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11-12. 組合

休暇2日目、8:23。



「もうそろそろだぜ、計介」

「おぅ」

「ねーねーアキさん、見えてきた?」

「いや、まだ見えねぇな。けどもう直ぐで見えてくんじゃねぇかな」

「わかったー!」



さて、朝っぱらから大きなトラブルがあったけど、なんとか一件落着。

北門通りもいつも通りの感じに戻ったようだし、僕達も改めて今日の目的地の『商工組合本部』に向かっている。


「なぁアキ。組合本部ってどんな感じのトコなんだ?」

「んー、そうだなぁ……お前さぁ、東京見学で市場に行ったの覚えてるか?」

「……まぁまぁ」

「あんな感じだ。街区を丸々一つ使って出来た、いわば市場みたいな所が組合本部だな。同業者同士が一室を借りて共有の会議室を作ったり、まだ自分の店や露店を持てねぇような人が場所を借りたりする事が出来んだ」

「ふーん」

「まぁ、産業人の(ジョブ)を持つ人達が集まる場所が組合本部って感じだな」


へぇ、市場みたいな感じなんだな。てっきり役所みたいな所なのかと思ってたよ。

アキ曰く、イメージは市場。あの東京にある日本一有名な市場みたいな感じだそうだ。

まぁ結構前に移転して今は無くなっちゃったけど、ああいう感じの所は僕は好きだったな。






「おっ、でっけえ建物が見えてきたぞ!」


そんな事を考えていると、ダンがそう叫ぶ。



「アキさん、アレが組合本部なの?」

「その通りだぜ、アーク」

「うわっ、デッカーい!」

「随分と大きな建物ですね!」



皆の声につられてふと目を上げると。


そこにあったのは、巨大な建物。

正にアキの言った通り、王都の北側の街区を一つ丸ごと使って建てられた、大きなホールみたいな建物だ。


……が、もう建物とは言えない。

アキが『建物』だって言うから建物なんだろうけど、こっから見ると只の壁だ。

ガラス窓が幾つか出来ただけの、石造りの高い壁だ。

もし『これが王都の外壁です』って言われても、僕は信じる自信がある。



「……アキ、こっからだとコレが建物なのか壁なのか分からない」


田舎の方が初めて郊外の巨大ショッピングモールを見た時って、きっとこんな気持ちなんだなって事が分かった。



「…………俺もだ。初めて先輩に連れて来られた時はそう思った」


だよね、やっぱり。

建物の異常な大きさに、驚きを通り越して微妙な気持ちになってしまった。






組合本部の建物沿いの道を歩き、入口へと向かう。


「魔道具、楽しみだねー!」

「おう! 俺もワクワクだ!」

「そうですね、コース、ダン。私達もそれなりにお金が貯まっていますし、良い物が有ったら是非買いましょう!」


学生3人が僕達の後ろでそんな会話をしている。

そうだよ、魔道具だよ魔道具! 

さっきのトラブルのせいで忘れてたけど、僕も凄く楽しみだ。

金ならそれなりにあるし、僕も気に入ったのが有ったら買っちゃおう。



「着いたぞ、計介。入口だ」

「おっ」


そんな事を考えつつ組合本部の建物沿いを歩いて行くと、アキにそう声を掛けられる。

目の前には、壁のような建物の中に口を開く、入口。



「「「「「おぉぉ……」」」」」


6人揃って組合本部の入口を眺める。


入口には柱が6本、まるでギリシャとかにある神殿みたいな感じのが立っている。

入口周りの柱や壁、天井には彫刻や石細工で装飾が施され、荘厳な雰囲気を醸し出している。

まるで歴史的建造物の類だ。

この中に市場があるとは、到底考えられない。



「おぉ…………」

「凄えな……」

「豪華な建物ね」


入口の装飾にシン、ダン、アークが思わず息をのむ。



「入口からして凄いな……。まるでパルテノン神殿みたいな感じだな」

「計介、この装飾は石工職人の(ジョブ)を持った職人さんたちが仕上げたんだってよ」

「成程な。凄く出来がいいもんな」

「あぁ。ちなみに、この組合本部は『産業人』が総出で建てたらしいぞ。金融商人が建設資金や土地を調達し、その金で各方面の商人が建築資材や材料を調達する。輸送商人や輸客(ゆかく)商人が資材や人を運ぶ。建築職人が本部の図面を描き、土木職人が建物を建てる。硝子職人が窓ガラスをはめ、織物職人がカーペットを敷き、木工職人や石工職人、宝飾職人が内装を整え、そして組合本部が完成したんだとよ」

