11-6. 眠気
アークとオバちゃんの挨拶も済み、オバちゃんは再び受付に座る。
鍵も貰ったし、話も一段落した。
さて、そろそろ部屋に向かお――――
「狂科学者さん!」
オバちゃんが僕を呼び止める。
しかも滅茶苦茶笑顔だから。
……え、なんだろ?
「何でしょう」
「アンタ、良い子と出会ったね! 見た所、アークちゃんは同じくらいの歳なようだし、上品だし、しっかりしてそうだし」
「そうですね」
確かにアークは領主の家に生まれただけあって品がある。しっかりもしてる。
年齢はまだ知らないけど、見たところ高2か高3。
僕と同い年くらいのはずだ。
ちなみに僕の視界の隅では、ベタ褒めされたアークが顔を手で覆って照れている。
「……でアンタは、アークちゃんの事、好きなのかい?」
「えっ」
……でたでた、直ぐにそういう事言い出す人。
突然何を言い出すのかと思いきや。
適当にはぐらかしておこう。
「……ま、まぁ……仲間は皆大事ですから」
「そうかい……」
明らかに沈んだ声でそう答えるオバちゃん。
なんだよ。何を求めてたんだよ。
露骨に『つまんね』みたいな表情しないでくれ。
それとアークは未だに顔を手で覆っている。
顔や耳まで真っ赤にしちゃって、いつまで照れてんだろう。
まぁいいや。それは置いといて。
「よし、それじゃあ部屋に行くか。シン、コース、ダン、アーク」
「はいよ。ゆっくりしておいで」
「「「はい」」」
そうオバちゃんに返事して、僕達は2階への階段を上がっていった。
2階の廊下に上がった所で、部屋の鍵を渡していく。
201(角部屋)から順に僕、シン、ダン、コース、アークだ。
鍵を渡す時に皆の顔を見ていると、なんだか眠そうだ。
でもまぁ、そりゃそうだよね。4日間の護衛依頼も無事終わった事だし、レストランでもお腹いっぱい食べたようだし、そりゃ眠いよな。
さっさと部屋に入ろうか。
「それじゃあ、明日の朝は王城前の噴水広場に8時だから……ロビーに7時40分で。それまで皆、護衛依頼の疲れを取るなりのんびりしてくれ」
「「「「はい」」」」
そう僕が言い終わると、各自部屋へと向かう。
やっぱり皆疲れてるからか、特に話すこともなくソソクサと部屋に入っていく。
「……そんじゃ、僕も」
4つのドアがバタバタと閉じていくのを見届けてから、僕も部屋に入った。
「……フゥー、懐かしい」
中に入ると、そこはビジネスホテルよりも少し狭めな部屋。
机と椅子があり、壁には時計がかかっており、ユニットバスがあり、通りに面した窓があり、そしてフカフカベッドがある。
最低限の設備しか無く、かつ手狭というシンプルな部屋だ。
ファクトの町でシーカントさんに泊めてもらった、あの豪華なホテルとは比較にもならない。
けど、それでも十分だ。
人情味あふれるオバちゃんがココには居る。
「……まるで自宅に帰って来たみたいだな」
そんな事を呟きながらリュックを下ろし、ボロボロになった白衣を脱いで椅子に掛け、ベッドダイブ。
……あぁー、疲れた。
会長室に連れて行かれたり、突然アキと再会したりで忘れてたけど、そういえば今日、それもさっきまで護衛依頼やってたんだよな。
シーカントさんと荷物、無事に運搬出来て良かったな。
ついでに僕達も歩き旅をせずに済んだし、本当に良かった。
もし4人でテイラーから王都まで歩いて戻るって事にしてたら、きっとまだファクトにすら着いてないだろうな。
それどころか、アークとも出会えていないハズだ。
そして力尽きる寸前だったアークは、あのウルフ達に囲まれたまま————
「…………いや、やめとこう」
ヤメだヤメ。
嫌な事を考えるのは止めとこう。
休暇1日目、17:43。
「ハァー……、気持ちいい…………」
ベッドに仰向けになってそんな事を呟きつつ、ボーッとする。
4日間の護衛依頼をこなしたからか、いつもよりも心身ともに疲労感が凄い。
この4日間は基本的に馬車の荷台に座って居ただけとはいえ、常に気を張っていたからかな。
あと、馬車のガタガタも結構身体にくるんだよね。
それと、お腹はまぁまぁ満たされている。
アキと話をしながらも少しづつ料理を食べておいたからな。
この調子なら、とりあえず今日の夕食は要らないだろう。腹が減ったら焼鳥の缶詰でも開けて夜食だ!
夜食バンザイ!
若者なら多少の夜更かしや夜食くらい、どうって事無いのだ。
……多分。
こんな感じで疲労と満腹を同時に手にしている僕だが、今は不思議と睡魔には襲われていない。
眠気は無いのだ。目もいつも通り、シャキッと開いているのが分かる。
「なんでだろ」
自問自答してみる。
……うーん、きっと久し振りにアキに会ったからかな。
興奮してて眠れないとか?
……あっ、そうだそうだ。
こういう時こそ、アレだ。能力ってのは使ってこそ意味を為すからな。
「なんで眠くないんでしょうか? ……【求解】!」
ピッ
おっ、早速答えが来た来た。
別に取り急ぎって訳じゃないんだけど、どうせなら答えをお教えください!
===【求解】結果========
カフェイン
解:『記憶』
===========
答えは……カフェインか。
ん、でも僕コーヒーとか飲んでないし。
カフェインなんて、いつ摂った?
……なんて思っていたが、その疑問はメッセージウィンドウに添付された画像が教えてくれた。
画像は、さっきのレストランのメニューだ。
ドリンクのページが開いている。
僕の飲んだ飲み物はーっと……
あ、あったあった。コレだ。
『ガラナ……強炭酸とカフェインで眠気覚ましに! 銅貨20枚』
「……だからか」
成程ね。
さっき僕が飲んでたあの炭酸が原因だったのか。
アレ、結構おいしかったんだよな。ついついオカワリしちゃった。
……という事は、しばらく眠気は来なさそうだな。
オッケー。ありがとう、【求解】。
特に困ってはなかったけど、助かったよ。
さて。
寝る気にもならないし、何か食べる気もしない。
現在時刻はまだ18時にもなっていない。
やる事がない。
……つまり、暇だ。
暇な時にやる事と言えば……
そう、『数学の勉強』だ!




