバケツに溜まっていくようになる。
「「凄い!」」
予想の上を行く水量に、ついアキと一緒に叫んでしまった。
それを見たおばさんは、満足気な表情でハンドルを回し、水を止めて蛇口をテーブルに置いた。
そして、少し疲れた表情を見せてグッタリと椅子に座ってしまった。
……ん、どうしたんだろう?
「ほぅ。なかなか便利じゃねぇか。どんな構造なんだ?」
「根元を握った手から魔力を吸って、水に変換するって魔道具らしいわ。でも水を出せば出すほど魔力も吸われていくから、沢山水を出すと結構疲れるの」
「成程な。けどまぁ、水が必要な分だけ使えば問題無ぇよな」
「そうね」
あぁ、だからオバさんは少し疲れてたんだな。
にしても、コレがあれば歩き旅でも水に困らないな。
使い方も簡単だし、非常時にも使える。
「コレ良いな。値段もまぁ安いし、買おうかな」
「……わたし達は要らないと思うけど。ケースケ」
アークに反対されてしまった。
「ん? なんでだ?」
「コースに【水源Ⅵ】を使って貰えば良いじゃない。これを使わなくても」
「…………あっ」
……そうだった。
うちには優秀な水系統魔法使いが居るんだった。
コースにお願いすれば、こんなモノは不要だ。
「確かに」
「計介、もしかしてお前……コースの事忘れてただろ?」
「あーあ、コースがかわいそうね」
「もしここにコースが居たら、絶対怒ってたよな」
「…………いやいやいや、そんな訳無いじゃんかー。大事な大事な僕の学生を、まさか忘れるだなんて事は」
「…………ハァ、まぁ良いよ。計介は昔っからそんな奴だし」
……うまく誤魔化せたかな。
ま、まぁ、そんな訳で次の商品だ。
「次は団扇か」
「コレはー、【鑑定】っ…………ほぅ。『軽く扇げる団扇』らしいぞ」
アキがそう言う。
「計介、ソレの柄って金属製だろ?」
「おぅ」
細い円筒状の柄は銀色に光っている。
コレは……ミスリルかな? テントの骨組みと同じ感じの色だ。
「そこがミスリルで出来てて、そこを通して手から魔力を吸うんだってよ」
おっ、ミスリル当たった。
「で、吸った魔力で【風源Ⅲ】を発動するらしい」
成程な。
魔法を使って風を起こす分、同じ力で扇いでも普通の団扇よりも風が出る。
だから『軽い力で扇げる』って訳か。
「じゃあ、原理は蛇口と一緒か」
「まぁそうだな」
へぇ、面白そうだ。
……けど少し高いな。
一応、コレも頭の中のリストに登録っと。
「そんじゃ次は……」
「コレだな」
アキがそう言って指差す、その先には。
「普通のライターだな」
日本でもよく見たライターだ。
コンビニとかでも売っていた、お馴染みのヤツ。
ケースは色付きの透明で、中身が透けて見える。
……のだが。
「なぁアキ、これオイルが入ってないぞ」
「えっ、そんな事は無ぇだろ。見せてみろよ」
「はいコレ」
「…………本当だ。中身カラッポなんて、まさか不良品じゃねぇか!?」
「いや、それが普通よ」
不良品発見と騒いでいる僕達に、アークが入ってくる。
「ん、そうなのか、アーク?」
「ええ。この中に入ってるのは魔力結晶で、手から吸った魔力をそこに貯めるの。スイッチを押すと、上の金具の所で魔力が【火源Ⅰ】に変換されて火が点くわ」
「「へぇー」」
成程な。
日本ではこういう形のオイル式のライターって、結構すぐ切れちゃうらしいからな。新しいのに買い替えなきゃいけないのも面倒臭そうだし。
けどコレなら買い替え不要だ。自分の魔力を流せばいつまでも使える。
そして安い。
よし。決めた。
「コレも便利そうだし、買おうか————
うっ…………
そう言った瞬間、背後からタダならぬ殺気を感じる。
無意識に背筋がピンと張る。
な、なんだ一体……ッ!?
「…………計介、学習しろ。ソレは何だ?」
「……ライターです」
「…………何のための物だ?」
「……火を点けるための————
あっ……。
またやってしまった……。
しかも今回は本人の目の前で。
殺気の発信源は、僕の後ろに立つアーク。
……怖すぎて振り返れない。
「そ、そうだそうだ。勿論僕には要らなかったな。なんたってうちには優秀な火系統魔術師さんが居るし」
棒立ちのまま、真正面を向いてそう言う。
……けど、もう2回目だ。
必死に誤魔化してみるけど、流石に効かないかな。
ガシッ
「うぉっ」
殺気は消えない。
それどころか、右肩を後ろから強く握られる。
その瞬間、殺気立ったアークの表情がふと蘇る。
護衛任務中、カーキウルフに腕を噛まれた時の事。
こちらに槍を向け、長い赤髪は乱れ、淡く赤に光る眼でこちらを睨んでいたアークの顔…………
ヤバいヤバいヤバい!
今ここでアークに殺される……!!
しばらく肩を掴まれたまま気をつけの姿勢でプルプル震える。
1秒が凄く長く感じる。
そのまま時間が経つこと数秒、後ろから声が掛けられた。
「…………まさか、わたしの事忘れてなんかないよね?」
「……お、おぅ。勿論だよ、アーク」
「そう。……【火系統魔法】の適性も低くて【火源Ⅴ】と【火弾Ⅱ】くらいしか使えない火系統魔術師だけど、そう言ってくれると嬉しいわ」
「…………おぅ」
………………もう絶対、こんなミスしない。




