11-11. 未遂
ゴンッ!!
「ぁがッ!!!」
【演算魔法】で力・精度共に上がった僕が放ったレンガは、そのまま鞄を持った大男の背中にぶつかった。
大男の背中に着弾したレンガは、文字通り粉砕してしまった。
そんな一撃をモロに受けた大男はバランスを崩し、つんのめって転倒。
彼自身がかなりの勢いで走っていたのもあって、大きな身体がゴロンと一回転する。
そのままもう一回転した所で、やっと巨体が止まった。
鞄も手放され、地面の上に投げ出されている。
「イデデッ…………」
「「ツイス!」」
前を走っていた大男2人も急ブレーキ。
振り返ってそう叫ぶ。
「大丈夫かツイス!?」
「……ヴァートの兄貴、パル、早く逃げてくだせぇ……! オイラなら大丈夫、後から追いかけやすッ!」
「だ、だけどツイス、お前走れんのか?!」
ツイスと呼ばれた下っ端強盗が、膝を抱えて蹲る。
そこに声を掛ける下っ端強盗、パル。
「こんな傷なら、すぐパル達に追いついてやりやすよ」
「そうとは言っても、その傷じゃ――――
「おいパル、テメェは鞄持って来い! ツイスは放っとけ!」
パルにそう叫ぶリーダー強盗、ヴァート。
「あ、兄貴! でもツイスが――――
「ツイスは大丈夫っつってんだろうが! さっさと行くぞ!」
「そうっすパル! ヴァートの兄貴の言う通り、パルは早く行ってくだせぇ!」
「……わ、分かったツイス! 絶対付いて来いよ!」
ゆっくりと立ち上がるツイスに促され、パルは鞄を掴んで立ち上がる。
そして、鞄を持ったパルは先を行くヴァートと共に再び北門通りを駆け出した。
……のだが。
「……逃がす訳無いじゃんか」
北門通りには、さっきとほぼ同じ軌道を描いて飛ぶレンガが1つ。
レンガが真っ直ぐに向かう先には、鞄を持った下っ端強盗・パルの背中。
……アキから直々に受けた指令、『鞄を取り返す』。これを達成するため、強盗達が立ち止まっている間にさっさとレンガの2投目を済ませてしまっていた。
大男同士の茶番に付き合ってやるなんて事は勿論しません。
それに、レンガ山積み馬車に座るハチマキおっちゃんに『やるじゃねえか坊主! もう1回やってくれよ!』なんて言われちゃったり、周囲からも『行けー!』『もう一発!』とかの歓声に囲まれちゃあ、もう1投やるしかなかったよね。
まぁ、そんな感じで鞄を持ったパルの背後には、再び物凄い勢いでレンガが接近中。
……だが、必死に逃げるパルは迫るレンガに気付かない。
「逃げれると思うなよ」
幾ら強盗達の足も速いとはいえ、壊れ性能の【演算魔法】で爆上がりした僕の筋力には及ぶことなく。
一瞬でレンガと強盗達との距離は縮まり……――――
ゴンッ!!
「ぅグッ!!!」
パルの背中に直撃した。
背中に直撃したレンガは、さっきと同じくバラバラに粉砕。
パルは上半身から倒れ込み、豪快に北門通りの中央でヘッドスライディングをかました。
その衝撃で鞄も再び投げ出される。
「痛ってえぇぇ……」
「「パル!」」
再び立ち止まり、振り向いてそう呼ぶヴァート。
やっと立ち上がったツイスもそう叫ぶ。
「おい大丈夫か、パル! どうした!」
「痛たたたたっ……兄貴、俺は大丈夫だ! それより兄貴だけでも、その鞄を……っ!」
「……ツイスに続きパルまでも……」
「とにかく兄貴、早く行ってくだせぇ!」
――――はい、また大男達の茶番が始まりそうです。
2人直撃させたんだから、この際3人纏めてレンガの刑に処そう。
「おっちゃん、レンガもう1個借ります!」
「おうよ坊主! アイツらにブチ当てるためなら幾らでも使いな!」
「ありがとうございます!」
……そのお気持ちはありがたいけど、そう沢山も要らないかな。
【確率演算Ⅰ】があれば100%直撃。1個で十分だ。
まぁ、そんな事を考えつつもとりあえず3個目のレンガを拝借する。
「…………さて」
ヴァートの「チッ、テメエら絶対逃げて来いよ!」という叫び声を聞きつつ、レンガを右手に持ち。
ツイスとパルの「「ぁい!」」という威勢の良い返事を聞きつつ、左足を踏み出し。
「……あの強盗にコレが当たりますように…………」
そう、願いを込め。
「……【確率演算Ⅰ】!」
ブンッ!!
