2-2. 焼鳥
王都の裏路地、猫しか通らないであろう場所で、とある3人の密会が行われていた。
「また良いカモを見つけましたよ。今回はロクな計算も出来ないアホです。適当に搾って差し上げましょう」
「流石だレーショ。相変わらずの腕前だな」
「あら、それは良いわね。で、どんな子?」
「何処の生まれかは分かりませんが、黒髪黒目、中肉中背です。年齢は…そうですね、20歳前、といった所でしょうか」
「ふーん、至って普通な子ね」
「特徴がイマイチ掴めないな」
「私もそう思いましたので、今回は協力しますよ」
「頼むわ」
「宜しく」
「えぇ、ではまた」
∋∋∋∋∋∋∋∋∋∋
「精霊の算盤亭」の受付でオバちゃんと話を交わした後、オバちゃんから鍵を受け取った。
僕の部屋は201、角部屋だ。
階段を上がって部屋に入る。
「精霊の算盤亭」の部屋は、王城の部屋程では無いが良い設備だ。1人で暮らすには十分である。
広さはよくあるビジネスホテルより幾分か狭いくらいではあるが、ベッドはフカフカであり、机と椅子もある。壁には時計も掛かっているな。
部屋にある扉を開けると洗面台と水洗トイレ、そしてバスタブだ!
念願の風呂だ。この時点で僕は精霊の算盤亭を選んで正解だったと確信した。
ユニットバスのような形であり、シャワーの水が飛ぶのを防ぐカーテンも無いし、全体的に狭めではあるが、そんな事はどうでも良い。風呂に入れるのだ。それだけで十分だ。
「よし、じゃあ服とご飯を買いに行きますか」
テンションが上がってしまったが、部屋の様子見はこんな所にしておいて買い出しに行こう。早くしないと日が暮れてしまうしな。
というか、まだ昼食を取ってなかった。まずはご飯だ!
美味そうなレストランを探して歩き回っていると、東門通りで焼き鳥を売る屋台を見つけた。
串に刺さった肉は一個一個がとても大きい。日本のサービスエリアでよく売ってそうな感じだ。
匂いは焼き鳥のタレに近いが、何かが足りないような感じだ。ふと日本の焼き鳥を思い出すが、やっぱりアレには及ばないな。
グ〜〜ッ……
そう思っていても、お腹は嘘をつかないようで。
うーん、でもやっぱりイマイチ気が進まないな…
「おやおや、そこの少年、焼き鳥を買いに来たのですかな?」
買うかどうか迷っていると、突然後ろから声を掛けられた。
中年の紳士だ。執事とかによく出てきそうな感じだ。
「あ、いや、すみません。邪魔でしたか?」
「いや、そんな事は無いよ。ここの焼き鳥屋は私のお気に入りでね。ここを選ぶとは、少年はよく分かっているね」
ほぅ、この紳士のオススメか。
それは良いな。お昼はこの焼き鳥にしよう。
そう決めると、途端に他の店を探すのも面倒になってきたしな。
「じゃあ私はいつも通り二本頂こうかな」
「おぅ、いつもありがとな!」
そう言って、屋台のおじさんと紳士が視線を合わせて微笑む。
仲良いんだな。
「僕もここにしようかな」
「へぃ、アンちゃんもまいどあり! 一本銅貨30枚だが、今なら6本買ってくれると銀貨2枚だ。 何本にするかい?」
サービスでもやっているのか?
それにしては何かおかしい、と一瞬感じたが、気のせいだろう。
それよりも、昼食にしては大分時間も遅いし、かなりお腹も減っている。
6本くらいペロリだろう。
「じゃあ、6本で」
そう言ってリュックから銀貨二枚を取り出し、屋台のおじさんに手渡す。
おじさんは大きな葉っぱの皿に焼き立ての串を続々と乗せていく。
「銀貨二枚、確かに頂いたぜ。で、これがお返しの焼き鳥6本だ。ありがとうなアンちゃん!」
「どうも」
「では、一緒に一本ここで食べないかい?」
紳士がそう勧めてくる。
今の僕の食欲は爆発寸前だ。断る道は無かった。
「ではお言葉に甘えて」
そう言って二人で串を齧る。
「…っ!美味しい!」
柔らかい、鶏肉のような食感。これはモモの部位を使っているのだろうか。
そして口の中に溢れる香ばしいタレの味わい。甘辛いと言うよりは、甘さが強いな。そういえば、さっきも匂いで感じていた違和感は生姜が効いていない事だったのだろうか。
とはいいつつ、美味しいことに変わりはない。6本くらいなら一瞬で平らげられるだろう。
「だろ?そう言ってくれると嬉しいなぁアンちゃん」
「この肉は西の平原で獲れるプレーリーチキンを使われているんですよね」
「おぅ、そうだ。タレもうちの秘伝のモノだ。美味くねぇハズがないからな」
二人がそう言っている間に、僕は一本目を平らげ、二本目に入っていた。
そのまま、その場で六本食べきってしまった。
あー、お腹いっぱいだ。
食べきる速さに紳士は少し驚きの表情をしていたが、表情を崩さないのは流石というべきだろう。
「気に入ってくれたなら嬉しいな。アンちゃん、また食べに来てくれよ!」
「はい。また買いに来ます!」
「では、これで私も失礼するよ。またどこかで」
そう言って二人と別れた。
腹が満たされたからか、もう宿でのんびりしたい気分だ。買い物の続きが面倒になってきた。
……いや、ダメだ。服だけは買っておかねば。
そして、僕は少し幸せな気分で買い物の続きを始めたのだった。
――僕が値段を騙されていることなんて、この時は気付きもしなかった。
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「いやぁ、あいつチョロいな。サービス感を漂わせておけば幾らでも搾れる」
「そうですねぇ。あのカモ、見た所ロクに計算できないどころか、ロクに計算すらしないようですね」
「こっちがまとめ売りして適当な値段を言ってやりゃぁ、あいつはその値で買ってくれると。ックゥー、本当に最高のカモだなこりゃ。レーショ、よくやってくれた」
「いえいえ、貴方も良い演技でしたよ」




