10-21. 素性Ⅰ
「てっ……」
「「「「「テイラー!?」」」」」
僕と学生3人、それと会長さんの絶叫が会長室に響き渡った。
「えぇっ、ちょっと待って下さい、アーク…………」
「お前の苗字、『テイラー』って言うのか!?」
「ええ、そうよ」
「僕達が前まで居た、あの『風の街・テイラー』と同じテイラーなのか?」
「そのテイラーね」
……マジかよ。初めて聞いたぞ。
と言うことは…………まさか…………
「……つまり、貴女はテイラーの領主の————
「長女よ」
速報です。
馬車旅で偶然助け、今まで一緒に旅をしていたアークですが、実は風の街・テイラーの領主の娘だった事が発覚しました。
ちなみに……
「なぁシン、『テイラーの領主』って、結構偉い方?」
「勿論です、先生。街の領主は、『王国でいう王族』という感じですね」
……うわ、マジかよ。
僕達そんな人と一緒に居たんか。
「おいおいおいアーク、俺ら聞いてねえぞそんなの!」
「あれ、話さなかったっけ?」
「僕達には『テイラーの中でも【風系統魔法】で有名な家族』としか聞かされてないけど」
「ああ、あの時は…………はぐらかしていたわ」
なんでだよ。
「でも嘘じゃないわ。私以外の家族は【風系統魔法】の使い手だし、有名だし」
「……い、いやいや。そういう訳じゃないじゃんか」
そうだけどさ。
「なんで隠してたんだ、アーク?」
「家出しているのが領主の長女だなんて、バレたくなかったの。それに、領主の長女が死にかけていたなんて言いふらされたら、私の家に……いや、テイラーの名に傷が付くわ」
……領主の長女プライドが凄い。
『家族は捨ててきた』とか言っておきつつ、やっぱり領主の家の娘であるプライドは捨てきれてないのな。
「……と言っても、元々父が『領主の家の出来損ないだ』と言ってわたしを外目に出さなかったから、街中を堂々と歩いても気付く人は居ないけど」
あぁー……。
だから、どおりで誰もアークの事を知らなかったんだな。
……ところで、この部屋に居る人の中でシーカントさんだけは驚いた表情を見せていない。
それどころか、サングラスで目元は見えないけど口元は少しニヤッとして居るくらいだ。
「し、シーカントさんは驚いていないんですか? こんな衝撃の事実に……」
「左様。手前は一目見た時より勘付いていた故」
……マジかい。
アークの素性を知っている人が居た。
けど、なんでシーカントさんだけは知ってるんだ?
「ちょ、ちょっとシーカント君、聞いてないよ! テイラーと言ったらMPポーションの一大産地! そんな強大なコネ、なんで私に報告しなかったのかねェ……」
……会長さん、生々しい会話を彼女の目の前でしないであげてください。
アークの表情も微妙な感じになってるし。
「手前がアーク様に御会いしたのは15年程前。テイラー領主様宛ての配送を行った際、奥様の腕に抱かれた彼女を拝顔致した。領主様譲りの釣り目と、領主一家に見られぬ鮮やかな赤髪は今尚強く記憶」
「そ、そうだったのねェ。……けどシーカント君、でかしたよ! 片や血に塗れし狂科学者御一行、片や領主の娘さんという、豪華なメンバーに護衛についてもらうなんて! 今回の仕入れは悪運どころか幸運、いや激運だよ!」
……僕達が護衛に付くだけでそんなに喜んでくれるとは。
まぁ、色々と驚きはあったけど『アーク、一体何者!?』という数々の謎が解けたな。
彼女の素性は領主の長女だった。だが、この世界にその事実を知る人は少ない。
彼女が時々お嬢様感を醸し出す瞬間があったのは、多分このためだ。さすが領主の家だけあって、良い教育を受けていたんだろう。
シーカントさんがアークに対して妙に畏まっていたのも、これなら納得がいく。シーカントさんは彼女が領主の娘と知っていたからだ。
さて、アークの爆弾発言から少し時間も経った所で、とりあえず僕含め皆は落ち着きを取り戻した。
「そ、そういえば自己紹介の続きだったねェ…………改めてアークさん、『ディバイズ商会』会長のディバイザー・インスです。以降、どうぞよろしく」
「ええ。こちらこそ宜しくね」
……アークの素性を知った途端、明らかに下手に出る会長さん。
分かりやすいな。
「所でアークさん……」
「何でしょう?」
「風の街・テイラーといえば、MPポーションで有名ですよね?」
まさか、この流れは……
「そうね。風車で吸収した魔力で作っているから、質も量も王国一よ」
「そうですよね! そこで、領主の娘さんである貴女にお願いがありまして……シーカント君の護衛を務めて頂いたのも何かのご縁、もし宜しければ、ディバイズ商会にMPポーションを――――
「無理よ」
一瞬で断るアーク。
「えぇ! ど、どうしてですか!?」
会長さん、あざと過ぎるだろ。
「わたしは家出してケースケ達に付いて来ているの。もう家に帰る気は無いし」
「い、家出……ですと?」
「そう。もしMPポーションの商談をしたいのなら、そういうのは父の方に直接お願いするわ」
ワケを聞き、膝をついて落ち込む会長さん。
『折角のビジネスチャンスだと思ったのに……』と言わんばかりのオーラだ。
「……ま、まあ、それなら仕方ないねェ。しつこい商人は嫌われるし、ここはキッパリと諦めるよ。」
と思ったら、意外と立ち直りが早いのな。
諦めも早く、会長さんが立ち上がると、僕達の前に立った。
さて、そろそろ締めかな。
「では、シン君、コースさん、ダン君、ケースケ君、そしてアークさん。今回は、シーカント君の護衛に付いてくれてありがとうねェ。シーカント君もああいう風に言っていたくらいだし、本当に君達は素晴らしい冒険者なんだと思うよ」
会長の言葉にシーカントさんも頷く。
「貴重なお時間を取ってしまって済まなかったねェ。それでは、またこれからも『ディバイズ商会』をよろしくお願いするよ!」
「「「「「はい!」」」」」
「うんうん、今日はありがとう。それではシーカント君。皆のお見送りを」
「承知」
さて。
そろそろお腹も減ってきたし、早めに宿は押さえておきたい。
まだ空は青いし時間はあるけど、宿が取れなくて野宿とか嫌だしな。
「それでは、私達はこれにて」
「会長さん、またねー!」
「会長、ありがとうな」
「失礼するわ」
そう言い、会長室の扉へと向かう学生とアーク達。
シーカントさんが扉を開けてくれている。
「それじゃあ、僕も――――
ふと、頭あるシーンが蘇った。
『……ならば、ニホンと云う地か?』
シーカントさんと初めて会った日に、僕の故郷当てゲームで彼が放った一言。
……そうだ。忘れてた。
そういえば、なんでシーカントさんは日本を知っていたんだ?
シーカントさん、結局何者だったんだろうか。
この際、今聞いちゃうか!