「……へぇ」


急にアキの熱弁が始まってしまった。


……いや、凄く熱心な説明は凄く有難いんだけどさ。

長すぎて途中から聞くのをやめちゃった。

適当に返事だけしといた。



「だからな計介、この組合本部は『商人』と『職人』、つまり『産業人』の力が結集して出来たモノなんだ!」

「……お、おぅ」


……そ、そっすか。



そんなアキの熱意のこもった話を軽く流しつつ、入口に足を踏み入れる。

沢山の人が本部に出入りしており、その流れに合流する。

人混みの中には大きな箱を持っていたり、台車みたいな物をゴロゴロと転がしている人も見える。

本当に市場みたいだな。


そんな人々の波に乗って、柱の間を通過。

すると見えてくる、大きな扉。

扉は全開になっており、大きく開いた口を人の波が流れている。



さて、組合本部……どんな所なんだろうか? ワクワクだ。

それと、お目当ての魔道具だ。どんな魔道具があるんだろうかなー?



「この扉を通れば、もう市場だ」


アキの言葉を聞きつつ、扉を潜ると。

そこには驚きの空間が広がっていた。






街区1つ分を丸々覆う、高い天井。

それを支える、太い10本の柱。

その下に広がる、だだっ広いホール。


そして、通路で区画された物凄い数のブースでは、それぞれの店が自信の品を売り出している。



「ぅわぁ……」

「広ーーい!!」

「何だよココ……」

「……」

「うわヤバッ」


予想を上回る規模に、思わず感嘆の声を漏らす僕達。



「計介、凄ぇだろ?」

「……あぁ」


アキの言った通り、沢山の人が市場のように店を並べ、沢山の人が買い物に来ている。

正に『大盛況』そのものだった。



「それに、この大きさに人混み……一度はぐれたら、再会するのが大変そうですね」

「あぁ、確かにシンの言う通りだ。毎日毎日何件も『迷子』、いや『迷大人』が発生してるらしいからな」


マジかい。


「シン、コース、ダン、気を付けてくれよ。迷子にならないようにな」

「「「はい(はーい)!」」」


……コイツら、朝から早速迷子になってるからな。

ホントに頼むよ。

こんな所ではぐれちゃ、シャレにならないからな。




「……にしても、やっぱり凄い数の店だな」

「さっきも言ったけど、ココでは自分の店をまだ持たねぇ人が販売してんだ。ココで商売して、金が貯まったら街に出て自分の店を構える。自分の店を持ちてぇ産業人は、まずはココでデビューするんだぜ」

「成程な」

「だから、街で見かけねぇような店も沢山有るんだ。こう言っちゃなんだが、()()()店や掘り出しモンを扱ってたりする店も意外と有るからな」

「へぇー」


()()()って……そんな事言ってあげんな。

店を出してる側も頑張ってんだよ、きっと。


……でもまぁ、そう言われると逆に気になる。

どんな店が有るのか見てみたいな。






「ねーねー先生、あそこ『魔道具』って書いてあるよー!」

「ん?」


なんて事を考えていると、コースが指差してそう叫ぶ。



「あっ、ホントだ!」

「あそこに魔道具売り場があるんですかね?」


コースの指の先には、天井を支える柱。

柱にはそれぞれ『魚・肉』『青果』『雑貨』『呉服』『木工・石工』『鍛冶』等と書かれた幕が掛けられている。

そして『鍛冶』の柱と『宝飾』の柱の間に有るのが『魔道具』の幕。


魔道具!

あった、魔道具じゃんか!

あの柱の下には、沢山の魔道具専門店が……!!



「ねーねー先生、早く一緒に行こーよー!」

「俺も早く見に行きてえぞ!」

「早く行きましょう!」


学生達の『待て』もどうやら限界のようだ。急かし攻撃が始まる。

こうなったら学生達はもう止まらない。

特にコースは。


……まぁ、ずっと本部の入口で喋ってても始まらないし。

僕も早く魔道具のブースを見に行きたい。

彼らの言う通り、そろそろ皆で行きますか!



「計介のお連れさんもそう言ってる事だし、話もこんくらいにすっか」


おっ。

アキも察しが良くてありがたい。



「おぅ。じゃあ皆、そろそろ行こっか」

「はい!」

「おう!」

「行こ行こー!」

「ええ!」


そんな掛け声と共に、僕達は組合本部へと足を踏み出した。






のだが。


「それじゃあシン、コース、ダン、まずは魔道具の所から――――

「『呉服』行ってきまーす!!」

「じゃあ俺は『魚・肉』の所に行って来るぞ!」

「先生、私は『鍛冶』のブースに!」


……そう言い、僕を残してシンとコースとダンは駆け出した。


シンは鍛冶の方へ。

コースは呉服の方へ。

ダンは食品の方へ。


一目散に、それぞれが行きたい所へと行ってしまった。






「……えぇ」


…………『はぐれんな』って言ったばっかりなのに!

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

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ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
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感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
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どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
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そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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