11-2. 休暇II
※今までの話を読み飛ばされて来た方へ
本話では、計介が召喚後から今までの出来事を振り返ります。
今までの話をお読みでない方はご注意下さい。
逆に『そういうのが欲しい!』という方は是非お読み下さい!
まずは数学者として台頭するまでだ。
「当時落ち零れだった僕の生活が変わったのは、正にあの日だった。アキに会った日だよ」
「マジか。俺達が会った、あの後って事か?」
「そうそう。アキのお陰でやる気が出て、数学の勉強を始めたんだ」
「……ちょちょっ、じゃあ、それまでは何をしてたんだよ?」
「魔物の勉強」
「……マジかい。暇人かよ」
「暇人やってた」
アキが「おいおい……」と呟きながら頭を抱える。
「……まぁ、計介だしな。仕方ねえか」
「おぅ。ってな訳でアキと別れた後、王城図書館に行って数学……いや、算数の勉強をした訳ですよ」
「おぅ。もしかして、俺があげた参考書使ったのか?」
「そうそう。そしたら……なんと! 【演算魔法】なる物を手に入れました!」
「やるじゃねぇか、計介! 俺の参考書も役に立ってくれたようで嬉しいぜ」
「いやー、本当にありがとな」
たまたま持ってきた[参考書]のお陰でこんな風になるとは、僕も全く思ってなかったよ。
「おぅ。……にしても、【演算魔法】か。なんとも数学者らしい名前の魔法じゃねぇか」
「今じゃ割と気に入ってるよ」
「ほぅ、高校でも随一、究極の数学嫌いだった計介がそんな事を言うとは……明日の王都は雪かもな。で、その【演算魔法】ってのはどんな魔法なんだ?」
「まぁ、それは後でのお楽しみって事で」
「……そ、そうか」
「まぁ、そんな感じでとりあえず【演算魔法】のお陰でパワーアップ出来た僕は冒険者になりました」
「へー……だから冒険者になったんだな。無謀やってたって訳じゃねぇのか」
「そうそう。ちゃんと僕も僕なりに考えて行動したんだよ」
「済まん、計介の事甘く見てたわ」
「舐めんな」
で、このあたりで学生達に会うんだよな。
「で、冒険者やってみるとそれなりに稼げるようになったんだけど、調子乗っちゃった僕はカーキウルフに殺されそうになった」
「……お前、考えて行動してたんじゃねぇのかよ」
「その時は『今日めっちゃチキンが狩れんなー』としか思ってなかった」
「ダメじゃねぇか!」
……怒られてしまった。
「……でもまぁ、計介らしいな。その辺」
「まぁね。で、ウルフに殺されそうになったその時! 助けに来てくれたのが————
「ハイハーイ! 私たちだよー!」
「俺らが助けに入ったんだ」
「危うく、先生が噛み殺される所でした」
学生3人が会話に入る。
「シン、コース、ダンだ。本当にあの時は助かったよ」
「そうか。俺からも感謝するぜ。計介が世話になったな」
「大丈夫大丈夫、気にしないでー!」
「俺らも先生に色々と助けて貰ってるしな」
「冒険者はお互い助け合いですからね」
そっから先は、色々あってからの合宿だ。
「この時から一緒に過ごす事になってな。そっからは4人で一緒に狩りをしたり、ご飯食べたり、狩りをしたり……狩ったりした」
「基本狩りしかしてねぇのかよ」
「狩りって楽しいじゃーん!」
「だよなコース、ワクワクするよな!」
「……まぁ、コースとダンの事は放っといてくれ。バトルジャンキーなだけだから」
「お、おぅ……」
「で、狩りを楽しんだり、南門襲撃事件にも参加してみたり、狩りを楽しんだり、そんなこんなでテイラーで開かれる『勇者養成迷宮合宿』にもお呼ばれされたり、狩りを楽し————
「待て待てーぃ! 計介、お前合宿行ったのか!?」
「おぅ」
「聞いた話だが、アレに参加出来るのって戦士と魔術師オンリーだったよな?」
「あぁ。でも僕達はギルド長さんの紹介で」
「……推薦枠じゃねぇか!」
……そういえばそんな受験用語もあったな。
2ヶ月程こっちの世界に来ていちゃ、もう忘れてたよ。
「まぁね。そこはコネの力って奴を」
「随分と太いコネをまぁ。……って事は、合宿では神谷とか強羅とか、火村とか可合が居たんじゃねぇか?」
