11-13. 魔道具
残念ながら組合本部に入場して早々、はぐれてしまった。
『はぐれないようにな』って言ったばっかりなのに。
「……お、おい! シン! コース! ダン!」
…………呼び止めようとしたが、結局人混みに紛れる3人から返事は帰って来なかった。
「……行っちゃったわね」
「おい計介……、一緒に見て回るんじゃなかったのか?」
「…………いや、僕もそう思ってたんだけど」
組合の入口には、僕とアキ、そしてアークの3人が取り残されてしまった。
「…………とりあえずアキ、どうする?」
「この3人で回るか」
「そうね」
ってな訳で、結局取り残された3人で市場を見て回る事になった。
とりあえず僕が「魔道具ブースに行きたい」って提案したので、『魔道具』の幕が掛かった柱に向かって歩いている。
「……ケースケ、シン達は放っといて大丈夫なの?」
「ん? アイツらなら大丈夫だ、アーク。見つけようと思えばすぐに見つけられるから」
「やけに自信満々じゃねぇか、計介」
「おぅ。アイツらがとる行動は大体把握してるからな」
コースは大体、服屋の辺りを探せば見つかる。
ダンは食いモンの辺りに居るハズだ。特に肉系統の所。
シンは剣とか防具とか、その辺だな。真面目なシンなら、彼自身の得物について見て回っていることだろう。
ファクトでも風の街・テイラーでも、彼らの行動は大体こうだったからな。
「…………まぁ、そんな感じかな」
「結構単純なのね」
「ほぅ、流石アイツらの先生だな。よく分かってんじゃねぇか」
「勿論」
1ヶ月以上、3人とは一緒に居るのだ。
ある程度の人柄とか、好みとかなら分かるさ。
「おっ、あの店『魔道具』って書いてるぞ、アキ!」
「あぁ、着いたか。魔道具屋はこの辺だな」
そんな話をしているうちに、魔道具のブースに到着。
見上げれば、『魔道具』の幕が掛かった太い柱。
「じゃあ見て回るか」
「ねぇ、ケースケ。あなたは何かお目当ての魔道具は有るの?」
「…………ない」
「無ぇのかよ」
「フフッ。あれだけ『魔道具魔道具』って言ってたのにね」
「いや、面白いモノとか便利そうなモノがが有ったら買おうかなって思って」
「……まぁ、買い物なんてそんなモンか」
「そうね。適当にお店を見て回るのが楽しいのよね」
「そうそう。ウィンドウショッピング的な感じで」
よし。
じゃあ、そんな感じでウィンドウショッピングを楽しみますか。
机に並べられた商品を眺めつつ、ゆっくりと歩く。
「ココは照明関係を取り揃えている店か」
「このロウソクは……『魔道ロウソク』って言うのか」
「ロウソクの芯に【光源Ⅰ】を練り込んであるんだとよ。火を点けると【光源Ⅰ】を発動しながら芯が燃えていくから、凄く明るいらしいぞ」
「へぇ。野宿する時には便利そうだな」
「まぁ、普通のロウソクよりは割高だけどな」
それは仕方ない。金額については僕も覚悟している。
けど、やっぱり面白そうだな。気になる。
『魔道ロウソク』、頭の中のリストに追加しとこう。
「ケースケ、見てコレ。『魔道ランプ』だって」
「あぁ、コレな。見たことあるぞ」
「マジか。いつ見たんだ、計介?」
「アレアレ、この前の迷宮合宿の時。盾本が持って来てたんだよね」
「へぇ、アイツやるじゃねぇか。こんな割と高価な物を買うなんて」
「だよね。結構明るくて、良いなーって思ったんだよな。ちなみに、コレってどう使うんだ?」
「えーっと……ここに魔力を流すと、内部の魔力結晶に魔力を溜められるらしいわ。このスイッチをが点灯・消灯の切替ね」
「成程。乾電池とかは要らないんだな」
うんうん。コレも便利だな。
旅の最中でも、歩きながら魔力を溜めたりしておけば問題ない。
『魔道ランプ』、頭の中のリストに追加だ。
さて、一通り見ると隣の店に移る。
「ここは……『魔力結晶』の店か」
「おぅ。魔力の充電池みてぇなモンだな」
「それじゃあ、魔術師のわたしとコース向けのお店ね」
「え? アークは戦士じゃねぇのか?」
「「あぁ……」」
そう思うよね。僕も最初はそう思ったよ。
けど、人を見た目で判断しちゃダメなのだ、アキ。
「その背中に背負った槍、アークの職は『槍術戦士』なんじゃ————
「ハッハッハ、残念だったな秋内くーん」
「わたしの職は『火系統魔術師』なの」
「…………マジで!?」
「そうよ」
それを聞いたアキは、ショックで固まっていた。
まぁ、そんな事は置いといて。
テーブルいっぱいに置かれていたのは、透明な水晶玉。
色々な大きさがあり、左から小さい順にキレイに並べられている。
「魔力結晶の専門店か……」
……多分さっきアキが言ってた『攻めた店』ってのは多分コレだなって思った。
「【鑑定】っ……」
そんな事を考えている僕の隣で、商人の必需品・【鑑定】を使って品物の質を確かめるアキ。
「……成程、そこまで純度は高くねぇか。廉価版だな」
「安めのヤツって事か」
「そうだ」
机に置かれたボードには、サイズごとに値段が書いてある。
最小でピンポン球サイズ・銀貨6枚。
最大でボウリング球サイズ・銀貨60枚だ。
「やっぱり、高純度の方が高価なの?」
