11-4. レシート
そんな感じで僕とシン、コース、ダンでの4人旅、アークを入れた5人旅について話していたんだが、料理が無くなってきた。
机の上には空き皿が並ぶ。
僕のコップにも、既に茶色い炭酸は残っていない。
「んじゃ計介。食いモンも無くなってきたし、話も一段落ついた事だし、そろそろ出ねぇか?」
「おぅ。僕は良いけど……」
学生に目をやる。
「お腹いっぱいだよー!」
「こんなご馳走、久し振りに頂きました!」
「最近缶詰ばっかりだったもんな。満足だぞ」
「わたしも。こんな美味しいご飯……」
……うん、十分そうですね。
「オッケー、行くか。アキ、皆」
「おぅ」
僕がそう言うと、皆席を立つ。
「そんじゃあ、会計は割り勘で————
「いや」
アキ。
そんな無粋な事、させないから。
「僕が全部出そう!」
「マジかよ計介!」
「「「おおぉぉ!」」」
へっへーん。
皆の前でちょっとカッコつけてやったぞ。
「……え、でも良いのケースケ? わたしもちゃんと払うけど……」
おぉ、さすがお嬢様だ。お金を持ってると言う事が違う。
だけどな……
「気にすんなアーク。アークが仲間になってから初めてだしな、こういうの」
「……そうね。それなら、お言葉に甘えて」
「おぅ」
ってな訳で、ゴチソウサマだ。
6人でゾロゾロと店の出口に向かう。
……のだが。
「そういえば、全部で幾らくらいなんだろう。アキ、知らない?」
「分かんねぇよ、流石に。別に今じゃなくても勘定の時にすぐ分かるだろ」
「いや、だけど出来るだけ早く把握しときたいじゃんか」
あんなことを言っておきながら、金額が気になってしまう僕。
ある程度稼げるようにはなったとはいえ、根は金欠高校生。そういう所はついつい気になっちゃうんだよね。
「…………お、お前まさか、カッコいい事言っといて金が無ぇとか言うなよ」
「流石にそれは無い」
リュックの中に金貨が4枚入っているのは確実だから、払えないって事は無いでしょ。
「えー、でも合計金額はどんくらいなんだろ――――
ピッ
そう呟いた瞬間、僕の目の前に浮かぶメッセージウィンドウ。
「ん?」
「どうした、計介?」
「いや、なんか出て来たんだけど……」
「何だ? 見せてくれよ」
「おぅ。はいコレ」
何の前触れもなく突然現れたメッセージウィンドウを、アキと一緒に読んでいく。
===【求解】結果========
銀貨6、銅貨50枚
解:
ハンバーグ ×2 銅130
パスタ ×3 銅150
ドリア ×1 銅40
ポテト ×5 銅150
ガラナ ×2 銅40
メロンソーダ ×4 銅80
サイダー ×3 銅60
合計 銀6 銅50
===========
突然現れたメッセージウィンドウ、その正体は【求解】だった。
どうやら、僕の視界から届いた料理をカウントしてくれていたようだ。
……まるでレシートじゃんか。
「……合計金額、分かっちゃった」
「本当に凄ぇな、お前の魔法。超便利じゃねぇか」
……まさか、ココで急に【求解】が出てくるとは。
合計金額が分かったのは嬉しいけど、それ以上にビックリしたよ。
休暇1日目、16:51。
銀貨6枚半の会計を終え、「ご馳走様でした」と店員さんに一言告げて店を出る。
店を出ると陽はだいぶ傾いており、影も長くなっている。
オレンジ色に染まる北門通りには、家路を急ぐ人も見える。
あー、意外と長居しちゃってたんだな。
流石は『楽しい時間』だ。流れるのが速い。
先に店を出ていた5人の所へ向かうと、どうやらアキとシン、ダンが何か話している。
『あー、神谷は突きが得意だからな……』とか、『なんでマモルの盾は鍋蓋なんだ……』とかいった会話が交わされている。
どうやらアキが同級生について聞いてんだろうな。
コースは一杯であるになったお腹をさすってアークと談笑している。
中3ほどの歳で割と低身長なコースと、高3ほどの歳で背の高いアーク。ここから見るとヤンチャな妹と落ち着いた姉みたいな感じだな。
色合いは水色と赤で目がチカチカするんだけどね。
まぁ、皆仲良くしてくれてんな。
嬉しいよ。
「済まん済まん、会計終わったよ」