「あぁ、居た居た。彼らにも久し振りに会ったよ」
「皆元気だったか?」
「おぅ。長田とかは脱水症状で死にそうになってたけど」
「マジかよ。でも皆元気なら良かったぜ」
……そういえば、水分不足に陥った長田達のゾンビみたいな唸り声にビビらされた事もあったっけな。
あぁ、そうだ。
合宿での出来事といえば。
「そういえば3人は、合宿で同級生達と仲良くなったよな」
「俺はマモルに【硬叩Ⅰ】を教えたな」
「私はミユちゃんに【光線Ⅰ】を教えてあげたのー!」
「私はカミヤさんから【強突Ⅰ】をご教授頂きました!」
「へぇ、凄ぇな! アイツらもやるじゃねぇか!」
この必殺技の教え合いっこもあって、学生達と同級生達との仲が更に深くなったんだったよな。
で、そこでアレだ。
僕達が初めて本格的に、魔王軍の魔物と接触した所だ。
「まぁそんな感じで合宿も無事終わったと。で、迷宮から帰ろうとした……その時ッ!!」
「「その時っ……」」
アキとアークがそう呟いて僕の方を向く。
「魔王軍の尖兵が、1万の兵を率いて襲って来たんだ」
「…………マジかよ」
「…………本当なの!?」
アキとアークが目を見開き、そう呟いた。
顔も声のトーンも今までとはまるで違う、真剣そのものだ。
「……ついに魔王軍が……王国にも攻めて来たのか?」
「おぅ。確かにあの時、尖兵の大将だったセットは『魔王軍第三軍団』って名乗ってた」
「……ついに帝国のみならず、王国まで襲われ始めるかもしれねぇんだな」
「だけど、まぁ飽くまで『尖兵』だったし、様子見くらいに襲って来たのかもね。それに大将をボコって送り返してやったし、そう直ぐ襲って来ないとは思う」
「……おぉ! マジか! 勝ったんだな!」
「まぁ、こっちには被害も有ったけど……」
「…………まさか、死人か?」
「いや。だけど、意識の戻らない人が…………」
あの時の転移魔術師さんだ。
手に持っていた魔力結晶が砕かれ、暴発。
結晶の欠片を全身に受けて意識を失い、以来意識が戻ったとのお知らせは聞いてない。
「……そうか。その人が快方に向かう事を祈るぜ」
「そうだな……」
学生達もあの瞬間を思い出しちゃったようで、少し気分が落ち込む。
「……済まねぇ、皆の気分を落ち込ませちまったな。続けてくれ、計介」
「お、おぅ」
よし、合宿も終わったって事は……
「で、合宿が終わった僕達はテイラーから王都に戻って来たんだ。で、その時ついでに『護衛依頼』も受けつつ王都を目指そう! って感じになったんだが————
「で、そこで受けた護衛依頼がシーカントさんのだったっつぅ事だな」
「そう。まぁ護衛依頼は恙無く終わったんだけど、その途中にな」
「ん?」
「ウルフに危うく殺されそうになっていた人が居たんだよ」
「……なんか聞き覚えがあるぞ、その話」
「それは冒険者成りたての僕だから」
……アキ、お前分かってて聞いただろ! 口元がニヤけてるよ!
クソッ、馬鹿にしやがって……。
「まぁいいや。で、護衛中にウルフに襲われそうになっていた人が居て、助けに入ったと。で、その人が————
「わたしよ。あの時は本当に助かったわ。本当に死ぬかと思った」
「成程な」
「でまぁ、色々あってアークも仲間になったと。で王都に無事帰って来て、シーカントさんに『会長室』に連れて行かれた」
「そこから、俺達の再会に繋がるって訳だな」
「おぅ」
かなり色々と端折ったが、大体僕の冒険者生活はこんな感じだ。
意外と直ぐに話し終えちゃった?
……僕もそう思ったよ。
けど、その割には結構中身の濃い数学者生活を過ごせてるんじゃないかな。
「じゃあ、計介。さっき後回しにされた【演算魔法】ってやつ、どんな魔法か教えてくれよ。気になって仕方ねぇじゃねぇか」
「あぁ、そうだな」
あら。
アキは【演算魔法】をご所望のようだ。
……さてさて。数学が死ぬほど苦手だった僕が【演算魔法】を使いこなしている所を見たら、アキはなんて言うだろうかなー。