「勿論。純度の高ぇ方が沢山の魔力を蓄えられるからな。だけど初心者魔術師や値段との兼ね合い、結晶が壊れた時の危険性とかも考えて、敢えて安いモンを買うって人も少なくねぇぞ」
成程な。さすが商人、詳しいな。
確かに小さめのサイズでもそれなりに値が張るし、迷宮合宿で見た魔力結晶の爆発は半端じゃなかった。
廉価版でもそれなりに買い手は居るんだな。
……まぁ、残念ながら僕の心は動かされなかったので通過。
さてさて、次だ。
「わぁっ、キレイ……!」
次の店に移るや否や、アーク勢い良くテーブルに近寄る。
おもちゃ売り場の子どもよろしく目を輝かせてテーブルの品物を眺めている。
「おっ、次の店はネックレスか」
どうやら、この店はネックレスを揃えているようだな。
ミスリル製の細い鎖と台座、そして台座には様々な色の宝石が嵌められている。
透明なモノや鮮やかな赤、深い青、うっすらと模様の入った緑や琥珀のような色の物と、数多く揃っている。
「【鑑定】っ…………ほぅ、中々凄ぇじゃねぇか」
「どうした、アキ?」
「このネックレスの宝石だけど、全部魔力結晶のようだぞ。色付きは系統魔法に、透明は特殊魔法や戦士スキルに相性が良いんだってよ」
「へぇ」
多分、赤は火系統、青は水系統、……って感じだろうな。
僕が使う【演算魔法】は特殊魔法だから、透明だな。
「それに、コレはさっきの店より純度が高ぇ。この小ささでも、廉価版りんごサイズの魔力結晶と同じくらい溜められんじゃねぇかな」
「マジかよ。有能だな」
「まぁ、その分値段は凄えけどな」
りんごサイズって言ったら、さっきの店でも中くらいの大きさだ。
値段は確か……銀貨25枚だったかな。
こんな小さい宝石がりんごサイズの魔力結晶と同じ能力か……。
「ねぇケースケ」
「ん、どうしたアーク?」
「わたし、これ買うわ!」
そう言って指差すのは、赤い涙型の結晶が嵌められたネックレス。
「キレイだし、わたしの戦うスタイルだと魔力切れも良くあるしね。それに凄くキレイだし」
……そっすか。
ま、まぁ、お気に召した物があって良かったね。
すると、それを見た店のおじさんがアークにネックレスを試着させてくれた。
アークがおじさんに「ありがとう」と言って、こちらに振り返る。
「どうかな?」
そう言い、鮮やかな赤髪を靡かせて振り向くアーク。
その胸元には真紅の宝石が揺れている。
……なんか、アレだな。
普段から既にお嬢様のような雰囲気が出てたけど、更に上品になった気がする。
「おぉ、ピッタリだ! 可愛いじゃねぇか、アーク!」
「良いじゃん、似合ってるよアーク」
「えっ…………!!」
僕達がそう言うと、アークは手で顔を覆ってしまった。
「ん、どうしたアーク?」
「……ぃ、ぃゃ……、ぁ、ぁりがとっ……」
顔を覆ったまま、消えそうな声でそう言うアーク。
顔や耳、手まで真っ赤になっちゃってる。
「そんじゃ、会計済ませといてな。僕達は待ってるから」
「…………あっ、そ、そうね」
そう言ってアークは一度ネックレスを外し、おじさんに手渡す。
そのままリュックを下ろして財布を取り出すようだ。
僕達はアークの邪魔にならないように、店から少し離れて待つ事にした。
通路の真ん中らへんでアークの会計を待っていると。
「おい計介、憧れるじゃねぇか」
「ん? 何が?」
憧れる? なんだろ。
もしかしてアキ、まだ【解析】欲しがってんの?
「【解析】は残念ながらあげられないな。【鑑定】で我慢しなさい」
「いや、そうじゃねぇよ。こんな異世界に来て、あんなアークみたいな可愛————
「…………あ、あれ?」
アキの話してる最中に、アークの声が聞こえて来た。
ふと、店の方を振り向く。
「け、ケースケ……」
「どうした?」
「財布、宿に置いて来ちゃったみたい……」
「あらま」
「大変じゃねぇか! 中身スられたりして————
「それなら大丈夫。宿のオバちゃんはそんな事しない人だから」
「……そ、そうか」
財布の心配ならご無用だ。
けど……忘れちゃったのか、アーク。
そんなら……
「僕が買ってあげるよ」
ここは男らしく行きますか!
『だったら最初から僕が買ってあげりゃ良かったじゃんか』って話だけど、そこはご勘弁願おう。
「えぇっ…………!?」
僕がそう言うと、再び顔を覆って首を横にフリフリするアーク。
「うぉっ!?」
そう言って驚き、ニヤけるアキ。
……なんだよ、2人してこの反応。
カオスだな。
「……良いの、ケースケ?」
「おぅ」
アークが指の間からこっちを見て言う。
昨日のレストランといい、今のコレといい……僕の財布の紐が緩みつつあるなって自覚はあるけど、そんな事は気にしない。
「……わたしの方がケースケよりお金持ってるけど」
「……………………大丈夫」
いや、そうだけど。
そうだけどさ。
間違いないけどさ。
……そんな事言わないでくれよ。
気まずくなっちゃうじゃんか。
だが、僕はそんなんじゃ折れない。
「まぁ……これからも一緒によろしくな、って感じの贈り物だよ」
「…………」
「だから、受け取ってくれ。アーク」
「……う、うん。ありがと、ケースケ」
赤みがかった黒い瞳が真っ直ぐ僕を見て、そう言った。




