11-1. 休暇I
会長室を後にした僕達は、アキと共に『ディバイズ商会』の1階、出口に来た。
お見送りにシーカントさんも付いて来てくれている。
「ケースケ様方、手前は此処にて失礼」
「「「はい!」」」
「すみません、最後まで僕達のお見送りして頂いて」
「会長の命でもある故、気遣い御無用。此の先も善き旅を」
「はい、ありがとうございます」
「シーカントさん、お世話になりました」
「まったねー!」
「それじゃあな」
全員でシーカントさんと挨拶を交わす。
見た目はエリートヤクザだったシーカントさんだが、優しくていい人だったよな。
また会えるといいね。
「それじゃあシーカントさん、俺も行ってくるぜ」
「承知。会長も仰った通り、休暇を楽しまれよ」
「おぅ!」
アキも仕事関係の片付けを済ませ、僕達の隣に立っている。
……さて。
これ以上話が長くなるのもなんなので、そろそろお暇しようか。
「それじゃあアキ、行こうか」
「おぅ、計介」
そう言って、僕達は商会を後にした。
休暇1日目、14:37。
昼過ぎで未だに人の多い北門通りを、ゾロゾロと6人揃って歩く。
「ところでこの方々は……お前の仲間か?」
「おぅ。よろしく頼むよ」
すると、自己紹介が始まった。
「シンです。よろしくお願いします」
「コースだよ! よろしくね!」
「ダンだ。宜しくな」
「アークよ。よろしくね」
「じゃあ俺からも。……秋内品行だ。計介とは小学校……まぁ、小さい頃からの親友だ。こちらこそ宜しくな」
「「「よろしくお願いします」」」
うんうん。
皆、仲良くしてくれよ。
まぁ、そんな感じで顔合わせが終わったのだが。
「……ところでアキ、どこ行く?」
「んー、俺も急遽休みを貰っちまって……思いつかねぇんだよな」
「だよねー……」
行先は未だ決まっておらず、僕達はとりあえず北門通りを歩いているだけだった。
行く当ても無く歩いているが、とりあえず王城が見える方に向かってゆっくり進んでいる。
「じゃあ、アキは何かしたいとか無い?」
「そうだなぁ、俺はまぁ……ゆっくり計介と話がしてぇな」
「成程! じゃあそうすっか」
「ちなみに、計介は何かしてぇ事とか無ぇのか?」
「僕もソレで」
「……そうかぃ」
「それじゃあアキ、どこ行く?」
「……その質問に帰って来たか」
高校の帰り道に良く交わしていたような、割と無駄多めな会話が続く。
……でもこの感じ、やっぱり良いな。
「んー、じゃあ……」
「どうすんだ、計介————
「ねーねー先生ー」
危うくアキと僕の会話がループに陥りそうになっていた所で、コースが会話に入ってくる。
「ん、どうしたコース?」
「お腹減ったー……」
「先生、俺も腹が減ったな」
「今日はまだお昼をとっていませんしね」
「ケースケ、それならどこかレストランに行かない?」
おっ。
アーク、ナイスアイデア。
「そうだな。ファミレス的な感じで、食べて喋って出来るところにすっか」
「んじゃ計介、それなら俺が良いトコ教えてやるよ。計介もきっと好きなんじゃねぇかな」
「おっ、良いな。アキ頼んだ」
「任せろ」
ってな感じで、僕達はアキお薦めのレストランに行くことにした。
ちなみに、歩いてる最中『ふぁみれすって何ー?』とコースから質問攻めにあっていたんだが、とりあえず『良い感じのレストランだよ』とだけ言っておいた。
北門通りを王城に向かって少し歩いたところにある、シャレたレストランに入る。
2時半過ぎとランチタイムも完全に終わった後のレストランは空いており、2人席を3つ繋げて6人席を作って貰った。
奥のソファ側にはアキ、僕、アークの3人。
通路側の椅子には学生3人だ。
各自注文も終えた所で、アキが話し始める。
「いやぁー、あの計介にも仲間が出来てたとはなー……信じらんねぇ」
「どういう事だよ、アキ?」
「……計介のドコにそんな人を惹きつける力が有ったんだろうかな。俺が言うのもなんだが、高校じゃ俺以外の友達居なかったじゃねぇか」
失礼な!
それなりに居たわ!
数学者舐めんな――――
「……けどよぉ。配属先も無ぇ、先輩も居ねぇ、職もダメだったような計介が今こうやって元気で居てくれて、俺は嬉しい」
「あ、アキ……」
え、そんな事言われると……
涙でも誘ってんのか……?
「この前に会った時、お前『金欠だ』って言ってたじゃねぇか。『働き口も無い』とも言ってたし、独りだったし。それに、あれ以降全然会わなかったから『あのまま異世界まで来て飢え死にでもしてるんじゃねぇか』って凄ぇ心配してたんだぞ」
「………………流石はうちのアキだ。優しさのレベルが違う」
「俺はお前の物じゃねぇ!」
ごめんな、アキ。
アキの真面目な話はとても嬉しかったんだけど、ちょっと恥ずかしかったから最後にフザケてしまった。
さて。おフザケはこのくらいにしてと。
「……まぁ実際、あの日アキに会ったお陰で僕の生活はガラッと変わったよ。そのお陰で今は『冒険者』やって日々の糧を得ているわけだし、こうやって仲間も出来た」
「おぅ。……ってか、さっきも言ったけど『数学者』が『冒険者』やってんのかよ。あの酷ぇステータスで」
「悪い?」
「いやいや、悪くは無いけどそもそも『数学者』って非戦闘職じゃねぇか」
「いや、非戦闘職でも冒険者やってる人って居るらしいよ」
「そ、そうなのか……っつぅ事は、お前は晴れて夢だった『狩りゲーム』の如く武器を振るってるって事だな?」
「いや、そういう訳でもない」
「なんだよ?!」
「まぁ、冒険者のグループ内にも色々と役割がある訳でして……僕はどっちかというと『魔術師』寄りの方を」
「もう訳分かんねぇ……」
中々話について行けず、アキの頭はパンクしてしまったようだ。
注文した食事も少しずつ届き始めたので、とりあえずポテトフライっぽい物をアキの口に3本差し込んで落ち着かせる。
「フゥ……。とりあえず、計介のお仲間さん含め、お前の話が聞きてぇな。どうやって貧困を脱し、どうやって仲間が出来、どうやって今に至るのか。教えてくれよ」
「おぅ」
「わたしにも聞かせて欲しいわ、ケースケ」
「おぅ」
そっか。
アークも、僕達と出会ったのはつい最近だもんな。
よし。
という事で、僕達はそれぞれ頼んだ料理を食べつつ、『数学者』の始まりから今に至るまでを話した。
計介達5人組は港町・フーリエへの旅の途中ですが、親友・アキと少し休憩です。




