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11-11-1. 『裏社会に生ける紳士は考える』

⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥











「ハァ、ハァ、ハァ…………」


北門通りから何本か入った所の路地。

朝日が入らずまだ暗い路地に、帽子を被り鞄を持った中年の紳士が入り込む。



「ハァ……、ハァ……、やはり、歳には敵いませんね。あの場を立ち去るために、少し早歩きをしただけだと言うのに、この息の切れようとは……」


息を切らした紳士は、路地に置き捨てられていた木箱に腰を掛ける。

ドスンという音と共に、鞄も床に置かれる。



「ハァ…………、ハァ…………、…………ふぅ」


木箱に座った紳士は、そのまま少し息を整える。



「さて、ここまで来れば誰にも見つからないでしょう」


そして、先程の出来事について考え始めた。











まさか、ヴァート達が直接私に手を出してくるとは……。


今までヴァート達とは因縁が少なからず有りました。

私、レーショが率いる()()()()()()とヴァート率いる()()()()()()は王都の裏社会の二大派閥。裏の王都を握るための喧嘩や殴り合い、奪い合いといったトラブルはよくある事でした。

しかし、どれも一般人の目につかない時間や場所を選んでの事。それはいずれのグループのメンバーでも弁えています。

騎士団に通報されてお縄になるのは勘弁ですし、もしも一般人に危害が及べば人生を棒に振る事になる。

私達のように詐欺や窃盗で稼いでいる者にとっては、群衆ほど恐ろしい物は無いのです。



しかし、今回は異常です。

朝の大通りという、群衆が絶えることの無い場所の、そのド真ん中で。

大胆に私を背中から押し倒し、私達の()()で稼いだ金入りの鞄を狙ってきた。


どうしてそんな強引な行動に出たのか、分かりません。

通行人に怪我を与えることは無かったようですが、もし危害を加えていれば彼らのお取り潰しは免れない。

そんな危険を冒してまで、なぜ私に強盗を仕掛けたのでしょう?



きっと、ヴァート達は焦っているのでしょう。

最近、私達の詐欺グループは調子が良い。詐欺でガッポガッポです。メンバーの腕も良く、カモを見極める目と引き際に関してはプロです。勿論、足跡も残しません。

それに対してヴァート達の派閥は衰退気味。

王都の裏社会のバランスは、徐々に私達に傾きつつある。


だから一発逆転を狙って、この大量の金入り鞄を狙ったのでしょうね。



……まあ、仕事柄私は他人からの恨み妬みを買いやすい。狙われるのも仕方のない事ですね。






しかしまあ、ヴァート達は騎士団に連れられて行きました。

自業自得、結果オーライ。いい気味ですねぇ。

彼らに下される罪は恐らく、強盗未遂。1ヶ月程の牢獄をせいぜい楽しんで貰いましょう。



……さて、疲労もだいぶ回復して酸素も足りてきたので、頭を回して記憶を引っ張り出します。


3人の顔は仮面で見えませんでしたが、会話の内容から察するに先程の面子はヴァートと中堅所のパル、それと最近入った新入りのツイスとかいう若造の3人です。

新入りであるツイスはともかく、窃盗グループのリーダーであるヴァートと中堅所のパルが1ヶ月も抜ければ、グループにとって一大事。

この3人が捕まった事で、おそらく窃盗グループの衰退にも拍車がかかる事でしょう。


この1ヶ月の間に私達、詐欺グループが窃盗グループに大きく差をつけてあげましょう。

フフフッ、そうすれば王都の裏社会を獲るのは私達です……!






しかし、本当に恐ろしいのは釈放後のヴァート達です。

私が推測するに、釈放後早々ヴァート達は『騎士団に捕えられた事のお礼参りに』と仲間を引き連れて私達を襲いに来るはず。

彼はそれなりの理性こそあれど、手段は選ばない男ですからね。何を仕出かすか分からない、それが彼です。

もしもあの巨体の軍勢が私達に本気で襲いに来たら、私などヒトタマリもない。それこそ一瞬でお陀仏でしょう。


……いや、しかしそれも1ヶ月先の事。その間に私達の詐欺グループが力を付けておけば、どうと言った事は無いはずです。


その線で行きましょう。






ふと、足元の地面に置いた鞄が目に入ります。


フゥ……、鞄が帰ってきて本当に安心しました……。

少年達が居なければ、苦労して稼いだ金がヴァート達に掻っ攫われていた所。

そんな事になれば、窃盗グループは一瞬で息を吹き返すでしょう。それこそ、リーダーのヴァートが居なくともなんとかなる程に。


そして今頃私は詐欺グループの皆から大変な目に遭わされている。

特に、蕎麦屋のアリスと焼鳥屋のメティの2人には……。






しかし、無事鞄を取り戻せたとはいえ、一難去ってまた一難。

新たな問題が起きてしまいました。

鞄を取り戻してくれた少年は、よりによって私達がカモと呼んで散々に金を搾り取った少年だったのです。

少年の名は、ケイスケ。


ロクに金の計算も出来ないようで、『焼鳥1本銅貨1枚だけど、5本なら銅貨6枚だよ』という言葉に食いつくようなアホです。

こんなの、もはや詐欺とも言えない。詐欺グループが何アホな事をやってるんだよ、という感じです。

しかし、私達は金を搾り取れるのならそれでも結構。初めて出会ってから1ヶ月間、私が案内したアリスの蕎麦屋とメティの焼鳥屋で毎日毎日十分過ぎるくらい絞らせて貰いました。



ところがある日、突然姿を見せなくなる。

『美味しい美味しいカモよ、どこへ飛んで行ってしまったの』と、そんな気持ちでした。


そして居なくなってから約1ヶ月、今日再び出会ったという訳ですが。

出会ったと同時に、私達にとって彼がとんでもない恩人と化してしまった。


私達の大事な大事な儲けを取り返し、更にはヴァート達のグループの衰退の助けをしてくれたのです。






裏社会の流れを私達へと大きく動かしてくれた恩人が、まさかの私達が搾りに搾ったカモ。

……これは気まずい。気まずさにも程が有ります。


もしもケイスケ君にこの先出会う事が有って、詐欺を働いていた事がバレたら。

本来なら『金の計算も出来ないアホなお前が悪い』と一蹴して逃げれば良いのですが、恩を仇で返す訳には行くまい。

私達詐欺グループにもそれなりの仁義やプライドは有ります。相手が誰であろうと万一そんな事をすれば、『恩知らずな野郎共だ』とヴァート達のグループに付け入られる隙を作りかねません。


裏社会にも、守り貫くべき物はあるのです。



……もうこうなったら、ケイスケ君には詐欺を働いていた事がバレないようにするしか方法は無い。



さて、それではその為に、まず何からすれば良いでしょうか……。











――――紳士はその後も路地の木箱に腰をかけながら、自らの野望と(しがらみ)のために頭を回す。






∫∫∫∫∫∫∫∫∫∫

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
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