魔法と一緒にレンガをブン投げた。
北門通りの上を飛ぶレンガは、今回もスピードも落とすことなく、ブレることも無い。
流石に3度目だけあって、レンガのスピードや精度に驚くことも無い。僕達の目も少し慣れてきてしまったようだ。
北門通りの左右に居る人々も同じようでビックリするような仕草は見られなくなったけど、さっきと同じく黙ってレンガの行く先を見つめる。
そして、その行く先に居るのはヴァート。
パルとツイスの返事を聞き、今まさに振り返って三度駆け出そうとしている時だった。
「……ん?」
そんなヴァートが、視界をツイス達から上に上げる。
自身に迫る何かに気付いたようだ。
「……ぅおッ!」
だが、時既に遅し。
ヴァートの顔面に向かって真っ直ぐに迫るレンガ。
それを真正面で見つめるヴァート。
……もう避けられなかった。
ゴンッ!!
「何だコぐうぅっ!!!」
残念ながら『何だコレは!!』と言い切ることも許されず、ヴァートは顔面でレンガを受け止め。
「……ガハッ」
バタンッ
……その一言を残し、そのまま仰向けに倒れた。
意識は飛んじゃっているようだ。
「兄貴!!」
「ヴァートの兄貴!!」
パルとツイスの叫び声が北門通りに響くが、ヴァートはしばらく目を覚ますことは無かった。
そんな感じで、なんとか強盗達を捕らえることが出来た。
一時は大変な騒ぎになった北門通りも、一件落着すればいつも通りの朝に元通りだ。
強盗のリーダー格、ヴァートは意識を失ったまま縄で縛られ、強盗未遂で王都騎士団に引き渡された。
下っ端のパルとツイスも、ヴァートを放って逃げる訳にもいかなかったようだ。2人しておとなしく御用となった。
ちなみに、3人には更に僕の【除法術Ⅰ】・ATK2が掛けてある。逃げたり抵抗したり出来る力は無いハズだ。
「ぃよっと……オジさん、鞄だ。随分重ぇな」
「あぁ、ありがとう少年」
鞄も無事帰って来て、アキが鞄をオジ様に手渡す。
「本当に良かった、私の鞄が帰ってきて……少年、感謝するよ」
「いや、取り返して来たのは俺じゃねぇ。礼ならアイツに言ってくれ」
「そうか、そうだね……」
そう言い、おじさんはこっちに向かって来た。
……ん?
この人って、確か見覚えが……
「少年、本当に助かったよ。ありが…………おやおや?」
どうやらオジ様も気付いたようだ。
「レーショさん、ですよね?」
「あぁ! 鞄を取り返してくれた少年はケイスケ君だったのか!」
久し振りの再会だ。
「計介、お前オジさんと知り合いか?」
「ん、あぁ。王城を出て独りだった時にレーショさんと出会ってね。オススメの食べ物屋を教えてもらったんだ」
「ほぅ」
「いや、あの時は腹を空かせた少年を見つけてね、つい私も声を掛けてしまったんだよ。要らぬお世話だったかと思ったけど、そう言ってくれると嬉しいよ」
「こちらこそ、あの時は助かりました」
「なんだか計介が世話になったようだな。ありがとう、オジさん」
「いやいや、気にしないでくれ」
まるで、今回の騒動で恩返しが出来たみたいな感じだな。
「ところでオジさん、朝っぱらから急に強盗に遭うだなんて、とんだ災難だったじゃねぇか」
「え、あ、あぁ。仕方ないよ。アイツらは私達と敵対しているからね」
敵対、か。
また不穏な単語が————
「敵対? ライバル企業みたいな感じか?」
「……ま、まぁ、そんな感じだね」
「ふーん、そりゃ大変だな」
なんだよ、ただのライバル会社か。
……にしても、ライバル会社に強盗を仕掛けるだなんてやり過ぎじゃない? 日本じゃ有り得ない。
けどまぁ、ココはティマクス王国だ。日本の常識は通用しないんだし、コレが王国の『普通』だとしたら仕方ないか。
「ところで少年、それとケイスケ君。私からもお返しをしたいのだが、生憎時間が無くてね。申し訳ないが、先を急がせて貰いたい」
帽子を被り直し、腕時計を見てそう言うレーショさん。
少し行動に慌ただしさが現れる。
「いや、礼なんて要らねぇよ」
「僕達が出来る事をやっただけだし」
「そう言ってくれると嬉しいよ。けど、もし今度出会った時には何かお返しをさせて貰いたい」
「……まぁ、オジさんがそう言うなら」
「では、是非そうさせてもらうよ。では、失礼」
「「おぅ」」
本当に急いでいるようで、そう言うとレーショさんは早歩きで北門通りを歩いて行った。
僕達も返事をして、レーショさんを見送った。
「済まないわね、ケースケ。少し服を見てたわ」
「ねーねー先生、何かあったの?」
「北門通りが騒がしかったようですが……」
「イベントでもやってたのか?」
コイツら……
今頃帰ってきやがって!




