10-19. 完了
無事、王都に到着した馬車。
馬車はそのまま、シーカントさんの勤める『ディバイズ商会』へと向かった。
馬車は適当な所で左折し、西門通りを離れる。
段々と店の数は減っていき、やがて道は住宅街の中を通るようになった。
「此の道は手前の発見した近道。道は広けれど人通りは少なく、大通りを行くより安全」
そう言いつつ、シーカントさんは迷う事なく馬車を右に左にと操って行く。
住宅街は、僕から見たら何処も同じような家が並ぶ景色だ。変わりばえもしないし、目印になるようなモンも無い。
なのに、シーカントさんは良く地図も無く進んで行けるな。
シーカントさんのスペックの高さに驚きながらも、住宅街の中をしばらくクネクネと進んで行く。
すると、馬車は再び大通りに顔を出した。
「おっ、大通りに出たぞ!」
「また人がいっぱいだー!」
さっきの西門通りと同じくらい人が居り、店が並ぶ広い通りだ。
馬車はタイミングを見計らって人の流れに乗り、再びゆっくりと進んで行く。
「此処は北門通り。手前の商会は此の通り沿いに所在」
「では、商会まではもう直ぐなんですね!」
「左様。直に見えて来る」
ほぅ、こんな大通り沿いに商会本部があるのか。
日本で言えば『銀座』とか『表参道』とか、その辺に店を構えるのと同じくらいか? ……ハンパないじゃんか。
そんな好立地に建つ『ディバイズ商会』は、果たしてどのくらい大きな商会なんだろうか。
「間も無く到着」
おっと、そんな事を考えている間にも商会が近づいて来たようだ。
シーカントさんの言葉に釣られ、僕達5人が馬車上で膝立ちになり、通りを眺めると。
「あそこ、人が沢山居るぞ」
「どうやら、あの建物から出てきた人が溢れているようですね」
北門通りの一角に人だかりができており、その目の前にはデッカい建物が建っている。
人が絶えず出入りしているその建物は、北門通り沿いの中でも特に大きい。
幅は隣の建物の倍くらい、高さはーっと、1、2、……5階建てだ。
一目でわかる、アカラサマに大きい建物。
そして、その建物には。
「あそこの建物、『ディバイズ商会』って看板が出てるわ」
「ねーねーシーカントさん、あそこが商会ー?」
「左様」
うわー、デッカいな。
レッドカーペットの敷かれた入口といい、後を絶たない人の出入りといい、大通り沿いに聳えるこんなデッカい建物といい……。
僕は確信した。
『ディバイズ商会』は大手だ。絶対に『大手企業』ってヤツだ。
そして、そこに勤めるシーカントさんはエリートだ、きっと。
……シーカントさん、ごめんなさい。
テイラー出発直前に初めて会った時、子ども扱いされて『なんだこのヤクザ野郎、舐められたモンだ』とか思ってごめんなさい。
飽くまで僕の推測だが、まさかシーカントさんがそんなエリートだとは思わなかったっス。
そんな感じで一人懺悔していると、馬車は商会本部前に出来た人だかりを掻き分け、建物の前に停まった。
「馬車をお降り願おう」
「「「「「はい」」」」」
シーカントさんの言葉に従い、5人が順番に馬車を飛び降りる。
「っクウゥゥゥゥゥゥッ…………」
地面に着地すると、両腕を上げてグッと伸びる。
ッアー、今まで座ってた分、気持ちいいや。
「久しぶりの王都だー!」
「懐かしいな、この雰囲気!」
「この喧騒も、『王都に帰ってきた』って感じさせてくれますね」
3人もだいぶテンションが上がってきたようだな。
すると、馬車に車止めを噛ませたシーカントさんがこちらにやって来た。
どうやら締めのようだな。
「目的地、王都の商会本部に無事到着。只今を以って貴方々の護衛の依頼を終了させて頂く。無事に積荷を届けられたのは、幾度の襲撃も尽く跳ね除けた貴方々の御陰。4日間、大変御苦労だった」
「「「「「はい!」」」」」
「前にも告げたが、手前の護衛依頼を受けられた冒険者の中で此れ程腕の良く、且つ面白き者は皆無。貴方々と此処で別れるのが惜しいが、仕方無き事。兎も角、手前の依頼を御受け頂き、誠に有難う」
そう言って、シーカントさんは深々と礼をした。
「こちらこそ……」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
僕達も5人揃って礼。
そして、お互いに頭を上げる。
「ケースケ様。以降、ギルドの依頼一覧にて『シーカント』の名が入った『依頼票』が目に留まった際には、再び御受け願いたい。手前は仕事柄、低報酬の依頼しか出さないが、その時には貴方々を御待ちして居る」
「はい。こちらこそ、その時にはまた」
そう言って、僕とシーカントさんはお互いに微笑んだ。
サングラス越しなので口元だけだが、こんな笑顔のシーカントさん、初めて見たよ。
さて、護衛も無事終わったし。
ご飯と宿探しに行きま――――
「ときに、貴方々は此の後時間は有るだろうか?」
「あ、はい……ありますけど」
シーカントさんとはてっきりお別れだと思った所で突然呼ばれ、少しビックリした。
何だろう? 何かあるのかな?
「であれば、手前と共に会長の部屋へと付いて来て頂きたい」
……エェーー!
こ、この大企業の……会長の所に!?
突然過ぎる。なんでなんで!?
「手前は会長に到着の報告を致すが、その際に護衛を御受け頂いた貴方々を紹介致したい。特にケースケ様、貴方には別段の話も有り」
「……は、はい。分かりました」
え、僕!?
……ヤバいヤバい。話ってなんだろ!?
僕、この護衛依頼の間になんかヤッちゃったっけ?
まさか、商会の権力で干されたりとかするのかな……?
……ま、まぁそんな事ないよね。
うん。きっと大丈夫大丈夫。
『話』ってのが気になるけど、行ってみなきゃ分からないしね。
「ではシン様、コース様、ダン様、そしてアーク様。貴方々は如何致すか?」
「私も行かせて頂きます!」
「会長さん、会ってみたーい!」
「特に予定も決まってないしな」
「承知」
学生達はルンルン気分だな。
お偉いさんと会うチャンスだけあってか、皆のテンションもどんどん上がっている。
「私は護衛じゃないんだけど、もし良いのであれば」
「承知。アーク様をお断り致す訳にはいかぬ故、貴女も是非お越し頂きたい」
「わかったわ」
そう言えば、アークって護衛じゃないんだよね。
僕達の仲間であることには変わりないんだけど、『護衛依頼』のメンバーには入っていないんだったな。
……妙にシーカントさんがアークに対して畏まってるのは気になるけど、まぁいいや。
「では、私と共に御同行願う。商会内で迷子になられないように」
「「「「「はい!」」」」」
「それと、『依頼票』に手前のサインも後程書いておこう」
「……あ、はい」
やべっ。
依頼票にサインしてもらうの、完璧に忘れてた。
……ま、まぁ、そんな感じで学生3人とアーク、僕はシーカントさんと共にディバイズ商会の建物へと入っていった。