「「「ご馳走様です!」」」
「ケースケ、ありがとう」
「おぅ、お粗末さんです」
学生がそう言い、3人揃って礼。
アークも笑ってそう言ってくれる。
……なんかそこまでされちゃうと、こっちも奢り甲斐があるね。
「へぇ、計介のお仲間さん、皆礼儀正しいじゃねぇか」
「おぅ。礼儀は大事だからな」
そう。それだけは僕の身を以て知っている。
言葉遣いとか挨拶とかに気をつけていると、バカな人でも頭良さげに見られる事があるのだ。
逆にそういう所が欠けてると、どんな人でも残念に見えちゃうんだよね。
「そんじゃ、次どうするアキ?」
「そうだな……そろそろ暗くなるし、今日はこんくらいにしねぇか? 明日もある訳だし」
「まぁ、そっすね」
確かに。
明日は今日と違って、『丸一日』だ。
明日がある。
「じゃあそういう事にして、今日は帰るか」
「おぅ」
って事で、今日はお開きになった。
空がだいぶ紫になりかけて来た北門通りを、6人揃って適当に歩く。
「……先生、僕達はドコに向かって歩いているんですか?」
「ん? 分かんない」
……やはり行き先は特に決まっていなかった。
「先生、今日の俺らの宿はどこにするんだ?」
「そうですね。ダンの言う通り、早く宿をとらないと」
あぁ、確かにそうだな。
宿をとり損ねて野宿とか、嫌だ。
「今日は俺ん家に泊まってけよ……って言いたかったんだけど、商会の社員寮は流石に6人は入んねぇからな」
へぇ、アキは寮住まいなのか。
「済まねぇな、皆」
「まぁ、寮はそんなもんだよ。気にすんなアキ」
「そう言ってくれると助かるぜ、計介」
「では、私達は宿をとらないといけませんね」
「そうだな」
さて、宿探しだ。
面倒だから適当にその辺の宿に入っても良いんだけど、やっぱり……
「よし、『精霊の算盤亭』行くか。ちょっと遠いけど」
「「「はい!」」」
待ってましたと言わんばかりに、そう返す3人。
やっぱりあそこしか無いよね。
「『精霊の算盤亭』っつったら……東門通りから一本入った所か?」
「そうそう。僕達が前に会った、あの辺」
「成程な。少し遠いけど……ココからなら、歩いて15分せずに着くんじゃねぇのかな」
「ほぅ」
へぇ、そこまで分かるのか。
さすが配達やってるだけあってか、王都に詳しいのな。
「そんじゃ、精霊の算盤亭ならココを左だ。で、7つ目の交差点を右に曲がればそのまま精霊の算盤亭に着くぞ」
……一瞬でそこまで分かるとは。
頭に王都の地図でも埋め込んでるのかな。
「おぉ、流石はうちのアキさんだ。カーナビにも負けない頭を持っていらっしゃる」
「俺はお前のモンじゃねぇッ!」
「済まん済まん」
「……でもまぁ、今の俺は、王都の中ならカーナビにも負けねぇ自信は有るな」
「おぉ!」
凄い自信だ。
やっぱりアキは違うなぁー。
「わざわざ教えてくれてありがとう、アキ。えーっと、7個目をひだ————
「右だ」
「済まん済まん。7個目を右だな」
「そうだ。いきなり間違えんなよ」
「おぅ、済まん済まん」
「何回謝るんだよ」
「済ま————
「また言おうとしたな」
「最後のだけはワザと」
「ふざけんな!」
「まぁまぁ、アキ落ち着いて」
「……しゃーねぇな」
そう言いつつも、なんだか楽しそうな表情で僕の方を見るアキ。
……やっぱりアキも、こういう何も生まれない雑談が好きなんだな。
「じゃあ、俺の社員寮はこっちだから。また明日だな」
アキはそのまま、北門通りを真っ直ぐ。
僕達はアキに教えて貰った、左の道へ。
「おぅ。じゃあまた明日」
「アキさん、明日もまたよろしくお願いします!」
「じゃーねー!」
「明日も楽しみにしてるぜ、アキさん!」
「また明日、アキさん!」
「シンもコースもダンもアークも計介も、また明日なー!」
そう言ってアキは手を振り、北門通りを歩いていった。
……全員の名前を呼んで行くとは、なんとも律儀なヤツだ。
流石はうちのアキだな。
「さて、じゃあ僕達も行こうか。『精霊の算盤亭』」
「「「はい!」」」
アークは知らないだろうけど、僕達が暫くお世話になっていた宿だ。
オバちゃん、元気でやってるかな。




