2-3. 服装
焼き鳥を食べ終わり、服を買いに来た。
人々の服装を眺めると、麻の布を使った服が結構多い。
今の王国は春に入った程の季節なのだろう。ぽかぽか陽気という感じだ。
日陰に入れば、少し肌寒い。
まぁ、買う服としては、ここの標準であろう麻の布の服と、羽織るような服が何かあれば十分だろう。
少し面倒になってきたので、適当に目に入った服屋に入った。
割とオシャレな外見をしている。客も男女問わず数人入っているので、そこそこ人気店なのだろう。
「いらっしゃいませ。何をお探しで?」
「あ、えーっと…麻の生地の服一式とコートみたいな上着ってありますか?」
先程思ったことをそのまま言ってしまった。纏まりに欠けるが、こんなんで分かってくれるだろうか。
「えぇ。御座いますよ。麻の服とズボン、それと下着のセットでしたらこちらです」
そう言って店員さんは僕を店の中央辺りへと連れて行く。
「こちらが麻製の服セットです。では私はコートを奥から取ってきますので、少々お待ちください」
そこには、麻の服を来た棒人間が立っていた。
一瞬驚いた。少し引いた。遠目で見れば案山子だ。こっちの世界ではマネキン扱いのようだが。
思ったのだが、案山子は鳥たちを畑から追い出すためのものだ。
僕をも驚かせて引かせるなんて、コイツはなかなか良い仕事をしているのかもしれない。
そこには麻製の服のセットが置いてあった。長袖の服、長ズボン、あと下着だ。
お値段、銀貨3枚。
これを2着買えば着回して過ごせるので、部屋着を使わずに済む。
部屋着、やっぱりこっちの世界では目立つんだよなぁ。
そう考えている所で、店員さんがコートを持ってやってきた。
「こちらがコートです。西の草原に群生する綿から取れたコットンで作ったロングコートですので、色は白っぽいですね」
うん、色については多少茶色がかってはいるが、白と言って良いだろう。
しかし、僕に対して少し大きめかな。羽織らせて貰ったら、裾が膝の下まで行ってしまった。
「少し僕には大きいかもしれないですね」
「えぇ、ですがコートを買われる皆さんは防具を着けても羽織れるようにと、少し大きめを選ばれますよ」
そうか。冒険者とかなら鎧や装備の分、体より一回り大きめのを買うもんな。
まぁ、僕は装備する必要は無いのでもう一回り小さめ、体にピッタリの大きさでも構わない。
そうお願いしようとしたその時。
「それは季節も終わった所の売れ残り、倉庫に入るだけの物ですので、処分価格で銀貨10枚の所を2枚と致しましょう。倉庫に入れても、来年の冬までは持ちませんから」
…え?何だそのエグいほどの値引き。
原価割ってない?
しかし、そうか。こっちの世界じゃ一年倉庫に置いておくだけでも、虫に食われたり劣化したりでダメになってしまうって事かもしれない。日本の万能倉庫じゃあるまいからな。
だとしたら捨てるよりは値引いてでも売った方がマシだ。
…それに、なんかここで「小さいサイズを」とか言ったら値引きの話がパーになりそうだ。
はっきり言ってこの話は大変美味しい。
「…分かりました。そのコート、頂きます」
「ありがとうございます!」
店員の返事に力が入ってる。店側も、なんとしてでも売りたかったんだろう。
そんな感じで服の買い物は終了した。
麻の服セットが2つ、白のロングコートとついでに革の靴も買っておいた。
締めて総額、銀貨11枚。
結構したが仕方ない。必要経費って奴だ。
僕の暗算では銀貨12枚だったので会計時に12枚を出したら、「一枚多いですよ」と言って返してくれた。
親切な店員さんだ。有難いね。
…にしても、我ながら僕の計算スペックが低すぎて辛い。まさかこんな単純な足し算でもミスするなんて…。
購入後、店の試着室で着替えさせて貰った。
麻の服を着れば、見た目はもうここの国民だ。
髪も黒、瞳も黒、身長も普通というだけあって、服を変えるだけでこんなにも印象が変わるのか。
じゃあ、ついでに白のロングコートも羽織ってみよう。
「おぉ、良くお似合いですね」
…うん、店員さんには褒められたが、社交辞令だとして受け取っておこう。
ちょっと丈が長く、色が白っていうのもあってか上着と言うよりは白衣のようになってしまった。
裾は膝が隠れるほどではあるが、特に歩きにくくは無いので問題無い。
しかし、コートに合わせる中の服が麻製だとな…
「って、この格好、どこかのヤブ医者みたいじゃないですか?」
「いえいえとんでもない、清潔で真面目そうなイメージが伺えますよ」
…ってそれ、そのまんま白衣のイメージじゃねぇか!
僕の印象に対する白衣の貢献率が高すぎる。
ま、まぁ、イメージの話はともかく服は買った。用事は済ませたのでオッケーだ。
服屋の店員に礼を言って店を出る。
…それにしても、適当に入った服屋の割には悪くなかったな。
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「ふふん、レーショの言った通りね。あの子、まさかあんな計算ですらままならないなんて。これなら幾らでも搾れそうだわ」
店に居た女性の客が、そう独り言を呟いていた。
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